ミドル世代以上を対象にした採用に積極的な企業が増えているが、実際に入社するのはかなりの狭き門だ。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「10人中9人は、面接はおろか書類選考さえ通過できないケースも。
転職活動に苦戦する人の多くは書類の書き方に問題がある」という――。
■「書類選考率9%、9割は書類も読まれず不採用!」は本当か
都内の電車に乗っていると「45歳からの転職のリアル」と題し、「書類選考率9%、9割は書類も読まれず不採用!」と謳う転職エージェントの中吊り広告が目に入った。
書類選考率9%と聞くと、そんなに厳しいのかと驚く人もいるかもしれない。
この広告は、45歳以上の中高年の転職の厳しさの実態を強調しつつも、やり方しだいで転職も成功すると言いたいのであろう。
実際に中高年の求人ニーズは近年高まっているといわれる。その背景には、人手不足である上に、若年層を獲得するのが難しく、中高年層に採用枠を広げているという事情がある。そうであるにもかかわらず、中吊り広告が物語っているように中高年の転職は厳しいのが現実だ。
あるミドル世代専門の転職コンサルタントはこう語る。
「転職サイトに登録している人は35歳までの人が4割程度ですが、その年齢以上の人が6割を占めている。逆に、企業が求人する年齢層は、以前は35歳以下が8割、35歳超が2割程度でした。近年はミドル対象の求人が増えているといっても25~30%ぐらいではないか。7割の求人企業は35歳以下を求めており、ミドルが狭き門であることには変わりない」
つまり、転職市場は35歳以上の求職者が多いが、求人の需要は少ない現状にある。
さらに「40歳以上になると求人はさらに半減し、45歳でさらに半減し、5歳ごとに半減期がくる」(転職コンサルタント)など、年齢を重ねるごとに求人は少なくなる。中吊り広告の「書類選考通過率9%」は決して“煽り”でないのだ。
実際に中高年の転職率は低い。
マイナビの「転職動向調査2025年版(2024年実績)」によると、正社員の転職率は以下の通りだ。
● 男性

20代 13.4%

30代 9.5%

40代 6.2%

50代 3.6%
● 女性

20代 11.3%

30代 6.4%

40代 6.0%

50代 3.3%
男女ともに数字は右肩下がりになっている。
これは政府の統計でも同じだ。総務省統計局の「労働力調査(詳細集計)」の2024年7~9月期平均結果の「年齢階級別転職者比率」によると、男性は
15~24歳 10.7%

35~44歳 4%超

45~54歳 2%程度

と、やはり年齢とともに急降下する。
とはいえ、書類選考率「9%」というのはあまりに低すぎないか。そう思う読者もいるだろう。だが、2ケタを切る理由はある。
■45歳以上の応募者の書類はなぜ「読まれない」のか
求人募集では法律で年齢制限が禁止されている。そのため応募自体は何歳の人でもできる。
ところが、応募者は企業が喉から手が出るほどほしい35歳以下の人材ではなく、45歳以上が多く、そうした年齢層の書類は「読まれない」からだ。
45歳以降の転職が厳しい理由はそれだけではない。もう1つの理由は書類の書き方にある。
提出書類は中途採用の場合、履歴書以外に「職務経歴書」が必要になる。履歴書は学校歴と職歴(会社暦)を記入するだけなので、それほど書き方に工夫の余地はない。重要なのはこれまでどんな仕事をしてきたのかを示す職務経歴書だ。
あなたならどう書くだろうか。45歳であれば日本企業に入社後、ジョブローテーションによってさまざまな部門・職種を経験してきたはずだ。
たとえば最初は営業部門に配属後、生産管理部門に異動し、その後、開発部門を経て人事部や経理部などの管理部門に異動することもある。45歳であれば管理職経験がある人もいるだろう。
もっとも最悪な書き方は、入社後の職務を単純に羅列しただけの職務経歴書だ。求人企業の担当者はちらっと見ただけでゴミ箱行きだろう。
なぜならその部署で具体的にどんな経験をし、どんな成果を上げたのかが記されていないからだ。
一般的にはこれまでの職務にメリハリをつけて、営業職で転職したい人は、これまでの売り上げ実績や会社での表彰実績などを記載する人もいる。
営業の管理職経験者であれば、担当した部署の業績のほか、管理職業務で具体的に経験したことや、自分のマネジメント手法などを記載する人もいる。「職務の単純羅列」よりずいぶんマシといえるかもしれないが、それでも書類選考で弾かれる可能性が高い。
前出の転職コンサルタントは言う。
「単に自分が得意な分野を売り込んでいるにすぎない。大事なことは自分が何をしたいのかではなく、その会社にどんな貢献ができるかだ。しかも求人数に対して営業や事務系の求職者は掃いて捨てるほどいる」
仕事経験のない就活生ならともかく、45歳を過ぎて「私はこんな仕事をしたい」と言っているようでは書類選考で落とされる確率は高いということなのだろう。
■読まれる職務経歴書を書く上での最大のポイント
では、職務経歴書を書く上での最大のポイントは何か。それは、求人企業が求める人材像にターゲットを絞り込んだ記述をすることだ。
「求人企業がどんな職務でどんな成果を期待しているかを徹底的にリサーチするのが大前提。その上で自分の専門性がその企業にどれだけ貢献するかをアピールすることだ」(同上)
そもそも中堅・中小企業が人を募集するのは欠員補充か、特定の部門の強化を図るためというケースが多い。

しかし中堅・中小企業にとって人を採用するリスクは大きい。採用した結果、成果を上げられなくてもクビにすることは難しい。そのため、大企業でこんなスキルを身に付け、こんな実績があると職務経歴書でアピールされても、中小企業の経営者は「大企業という看板があるから実績を上げられただけで、そのスキルが果たして当社で役に立つのか」と疑念が生じ、採用に慎重になってしまうのだ。
たとえば「人事課長」の求人をしている企業があったとする。そこでその背景をリサーチすれば、「新卒人材がなかなか採れない」「労務管理がうまくいっていない」「育成教育がまずく離職者が多い」「人事評価制度が機能していない」といった具体的な課題を抱えていることが見えてくるはずだ。
少なくとも人事部員を募集する企業は何らかの悩みを抱えているのは間違いない。その上で事前に職務経歴書を見て、会社の課題を解決してくれる可能性があるかを読み取り、面接でさらに確認するというプロセスを踏むことになる。
仮に「新卒人材の採用が難しい」という課題を抱えている求人企業であれば、自分の人事でのキャリアを振り返り、採用活動の成功事例を検証し、実績だけではなく、なぜうまくいったのか、ノウハウや手法を職務経歴書に書き込む。できればその手法を中堅・中小企業に置き換えた応用編を提示する。それが書かれた職務経歴書を見た企業は必ずや興味を示し、書類選考を通過することになるだろう。
その次の採用面接では企業はさらに深掘りしてくる。ここでは「前職でこんなことをやってきました」では通用しない。
「私が前職でやった経験から言いますと、貴社の課題解決のためにはこういうふうにやればよいと思います」というプレゼンテーションができるかだ。
たとえば「今の段階では仮説ですが、(人事部員として)貴社の事業を(就活中の)学生さんに知ってもらうためにこういう方法を考えています」と提起する。その上で「ぜひ私に手伝わせてください」と社長に迫り、入社の熱意を伝えることだ。
つまり職務経歴書は、最後の関門である面接での成功を見据えたシナリオに沿って作成することが重要だ。
45歳以降のビジネスパーソンであれば、どんな企業でも求められる経験と基礎的な専門スキルを持ち合わせている。ただし、専門スキルのレベルは5割程度かもしれない。だからこそ転職を決意したら、スキルを磨く努力を怠ってはいけない。
専門スキルに一定の自信を持った上で、求人企業のニーズを察知し、転職成功のシナリオを戦略的に描くことができれば、書類選考率は100%に近づくはずだ。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)

人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。
著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)
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