■若年化する美容医療の現実
小学生が整形。とても信じ難いことだが、ボトックスをはじめ、鼻を高くする、目を二重にする、しみ・ほくろをとるといった美容医療の利用者は近年ますます若年化し、小学生の数も増加傾向にある。
容姿へのこだわりは、今や女子に限らず男子にも共通の悩み。なぜ、そこまで容姿を気にするのか? と問いかけると、子供たちはこう答えるそうだ。「太ったと友人から言われた」「親や見ず知らずの大人から容姿を指摘された」「世の中が容姿の良さを求めているから」――。
「昨年頃から、メディアから子供の容姿に関する取材を受けることが増えました」
と話すのは、『きれいになりたい病』(風鳴舎)の著者であり、公認心理師・東京未来大学講師の大村美菜子氏。2024年6月に小学生を対象に行った容姿に関する調査では、子供たちが容姿を気にするようになったきっかけが浮彫りになった。
「小学生が学校で容姿を気にする場面として、体育やプールの授業、身体測定に関する記述が複数ありました。これらの場面には、容姿を意識しやすくなるいくつかの要因があります」
体育の授業で着用する体操着は、体型や肌の状態が周囲に見えやすくなる。身体測定では身長や体重が数値として表れ、他者と比較されやすくなる。プールでは水着を着用することで体の露出が増え、普段隠れている肌の状態や体型が周囲の目に触れやすくなってしまう。
「小学生にとって学校は自分の社会であり、ほとんどの時間を過ごす場所。だからこそ、学校の友達や先生からの意見や反応が、とても意味を持ちます。何気ない指摘や“いじり”がコンプレックスを強める原因ともなりかねない。さらにはメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性もあります」
■「理想の姿」と「現実の自分」に苦しむ子供たち
程度の差こそあれ、誰でも自分の外見や容姿を気にすることはある。今日は前髪がうまくきまらない。どうも最近肌の調子が悪い。それは、大人も子供も感じることだ。だが、もしも子供が容姿を気にしすぎるあまり、「人前に出たくない」「友達とうまく関われない」などの状態になっていたら注意が必要だ。近年、にわかに注目されているのが「身体醜形症」という病である。
「容姿へのこだわりが少し強くなる状態は誰にでも起こりうることであり、それ自体は病気ではありません。『身体醜形症』との大きな違いは、日常生活に必ずしも大きな支障をきたすわけではないということ。
身体醜形症になりやすい子供とそうでない子供には、どんな違いがあるのか。いくつもの要因があるが、その一つには真面目さや、頑張りすぎてしまう性格もあると大村氏は指摘する。つまり、「完璧を求めすぎること」が、図らずも病へとつながるのだ。
さらにそこに、SNSの影響も加わっていく。近年、中学生や高校生のインフルエンサーが増え、外見が魅力的であることが人気につながる傾向が一層顕著になっている。
「小学生は自己概念がまだ不安定なため、SNSで見かける『完璧な美しさ』を自分も目指さなくてはならないという強いプレッシャーを感じがちです。投稿されている写真はアプリで編集し、フィルターをかけている可能性が高い。にもかかわらず子供たちは自分の容姿と比較し、自信を失ってしまうのです」
■親からのポジティブな声かけが子供を救う
学校生活の中で容姿を意識する機会に触れ、さらにはSNSから「完璧な姿」の情報を浴び続ける。子供は常に、自分の容姿に自信を失い、美容医療に興味を持つ機会に晒され続けているといっても過言ではない。そこで重要になってくるのが親や近しい大人からの声掛けだ。
たとえば母親は子供に対して温かく接し、肯定的な言葉をかけるのが理想的だ。具体的には「あなたはそのままで十分素敵よ」「自分らしさが一番大事」などのポジティブな言葉が、子供に安心感を与えてくれる。
また、父親の褒め言葉は子供の自己肯定感を高める。「かっこいいね」「とてもかわいいよ」「君らしい魅力を大事にしよう」「他の人と違うところがいいんだよ」といった言葉が特に効果的だ。
「親からのポジティブな言葉は、単なる褒め言葉以上に、自分はそのままで大丈夫なんだという安心感を与えます。この声かけは思春期、青年期などどの年代にも効果を出しますが、特に児童期の子どもにとっては極めて重要です。児童期、つまり小学生にあたる子どもは、まだ自己への自信が十分に育っていません。そのため、親や家族から認められることが、大きな意味を持つのです」
■余計なアドバイスなら「言わない」のも有効
ただし、声かけをしようと意識するあまり、うっかりネガティブな発言をしないよう気をつけたい。「もっとこうしたら他の人に負けないよ」といった比較を前提とした言葉は、子供の容姿に対する否定的な感情を助長する。といっても、親も人間。無理をする必要はない。
「特に同性の親子関係は難しい側面がある。父と息子の関係や、嫁と姑の関係の難しさは以前から指摘されてきましたが、近年は母と娘の関係性の難しさにも注目が集まっています。声のかけ方によっては、逆効果になる場合もあるのは事実です。
子を持つ親が覚えておきたいのは「対極線の関係」で褒めること。父親は娘に、母親は息子にポジティブな声をかける。これがうまくいくと、子どもにとっても親にとっても、適切な距離感や逃げ場が生まれ、良い循環が生まれていくはずだ。
さらに大村氏が提案するのが、「アイ(I)メッセージ」で表現すること。親としては、子供を見ているとどうしても指摘したくなったり、意見を言いたくなったりすることもある。そんなとき、「私はこう思うけれど、あなたの気持ちも理解できる」といった形で、親自身の考えを伝えるとよい。
「これは、臨床やカウンセリングの現場でも多く用いられている方法です。自分の意見として述べることで、相手に与える心理的な圧力を和らげる効果があります」。
まず、否定しないことが何よりも重要、と大村氏は力を込める。これが、子どもの自己肯定感や自己受容感を高めるうえで欠かせない姿勢だ。もう一つのアドバイスは、SNSや周囲の評価の影響を受けやすい時期にあることを子供に自覚させること。
「『理想の姿』と『現実の自分』のギャップが、容姿の自己評価に影響する。
声をかけるだけ。たったそれだけでも、子供が自分の容姿を受け入れていくきっかけになる。そしてそれは、小学生のうちから始めても早すぎたりはしないのだ。
----------
吉田 彩乃(よしだ・あやの)
ライター
1986年、東京都生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科で日本文学(主に近世、近代)を学ぶ。2015年4月よりフリーランスとして活動。雑誌、WEBメディアでライティングと編集経験を積み、官公庁や企業インタビューも多数手掛ける。
----------
(ライター 吉田 彩乃)