ダイエットを成功させるにはどうしたらいいのか。管理栄養士の森由香子さんは「健康によいというイメージが強いナッツや羊肉は、あまりおすすめできない。
脂質やエネルギー量が高く、かえって太ってしまうだろう」という――。(第2回)
※本稿は、森由香子『健康診断の数値がよい人は何を食べているのか』(廣済堂出版)の一部を再編集したものです。
■ナッツはおすすめできない
体によい食品として根強い人気のナッツ。アーモンド、カシューナッツ、ピーナッツ、クルミ、マカダミアナッツ、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ、松の実、カボチャの種、ひまわりの種など種類が豊富です。
ナッツが体によいとされる理由は、健康効果が期待できるいくつかの栄養素にあるようです。まず、α-リノレン酸(n-3系多価不飽和脂肪酸の1つ)とリノール酸(n-6系多価不飽和脂肪酸の一つ)。この2つの脂肪酸は、体の中で合成できないため、食品からとる必要がある必須脂肪酸です。α-リノレン酸は血圧低下作用、リノール酸は血中コレステロール低下作用が期待できます。どちらも認知機能改善効果も報告されています。
次に、ビタミンEと食物繊維。ビタミンEは、抗酸化作用や血行促進作用、そして、食物繊維は、整腸やコレステロール低下作用、糖尿病予防、高血圧予防が期待できます。
皆さんは、どのような場面でナッツを食べていますか。
お酒のおつまみとして、小腹が空いた時、口寂しいとき、テレビやビデオ鑑賞時、仕事中や仕事の合間にと様々な場面があることでしょう。中には、前述の栄養素をとりたいために、毎日、義務感でせっせと食べている方もいるようです。
こちらは、管理栄養士の立場から見ると、あまりおすすめできません。というのも、わざわざナッツにこだわらなくても、望む栄養素は他の食品で補給できるからです。
■脂肪が増え、尿路結石の原因にもなる
たとえば、α-リノレン酸なら、納豆やがんもどきなどの大豆製品、なたね油、調合油、えごま油などの植物油、リノール酸なら、がんもどきなどの大豆製品や、サフラワー油や、ひまわり油、綿実油などの植物油。
ビタミンEなら、ブリ、サバ、ハマチ、カボチャ、ホウレンソウ、ブロッコリー、キウイフルーツ、サフラワー油や、ひまわり油、綿実油などの植物油。食物繊維なら、野菜、海藻、キノコ、豆、芋、果物から摂取できます。皆さんも普段から口にしているおなじみの食品ばかりです。
私がおすすめするナッツの食べ方は、主役としてたくさんとるのではなく、料理のサポート役として少量を利用する方法です。たとえば、カボチャのサラダ、キャロットラペ、ヨーグルト、シリアルを食べる時に混ぜ合わせると、アクセントや風味づけになります。また、スライスや砕いたナッツは、白和え、パスタ、おにぎり、スープに混ぜると、味にコクや深みが出て美味しくなります。揚げ物の衣に加えれば、食べた時に食感が楽しめます。

ご存じのとおり、ナッツは、脂質が多く少量でエネルギー量が高い食品です。とり過ぎは体脂肪増加の引き金になります。また、シュウ酸も含まれるため、とり過ぎると尿路結石の原因にもなりかねません。最後に、主なナッツのエネルギー量をお知らせします。
・アーモンド10粒(15g)91kcal

・カシューナッツ10粒(15g)89kcal

・ピーナッツ10粒(10g)61kcal

・クルミ1個(8g)57kcal です。

食べ過ぎにくれぐれもご注意ください。
■羊肉には脂肪燃焼効果もあるが…
加齢とともに、お腹の周りについてくる脂肪。脂肪を減らしたい気持ちはあるけれど、運動は苦手だし、美味しい肉を目の前にすると食欲が暴走してしまう、そんな悩みを持つ方の注目度ナンバーワンが羊肉です。
少し前に羊肉料理(ジンギスカン、ラムチョップなど)がブームになったことは、記憶に新しいところです。その理由は、羊肉には脂肪燃焼効果が期待できるカルニチンが豊富に含まれているからで、その含有量は、牛肉の約3倍、豚肉の約9倍ともいわれています。
カルニチンの脂肪燃焼効果について少し見ていきましょう。脂肪の構成成分となる脂肪酸は、細胞にあるミトコンドリア(火力発電所のようなもの)に運ばれて燃焼されます。
その際の輸送係としてカルニチンは働いています。他に、細胞内にある不要な脂質を尿中へと排出する働きもあります。
そんな素晴らしい働きを持つカルニチン。しかし、ご自身の体重管理を羊肉にまかせて、本当によいのでしょうか。よいわけがありません。体はそんなに単純なしくみではないからです。
■ラム肉をめぐる3つの誤解
まず、体重の増減はエネルギーの収支バランスにより起こるという基本原理があります。エネルギー摂取量がエネルギー消費量を慢性的に上回ると体重は増加、逆に下回ると体重の減少につながります。そのため、いくら羊肉をたくさん食べてカルニチンをとっても、エネルギー消費量よりもエネルギー摂取量が多くなれば太ります。
さらにここで、忘れがちなことをお伝えします。それは、羊肉に含有する成分に、1g約9kcalとエネルギー量が高い脂質も含まれていること。つまり、羊肉は、とればとるほど脂質が増えてエネルギー摂取量が多くなっていきます。

重ねて、残念なことをつけ加えなければいけません。実は、カルニチンは体内で、必須アミノ酸(体内で合成できないアミノ酸)のリジンとメチオニンからも合成されているのです。つまり、必須アミノ酸が豊富な良質のたんぱく質食品(肉、魚、卵、大豆・大豆製品、牛乳・乳製品)を食事から摂取していれば、わざわざ羊肉からカルニチンをとらなくとも、体内でつくられているのです。
ちなみに、体内のほとんどのカルニチンは、骨格筋に存在しています。脂肪燃焼効果を期待するなら、必須アミノ酸が豊富な良質のたんぱく質食品をとること、そして、運動などで骨格筋量の低下を防ぐことがよさそうです。くれぐれも、羊肉に脂肪燃焼効果を期待し過ぎないでください。
■「イメトレ」が認知症予防につながる
イメージトレーニングは、脳科学や心理学の知見を元に、頭の中で想像してから実際の行動を行うメンタルトレーニングを言います。行う際のポイントは脳が類似した経験と錯覚できるようにすることです。スポーツ選手や楽器演奏者などがパフォーマンス向上のためにこのトレーニングを用いているのはよく知られています。
近年、このイメージトレーニングが認知症予防につながるかもしれないということがラットの研究でわかってきました。その話をする前に、日本ではどれぐらい認知症患者数がいるのか、現状を見ていきましょう。
厚生労働省研究班(代表者・二宮利治九州大教授)は、2022年の時点で、約443万人いる認知症の患者数が、2030年には推計523万人に上ると推計しています。
これは、高齢者の14%を占めるもので、2050年には587万人、2060年には645万人とこの先も増え続けるとしています。
また、認知症予備軍とされる軽度認知障害(MCI)の患者数も2030年に593万人、2060年には632万人と増える傾向が見られるとしています。
話は戻りますが、どのようなイメージトレーニングを行えば認知症予防につながるのでしょうか。それは、「咀嚼」です。食事時に食べ物を「よく噛んで食べる」ことが認知症予防につながるといわれているのは、どこかで聞いたことがあると思います。
■散歩しながら咀嚼をイメージするといい
脳には、運動野(動作を司る部分)と感覚野(感覚を司る部分)があり、それぞれの一部は口とつながっているため、噛むと歯の下にある血管に圧力がかかり、その結果、血液が脳に送り込まれ、脳が活性化することがわかっています。逆に、歯の本数が少ないなどで噛む刺激が弱いと、脳への血液量が減り、機能低下につながるとも考えられています。
今回のラットの研究による知見では、実際に噛む必要はなく、イメージトレーニングだけでよいというのですから興味深いですね。この研究は、東京都健康長寿医療センター研究所の研究グループが、2019年に脳循環・脳代謝の国際ジャーナルに発表したものですが、咀嚼中に血流が増えるといった脳の血液量調節には、認知機能に重要な「マイネルト神経細胞」の活性化が関与していることを初めて明らかにしました。
さらに、面白いことに、この反応に咀嚼筋の収縮は関係していないということもわかり、咀嚼筋が実際に動かなくても脳の血液量が増加したことが判明しました。
そこで、研究者らは、咀嚼をイメージするだけで本当に咀嚼した時と同じように脳が活性化されうるとし、この研究成果が、イメージトレーニングという認知症予防の新しい方法につながるのではと述べています。
以前から、リズム運動である歩行が認知機能に重要なマイネルト神経細胞を活性化させることがわかっていたのですが、今回、咀嚼、あるいは咀嚼をイメージすることでも同様のことが起きることが判明しました。
認知症予防のために、これからは、散歩をする時、好きな食べ物を咀嚼している姿をリアルにイメージしてみてはいかがでしょうか。
■食欲を抑える効果も期待できる
栄養相談にくる方から、ダイエット中は食べたい気持ちを抑制するのにとても苦労するという声を聞きます。意識的に食べ物のことを考えないようにすると、かえって食べ物のことが頭から離れなくなってしまい、結局、食べ過ぎる結果になってしまったと嘆く方が多くいらっしゃるようです。
また、実際に大好きな食べ物を見てしまったり、その香りが鼻孔に入り込んでしまったりしたら、無性に食べたくなってしまい、その気持ちを抑えることは至難の技でしょう。そんな時、無理に食べたい気持ちを抑制する必要はありません。ぜひ、やっていただきたいよい方法があります。
まず、頭の中で食べたいものを思い浮かべてください。次に、それを繰り返し噛んで味わって飲み込んでいるご自身の姿を想像してください。実際にやってみるとわかるのですが、食べたい気持ちが不思議と弱まります。
人には「馴化(じゅんか)」という、新しいものを見るとそれをほしがり、なれてくると飽きて、それほどほしくなくなってしまうという性質があります。この性質を利用し、想像の世界で前もって満足感を得て、気持ちを落ち着かせるのです。
■「脳の満足感」が関係している可能性
これを裏付ける研究報告があります。米国のカーネギーメロン大学の心理学者らが2010年に「Science」誌に発表したものです。51人の被験者を三つのグループに分けて、第1グループには、コインランドリーの洗濯機に硬貨を30枚挿入してから粒チョコを3個食べることを想像させます。
第2グループには、硬貨3枚挿入後、粒チョコ30個を食べる場面を想像させ、第3グループには硬貨を33枚挿入するだけで食べる想像はさせませんでした。そのあと、すべてのグループに粒チョコを満足いくまで食べてもらうという実験をしました。
すると、粒チョコを30個食べる想像をした第2グループは、3個食べる想像をした第1グループや想像をしなかった第3グループに比べて、実際に食べる量が少なかったことがわかりました。
この結果をふまえ、研究者の1人は、ダイエットを試みる人の多くは食欲を刺激する食べ物を考えないように努めているが、それは最善の策でない可能性があると述べています。
想像することで食欲が抑制できるのであれば、ダイエットに苦労はしないという声も聞こえてきそうですが、ダイエット中は、物理的な満腹感ではなく、脳による満足感を得ることを優先することでご自身の脳を上手くコントロールするのが得策、と言えるかもしれません。ダイエット中、食べたい気持ちに負けそうになったら、リアルに食べることを想像してみてはいかがでしょうか。

(主な参考文献)

・『八訂 早わかりインデックス 基本の食品成分表』主婦の友社

・「不調を食生活で見直すためのからだ大全」池上文雄・樫村亜希子・加藤智弘・川俣貴一・松田早苗監修(NHK出版)

・「尿路結石症診療ガイドライン第3版2023年版」日本泌尿器科学会著(医学図書出版)

・「スーパー図解 尿路結石症」坂本善郎監修(法研)

・「糖尿病食事療法のための食品交換表 第7版」日本糖尿病学会編

・ナショナルジオグラフィック「想像だけで食欲を抑制できる?」

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森 由香子(もり・ゆかこ)

管理栄養士

日本抗加齢医学会指導士。東京農業大学農学部栄養学科卒業。大妻女子大学大学院(人間文化研究科人間生活科学専攻)修士課程修了。2005年より、東京・千代田区のクリニックにて、入院・外来患者の血液検査値の改善にともなう栄養指導、食事記録の栄養分析、ダイエット指導などに従事している。また、フランス料理の三國清三シェフとともに、病院食や院内レストラン「ミクニマンスール」のメニュー開発、料理本の制作などを行う。抗加齢指導士の立場からは、“食事からのアンチエイジング”を提唱している。『おやつを食べてやせ体質に! 間食ダイエット』(文藝春秋)、『1週間「買い物リスト」ダイエット』(青春出版社)など著書多数。

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(管理栄養士 森 由香子)

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