効率的に英語を学ぶにはどうすればいいか。英語講師の中林くみこさんは「海外ドラマをたくさん見ることはれっきとした英語学習のひとつ。
特におすすめなのが、1990年代に大ヒットした海外ドラマだ」という――。

※本稿は、中林くみこ『スマホで倍速!英語独学ハック 英語が話せるようになる黄金ルール』(Gakken)の一部を再編集したものです。

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■海外ドラマ視聴はれっきとした英語学習である
「くみこ先生はいつも海外ドラマをオススメしていますが、私はIELTSを真剣に勉強してるので、見る暇がないんです」
以前、生徒さんからこんなふうに言われたことがあります。これは「海外ドラマは正規の学習ではなく、ただの趣味」と思っているから出てきた質問だと思います。
「海外ドラマで多聴」は、オンライン英会話よりもずっと役立つ、れっきとした学習なのです。なので、海外ドラマを見ることで、スピーキングやリスニングの力がつくのはもちろん、IELTSやTOEICといった試験対策にも効果を発揮します。
「海外ドラマ=趣味、娯楽」だと少しでも思っている自覚がある方は、今ここでマインドシフトをしっかりしてください。
私としては、今まで真面目に文法や単語を学習してきた人にこそ、海外ドラマの多聴を試していただきたいです。学習してきた「教科書英語」を「ネイティブが使うような自然な英語」に変えられるので。
■面白くなければたくさん観続けられない
初級の方は、「海外ドラマはまだ難しいしハードルが高すぎる」と感じるかもしれません。

こういったとき、まず英語圏の子ども番組を見始める人もいるようです。それでも良いと思います。ただし、楽しくて継続できるならば。実際、大半の大人にとっては、子ども番組を毎日見続けるのは難しいのではないでしょうか。
これは私が海外ドラマを勧める大きな理由の1つです。したがって、面白くないならあまり意味がないんです。
そういう意味では、海外ドラマの英語が難しすぎて楽しめないなら、最初は日本語字幕付きで見ても問題ありません。
それでも自分にはまだ早いと感じるなら、シャドーイングの練習を少し積んで、リスニングの力を高めてから海外ドラマに戻ってきてもいいと思います。
■30年経っても古びない『フレンズ』の面白さ
これまでたくさんの海外ドラマを見てきたなかで、一番皆さんにオススメしているのは『フレンズ』です。
『フレンズ』はシチュエーション・コメディ、略してシットコムと呼ばれるジャンルのドラマです。部屋などのセットがあって、それを見ている観客の人がいて、笑いどころで「ハッハッハ」と笑い声が入る形式のドラマですね。
アメリカでは1994年から10年間も放送され、1シーズンは20~25ほどのエピソードから成ります。
6人の若者がニューヨークを舞台に繰り広げる物語で、友情、恋愛、仕事における悩みや葛藤が描かれています。アメリカの道端でネイティブが話している日常が、忠実に再現されているようなドラマとも言えます。
なかには「『フレンズ』って古くない?」とツッコミたくなる方もいるでしょう。でも、『フレンズ』の人気は今でも続いているんです。実際、2015年にハリウッド・レポーター紙が行った調査によると、Hollywood’s 100 Favorite TV Shows(アメリカで放映された全テレビ番組、及びネット配信番組が対象の人気番組ランキング)でも、『フレンズ』は1位に輝いています。
さらに、リアルタイムで放送されていたときは生まれてすらいなかった今の若者にもファンがいると聞きます。
iPhoneが出てこないなど、時代を感じる点は当然あります。しかし、恋や友情など、若者の悩みは普遍的なので、今の若い世代にも受けいれられているようです。
英語表現に関していうと、私が今見返しても使える言い回しが多く、英語学習者に真似してほしいフレーズが次々と出てきます。
■英語字幕を読みながらセリフを繰り返していた
私はカナダにいた頃にテレビで偶然見かけて『フレンズ』を見るようになりました。
カナダはケーブルテレビを放映しているので、チャンネル数が多く、『フレンズ』ほどの有名作品になると、同じエピソードが何回も繰り返し放送されているんです。当時は、テレビをつけたらどこかのチャンネルで『フレンズ』を見られるっていうくらい、繰り返し放映されていました。

最初は「あの『フレンズ』ね。知ってるドラマだ」くらいの感覚でチャンネルを止めてみて見始めたところ、予想外に面白く、どんどんのめり込むことに。カナダのテレビは英語字幕をつけられるので、いつも字幕付きで見ていました。
そのうちお気に入りのキャラクターのレイチェル(ジェニファー・アニストンが演じている役です)になりきって、セリフを繰り返してみたりもしていました。
気づけば全シーズンを制覇。面白いから続けられたんですね。
当時は、あまり深く考えずに、たまたまテレビで繰り返し放送されていたからたくさん見ていたし、自動で字幕がつくから字幕を読みつつ見ていました。
■あえてざっくりしたシャドーイングをやってみる
今になって、私がやっていたことは実は理にかなった学習法だったんだと実感しています。
詳しくは図表2をご覧ください。
ポイントの1つは、英語字幕付きで見る点です。私はこれを「目と耳から英語を同時摂取する」と説明しています。
同時摂取することで、「読んだら分かるのに聞いたら分からない状態」を少しずつ「聞くだけで分かる状況」に持っていくことができます。

シャドーイングに関しては、一語一句セリフを聞き取って、聞き取れなかったら10秒戻ってまた聞いて……といった「精聴」をする必要はありません。
それよりも、お気に入りのキャラクターのセリフを真似する。
日常で自分が使えそうなセリフがあったら繰り返してみる。
このようにあえて「ざっくりとしたシャドーイング」をしてください。
精聴しながらのシャドーイングだと、細部に意識がいきすぎて、英語の処理能力が上がりづらいし、話の全体像を把握しにくくなります。
何よりも海外ドラマを楽しむことができなくなってしまい、挫折につながるので、むしろ精聴から離れたほうがいいと思います。
時々「海外ドラマを使った勉強法をステップ化して紹介してください」とお願いされることがあります。
その気持ちも理解できるのですが、あえて厳格なステップに沿わないほうが続けやすい面もあると思い、あえて細かいステップは作っていません。
代わりに、海外ドラマ(『フレンズ』)で多聴するときの心構え、見る上でのポイントを挙げるので参考にしてください。
■ネイティブのやり取りを観察せずに会話は上達しない
図表3に上げたなかで、「登場人物6人の掛け合いを聞いて真似て観察する」は特に大切です。
「こういうシチュエーションでは、こう言うのか、それに対してこう返すのか……」など、会話のパターンを客観的に観察して吸収しておくと、自分がいざ街で英語を話すときに大きな力となります。
2人以上のネイティブのやり取りを観察することなしに、話せるようになることはない。
私はそう思っています。
これって、オンライン英会話だとできないことですよね。『フレンズ』には、2人が真面目に話し合っているシーン、6人全員で盛り上がるシーンなど、複数人のシチュエーション別会話がたくさん詰まっています。
『フレンズ』の最初の数エピソードを見始めたけど、なかなか世界に入り込めない、もしくは英語が難しいと思う方には、YouTubeチャンネル「フレンズ英会話カフェ」がオススメです。このチャンネルでは「店長のナナさん」が、『フレンズ』のなかで英会話学習のためになるシーンを切り取って、解説してくれています。
1動画あたり10分程度で視聴しやすいので、『フレンズ』本編が難しいなら、フレンズの世界観に入るきっかけとして試してみてください
■『フレンズ』に学ぶ、役立つフレーズ10選
『フレンズ』は生きたフレーズの宝庫とも言えるので、フレーズを紹介したら止まらないところですが、今回は10個を厳選して紹介します。
それぞれのセリフを見ると、特殊な状況で使っているように思えるかもしれません。しかし、各フレーズの「ポイント」を読むと、汎用性が高く学習者が会話で使えるものばかりです。
私がカナダで語学学校を経営していた頃、例えば雇っているネイティブ講師とやり取りするときなどに、(3)のHere’s an idea.や(9)のJust so you know.をよく使っていました。
こういったフレーズで切り出すことで、周囲の関心を引きやすくなります。実際にこれらのフレーズを使いこなすようになってから、耳を傾けてもらえることが多くなったような気がしています。こういうものは、英語圏では「コミュニケーションの型」のようなもので、ネイティブは自然に使っています。
そういった部分もドラマから吸収してほしいです。
■NetflixとHuluをフル活用して視聴する
最後に「どうやって」海外ドラマを見るかの話をしましょう。
今の時代、動画配信サービスのおかげで、月1000円程度で、日本でも多聴に最適な環境が整えられるようになりました。多聴の観点からいうと、数あるサービスのなかでオススメしたいのはNetflixとHuluです。この2つなら英語字幕をつけられるし、ブラウザの拡張機能であるLanguage Reactorを使えば、Netflixで日英同時字幕を出すこともできます。
Amazon Prime Videoの海外ドラマで英語字幕をつけられるツールもあるものの、現状、Amazonだと字幕自体が内蔵されていないドラマが多いようです。
NetflixとHuluのほうが、私がオススメしている方法で多聴を実践しやすいでしょう。なお、『フレンズ』はHuluとU-NEXTで配信されています(2025年2月現在)。

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中林 くみこ(なかばやし・くみこ)

英語講師

カナダのトロントで語学学校を10年経営。カナダで初めて日本人特化のIELTSコースを設立し、これまで5000人以上に指導。IELTS対策をはじめ、TOEIC、英文法、ビジネス英語、翻訳、通訳、英会話などさまざまなコースで教えてきた。オリジナル教材やカリキュラム作りも数多くこなす。延べ50人以上のネイティブ講師やバイリンガル講師へ指導法のトレーニングを行う。東京オリンピックのマニュアル翻訳、日本人アーティストの海外ツアー同行通訳、大型投資案件の金融通訳も行ってきた。著書に『独学で英語を話せるようになった人がやっていること』(リチェンジ)、『スマホで倍速!英語独学ハック 英語が話せるようになる黄金ルール』(Gakken)など。

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(英語講師 中林 くみこ)
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