なぜ少子化が止まらないのか。福厳寺住職の大愚元勝さんは「若者が経済的に安定していないからだという意見があるが、戦前を生きた日本人のほとんどは、今を生きる日本人よりずっとずっと貧しかったのに結婚し、子供を育てていた」という――。

■AIが弾き出した「結婚しない3つの理由」
近年、日本では結婚を望まない若者や子供を持ちたくないと考える人が増加しているという。ものごとには必ず原因があって結果がある。きっとこのような現象は、現在の社会全体の価値観やライフスタイルの変化を反映しており、さまざまな要因が絡み合っているに違いない。
そこで今話題のChatGPTに、「結婚しない理由と子供を持たない理由」について、統計データを基に、ポイントを3つに絞って結論づけてくれるよう、頼んでみた。
すると……
結婚しない理由と子供を持たない理由
1.経済的要因

1.1 安定した収入の欠如

結婚や子育てには経済的な安定が不可欠ですが、多くの若者は非正規雇用や低賃金に悩まされています。これにより、結婚や子供を持つことへのハードルが高くなっています。
1.2 子育ての高コスト

子供を持たない理由の一つに、経済的な負担が挙げられます。厚生労働省の「子供・子育て支援白書」によると、子供を育てるには約1,000万円以上の費用がかかるとされ、経済的な負担を避けるために子供を持たない選択をする人が増えています。
2.社会的・制度的要因

2.1 子育て支援の不足

日本の子育て支援制度は十分ではなく、仕事と家庭の両立が難しいと感じる若者が多いです。約70%の親が支援が不足していると感じており、これが結婚や出産を避ける要因となっています。
2.2 男女平等の進展

女性の社会進出が進む中で、結婚に依存することなく自立した生活を送ることが可能となり、結婚の必要性が薄れています。
3.価値観の変化

3.1 結婚観の多様化

近年、結婚に対する価値観が多様化しています。
若者たちは「結婚しなくても幸せに生きられる」という考え方を持つようになり、結婚の必要性を感じない人が増加しています。内閣府の「男女共同参画白書」では、結婚に対する意識調査が行われ、「結婚は必要ない」と答えた若者の割合が増加していることが示されています。2015年の調査では、20代の約40%が「結婚は必要ない」と回答しました。
3.2 SNSの普及

SNSの普及により、若者は多様なライフスタイルや価値観に触れる機会が増えています。これにより、結婚や子育てに対する固定観念が崩れ、自由な生き方を選択することが一般的となっています。2021年の調査では、SNSを通じて「結婚しない生き方」に共感する若者が増えていることが示されています。
結論

結婚しない理由や子供を持たない理由には、経済的要因、価値観の変化、社会的・制度的な問題が大きく影響しています。若者たちは自由な生き方を求め、結婚や子育てに対して慎重になっています。この変化に対応するため、社会全体での理解と支援が求められています。

■昭和時代は子育て支援制度なんてなかった
これが、ChatGPTが弾き出した、「なぜ結婚したくない、子供を持たない人が増えているのか」に対する分析だ。そしてご存じのように、ChatGTPの解答は、世間一般で言われている、特にネット上に出回っているさまざまなデータや文章の要約だ。
ここに私なりの突っ込みを入れてみたい。

まず、先述のChatGPTがまとめた「なぜ結婚したくない、子供を持たない人が増えているのか」に対する3つの要因のうち、1.「経済的な理由」と、2.「社会的・制度的要因」について。
私はこれらの要因は正しくないと考えている。その根拠は何かというと、住職として、檀家の方々を対象に行ってきた人生観測だ。
私は葬儀の後、お墓や、四十九日の日程などの決め事、相談なども含めて、必ず遺族の方々に時間をとっていただき、遺族へのヒヤリングを続けてきた。例えば、ある家のご主人が亡くなったとすると、奥さまにご主人の生い立ちや奥様との出会い、結婚後の生き様や子供のことなどを、時間をかけて傾聴するのだ。
その中で見えてきたことの一つは、高齢な人ほど、結婚したときの年齢が若く、子供の数も多いこと。3、4人はざらで、中には6人以上の方々もいる。
彼らのほとんどは、結婚したとき裕福ではなかった。
彼らの時代は「子育て支援制度」など、皆無であった。
お金はないけれども、夫婦で協力して、一所懸命働いて、何とか生き抜いてきた。
■「経済的に安定した時期などなかった」
あるおばあちゃんから聞いた話は、今でも忘れない。32歳の時、戦争で夫を失い、残された5人の子供を一人で育て上げた彼女は、人生を振り返って言う。
「結婚前も、結婚当初も、子育て中も、経済的に安定した時期など、一度もなかった。でも、子供たちがおったからここまで頑張れた……」と。
別のおばあちゃんは、20歳の時に親が決めた相手と結婚して都会から田舎に移り住み、夫とともに土地を開墾して果樹園を営んだ。開墾人生は苦労の連続だったという。働き詰めの人生だったという。そして63年後に働き通した夫を見送った。
私が「もし死んでまた生まれ変わって、おじいちゃんと出会ったら、またおじいちゃんと結婚したい?」と聞くと、はにかみながら言った。「別の人を知らんからね、きっとまたそうするだろうな……」と。
■家族ができたからこそ、何とかする
現代に生きる若者ばかりが経済的に余裕がないのかといえば、そうではない。戦後の高度成長期に育った世代と比較すれば、確かに今は右肩上がりに給与が増える時代ではないが、戦前を生きた日本人のほとんどは、現代社会に生きる日本人よりずっとずっと貧しかった。
今の時代の人たちは、「結婚や子育てには、経済的な安定が不可欠」というが、戦前の方々の話を聞くと発想が真逆だ。「経済的に不安定だからこそ、結婚を機に、子供ができたことを機に、懸命に働いて何とかした」のだ。
だから本当は、経済的理由で「結婚できない、子供を持たない」わけではないのだ。
そして社会的・制度的な理由も「結婚できない、子供を持たない」根本理由ではない。
私は毎年5月と10月に、仏教を現代社会に届けるためのワールドツアーに出かける。実はこの原稿も、まさにロンドン、ニューヨーク、オースティン、ロサンゼルス、サンフランシスコの5都市を周るツアーの最終地、サンフランシスコで書いている。
イギリスやアメリカで「子育て」中、あるいは子育てを経験したママたちに、教育、医療、その他子育てにかかる各国の社会的支援についての実態を聞くと、日本は決して悪くない。
特に医療支援は、子供が育つ過程で必須だが、皆さん口を揃えて日本の医療制度を絶賛する。日本の子育て支援は、決して他の先進国と比べて大きく劣っているわけではないのだ。
■情報、選択肢がケタ違いに増えた結果
では一体何が、「結婚したくない、子供を持たない人」を増やしているのだろう。
私は3つの原因があると考えている。
1、学歴、キャリアがあっても決断できない人々の増加
昔と比べて、現代人はあらゆることに知識や情報、選択肢が増えた。現代人が1日に得る情報量は、江戸時代の人々の1年分、平安時代の人々の一生分という話もある。
知識が増えることは悪いことではない。
しかし、知識が多ければ善い選択ができるかといえば、必ずしもそうではない。選択肢が多ければ、善い決断ができるかといえば、必ずしもそうではない。人は選択肢が多すぎると逆に、選べなくなる。
経済的に恵まれるほどに、キャリア的に恵まれるほどに結婚ができないとは、結婚相談を長年行なってきた専門家の定説だ。
■結婚や子育ては非効率という「本音」
2、「お金=幸せ」という勘違い
この春、ある高校の卒業式を見学する機会があった。
卒業生の多くが、将来の夢を「ビリオネア、ミリオネアになること」と公言していたことに違和感を持った。
「金持ちになること」が、大半の高校生たちの夢なのだ。
いや、彼らはただ、大人の「本音」を代弁しているのかもしれない。
「お金」と「自由」を求めるほど、結婚や子育ては重荷になる。
そこに向けての効率を求めるなら、結婚や子育ては非常に非効率だ。
かくして「結婚したくない、子供が欲しくない」人は増えていく。
しかし、「お金」と「幸せ」は必ずしもイコールではない。
裕福でなくとも、互いに認め合う夫婦関係や家族関係があれば、人は十分幸福に生き、死んでいくことができる。
逆にお金が原因で、夫婦や家族関係に亀裂が入ったり、禍恨が残ったりするケースは少なくない。これは「葬儀」という人生の最期をたくさん見てきた僧侶だからこそ、確信を持って言えることだ。
■若者の不安を煽るマスコミ、SNS
3、結婚や子育てに対するネガティブな意見の蔓延
多くの若者が結婚や子育てを経験したこともないのに、結婚や子育てに対して不安、憂鬱、怖い、不公平、希望が持てない、あきらめるしかない、自信がない、などのネガティブなイメージを持ってしまっているのだ。
主な原因は、マスコミ、SNSなどだ。
高度に充実した子育て支援があり、経済的に豊かで、人格的に優れ、自己肯定感に溢れ、完璧な状態にならなければ、結婚もできないし、子供も育てられない。しかし、落ち着いて歴史を振り返ってみて欲しい。古今東西、そんな時代があったためしはないし、そんな個人もいたためしがない。
もし「経済的、精神的な不安が原因で結婚や子育てができない」が真実だとすれば、私たちの多くは生まれてきていないだろう。
結婚や子育てに後ろ向きな若者に、鎌倉時代の禅僧、道元が「小児現成(しょうにげんじょう)」という言葉を残している。
■結婚と子育ては人生を豊かにする
この言葉は、「子供が生まれて初めて人は親になる」という意味だ。
自分は30歳でも、子供ができた時点で、親0歳。

子供が1歳になったら、親も1歳。10歳になったら、親も10歳。
つまり、「親の成長は子供の成長とともにある」という意味だ。
結婚も同じだ。
結婚したり、子供が生まれれば、「自由、自分らしく、キャリア形成……」などという、現代人が理想とする言葉から、自分が遠ざかってしまう気がする。
しかし事実は逆だ。
もしあなたが、耳当たりのよい、トレンディーな言葉に踊らされるのではなく、人としての真の成長を願うなら、「成長とは何か」「どうすれば成長できるか」を知ったほうがいい。
成長とは、「世の中は思い通りにならないことがある」という真実を体感して、それを超えてゆくことだ。結婚、子育ては、まさにその経験をさせてくれる。
他人ならば面倒な付き合いは避ければいい。しかし家族はそう簡単にはいかない。
だからこそ、結婚や子育てを通じて、自分の中に忍耐や努力、協調や心配りを育てることができるし、それが後になって、仕事や生活、人生に大いに活きてくるのだ。
最後に、とっても魅力的な「おばあちゃん」の動画を紹介する。
世界遺産、岐阜県白川郷で「合掌乃宿 孫右衛門」を営む女将さんへのインタビューで、結婚や子育てが人をここまで魅力的に、人生をここまで豊かにするのか、と身体で感じるものがあるはずだ。

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大愚 元勝(たいぐ・げんしょう)

佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表

空手家、セラピスト、社長、作家など複数の顔を持ち「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶。僧名は大愚(大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意)。YouTube「大愚和尚の一問一答」はチャンネル登録者数57万人、1.3億回再生された超人気番組。著書に『苦しみの手放し方』(ダイヤモンド社)、『最後にあなたを救う禅語』(扶桑社)、『思いを手放すことば』(KADOKAWA)、『自分という壁』(アスコム)、『愚恋に説法: 恋の病に効く30の処方箋』(小学館)などがある。

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(佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表 大愚 元勝)
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