我が子を賢く育てるためには、どんなことに気を付けるべきか。管理栄養士の小山浩子さんは「同じ脂でも、積極的にとることで賢い脳を育むものと、脳の成長を邪魔するものがあるので、注意が必要だ」という――。
(第2回)
※本稿は、小山浩子『「賢い脳」は脂が9割』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■脳を硬くする脂に注意
やわらかい構造をしている不飽和脂肪酸が脳を柔軟にするのと同じように、硬い構造を持つ脂肪酸をとると、脳は硬くなってしまいます。
硬い構造を持つ脂というのは、肉や卵に含まれている「飽和脂肪酸」のこと。ラードがイメージしやすいと思いますが、飽和脂肪酸は常温で固まりやすい性質があります。
例えば、人間の体温はだいたい36.5度ですが、対して、牛や豚の体温は39度ほど。そのため、飽和脂肪酸は牛や豚の体温ではやわらかい状態を保ちますが、それより低い人間の体温では固まりやすくなるのです。
よく「脂身の多い肉を食べ過ぎると血液がドロドロになる」といわれるのは、このため。この硬い構造を持つ飽和脂肪酸をとり過ぎると、脳の受容体の細胞膜も硬くなり、情報伝達の受け渡しがうまくいかなくなる……というわけです。
対して、魚の脂は冷たい海のなかでも固まることなく、サラサラのまま。だからこそ、先に述べた通り「賢い脳をつくるなら、魚を肉の倍の量食べよう」といいたいのです。
■調理過程で「DHAを損失」させないために
調理の工夫で流出と酸化は防げるオメガ3系の脂質は、煮たり焼いたりすると80%、揚げると50%程度に減少してしまうといわれています。さらに、酸化しやすいという特徴も。
そのため、調理過程でDHAを損失させないためには、ちょっとした料理のコツを覚えておく必要があります。
まず、一番効率がよいのは刺身やマリネなどの生食。DHAが流出したり、酸化したりすることもなく、ポン酢しょうゆやレモンと食べればさらなる酸化防止になります。
魚を蒸したり焼いたりするときには、クッキングシートやホイルで包むか、小麦粉などをまぶす、揚げるときには衣でコーティングするなど、脂をしっかり閉じ込める工夫をするのがおすすめ。
煮魚であれば煮汁にDHAが溶け出すので、大根おろしに煮汁を吸わせて一緒に食べるとよいでしょう。みそ汁、鍋などもDHAが溶け出した汁ごと食べることができます。
魚の脂を逃がさない調理のコツ3
① 包む

クッキングシートの蒸し焼きやホイル焼きならDHAをまるごと閉じ込めることが可能。調理後に染み出たスープにはDHAがたっぷり含まれているので、残さず食べましょう。
② 粉をまぶす

揚げたり焼いたりする前に、小麦粉をはたいたり衣をまとわせたりして素材をまるごとコーティングすることで、DHAが流出しにくくなります。魚の全面に、まんべんなくまぶしておきましょう。
③ 吸わせる

調理の過程で流れ出た魚の脂 を他の食材に吸わせたうえでそれごと食べるのも、一手。煮魚に大根おろしやほうれんそうなどの野菜を添えれば、食物繊維やビタミンなどの栄養価もアップするので、一石二鳥。


■肉も「適度」にとれば優秀な育脳食材に
とはいえ、「肉はダメ!」と悪者にするのはちょっとまってください。肉からは脳の材料になるタンパク質がたっぷりとれるうえ、鉄やビタミンB群など、脳を働かせるうえで欠かせない栄養素もとれる優秀な食材でもあります。
また、卵は神経伝達物質の素になる脂質の一種「レシチン」の宝庫! 摂取量が肉や卵だけに偏り過ぎなければよく、どちらも優秀な育脳食材ですから、魚と合わせて食卓に登場させてください。
肉を選ぶときはなるべく脂身の少ない赤身肉やヒレ肉を選んだり、牛肉や豚肉と比べて飽和脂肪酸の含有量が少ない鶏肉をメインにするなどの工夫をするのもおすすめです。
■DHAの働きを邪魔する食品
脳を硬くしてしまうのは、肉や卵に含まれる飽和脂肪酸だけではありません。実は、もっと警戒すべき脂があります。それが、「トランス脂肪酸」です。
トランス脂肪酸とは、飽和脂肪酸の仲間で、天然のものと人工のものがあります。天然のトランス脂肪酸は牛乳や乳製品のなかに微量に含まれているもの。人工のものは植物油を製造する工程でできるもので、部分的に水素添加した油脂でできたマーガリンやショートニングなどがそれにあたります。
また、それらを原料とするパンやケーキ、揚げ油などにも含まれています。
近年、このトランス脂肪酸の多量摂取が、動脈硬化や肥満、免疫力の低下などの原因になるとして問題視されるようになりました。
当然、脳にも無視できない悪影響があります。
トランス脂肪酸は脳内に入るとDHAのすぐそばに侵入し、育脳効果をもたらすDHAの働きを邪魔するといわれています。脳を急激に成長させている時期の子どもには、まさに禁忌(タブー)ともいえるもの。おやつ選びの際には、特に気を付けていきましょう。
最近は、食品メーカーがトランス脂肪酸の使用を減らす動きも見せてきました。皆さんも、スーパーやコンビニエンスストアで「トランスフリー」と明記された商品を目にするようになったのではないでしょうか。
実際に、農水省の調べによれば、日本人のトランス脂肪酸の摂取量は近年、減少してきているようです。そうした配慮のある商品を手にすることも、子どもの脳を守ることにつながるといえます。
■脂の摂取は「バランス」が重要
肉を食べ過ぎると脳が硬くなるなら、肉食文化の国の人はみんな脳が硬いの? これまでのお話で、そんな疑問を持った人もいるかもしれませんね。
もちろん、そんなことはありません。実は、脂の摂取はバランスが重要であるため、硬い飽和脂肪酸をとった分、やわらかな不飽和脂肪酸をとれば体内で大きな問題になる心配はなくなります。また、トランス脂肪酸もよい脂をとることで入れ替えることができるのです。

肉食文化の国では、そうしたバランスをとる食習慣が何かしらあるものです。
私がそのことを実際に目の当たりにしたのが、2012年に訪れたドイツでした。ドイツは肉の消費量が日本よりも1.5~2倍多いといわれている、肉食文化の国。
私がスーパーを訪れたとき、一番驚いたのが、アマニ油の品ぞろえのよさでした。大きな棚にさまざまなメーカーのアマニ油がズラリと並んでいたのです。しかも、日本では考えられないほど、大きなボトルで!
現地の人にその驚きを告げたところ、「私たちは肉をたくさん食べるから、そのかわりサラダにたっぷりアマニ油をかけるんだよ」と教えてくれました。ドイツの子どもたちも、朝のシリアルには牛乳と一緒にアマニ油をかけるのが習慣になっているそう。
硬い脂の悪影響を打ち消す技を、合理的なドイツの人たちは昔から当たり前にやっていたわけです。皆さんも「ちょっと最近、肉が多いかも」と思ったら、朝はアマニ油をかけた「ドイツ式シリアル」をおためしくださいね。

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小山 浩子(こやま・ひろこ)

料理研究家

大手食品メーカー勤務を経て2003年フリーに。これまでに指導した生徒は7万人以上に及ぶ。子どもの脳の成長をサポートする「育脳ごはん」を提唱。
NHKをはじめ多くのメディアや講演会、著書で、簡単かつ時短の工夫をこらしたレシピとともに、脳のために重要な栄養について伝える活動も展開中。『頭のいい子に育つ育脳レシピ』(日東書院本社)、『子どもの脳は、「朝ごはん」で決まる!』(小学館)、『目からウロコのおいしい減塩 乳和食』(社会保険出版社・2014年グルマン世界料理本大賞イノベイティブ部門世界第2位)、『やさしい、おいしい はじめよう乳和食』(日本実業出版社・2019年同大賞チーズ&ミルク部門世界第2位)など、著書多数。本書監修者・成田奈緒子氏との共著に『やる気と集中力を養う 3~6歳児の育脳ごはん』(池田書店)がある。

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(料理研究家 小山 浩子)
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