■12年連続1位は「貯金・預金」
2025年もすでに折り返し、順調に貯蓄は積み上がっているだろうか? ちょうどボーナス支給の時期でもあり、それにまつわるアンケート調査が続々届いている。
毎年このタイミングで発表がある「Ponta消費意識調査・夏のボーナスの使い道ランキング」(Pontaリサーチ調べ)によると、昨年と比較してボーナスが「増える・増える見込み」と回答した人は50.2%で最多だったそうだ。
半数もの人が、昨年よりも多い金額が受け取れそうだと答えている。では、ボーナスを何に使いたいかと言えば、1位は「貯金・預金」。これは12年連続で変わらない。
ただし、気になる点もある。不動の1位とはいえ、その割合はじわじわ減っているというのだ。夏のボーナスに限れば、2021年は約37%だったが、毎年その割合は減少し、2025年では過去最低の32.4%にまで落ち込んだ。
ここ数年はコロナ禍からの行動制限が解かれたこともあり、外向きの消費に目が向いたのかと思えばそうでもない。「旅行」も「外食」も行動制限が解除となった2023年の方が今年より多いほどで、目を引く増え方をしている項目は見当たらないのだ。
貯蓄ではなく投資に振り向けたからではと考えてみたが、そうでもない。
■「生活費の補填」「節約できない人」が増加
では、増えたボーナスはどこに使われるのだろう。ヒントになるのは、「貯金・預金」を選ばなかった人の理由だ。
1位は「生活費や日常の支出に充てるため」で、約3割を占めた。続いて2位は「特別な買い物や旅行など、消費に回すため」で約2割。どうやら今年のボーナスは生活費の補填に使われるのが現実らしい。
また、同調査では節約志向についても聞いている。このところ「節約したい派」は減っており、「したくない派」は消費に回すのかと思いきや、したくないというよりも「節約する余裕がないからできない」と答えた人が多い。
2025年はボーナス額は増えたものの、物価高で生活費が膨らんでおり、貯蓄に回せるお金は減っている――と読み取れる結果だ。
■投資商品ではなく、預貯金を選ぶ人が多数
とはいえ、ボーナスを預金すると答えた人のうち、54.8%が支給額の半分以上を貯めたいと考えているのは驚きだ。虎の子というべき貴重なお金だからこそ、投資商品ではなく元本が減らない預貯金を選ぶのだろうか。
2024年に日銀がマイナス金利の解除に踏み切って以来、順調に預金金利も上がってきた。
例えば、1年前の2024年の夏のボーナスを当て込んだ定期預金のキャンペーン金利は、高めのネット銀行で1年物定期が年0.3~0.4%だった。コンマ00時代から、一気に100倍以上になったのだ。その半年後の2024年年末~2025年初頭にかけての冬のボーナスキャンペーン金利では、さらに拍車がかかった。
預入金額の条件付きながら、SBI新生銀行が1年物定期で年0.8%。これをベンチマークとし、auじぶん銀行が年0.85%、ソニー銀行が年0.8%、ローソン銀行が年0.6%を打ち出す(いずれも1年物定期預金の金利)。しかも、auじぶん銀行とソニー銀行はキャンペーン期間当初に出していた金利から、さらなる引き上げを行うとの禁じ手にまで出た。
これだと、最初に発表された金利目当てに預け入れした預金者は、引き上げの恩恵にあずかれない。すでに預けた定期預金をいったん解約して新規で預けなおすか、別の定期預金をもう一本新たに作るほかない。クレームを呼びかねないが、それでも踏み切った。
■ネット銀行の「夏のボーナスキャンペーン金利」
こうした金利狂騒曲とも言うべき状況を見て、筆者は「2025年夏のボーナスは、追加利上げ次第では年1%を競い合う状況になるのでは」と予想していたが、実際にはどうなったか。2025年夏のボーナスキャンペーン金利を発表しているネット銀行は以下のようになる。
・auじぶん銀行……年0.85%(8月31日まで。預金を増やすと現金特典あり)
・ソニー銀行……年0.8%(8月31日まで)
・楽天銀行……年0.6%(7月31日まで)
・住信SBIネット銀行……年0.85%相当。年利0.275%に年利0.575%相当の現金(8月3日まで)
※すべて1年物定期預金、6カ月物定期は除く。金利は税込み。7月8日現在。
※東京スター銀行が年0.91%というキャンペーン金利を実施していたが、すでに6月30日で終了。
※SBI新生銀行は、夏のボーナスキャンペーンではなく、通常金利として1年物の適用金利を年0.85%に改定している。
残念ながら、厳密に金利のみで年1%に届く銀行はなく、筆者の予想は外れたことになる(条件付きで年1%をうたっている銀行もあるが、ここでは加えていない)。主な原因は、日銀の利上げスピードが減速したことだろう。7月には何らかの動きがあるのではと予測されているが、それを受けて預金金利がどの程度動くかは未知数だ。
■金利よりキャッシュバックも…あの手この手の囲い込み戦略
金利競争ではなく、別の方法で利用者を惹きつけようという銀行もある。あおぞら銀行BANK口座は、今月から他行あて振込手数料を月9回まで無料とした。
7月から新たに「デビットカードポイント還元率アッププログラム」を開始したのは、住信SBIネット銀行。対象となるデビットカードで支払いをした場合のポイント還元率が、月末時点の円普通預金残高に応じて変動するというもの。
対象となるのは新規発行となった「デビットカード Point+」(現在はスマホデビットのみ)と、「プラチナデビットカード」で、Point+で最大2.0%、プラチナで最大2.5%だ。ただし、最大の還元率を得るには預金残高1000万円が必要となるため、さすがに一般的ではない。
庶民感覚にあった100万円の残高を想定すると、Point+で1.25%、プラチナで1.5%還元となる。特に新登場のPoint+の、年会費不要ながら還元率1.25%とは、なかなか高めの数字と言えるだろう。
■高金利目当ての「一見さん」より、「太客」狙い
なお、デビット利用で還元されるスマプロポイントとは住信SBIネット銀行が発行するポイントで、スマホデビットでの支払い時での利用、現金・JALのマイルへの交換が可能となっている。
ただ、ご存じの通り同行はドコモ傘下となるのが決定的であり、いずれdポイントに移行する可能性がある。そうなればd払いの支払いにも使えるようになり、かなり強力なポイントになるだろう。今の高い還元率はdカード基準に見直されてしまいそうだが……。
利上げが影響するのは預金金利だけではない。
銀行にとっては、高金利目当てであちこち資金移動を繰り返す利用者より、がっつり太い取引をしてくれる方がありがたい。そんな本音が見えてくるような戦略だ。
■金利に目を奪われると損する
ボーナスの預け先という観点では、高い金利を狙うのが王道だ。ただ、せっかく預けても、満期が来たらそれで終了という預金口座をむやみに増やすのはよくない。今後は不稼働口座に対し、銀行は口座管理料を科してくるだろうからだ。
高金利でトクをしたつもりでも、この先うっかり手数料を払う羽目になっては本末転倒。銀行だって、優良顧客に集まってほしいのが本音なのだ。
我々も金利の数字に一喜一憂するのではなく、長く付き合っていこうと思える銀行に絞っていく方が賢いだろう。
近年は、多少の金利差よりも付与されるポイントの方が肝心という人もいるだろう。ポイントを横ぐしにして銀行・クレジットカード&デビットカード・証券・保険等をぐるりとまとめた金融経済圏を武器にしたいのは、事業者側も同様だ。
■ポイント経済圏を意識した戦略が必要
ただ気になるのは、大きな再編の波が押し寄せつつあることだ。「『楽天』の一人勝ち、ついに終了?…VポイントとPayPayの“大連立”がもたらす『ポイント経済圏』の地殻変動」でも触れた通り、三井住友ファイナンシャルグループではVポイントを武器にしてきたが、今後はVポイントとPayPayポイントの相互交換を進めていく方針だ。
三菱UFJファイナンシャル・グループは新金融ブランド「エムット」をスタートし、三菱UFJカードの決済で付与ポイントが最大20%還元率となる新しいポイントアッププログラムを打ち出している。
メガバンクの動きによっては、共通ポイントの現勢力図も影響を受けかねない。さらに、いずれドコモ銀行が実現した暁には、既存の共通ポイントと銀行との関係が再構築される可能性もある。預金金利の動きだけでなく、ポイントの行方から目が離せない2025年後半となりそうだ。
----------
松崎 のり子(まつざき・のりこ)
消費経済ジャーナリスト
『レタスクラブ』『ESSE』など生活情報誌の編集者として20年以上、節約・マネー記事を担当。「貯め上手な人」「貯められない人」の家計とライフスタイルを取材・分析してきた経験から、「消費者にとって有意義で幸せなお金の使い方」をテーマに、各メディアで情報発信を行っている。著書に『定年後でもちゃっかり増えるお金術』『「3足1000円」の靴下を買う人は一生お金が貯まらない 』(以上、講談社)ほか。
----------
(消費経済ジャーナリスト 松崎 のり子)