第一印象のいい人は何をしているか。元JALのCAで研修コンサルタントの香山万由理さんは「ある上場企業のトップから、新入社員の採用面接で『この学生が周りと仲良くやっていけるかどうか』『入社後に伸びるかどうか』を見抜く方法を教えてもらった」という――。

※本稿は、香山万由理『仕事ができる人は、「人」のどこを見ているのか』(光文社)の一部を再編集したものです。
■プロなら「するめ」になってはいけない
仕事ができる人は、「第一印象」を見ている
私はJALで「するめになってはいけない」という教育を受けてきました。
「するめ」は、いかの内臓を取って干したもの。お酒のおつまみの定番です。
CAは、この「するめ」になってはいけないのです。
一体どういうことでしょうか。
これは「お客さまにわざわざ噛んでもらわなくても、すぐに自分の人間性を伝えなければならない」ということです。
するめは噛めば噛むほど味が出てきます。しかしながら、人と接する仕事の場合、それではいけません。
会った瞬間に好感を持っていただく。これがプロとしての在り方である、とJALでは叩き込まれました。
CAの場合、お客さまが抱く第一印象が良くないと、挽回するチャンスがなかなか巡ってきません。
一人のお客さまと接することができる時間が限られているからです。
特に国内線はフライト時間が短く、たとえば羽田・伊丹線は、フライトタイムがわずか1時間程度。となると、一人の乗務員が一人のお客さまに接している時間は1分もありません。最初にマイナスの印象を持たれてしまうと、お客さまはその印象のまま降機されてしまいます。
それが原因で、次は別のエアラインを選ばれるかもしれません。だからこそ、どんな気分や精神状態であっても、制服を着たらバシッとスイッチを入れ、上質で快適な空間をプロとして提供しなければならない。それが、JALのCAなのです。
■第一印象を覆すのは至難の業
人が第一印象で判断しているもの、それは、
「安全か危険か」「味方か敵か」「好きか嫌いか」
です。これは人類の本能です。
第一印象で得た情報は、無意識にスコーン!と強く入り込みます。これは、心理学で「初頭効果」と呼ばれるものです。
初頭効果とは、物事や人に対して“最初”に示された情報が、最も記憶や印象に定着しやすいという心理効果のことです。

「人は第一印象で決まる」とよくいわれるのはこのためです。ですから、この人は✕だなと思ったら、2回目に会ったときも、3回目に会ったときも✕をつけてしまう傾向にあります。なぜかというと、私たち人間は自分の直感を信じたい生き物だからです。
少しでも相手の嫌なところを見つけてしまい、やはり私の直感は合っていた、嫌な人だった……と最初に感じた印象を確かめるようなことをしてしまうのです。
最初についた印象を覆すのは至難の業です。だとしたら、第一印象で✕をもらうよりも、○をもらったほうが、先々ラクになると思いませんか。
もちろん、第一印象は良くなかったけれど、しだいにいい人に思えてきた……などと途中で印象が変わることもありますが、それはあくまで例外。同じ学校や職場だったりするなど、毎日顔を合わせる環境にあり、相手の良いところにも目を向けられるようになっていたからにすぎないのです。
ビジネスの場合、「そのうちに自分の人柄をわかってくれるだろう」と期待しないこと。相手にするめを噛んでもらってはいけないのです。
■ポイントは「あたしひみこ」
人の第一印象は平均6秒で決まるといわれています。この6秒間で何を見ているのでしょうか。

それは、「人あたり」です。
あの人は「人あたりがいい・人あたりが良くない」ということは、日常会話でもよく出てきます。「人あたり」とは、相手に与える印象や雰囲気のことです。それが柔らかく相手が受け入れやすいものなら、「人あたりがいい」と評価されるわけです。
「あの人は、人あたりはいいんだけど、実は……」ということもありますが、それはある程度の関係性ができてからの話。最初は、何といっても「人あたりの良さ」がたいせつです。
ある上場企業のトップの方に、こんなことを伺ったことがあります。
その方は新入社員の採用面接で、
「この学生が周りと仲良くやっていけるかどうか」「入社後に伸びるかどうか」を、
「人あたりの良さ」
で判断しているそうです。
「人あたりの良さ」があると相手に不快な思いをさせることがないため、ビジネスにおけるたいていの困難は乗り切れるとおっしゃるのです。
では、人あたりの「良い・悪い」は、何をもって判断されているのでしょうか。
くわしくお話を伺うと、次の5つの要素に集約できることがわかりました。
①「あいさつ」

②「たいど(態度)・しぐさ」

③「ひょうじょう(表情)」

④「身だしなみ」

⑤「言葉づかい」
これらが合わさって、その人の「人あたり」の良さを総合的に演出し、相手が受ける第一印象を決定づけるのです。

このお話を伺ってから、お客さまをお迎えするときや、初対面の人にお会いするときなど、いつもこの5つを意識するようになりました。
そして、いざというとき、すぐに思い出せるように、5つの頭文字を取って語呂合わせにしてみました。それは、
「あたしひみこ」
です。
現在はJALを退職し、法人企業や自治体、医療機関などに対して、接遇マナー研修などのお仕事をさせていただいているのですが、今でも人に会う前は「あたしひみこ」「あたしひみこ」と心の中で何度もつぶやいています。
もちろん研修でも、受講生さんに「あたしひみこ」がビジネス、いえ、それだけでなく人間関係において、いかにたいせつかをお伝えしています。
仕事ができる人のポイント

「あたしひみこ」で人あたりのセンスを磨く
■人柄よりも「人あたり」
仕事ができる人は、「あいさつ」を見ている
あなたは「人柄が良い人」と「人柄が良くない人」、どちらと一緒に仕事がしたいですか。
言うまでもなく「人柄が良い人」に決まっているでしょう。
ところが、ビジネスの場においては、人は相手の人柄ではなく「人あたり」で判断していることのほうが多いのです。
同じ職場で働いていたり、長年にわたって取引をしたりしている間柄でしたら、人柄が大きな位置を占めることもあるでしょう。仲間やお客さま、取引先からの信頼を得るには、人柄が良くないと関係は長続きしません。
しかし、仕事で接する人の一人ひとりと膝を突き合わせて自らの人生観や価値観を語り、自分のことを理解してもらうというのは不可能です。特に接客やビジネスの場において、人柄を知ってもらう時間はないのです。

人柄を知ってもらう前にまずは「人あたり」。そもそも、人あたりが良くない時点で、本題に入る前に「この人は、ナシだな」と切られてしまっていても文句はいえないでしょう。
そして、「人あたり」を構成する「あたしひみこ」の中で、最も重要なのが「あいさつ」です。
CAは飛行機にお乗りになるお客さまを、搭乗口でごあいさつとともにお迎えします。CAのあいさつに対し、「こんにちは」と丁寧に返されるとうれしく感じます。
中には「お忙しいところ恐れ入りますが、手が空いたときでかまいませんので日経新聞をお願いできますか」とおっしゃるお客さまもいらっしゃいます。
CAも人間です。このように敬いの気持ちを持って接してくださるお客さまに対しては、手が空いていなくてもすぐにでもお持ちしたいと思うものです。
その一方で、乗りこむなり「日経!」と言ったままスタスタと座席に向かってしまうお客さまもいらっしゃいます。
CAはお客さまを見失わないように追いかけていって、座席番号を確認。落ち着かれたタイミングで新聞をお持ちするのですが、そっぽを向いたまま片手でフンと受け取るだけ……。
他人からされて悲しい気持ちになることの代表が、無視をされることです。
このお客さまは新聞を受け取ってはいらっしゃるので、全くの無視というわけではありませんが、それでもちょっと残念な気分になります。
あいさつの役割とは、「あなたの存在を認識していますよ」ということを伝えるための言葉です。そして、自分の心を開いていますよ、というシグナルです。動物でも、自分以外の存在を認識したときは、まず互いにニオイを嗅ぎ合うなどして、あいさつをします。
それを考えると、人間関係がギクシャクする原因は、あいさつのあるなしにあるといってもいいかもしれません。職場でも「あいさつがなかった」「来たらひと言声をかけてくれればいいのに」ということを、日常生活でよく耳にします。
■上級者のあいさつ
あいさつも、ただすればいいというわけではありません。
気持ちのいいあいさつ、これが第一印象を決定づけ、良好な人間関係を育む入り口になります。
では、気持ちのいいあいさつとはどんなものか、JALで教育されたことをベースに3つのポイントをお伝えします。
POINT①:相手に伝わるあいさつ
朝のあいさつなら、明るく、相手に届く声で「おはようございます」と、伝わるあいさつを。
「……おはようございます……」と小声でモゴモゴ言っても相手には届きません。自分の言葉が相手に届いたと認識できるあいさつをしましょう。
POINT②:状況に合ったあいさつ
時間帯によって、「こんにちは」や「こんばんは」を使い分けるのはもちろんですが、状況によって声のトーンや言葉を使い分けることも必要です。元気で大きな声を出せばいいと思って、場をわきまえず、大声であいさつする人がいますが、それは違います。
周りが静かな雰囲気でしたら、少し小さめのトーンで、「こんにちは。本日はありがとうございます」。小さめの声でも相手にきちんと届くことが肝心です。
周りが騒々しく、声が届きにくいようなら、ハリのある大きめの声で、「こんばんは。お疲れ様でございます」。
「こんにちは」や「こんばんは」のあとに、ひと言相手を気づかう言葉を添えるのがポイント。こういうちょっとした気づかいひとつで、相手に与える印象がガラリと変わってきます。
POINT③:相手の気持ちに寄り添ったあいさつ+言葉がけ
相手が不安そうな表情を浮かべていたら、「こんにちは。ご不安なことがあれば、いつでもお知らせください」。
相手が迷っているようだったら、「こんにちは。何かご案内いたしましょうか」。
相手の表情を見ながら、さらに、相手の気持ちに寄り添った言葉を添えられると、「人あたり」の上級者です。観察力と想像力をもって対応できるかが重要です。
■「あいさつファースト」に例外なし
仕事ができる人は、「仕事ができる人」と一緒に仕事をしたいと思っています。そのため逆に仕事ができない人の特徴もよく見ています。そのひとつが、あいさつもそこそこに、自分の言いたいことを話し始めることです。
ランチタイムの飲食店などでときどき、お店に入るやいなや「いらっしゃいませ」のひと言もなく、「こちらに記入してお待ちください」と伝える店員さんがいますね。
混んでいて忙しいのはわかるのですが、状況を考え、相手の気持ちに寄り添っていたら、いきなり本題に入ることはないはず。「あいさつファースト」に例外はありません。
まずは、「いらっしゃいませ。ご来店ありがとうございます」とあいさつをしてから、お名前のご記入をお願いすることです。
あいさつは、コミュニケーションの入り口であるとともに、仕事を始めるにあたり自分の気持ちを引き締める効果もあります。
JALの機内清掃スタッフは、清掃に入る前に機内の空間に向かって一礼をします。到着した機内は、トイレが汚れていることもありますし、ジュースが床にこぼれていたり、ゴミが散乱していることもあります。
それらを15分程度の短い時間できれいにしているのです。スタッフの一礼には、次にお乗りになるお客さまが快適に過ごしていただくために徹底的にきれいにするぞ、という決意と、空間に対しての敬意の心が込められているのです。
仕事ができる人のポイント

寄り添いのあいさつで「人あたり」上級者になる

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香山 万由理(かやま・まゆり)

研修コンサルタント

立教大学卒業。JAL(日本航空)に入社。国際線CA(キャビンアテンダント)として10年半乗務。在籍中にCS(顧客満足)表彰を受け、皇室・VIPフライトに乗務。退職後「品性と人間力を備えた人材を育てる学校」として、研修コンサルティング法人「一般社団法人ファーストクラスアカデミー」を設立。官公庁、医療機関、企業などで、2万人以上に研修を行い、リピート率97.2%を誇る。「接遇力」と「業績」を同時に成長させ、会社の格を上げる組織作りをサポート。JCAA(日本キャビンアテンダント協会)理事を兼任し、航空会社出身者のセカンドキャリア構築支援に従事する。また、高野山真言宗の僧侶としての顔も持ち、研修では仏教哲学も伝えている。

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(研修コンサルタント 香山 万由理)
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