※本稿は、奥村奈津美『大切な家族を守る「おうち防災」』(辰巳出版)の一部を再編集したものです。
■非常持ち出し袋は一次と二次に分けて考える
非常持ち出し袋、用意していますか? 後回しになっている方、数年間、中身を出したことのない方、多いのでは。私も以前はそうでした。
自分一人だったらなんとかなるかもしれませんが、子どもがいると、用意しておかなければ、子どもの命に関わってきます。何をどのくらい入れたら良いのか、分からない方もいると思います。リストを見ても、これ必要なの? という物もあるのではないでしょうか。
非常持ち出し袋は、自分や家族にとって必要なものを厳選する必要があるのです。ここでは、その非常持ち出し袋を作る時の考え方、優先順位をみていきましょう。
まず、非常持ち出し袋の考え方から整理しましょう。非常持ち出し袋は、1次、2次に分けて、入れるものを考えることをお勧めします。
1次は、発災直後、避難する時に持ち出すもの、2次は、避難所で生活するために家に取りに戻るものというイメージです。
■市販の持ち出し袋の中身はカスタマイズする
1次は玄関など取り出しやすい場所に収納し、背負って走って逃げられる重さが大切です。小さいお子さんがいる方は子どもを抱っこして、さらに非常持ち出し袋を背負うことになるので、重すぎると逃げることができません。
マンションの高層階ですと、階段で避難しなくてはいけませんし、津波の被害がある地域では全力疾走しないと命を守れない場合もあります。当たり前ですが、非常持ち出し袋より命を守ることを優先してください。
必要最低限のものしか入らないと思って、中身の優先順位を考えていきます。市販の非常持ち出し袋を購入した方も、自分にとって大事なものが入っているとは限りません。カスタマイズすることが重要です。
ちなみに、ママバッグも立派な非常持ち出し袋です。ママバッグには、毎日使う子どもにとって必要なものがたくさん入っています。余裕があれば私はママバッグも持って避難しようと思っています。
■優先順位の第1位は「体の一部になるもの」
最も優先すべきものは、自分の体の一部になるものです。
できれば、予備のものを購入して入れておくと良いのですが、難しい場合は、非常持ち出し袋に追加で入れるもののリストを貼っておくと、いざという時の入れ忘れを防げます。
また、体から排出されるものへの対策、携帯トイレも入れておきましょう。避難所など公共のトイレは長蛇の列になります。せめて1日分の携帯トイレを入れておくといいでしょう。目隠しになるポンチョなども一緒に入れておけば、防寒や着替える時にも役立ちます。
また、トイレットペーパーも必要です。紐を一緒に入れておくと、首から下げて使えるので、トイレ内でトイレットペーパーの置き場にも困りません。アルコールの入っていないウェットティッシュ、女性は生理用のナプキンも入れておくと、下着を着替えられなくても、デリケートゾーンを清潔に保つことができます。
そして、前述したママバッグの中に、オムツなどは入っていると思いますが、非常持ち出し袋にも、さらに10枚ほどオムツをプラスで入れていました。
■手をふさぐ懐中電灯よりも身につけられるライトを
続いて優先順位が高いのが、避難する時に使うものです。
夜の避難で必要な照明器具(懐中電灯は手をふさいでしまうので、ヘッドライト、ネックライトなどがお勧めです)。
雨が降っている中、避難することも想定されるので、レインウエア。できれば、防水透湿素材を選びましょう。これは雨に濡れないだけでなく、汗による蒸れも防いでくれる素材です。濡れてしまうと、低体温症のリスクも高まります。外からも中からも濡れないようにしましょう。雨の日、自転車での送り迎えや、山登り、アウトドアでも活用できます。
豪雨や浸水した中で避難することになったら、濡れてしまいます。最低限のタオルや着替えもあると良いです。靴下も忘れずに。
女性の場合、ブラジャーよりもブラトップ、ショーツもボクサーパンツのようなもののほうが洗濯して干す時にも気にならないでしょう。
避難所で濡れた靴から履き替えられるように、簡易スリッパや靴などを入れておくと良いです。
避難途中にケガをすることも考えられます。応急手当てセットもあると安心です。
非常持ち出し袋の中身リストで「軍手」がありますが、できれば革製の手袋をお勧めします。軍手は濡れると使いづらいですし、釘や木片などは突き抜けてしまいます。アウトドア用の防水の手袋も良いかもしれません。
■夏場でもカイロがあれば離乳食を温められる
瓦礫の下敷きになった時や防犯対策に、ホイッスルをリュックの肩紐のところにも付けておくと良いです。子どもは吹く練習もしておきましょう。
熱中症対策、防寒対策も必要です。夏は熱中症対策グッズもプラスで入れておきましょう。
カイロは、離乳食や液体ミルクを温めることもできるので、夏場も入れておくと役立ちます(粉ミルクをカイロで温めるのは危険です)。
大災害の時は、小さい子どもを歩かせるのは危険です。人波に飲まれはぐれたり、瓦礫でケガをしたり。抱っこできる年齢の子どもは、なるべく抱っこ紐に入れて避難しましょう。避難中は目で確認できる抱っこが安全ですが、避難生活中はおんぶのほうが動きやすいと思うので、抱っこもおんぶもできるタイプがお勧め。また、歩けるようになったら、子どもは靴を履かせる、または、靴を持っていくことを忘れないように。
ハザードマップも非常持ち出し袋の中に入れておけば、紛失する心配もありません(事前にチェックしておきましょう)。
地震の場合は、落下物から頭を守るためにヘルメットをかぶりましょう。何もないよりは自転車用のヘルメットでもかぶった方が良いでしょう。
■もらうこともできる水・食料は優先順位第3位
水や食料を優先順位1位にあげる方もいるかもしれませんが、これらは、もらうこともできるものなので、私は優先順位を下げています。たくさん入れたい気持ちもありますが、非常持ち出し袋に入る量や走れる重さを考えると、1日分が限界でしょうか。
とくに小さいお子さんのいる方は、子どもと自分の分です。子どもを抱っこして走れる重さを考えて入れましょう。
水は、衛生面を考えると、短時間で飲み切れる500ミリリットルがお勧めです。私は3本入れています。
食べ物は、できるだけ、調理不要、その場でパッと食べられるもの。私は、息子が大好きな非常食パン、栄養補助食品などを入れています。スプーンなどカトラリーも忘れずに入れましょう。
大人も子どもも普段食べて美味しいと思えるものや、好きなお菓子や食べものがあると、安心ですし、心の元気につながります。空腹をしのぐのに、飴。栄養不足になるので栄養補助食品や、普段サプリメントを飲んでいる方は3日分ほど小分けにして入れておいても良いかもしれません(普段飲んでいないものはやめましょう)。
■マイ体温計を入れておくと何かと便利
非常持ち出し袋に最低限の感染症対策グッズを入れておきます。できれば多めにマスク、アルコール消毒液にウェットティッシュ、そして、体温計も入れておきましょう。
感染症対策で、避難所の受付では検温や問診をして、発熱などの症状のある人は滞在場所を分けることになっています。検温に時間がかかると長蛇の列ができます。マイ体温計があると受付がスムーズになるでしょう。
また、ビニール手袋。手を洗えない場合もあるので、食事の配膳や食べる時に使ったり、トイレや感染リスクのあるものを触る際にも使えます。
災害時も「口腔ケア」が大切です。歯磨きなどの口腔ケアは、インフルエンザへの感染リスクを下げることが分かっています(日本歯科医師会HP)。避難所でもしっかりケアできるように、普段の口腔ケアグッズ(歯ブラシやフロスなど)は必ず家族全員分入れておきましょう。歯磨きは水ですすがなくても効果があるということが分かっています。
■避難所生活では子供の虫歯リスクが上がる
また、フッ素の入った溶液、または1日1回、フッ素入りの歯磨き粉で歯を磨いた後に、お猪口1杯分の水を含んで、ブクブクうがいをして吐き出すだけで終えるとむし歯を防ぐ効果があります。水がなくても使える携帯用の口腔ケアシートやマウスウォッシュ、唾液を出すためのキリトールガムなども一定の効果があります。
東日本大震災の被災地での支援活動にあたった東北大学大学院歯学研究科の小関健由先生によると、避難所生活で子どものむし歯リスクが上がり、歯肉炎や口内炎の症状が増えていたということです。支援物資のジュースを飲む、お菓子を食べる機会が増える、また歯磨きしづらい環境など、様々な要因があります。
被災地に限らず、子どもの乳歯や生え変わったばかりの永久歯は、大人の歯に比べてむし歯になりやすい状態です。また、妊娠中も歯周病やむし歯のリスクが高くなります。
高齢者の災害関連死の死因で誤嚥性肺炎が注目され、災害時の口腔ケアの大切さが伝えられるようになりましたが、子どもも親も口腔ケアが大切だと認識しておきましょう。小関先生は「日頃から口も体も健康であることが大事、それが一番の備えです」と話し、1年に2回は歯科医院に通うことを勧めています。
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奥村 奈津美(おくむら・なつみ)
防災アナウンサー
1982年、東京生まれ。広島ホームテレビ、東日本放送(仙台)、NHK広島放送局でアナウンサーとして活動。その後、フリーに。東日本大震災を仙台のアナウンサーとして経験。以来14年間、全国の被災地を訪れ、被災地支援や防災に関する情報を発信している。著書に『大切な家族を守る「おうち防災」』(辰巳出版)。
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(防災アナウンサー 奥村 奈津美)