■「20分で食べて」投稿が炎上
人気ラーメン店「ラーメン二郎」府中店が7月4日に行った公式Xへの投稿が物議をかもし、炎上が起きている。
その投稿は、券売機の下の「御食事は20分以内で、御願い申し上げます」という貼り紙の写真と共に、「最近、極端にゆっくり食べている方が増えまして、ロット乱れたりお店としても困っています。お食事は『最大』で20分以内にお願いします」というテキスト文が添えられたものだった。
この投稿はたちまち物議をかもし、有名人も巻き込んだ論争に発展してしまった。投稿の3日後の7月7日、「ラーメン二郎」府中店はXアカウントを更新し、騒動を謝罪、問題の投稿は削除され、貼り紙も撤去する結果となった。
実際のところ、こうしたことは「よくある出来事」だ。にもかかわらず、多くの人が同じような過ちを犯し続け、炎上は起き続けている。なぜそうなってしまうのだろうか?
■「20分で食べて」はSNSに投稿すべき内容だったのか
今回の問題の論点は2つある。
1.主張している内容が正当なのか
2.SNSに投稿したのは適切な行為なのか
SNS上での論争のポイントは「店側が20分での完食を求めることが正当か否か」という点だ。
これには有名人も参戦した。ラーメン二郎のファンで知られるプロボクサー・ジロリアン陸さんは、「ラーメン1杯食べるのに30分かかる人はおかしいと思いますよ。
また、「にしたんクリニック」の西村誠司社長は、Xに「これを言うと結構、反感買うかもしれないんですけれども、文句があるなら行かなきゃいいっていう話なんで。僕は20分以内に極力食べてくださいっていうことに関しては、はっきり言いますけど、全然違和感ないです」と投稿した。
一方、格闘技イベント「RIZIN」に出場経験のある元ホストのYUSHIさんは、二郎の別店舗で店員に早く食べるように促されて残して店を出た経験を投稿し、二郎側の対応を批判した。
人によって見解が異なるからこそ、論争が起き、炎上が続いてしまうのだが、筆者は1よりは2のほうに問題があると考えている。
すなわち、主張の内容がどうであれ、客に個別に求めるべき要求を不特定多数の人が目にするSNSで声高に主張してしまったことに問題があるのだ。
■頻繁に起きるサービス提供者の不適切投稿
筆者の実家は、長年にわたって零細の飲食店を経営してきた。筆者も大学生となり地元を離れるまでは店の手伝いをしていた。
客の中には、ドリンク1杯で長居する人、不愉快な言動を取る人も少なからずいた。人前では愛想よくしている親族も、裏では陰口を叩いたりしていた。こうしたことは接客業では日常茶飯のことなのだが、たまに客に直接文句を言ってしまったり、SNSに思いを投稿してしまったりする店主・店員が出てきてしまう。
2017年に「ラーメン二郎」仙台店のTwitter(現X)で炎上が起きている。初来店と思しき客に店員が小サイズを勧めたが、客は大サイズを注文し半分以上残して去って行った。そのことに対して、店舗側がXアカウントに批判的な投稿を行い、炎上状態になったのだった。
最近では、今年3月に、大阪・南港の大型商業施設ATCシーサイドテラス内に設置されていたストリートピアノの利用に関して、「南港ストリートピアノ」の公式Xアカウントが、「練習は家でしてください」などと利用マナーに関する注意喚起の投稿を行って炎上状態になった。
■店員同士で愚痴を言うくらいなら問題ない
かなり前のことになるが、2012年、通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイの社長(当時)の前澤友作氏が顧客のツイートに反論して炎上したことがある。
送料と手数料の高さを批判する顧客のツイートに対し、前澤氏は「ただで商品が届くと思うんじゃねぇよ。お前ん家まで汗水たらしてヤマトの宅配会社の人がわざわざ運んでくれてんだよ。お前みたいな感謝のない奴は二度と注文しなくていいわ」と強い言葉で反論し大炎上状態となった。前澤氏は謝罪をし、その後送料無料化を実施する羽目となった。
上に挙げた事例のいずれも、店舗側の言い分には一理あり、社員や店員同士で愚痴を言い合う程度であれば、なんら問題はないことだ。
また、問題が看過できないレベルのことであれば、問題のある客と直接やり取りすればよい。
■第三者を巻き込むと炎上は拡大する
リスク管理の基本は「必要以上に第三者を巻き込まない」ことだ。
ホリエモンこと堀江貴文氏が、コロナ禍で訪れた餃子店からマスクを着用していないという理由で入店を断られ、SNSで怒りの投稿をしたことがあった。当初は、堀江氏の言い分を信じて餃子店を批判する人が多かったのだが、最終的には、SNSに投稿をした堀江氏に対する批判が優勢となっている。
これら過去の炎上から学べることは、ありきたりではあるが、不満や批判をSNSに投稿することには慎重になった方がいいということだ。一時的に鬱憤は晴れるかもしれないが、それ以上の「副作用」を呼んでしまう可能性があるからだ。
「20分以内で食べろ」という要求にしても、店内だけでもっと優しい言葉で説明していれば炎上もしなかっただろうし、効果も上がったのではないかと思う。
■早期の対応で「大炎上」とまではならなかった
「ラーメン二郎」府中店に関しては「大炎上」と言われるような事態にまで発展しないで済んだが、下記の2点が大きく影響しているように思う。
1. 早めに謝罪を行ったこと
2. ファンが擁護を行ったこと
謝罪については、迅速だったとまでは言えないかもしれないが、比較的早い段階で行われ、その内容も丁寧だった。
また、謝罪投稿によると、投稿を行ったのは店主ではなく、店員であることが伺える。「トカゲのしっぽ切り」と見られる可能性はあるが、経営者の方針ではなく、担当者レベルでの不手際――ということで幕引きが図られている。
■「ジロリアン」は諸刃の剣
「ラーメン二郎」は「ジロリアン」と呼ばれる固定客、固定ファンがいる。筆者の会社員時代の先輩にジロリアンがいて、当時よく会社近くの二郎に連れて行ってもらったものだった。
固定客だけで十分な収益が確保できるというのはすごいことであるし、二郎ファンにとっては、店側が色々と要求してきたところで、素直に店側の指示に従うだろう。SNSで炎上が起きやすくなっている現在、ファンの存在は貴重である。
ただ、府中店に限らず、最近の「ラーメン二郎」の様子を見ていて、いくばくかの不安を抱かざるを得ないのも事実だ。混雑しているだけでなく、入店するハードルが高くなっているようにも思える。ファンや常連客にしかわからない不文律のようなものがあり、それが理解できない筆者のような「普通の客」が入りづらくなっているようにも思えてしまうのだ。
先輩に連れて行ってもらった頃の二郎はいまほど混んでいなかったし、気軽に入れてハードルは高くなかった。大人気なのは良いことだが、今回の炎上騒動を見て、つい二郎がさらに自分から遠のいていってしまっているように思えてしまった次第である。
----------
西山 守(にしやま・まもる)
マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。
----------
(マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授 西山 守)