がんを予防するには、何を摂取するといいか。医師の佐藤典宏さんは「一般的に、砂糖など糖類の摂りすぎは体に悪いと言われており、肥満やメタボリック症候群、糖尿病、脂質異常症、さらには、がんのリスクを高めると報告されている。
一方で、糖分だけではなくミネラルやポリフェノールなど、原料となる植物の栄養成分が残っている砂糖は、がんのリスクを下げることが分かっている」という――。
※本稿は、佐藤典宏『専門医がやっている「がん」にならない50の習慣』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。
■「100%フルーツジュース」で、すべてのがんリスクが12%増
フルーツジュース、とくに「100%フルーツジュース」と聞くと、なんとなく健康的なイメージがありますよね。少なくとも、コーラなどの砂糖が入った清涼飲料水よりは体によさそうな気がします。
スーパーに行くと、リンゴジュースやグレープジュースなどたくさんの種類がありますし、朝はフルーツジュースを飲む習慣がある人もいるでしょう。
では、がんの予防の点からは、フルーツジュースは問題ないのでしょうか?
じつは、ここに意外な落とし穴があるのです。
フルーツジュースとがんとの関係について、2019年にBritish Medical Journalという雑誌に報告された論文によると、フランスから報告された大規模な前向き研究で、10万人以上の成人男女(平均年齢42歳)を対象として詳細な食事内容のアンケート調査を行い、がん発症リスクとの関連を調査しました。
その結果、100%フルーツジュースを最も多く飲む人では、ほとんど飲まない人に比べて、すべてのタイプのがんのリスクが12%上昇していたとのことです。
では、フルーツジュースの何ががんリスクを高めるのでしょうか? 答えは、果糖(フルクトース)です。
■糖の摂取量とがん発症リスクとの関係を調査した研究結果
果糖とは、自然界に存在する糖で、果物やはちみつに多く含まれています。ちなみに、私たちが普段食べる「砂糖」は、ショ糖という糖を主成分に作られています。
少し専門的な話になりますが、糖は単糖類と二糖類に分類され、単糖類にはブドウ糖(グルコース)と果糖、二糖類にはショ糖と乳糖が含まれます。
このうち、どの糖が一番がんのリスクを高めるのかを調査した研究があります。
2021年にClinical Nutritionという雑誌に報告された論文によると、スペインで、高齢者7000人以上を対象として、様々な糖の摂取量とがん発症リスクとの関係を調査した研究が行われました。
食べ物のアンケート調査から解析した糖のタイプは、固形または液体のすべての糖、ブドウ糖、果糖、そして、フルーツおよび100%フルーツジュースからの果糖です。
その結果、固形の糖では、すべての糖、ブドウ糖、果糖いずれも、がんのリスク上昇はみられませんでしたが、液体の糖では、がんの発症リスクが上昇していました。
1日あたり5g摂取量が増えるごとに、がんのリスクが増える割合は、液体のすべての糖が8%、液体のブドウ糖が19%、液体の果糖が14%、そして、最もがんのリスクが高かったのが、フルーツジュースからの果糖で、39%も高くなっていました。
つまり、液体の果糖、しかも、フルーツジュースからの果糖が、最もがんのリスクを高くするという結果です。
■「果汁入り飲料」や「濃縮還元ジュース」のリスクはどうか
フルーツジュースにはどのくらいの果糖が含まれているのかというと、たとえばリンゴジュース(ストレート果汁)には、100gあたり2.5gの果糖が含まれています。
果物をまるまる1個食べるのは結構大変ですが、フルーツジュースなら簡単に飲めてしまいますよね。フルーツジュースをペットボトル1本分500mL飲んだら、10g以上の果糖を摂取したことになります。
さらに、果汁100%未満の「果汁入り飲料」や「濃縮還元ジュース」では、本来の果汁に入っている果糖に加えて、さらに「コーンシロップ」あるいは「果糖ブドウ糖液糖」という(50%以上90%未満の)高い濃度の果糖が含まれています。したがって、この場合はさらにがんのリスクを高めると考えられます。
一般的に、柑橘系やりんごなど果物の摂取はがんを予防するという研究報告がありますので、ジュースではなくそのままいただきましょう。

果汁だけのジュースになると、ポリフェノールなど、食物繊維や皮のところの重要な栄養素を摂取できないことで、せっかくのメリットが失われてしまうと考えられます。
もしジュースやスムージーにするなら、皮ごとジュースにする、あるいは、絞りかすも同時に飲んだり食べたりするように心がけましょう。
■ショ糖の摂取が多い人は乳がんのリスクがおよそ2倍
一般的に、砂糖など糖類の摂りすぎは体に悪いと言われており、肥満やメタボリック症候群、糖尿病、脂質異常症、さらには、がんのリスクを高めると報告されています。
先ほども書きましたが、砂糖はブドウ糖と果糖がつながった二糖類のショ糖を主成分とする甘味物質で、がんのリスクを高めることが分かっています。
実際に、2023年に報告された日本人を対象とした研究によると、全体の糖質摂取量が多い女性では、直腸がんの発症リスクが高くなっていました。
また、2021年に海外から報告された論文によると、糖類のうち、砂糖の主成分であるショ糖の摂取が多い人は、そうでない人と比べて乳がんのリスクがおよそ2倍になっていたとのことです。
一方で、ある砂糖の種類が、がんのリスクを下げることが分かってきました。
砂糖は、製造方法の違いによって「精製糖(分蜜糖)」と「含蜜糖」という2種類に分類されます。一般的に、料理に使われる白砂糖の上白糖や少し褐色を帯びている三温糖、グラニュー糖などは精製糖の一種です。一方、黒砂糖(黒糖)などの、原材料の風味が強く残っているものは含蜜糖に当たります。
この含蜜糖には、糖分だけではなくミネラルやポリフェノールなど、原料となる植物の栄養成分が残っているのが特徴です。
■黒砂糖を多く摂取する人は、がんリスクが40%減
2023年にAsia Pacific Journal of Clinical Nutritionという雑誌に報告された論文によると、奄美大島に住む住人5000人以上を対象として、10年以上にわたって追跡調査した研究で、住民の黒砂糖の摂取量を調査しました。

奄美大島の人は、おやつの時間に、緑茶とともに黒砂糖を摂ることが多いそうです。そして、黒砂糖の摂取量とがんの発症率との関係を解析しました。
その結果、黒砂糖を最も多く摂取していたグループでは、最も少ないグループに比べて、がんになるリスクがおよそ40%も低下していました。また、部位別には、男女ともに胃がん、そして女性では乳がんのリスクが低くなっていました。
なぜ黒砂糖が、砂糖なのにがんのリスクを減らすのかについてはまだ明らかになっていませんが、黒糖に含まれるミネラルやポリフェノールなどが、がんを抑制する可能性が考えられています。
少なくとも、精製された白い砂糖よりは、黒砂糖のほうが体にいいようなので、甘い物が欲しいときには黒砂糖や、黒砂糖を使ったお菓子をおすすめします。

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佐藤 典宏(さとう・のりひろ)

がん専門医、医学博士、帝京大学福岡医療技術学部教授

福岡県生まれ。九州大学医学部卒。2001年から米国ジョンズ・ホプキンズ大学医学部に留学し、多くの研究論文を発表。1000例以上の外科手術を経験し、日本外科学会専門医・指導医、がん治療認定医の資格を取得。がんに関する情報を提供するため、YouTube「がん情報チャンネル・外科医 佐藤のりひろ」を開設、登録者12万人(2023年10月時点)。2023年4月、がん患者さんの悩みや質問に個別に答える「がん相談サロン」をスタート。
著書に『がんにも勝てる長生きスープ』(主婦と生活社)、『手術件数1000超 専門医が教える がんが治る人 治らない人』(あさ出版)、『専門医が教える最強のがん克服大全 エビデンスに基づく新しい対処法64』(KADOKAWA)などがある。

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(がん専門医、医学博士、帝京大学福岡医療技術学部教授 佐藤 典宏)
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