1日24時間をどう使うかで人生の幸福度・満足度は変わる。有意義に使っている人はどう使っているのか。
心理学者の内藤誼人さんは「睡眠時間の質の高め方や、死亡リスクの低い勤務時の過ごし方、人生の意義を高めるための所持品にはコツがある」という――。
本稿は、内藤誼人『大人の時間術』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。
■夜にぐっすり快眠するために欠かせない昼間の習慣
読者のみなさんは、きちんと睡眠時間を確保できているでしょうか。おそらくは、「ちょっと足りない」と感じているのではないでしょうか。
というのも、経済協力開発機構(OECD)の2021年度発表のデータを見ると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、加盟33カ国の中で最も短いことが明らかにされているからです。
幸せな人生を送るためには、睡眠時間の確保は欠かせません。睡眠は、栄養を摂取するのと同じくらい私たちの健康にとって必要不可欠なのです。米国マサチューセッツ州にあるホーリー・クロス大学のアミー・ウォルフソンは、4つの公立高校の生徒3120人に対し、睡眠時間と学業成績についての関連性を調べてみたのですが、
平均睡眠時間が7時間以下の生徒は成績がよろしくない、ということが明らかにされました。ウォルフソンの研究は高校生を対象としたものですが、社会人にも当然当てはまります。睡眠時間が足りない人ほど、日中に眠気を感じるでしょうし、パフォーマンスも落ちます。仕事もはかどりませんし、優れた業績も挙げられなくなるでしょう。
「睡眠時間がなかなか増やせない」という人もいるでしょうが、そういう人は、単純に時間増やすのではなく、「睡眠の質」を高めることを考えてみるのはどうでしょう。
睡眠時間が短くとも、ぐっすりと深く眠れるようにすれば、質の高い睡眠を取ることできるからです。
質の高い睡眠を取るための、ひとつの方法をご紹介しましょう。
その方法とは、「感謝の言葉」を口にする方法です。この方法は、英国マンチェスター大学のアレックス・ウッドが明らかにしたもので、出会う人すべてに、「○○さん、今日もありがとう」と感謝の言葉を言うようにするのです。
家族に対しても、職場の人に対しても、ご近所さんに対しても、あるいは買い物をするときにはレジ係の人にでも、「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」と感謝する習慣を持つようにすると、質の高い睡眠が取れるようになり、寝つくまでの時間も短くなるというのです。
普段から、「ありがとう」と言う習慣を持つようにすると、夜にはぐっすりと快眠できます。「ありがとう」という言葉を出し惜しみするのではなく、むしろだれに対しても大盤振る舞いするくらいでよいのです。
出会う人すべてに「ありがとう」と口に出すようにすると、どんな人との関係も円満になりますし、相手も笑顔を見せてくれるようになりますし、そういう笑顔を見ると自分自身も幸せになれます。
いつでも幸せな気分でいると、当然ながら、不眠に悩まされることも減り、毎日、ぐっすりと深く眠ることができるのです。
■腕時計を身につけている人のほうが人生に高い意義を持つ
私は大学の先生をしておりますが、最近の学生は腕時計をあまりしていません。
スマートフォンの画面で簡単に時間を確認できるので、そもそも腕時計など必要がないということなのでしょうが、腕時計をしていたほうがよい、という研究結果があります。
米国ヴァージニア州にあるクリストファー・ニューポート大学のリー・ドリスは、18歳から30歳の100人に、普段から腕時計を身につけているかを尋ね、また「人生目的テスト」(PIL)という心理テストを受けてもらいました。

インターネットで「The Purpose in Life Test」と検索してもらうと20項目から成る心理テストのPDFファイルを見つけることができます。
「私は常に……」という文章の後に続いて、「退屈」から「熱狂的」までを5段階から選んだり、「人生とは私にとって……」という文章の後に続いて「まったく惰性的」から「非常に興奮する」までのどれかを選んだりすることで測定します。
その結果、普段から腕時計を身につけている人のほうが、人生に高い意義を持っているということがわかりました。なぜ、腕時計を身につけていることが重要なのでしょうか。
それは、腕時計を身につけている人のほうが、頻繁に時間を確認できるからです。つまり、時間の経過に対して敏感でいられるのです。
人と楽しくしゃべっている最中でも、腕時計をしていれば、「おっと、油を売りすぎてしまった、私はもう仕事に戻るよ」と対処できます。
腕時計をしていない人は、そういう判断が瞬時にできませんので、ダラダラとおしゃべりを続けてしまうものです。
時間に敏感な人は、家のあちこちにたくさん時計を置いています。居間に掛け時計がひとつだけ、というのではなく、玄関の脇にも、廊下にも、脱衣所にも、トイレにも、あちこちに時計があるのです。
家のあちこちに時計が置かれていれば、どうしても時計が視界に入ってくるでしょうし、それを目にするたびに時間を意識することができます。
だいたい仕事ができる人の家は、そんな感じになっているものです。
時計を目にする習慣が身につくと、「1秒も時間をムダにしたくない」という意識が芽生えます。私たちの人生には限りがあるわけですから、時間を意識して行動したほうが、より充実した人生を歩めることは論をまちません。
たしかにスマートフォンでも時間を確認することはできますが、それでもやはり時計を置いたほうがよいと思います。自分のデスクの上にも時計を置きましょう。そうすると時間を意識して行動することができ、作業能率もアップするはずです。
■デスクワークの人は、勤務時間中に貧乏ゆすりを心がける
1日の座位時間(椅子に座っている時間)の長い人は、要注意です。健康面で、いろいろな問題が起きるリスクが高くなりますので、気をつけなければなりません。
まだ小さな子どもがいるというのに、心筋梗塞で突然死するようなことがあったら、あまりにも無念で死に切れないではありませんか。
「ただ椅子に座っているだけなのに、そんなに身体に悪いことがあるのかな?」と思うかもしれませんが、本当に悪いのです。長時間、同じ姿勢を取っていると、血行不良になり、血栓(血のかたまり)ができて心筋梗塞や肺塞栓症が起きやすくなります。どちらも命に関わる危険な病気です。
読者のみなさんは、「エコノミークラス症候群」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
海外旅行をしたことがある人ならわかると思うのですが、飛行機の中で長時間ずっと座っていると、見てわかるほど足がむくんでしまうものです。
1時間に1度は、トイレに立つとか、軽くストレッチをするとか、とにかく身体を動かさないと血が滞ってしまいます。
「そんなことを言っても、私はデスクワークが主体なので、座位時間はとても減らせませんよ」という人もいるでしょう。
そういう人は、ちょっとお行儀が悪いかもしれませんが、他の人にわからないように、デスクの下でこっそりと貧乏ゆすりをしてみるのはどうでしょうか。
貧乏ゆすりをしていれば、あらゆる死亡リスクを減らすことができるからです。英国ロンドン大学のガレス・ハガー=ジョンソンは、1999年から2002年まで、37歳から78歳の女性1万2778人に、毎日の座っている時間を教えてもらいました。また、座っているときにどれくらい貧乏ゆすりをする習慣があるのかも聞きました。
それから12年後に追跡調査すると、貧乏ゆすりをあまりしない女性ほどあらゆる死亡リスクが高いことがわかりました。
1日に7時間座っている人は、5時間以下の人より30%も死亡リスクが高いことが判明したのですが、貧乏ゆすりをしていると、そのリスクを減らすことができたのです。
ただ貧乏ゆすりをしているだけでも、血行不良を予防できます。足を動かしているからです。座っていると、どうしても下半身で血流が滞ってしまうものですが、貧乏ゆすりをしていれば、血流があまり滞りません。

貧乏ゆすりは見ている人を不快にさせてしまい、マナー違反だと見なされることが多いのですが、死亡リスクを減らすためには、こっそりとやらせてもらってもよいのではないかと思います。

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内藤 誼人(ないとう・よしひと)

心理学者

慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。立正大学客員教授。有限会社アンギルド代表。社会心理学の知見をベースに、心理学の応用に力を注ぎ、ビジネスを中心とした実践的なアドバイスに定評がある。『心理学BEST100』(総合法令出版)、『人も自分も操れる!暗示大全』(すばる舎)、『気にしない習慣』(明日香出版社)、『人に好かれる最強の心理学』(青春出版社)など、著書多数。

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(心理学者 内藤 誼人)
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