■「検証」とは名ばかりのお粗末な内容だった
フジテレビの検証番組は、中居正広問題を掘り下げるでもなく、社内に蔓延する女性社員差別に切り込むでもなく、自己弁護に終始した2時間であった。日曜日の朝10時から放送するという設定から、フジテレビ側の「本気度」が危ぶまれたが、検証とは名ばかりのお粗末な内容だった。

その場に元新聞記者でノンフィクションライターの男性とコンサルタントの女性がコメンテーターとして出席したが、なぜ彼らを出す必要があったのか、最後まで理解できなかった。
中居正広問題を“隠蔽”する中で、あったであろうフジ上層部と中居側との談合内容をさらけ出すわけでもなく、日枝久体制の暗部に迫るでもない。あまりにも総花的で表面をなぞるだけの内容で、真っ当に批判する気にもなれない。
中居正広とフジの女性アナとの間を仲介した元編成部長、社内で数々のセクハラ事案が明らかになった反町理氏、諸悪の根源である“ドン”日枝久氏に話も聞けていないのは、清水賢治社長を含めた現執行部が彼らを恐れ、追及に「及び腰」だからである。
■ジャーナリストの横田氏が日枝氏を直撃すると…
ちなみに週刊ポスト(7月18・25日号)で、ジャーナリストの横田増生氏は、株主総会に欠席した日枝氏を電話で直撃している。
横田氏は、株主総会で日枝氏に質問したくてフジの株を買ったそうだ。だが、6月25日の総会に、日枝氏は姿を現さなかった。
総会で、金額はわからないが相当な額の役員退職慰労金が支払われると知り、どういうルートか知らないが、日枝氏の携帯に電話するのである。報道に携わる者はこうでなきゃあいけない。
――日枝さんに役員退職慰労金として20億円超が支払われるかもしれないという話があります。
「そんなのあり得ません! あり得ません‼ 本当にあり得ないですから」
――それならいくら支払われるんでしょうか。
「それは言う必要ないけれど、うちはね、退職(慰労)金制度は08年からないんですよ」
――でも、日枝さんは08年以前から取締役を務めているので、会社側は役員退職慰労金が支払われると言っています。

「それはあるんですよ。会社の棚卸資産だったかな、そこに貯めておいて退職する時に支払うんです。今回、3人に払うそうですよ。ボクと、(フジテレビ前副会長の)遠藤(龍之介)君と、監査役の尾上(規喜)さん。正確じゃないよ。ボクは執行部でもないし、人事担当でもないから。退職金はないんですよ」
横田氏は、なぜ株主総会に出なかったかも聞いている。
「もう少し勉強してきてよ。骨が折れちゃって動けないんですよ」
ほとんど日枝氏は何も答えていないのだが、このしつこさがいい。
フジテレビの検証番組がダメなのは、自社の膿を徹底的に出し切って再生しようという覚悟や執念が感じられないからである。
■中居氏を仲介した元編成部長の証言もない
検証番組に求められるのは、徹底した事実究明と原因分析であるはずだ。中居正広の「性加害問題」を知ってから、女性のプライバシーを守るという大義名分の裏で、当時の港社長や大多亮専務らが何を話し、なぜ、中居の番組が継続されたのかを、当事者の口から吐き出させなくては、検証したとはいえないはずである。

港氏は、番組改編時期ではないのに番組を終了させると視聴者から変に思われるなどと、以前からの主張を繰り返していたが、そんなことは嘘っぱちであることはこれまで何度も報じられてきた。
しかも、先に、第三者委員会が綿密な調査をしたうえで長文の報告書を公表しているのだから、それを超える生々しい当事者たちの証言が取れなければ、検証したなどとはいえないはずである。
そのためには、中居に女性アナを仲介した元編成部長の顔出し証言はもちろん、港氏らは中居から話を聞いているといわれるから、その時の生々しいやりとり、中居のいい分など、徹底取材して番組の中で明らかにするべきであった。
元編成部長は4ランク降格させられたとはいえ、まだフジの社員である。その人間さえ出せないというのは、出せばフジにとって都合の悪い「事実」を明らかにされることを恐れたとしか思えない。
被害女性の訴えを最初に聞き、彼女の対応をすべて任せられた佐々木恭子アナウンス室部長が、顔出しで話をしていたが、これまでいわれてきたことを繰り返しただけであった。だが、彼女は処分されるどころか、部長から局次長に昇進すると囁かれている。
■フジテレビが触れるべきだった一番重要なこと
清水社長は、芸能プロや有力タレントのほうが強かった社風を変えるというが、第2のバーニングプロの周防郁雄氏やジャニーズのメリー喜多川、中居正広や松本人志はこれからも出てくる。そうした人間たちに媚びへつらう人間もまた必ず出てくるのである。
今のままのフジテレビでは、また同じことが繰り返されることは間違いない。
番組の締めは、今年入社した35人(辞退者ナシ)の新入社員の入社風景と、総代の言葉だった。
「私はここフジテレビで出会い、これから先心のこもった番組・コンテンツを世の中に届けていきたいという共通の意志を持っています。
清水社長は1月の会見で“信頼回復なくしてフジテレビに未来はありません”と述べられましたが、私たち新入社員もこの思いを胸にフジテレビ再生に向けて努力してまいります」
この検証番組でほとんど触れられなかったのが、テレビの一番重要な役割である報道についてであった。フジがもし報道を主たる業務にするメディアでなかったら、中居問題でこれほど世の指弾を受けることはなかったであろう。
だが、報道機関たるものが、大物タレントの歓心を買うために、自社の女性を「上納していた」ことが、フジへの批判がここまで大きくなった根本原因である。
■国分氏の問題を公表した日テレもおかしい
今やフジサンケイグループだけではなく、他のメディアグループも「権力の番犬」に成り下がっている。いい番組を作ることは大切だが、テレビも報道機関であり、そのためにどう人材を育てるのか、否、育てられるのか? がフジテレビを含めたテレビ局全体に問われているはずである。
フジテレビはメリー喜多川とジャニー喜多川がやっていた旧ジャニーズ事務所と蜜月関係にあった。ジャニー喜多川の“鬼畜”のような所業も、当時、ある程度掴んでいたのではないかと、私は疑っている。
旧ジャニーズ事務所との親密な付き合いの中で、中居正広を重用し、性加害問題が起きても中居をかばい続け、結果、コンプライアンスを蔑ろにしたのではなかったか。
中居事件がまだ収まらない中、やはりテレビの超売れっ子だった旧ジャニーズグループ「TOKIO」の国分太一(50)にも、重大なセクハラ疑惑が浮上した。
6月20日、日本テレビの福田博之社長が会見で、タレントの国分太一に重大なコンプラ違反があったとして、番組から降板させると発表した。ところが、「関係者のプライバシー保護の観点から説明を控える」と一切の説明を拒んだのだ。
この訳のわからない社長の対応に対して、会見に来たメディアから批判の声が巻き起こった。

■フジと同じ轍を踏むまいと考えたのだろうが…
すると日本テレビホールディングスは6月26日、元TOKIO・国分太一の同局系『ザ!鉄腕!DASH‼』(日曜午後7時)降板発表の対応などについて、外部委員会の「ガバナンス評価委員会」(仮称)を設置すると発表し、詳細を明らかにしなかった社長の対応についても評価するといい出したのである。
現時点で、国分がどんなコンプラ違反をしたのかはわからない。だが、中居正広“事件”が起きた後、フジテレビのコンプラ違反、ガバナンスの欠如などが次々に明らかになり、スポンサーはCM提供を差し控えるという異常事態になった。
その轍(てつ)を踏むまいと日テレの首脳陣は考えたのであろう。だが、国分の何がコンプラ違反だったのかを一切説明しなかったため、憶測が憶測を呼び、それを隠し通そうとする日テレに対しても厳しい批判の声が上がっている。
さらに疑惑を大きくしたのは、国分が所属していた株式会社「TOKIO」を突然廃業してしまったことだった。
6月27日、TOKIOの松岡昌宏が会見を開き、国分について、「刑事事件ではないと聞いている」「猛省に猛省を重ねて、奈落の底にいる状態だ」と説明したが、今回の国分のコンプラ違反の内容については自分自身も把握していないと話した。
■これは「ジャニー喜多川の呪い」なのか
国分との今後の関係について聞かれると、「元メンバーになってしまったけど、縁はあるので。縁が切れてしまったらぶっ飛ばせないでしょ」といって、「あっ、これはよくない。不謹慎でした」と笑ったが、突然の廃業は、事が明らかになった時、自分たちに累が及ばないようにしたのではないかといわれているようだ。
国分“事件”は真相がわからないまま広がり続けている。いい出した日本テレビ側が、何らかのアナウンスをしないと収拾がつかないのではないか。

中居や国分のスキャンダルは、「ジャニー喜多川の呪い」といわれているようだ。ジャニー喜多川から受けた仕打ちが、彼らの何かをおかしくしたのではないか?
さらに、最近、旧ジャニーズ事務所のタレントの受け皿として設立されたマネージメント会社、「STARTO ENTERTAINMENT」に動きがあった。
福田淳社長が1年半で退任して元フジテレビ専務で元テレビ西日本社長の鈴木克明(66)氏が就任したのである。
報道では、鈴木氏は旧ジャニーズ事務所社長の藤島ジュリー景子氏と親しいことで知られているという。週刊文春(7月10日号)ではこう報じている。
■このタイミングで藤島ジュリー氏の本が発売
「『めざまし』が芸能ニュースを重視したことで接点を持つようになりました。編成幹部になると、絶対的な存在だったジャニーズ事務所との付き合いは深くなった。当時、経営の実権を握っていたメリー喜多川氏とは何度も向き合った盟友ですし、その娘で嵐らを抱えるジュリー氏とも親交を持ちました。一方で、福田淳前社長をはじめ、スタート社の経営陣には接点を持つ人はいないはず」(フジテレビ社員)
また、今月18日に、藤島氏の本、『ラストインタビュー 藤島ジュリー景子との47時間』が新潮社から発売される。
インタビュアーは早見和真氏。『店長がバカすぎて』(角川春樹事務所)などを出している作家である。アマゾンの本の紹介欄には、早見氏の言葉としてこうある。

〈旧ジャニーズ事務所の性加害問題で批判を一身に浴びた、藤島ジュリー景子とはどんな人物なのか? 叔父・ジャニー喜多川との、母・メリー喜多川との関係は? 当時の所属タレントに何を感じているのか? 二人三脚で歩んできた「嵐」に対する思いとは? 何よりも一連の「出来事」を彼女はどう捉えているのか――。
これまで語られてこなかった事実を、ファンや読者に伝えられるのではないか。それが今回、40時間を超えるインタビューに臨んだ一番の理由です。〉
■本の中身は「言い訳」?
新潮社のHPには、この本のさわりが載っている。大概こういう内容だ。
「ジャニー喜多川とは生まれてから二人で食事したことがない」「文春との裁判でジャニー喜多川が負けたのは、母親のメリー喜多川がいうには、『本人も最後まで無罪だといい切っていた。負けたのは弁護士のせい』」「ジャニー喜多川とはほとんど会っていないので、今回被害を訴えてきた中で私が知っているのは9人だけ」「私が100%株主として残るのは、他の株主が入った場合、被害者の方々に法を超えた救済が事実上できなくなるから」
これだけ読んでも、この本が藤島氏の「言い訳」に終始していることは容易に想像できる。
なぜ今、こうした本を出すのだろう? また、最近このような報道もなされている。
「『SMILE-UP.』は30日、公式サイトを通じて、故ジャニー喜多川元社長による性加害の被害者への補償状況などについて報告。同日時点で補償受付窓口に申告をしたのは、1029人となり、すでに補償金を支払ったのは556人とした。
■King&Princeが2年ぶりに『24時間テレビ』出演へ
同社は、申告者1029人から複数回の連絡しても返信がない234人を除く、795人のうち789人(約99%)について、被害者救済委員会から補償内容を通知(567人)、または、同社より補償を行わない旨を連絡(222人)したと伝えた。また、被害者救済委員会から補償内容を通知した人(567人)のうち、560人(約99%)が補償内容に同意し、うち556人(約98%)に補償金を支払ったと報告した」(ORICON NEWS 6月30日 16:20配信)
しかし、補償の詳しい内訳は一切発表していない。そんな「SMILE-UP.」側の一方的な「発表」だけで、テレビメディアの多くは、これでジャニー喜多川問題は一段落ついたと、旧ジャニーズ事務所のタレントたちをわれ先にと起用し始めたのである。
「King&Princeが日本テレビ『24時間テレビ』(8月30、31日)に出演することになった。1日、東京・汐留の同局で行われた番組の制作発表に登場。今年新設されたチャリティーパートナーとして、震災復興や障がい者支援などの輪を広げる。STARTO ENTERTAINMENTのタレントが番組の“顔”になるのは2年ぶりとなった」
■「嵐」が紅白に出演すればすっかり元通りに
「グループとしての出演はメインパーソナリティーを務めた2021年以来で、2人組になってからは初めて。昨年、ダンス企画で出演した高橋海人(26)は『グループで久しぶりに出させていただくということで、呼んでいただけたことに凄く感謝しています』と笑顔。永瀬廉(26)も『たくさんの方に思いを伝えられたら』と意気込んだ」(スポーツニッポン7月2日付)
今年の暮の紅白歌合戦は、旧ジャニーズ事務所のアイドルたちが続々登場することは間違いない。さらにNHKが狙っているのは、来年春頃に解散すると発表した「嵐」のサプライズ登場であろう。それができるなら、5組でも10組でも旧ジャニタレを出演させてもいいと考えているのではないか。
こうして、ジャニー喜多川事件は忘れ去られ、第2のジャニー喜多川やメリー喜多川が現れ、テレビを含めたメディアを支配し、思い通りに動かすようになるのだろう。
そして、事務所の中で起きている不祥事には目を瞑り、事務所や大物タレントのいいなりになるのがこの国のメディアの“習性”である。
昨年10月20日(日)に放送された、NHKスペシャル「ジャニー喜多川 “アイドル帝国”の実像」の中で、私は「タブーはメディアがつくる」と指摘した。
その言葉通りのことがまた起きようとしている。

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元木 昌彦(もとき・まさひこ)

ジャーナリスト

1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。

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(ジャーナリスト 元木 昌彦)
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