※本稿は、森由香子『健康診断の数値がよい人は何を食べているのか』(廣済堂出版)の一部を再編集したものです。
■“安易なダイエット”が寝たきりの老後につながる
肥満や生活習慣病の予防や改善に、ダイエットをしている方がいらっしゃると思います。人生100年時代、足腰をしっかりと保ち、自立した生活をこの先ずっと送る上でも、体重管理は大事なことです。
世の中には、様々なダイエット法があります。ですが、特に中高年の皆さんは、ご自身にとって不適切なダイエットを行うと、将来の健康を阻む取り返しのつかない事態を招くことがあるのでご注意ください。
皆さんの中に、朝食を食べず一日一食、あるいは二食にして食事回数を減らし、食事はおかずだけ食べて、主食のごはんを抜いている方がいないでしょうか。もし、そうであれば、将来、「サルコペニア」あるいは、「サルコペニア肥満」になるリスクが高くなるかもしれません。
サルコペニアとは、筋肉量の減少と筋力または身体機能(歩行速度)の低下を指す筋疾患を言います。さらに、肥満があるとサルコペニア肥満となり、寝たきりになるリスクが上がるとされています。
ここで、「えっ! たんぱく質をとっているから、筋肉量が減らないのでは?」と反論が聞こえてきそうです。確かに、たんぱく質は筋肉などの体の組織やホルモン、酵素、血液の材料になりますが、一方でエネルギー源にもなります。
■糖質が不足すると筋肉が分解されてしまう
人の体は、エネルギーファーストでできています。そのため、食事からとった栄養は、まず体を動かすエネルギーとして利用されます。
ご存じのとおり、体のエネルギー源はブドウ糖で、糖質が分解されたものです。糖質が不足していると、食事からとったたんぱく質は、体の組織などに利用されるのではなく、エネルギーとして使われてしまいます。ところが、それでもなお、体のエネルギーが不足している場合は、筋肉などの組織が分解されてエネルギーがつくられてしまいます。
わかりやすい事例があります。就寝中は食事からの栄養補給ができませんので、必要なエネルギーは、筋肉を分解して補っています。そんな状態のところに、朝食の欠食や糖質不足の食事をしていると、ますます筋肉の分解に拍車がかかります。
筋肉量が減れば、基礎代謝が低下し、痩せにくい体となりかねず、かえって肥満が増長しかねません。将来、サルコペニア肥満になる可能性も高くなります。ですので、食事は一日三食、主食、主菜、副菜の構成とし、できれば、運動も取り入れて、筋肉量を低下させない体重管理をしていくことをおすすめします。
■“誤った糖質制限”が健康を害する
世の中に出回っているダイエット法の中でも、根強い人気がある糖質制限ダイエット。ご存じのとおり、糖質を多く含む食品を制限するダイエット法です。しかし、万人に向いているものではなく、しかも間違った方法で行うと健康を害してしまう事実を知っている方は少ないかもしれません。
その理由をお伝えする前に、糖質を制限するとなぜダイエットできるのか、そのメカニズムを見ていきましょう。食事から糖質をとると、糖質が分解されてブドウ糖になります。そして、インスリンがブドウ糖を体の細胞へ取り込んで、血液中のブドウ糖を一定の濃度に保つようにしています。
ところが、食べ過ぎなどにより血液中のブドウ糖が必要以上に余ってしまうと、インスリンはブドウ糖を脂肪に変えて、体の細胞に蓄積させてしまう働きがあります。そのため、食事からとる糖質を制限すれば、ブドウ糖が余ることがなく、脂肪になることを抑えられるというメカニズムをねらったものが糖質制限ダイエットです。
糖質制限を唱える専門家の多くは、糖質を制限する代わりに、たんぱく質と脂質をお腹いっぱい食べてよいという食べ方をすすめています。それにより多くの方が、自己判断により単純に主食を抜いておかずは制限なく食べるという方法を実践していることが多いようです。
■「LDLコレステロール値」が高い人は向いていない
これまで私のところへ栄養指導に来られた方々も、同様のやり方で体重を減らそうとしていましたが、残念なことに、ある血液検査項目の値を上昇させていました。
その上昇させた値とは、「LDLコレステロール(悪玉コレステロール)値」です。
LDLコレステロール値上昇の原因は、食事による脂質のとり過ぎが考えられます。焼き鳥、焼き肉、唐揚げ、ハンバーグなどを制限なく食べていると、飽和脂肪酸やコレステロールのとり過ぎにつながります。飽和脂肪酸やコレステロールは、LDLコレステロールの値を上げてしまうことがわかっています。
はっきり申し上げます。健康診断の結果でLDLコレステロール値に問題のある方は、糖質を制限して脂質やたんぱく質を制限なく食べる方法は向いていません。糖質制限ダイエットは、糖質過多が原因で適正体重を超えている方、空腹時血糖値が高めで減量の必要性がある方に向いています。実践する時は自己判断でするのではなく、まず医師や管理栄養士に相談することをおすすめします。
■「朝食抜き→昼ガッツリ→夜に晩酌」は絶対NG
朝食はいつも食べず、昼食は、牛丼、カツ丼やカレーライスなどの大盛りを食べ、夕食は、いつも遅い時間にコンビニやスーパーの揚げ物弁当と缶ビール、食後にお菓子というような食事スタイルの方はいませんか?
このような食生活を続けていると、中性脂肪やLDLコレステロール値(悪玉コレステロール)が高くなる可能性があります。前述の食事スタイルは、どこがいけないのでしょうか。主食、主菜、副菜の構成になっておらず、栄養バランスが整っていないことは言うまでもありません。
前述の食事は、糖質や脂質が多く、食物繊維が足りていません。
牛丼やカツ丼、カレーライス、揚げ物、お菓子などは、脂質の過剰摂取につながり、肥満や脂質異常症の原因になります。特に、挽き肉、バラ肉など脂の多い肉料理や乳脂肪を使った料理は、飽和脂肪酸の摂取量を増やすことになります。脂質の中でも飽和脂肪酸はコレステロール合成の増大をもたらします。
ビールなどのアルコールも中性脂肪の上昇をもたらします。また、ごはんの大盛りなど糖質のとり過ぎも、中性脂肪を増加させます。
■外食するなら「八宝菜」「肉野菜炒め」がいい
血液中の中性脂肪が増えると、体のしくみによりHDLコレステロール(善玉コレステロール)が減ることにつながります。そのため、健康診断でのHDLコレステロール値40mg/dL未満も脂質異常症と診断されます。
中性脂肪、LDLコレステロール、HDLコレステロールの検査値を改善したいならば、外食時のメニュー選びは、八宝菜や肉野菜炒めなど、野菜、海藻、キノコもたっぷりとれる料理を選びましょう。
また、野菜サラダを単品でつけたり、メインのおかずは焼き魚、豚しゃぶなどにして脂質の多いメイン料理は控えることをおすすめします。また、肥満のある方は、揚げ物などエネルギーが高い料理は、検査値が改善するまでは控えたほうが無難でしょう。
もちろん、主食は、大盛りをやめて普通盛りに減らすことも忘れないでください。
さらに、野菜料理を食べる時は、マヨネーズやオイル入りドレッシングは控え、ポン酢、ノンオイルドレッシングなど脂質の少ない調味料に替えていきます。
■夕食が遅い人は2回にわける
言うまでもなく朝食の欠食はいけません。前日の夕食後から翌日の昼食まで、お茶を飲んだりお菓子をつまんだりして済ます人もいるかもしれませんが、それでは空腹時間が長すぎます。
このような食習慣をお持ちの方は、長時間の空腹後の最初の食事を食べ過ぎる傾向があります。そうなると、肝臓や脂肪組織での脂肪酸の合成をすすめる酵素の活性が高まり、肝臓での中性脂肪やコレステロールの合成が亢進(こうしん)されます。
といっても、夜遅い時間に食事をしている人は、起床時に食欲が湧かないのは当然でしょう。遅い夕食時間になる人は、夕食を2回に分けて食べる分食がおすすめです。
夕方に主食にあたるものを食べて、帰宅後は、脂質が少なく消化のよい料理、たとえば、タラの寄せ鍋、湯豆腐などにして食べ過ぎないようにすることです。こうすれば、夕方にしっかり主食を食べているので2回目の夕食で爆食することはないはずです。
このような食事を続けて朝食を食べる習慣をつくります。まずは、ヨーグルト1個などご自身が食べられるものを用意して、朝食をとる回数を少しずつ増やしていきましょう。そして、夜食のお菓子、間食でのお菓子を日常的に食べている人は、即やめましょう。
(主な参考文献)
・「臨床栄養」2022年11月号「特集 ガイドライン2022を踏まえた動脈硬化性疾患予防のための食事療法」(医歯薬出版)
・『改訂6版 臨床栄養ディクショナリー:日本人の食事摂取基準(2020年版)対応(山本みどり・佐々木公子・大池教子著編集、伊藤孝仁監修、メディカ出版)
・「不調を食生活で見直すためのからだ大全」池上文雄・樫村亜希子・加藤智弘・川俣貴一・松田早苗監修(NHK出版)
・「栄養食事療法必携 第4版」中村丁次編著(医歯薬出版)
・「糖質疲労」山田悟著(サンマーク出版)
・特集 サルコペニアに対するリハビリテーション医療「6 サルコペニアと 認知機能障害」Jpn J Rehabil Med Vol. 58 No. 6 2021. 1
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森 由香子(もり・ゆかこ)
管理栄養士
日本抗加齢医学会指導士。東京農業大学農学部栄養学科卒業。大妻女子大学大学院(人間文化研究科人間生活科学専攻)修士課程修了。2005年より、東京・千代田区のクリニックにて、入院・外来患者の血液検査値の改善にともなう栄養指導、食事記録の栄養分析、ダイエット指導などに従事している。また、フランス料理の三國清三シェフとともに、病院食や院内レストラン「ミクニマンスール」のメニュー開発、料理本の制作などを行う。抗加齢指導士の立場からは、“食事からのアンチエイジング”を提唱している。『おやつを食べてやせ体質に! 間食ダイエット』(文藝春秋)、『1週間「買い物リスト」ダイエット』(青春出版社)など著書多数。
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(管理栄養士 森 由香子)