「電動」の乗り物は快適な反面、常に危険と隣り合わせである。元警察官の秋山博康さんは「電動キックボードや電動自転車は快適な移動手段のひとつだ。
しかし近頃は自転車のような見た目の原付バイク『モペット』が若者を中心に流行しており、無免許運転や飲酒運転などの違法行為が問題となっている」という――。
※本稿は、秋山博康『元刑事が国民全員に伝えたい シン・防犯対策図鑑』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■免許不要の電動キックボードは実は危険がいっぱい
東京の街では「電動キックボード」に乗る若者をよく見かける。最近はシェアリングサービスも増え、スマホひとつで乗りたいときにサッと借りられる、便利な乗り物や。また都心だけでなく、観光地での新たな移動手段としても注目されているらしい。でもな、その便利さの反面、事故や交通違反が急増している現実もあるんや。
この電動キックボード、正式名称は「特定小型原動機付自転車」という。2023年に道路交通法が改正され、16歳以上なら免許なしで乗れるようになった。さらに、それまで義務だったヘルメットが「努力義務(=できるだけ着けてね、というお願い)」となった。
こうした法改正を背景に急速に電動キックボードの利用が広がったが、同時に摘発件数も増えた。2023年7月からの半年は約7000件だったが、翌年の同じ時期には約2万3000件と、3倍以上に跳ね上がっているのには驚きや。
電動キックボードに限らず、自動車・バイクは、「自賠責保険」に加入するのが法律で義務づけられておる(シェアリングサービスでは保険料が利用料に含まれているので、自動的に保険が付帯される)。
もちろん、ナンバープレートも必要や。電動キックボードは、原則として車道か自転車専用道を走るもんだが、なかには歩道を猛スピードで走り抜けるヤツもおる。そんなもん、万が一小さい子どもとぶつかったら、命に関わる大事故や。実際、転倒して頭を打って重傷を負った事例もある。電動キックボードに免許は不要とはいえ、信号や標識はしっかり確認して、交通ルールをきちんと学んでから乗ってほしい。
■「飲んだら乗るな」は鉄則
また、残念ながらヘルメットを着用しない人がとても多い。
警察庁のデータによれば、ヘルメットの着用率はたったの約4%だという。努力義務とはいえ、命を守るための義務と思ってほしい。ぜひ自分の身を守るためにもヘルメットは着用してほしいと思う。
特にスマホを見ながらの「ながら運転」はあかん。またイヤホンを使用しながら電動キックボードに乗るのも禁止や。
そしてワシがもっとも看過できんのが、飲酒運転や。
飲み会が終わって「終電がなくなったから、今日は電動キックボードで帰るわ~」なんて話も聞くが、これは立派な飲酒運転、犯罪や。5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されることもある。
2024年1~6月に起きた電動キックボードによる交通事故の割合は17.2% と、自転車や原付バイクよりも多いんや。飲酒運転でケガをしても、自賠責保険では治療費をまかなうことはできない。つまり、自腹や。
■16歳未満の子供は電動キックボードNG
ここで親御さんに覚えといてほしいのが、「16歳未満の子どもは電動キックボードに乗せたらあかん」ということや。
子どもに貸したり、買い与えたり、譲ったりするだけでも、懲役6カ月以下または10万円以下の罰金が科される可能性があるんや。子どもが「乗ってみたい!」と言うても、「16歳になってから!」としっかりと伝えておいてほしい。
もし電動キックボードに乗っていて交通事故に遭った場合、自ら事故を起こしてしまったら迷わず110番や。その際、もしも相手や自分がケガをしている場合は119番に通報してもらいたい。
◆電動キックボードで守るべき交通ルール

・16歳未満は運転禁止

・自賠責保険に加入する

・ナンバープレートをつける

・ヘルメットを着用しよう(努力義務)

・車道か自転車道が原則

・飲酒運転しない

・信号や標識を守る

・曲がる時はウィンカー

・二人乗りしない

・運転中は携帯電話などを使用しない

・道端などに放置しない
■知らなかった!では済まされない自転車の新ルール
自転車はもっとも身近な乗り物だが、近年、自転車による事故が深刻や。警察庁の統計では、交通事故全体のうち、2割以上が自転車に関わる事故や。

なかでも目立っとるんが、「ながらスマホ」と「自転車の飲酒運転」の事故や。そこで2024年には道路交通法が新しくなって、「ながらスマホ」と「酒気帯び運転」に関する罰則が新しく設けられた。
まず、ながらスマホ。スマホを見ながら自転車に乗るのは全面的に禁止や。操作するのがダメなのはもちろん、ホルダーに固定してても、走行中に2秒以上画面を見続けるのもアウトや。地図を確認したいときは、一旦停車するようにしてほしい。もしも違反したら、6カ月以下の懲役または10万円以下の罰金が科される場合もある。さらに交通事故を起こした場合は、1年以下の懲役または30万円以下の罰金となる可能性もある。
次に飲酒運転。「今日は飲み会だから、車は家に置いてチャリで行こう~」というのも、もはや通用せん。「酒気帯び」の状態で自転車を運転した場合も、新たに罰則の対象になった。酒気帯び運転(呼気1リットル中に0.15mg以上のアルコール)で自転車を運転したら、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される。

そしてそれだけやない。酔った人に自転車を貸した者、酒を勧めた者、同乗者までも罰則の対象になる。
■青切符制度は高校生でも対象に
2026年4月から始まる「青切符制度」についても押さえておいてほしい。
これまで自転車の違反というと、警察が「警告」を出すだけで終わることが多かった。たとえ赤切符(刑事処分)で検察に送致されても、起訴されることは稀だった。しかし、それでは抑止力にならんということで、自転車の交通違反に反則金を科す仕組みが必要とされたわけや。それがこの青切符制度の背景や。
青切符制度の対象となるのは16歳以上。信号無視や一時不停止、ながらスマホ運転など113種類の違反を対象としている。
つまり高校生でも自転車に乗る以上は「運転者」として責任を問われるようになるんや。これはぜひ親御さんからも伝えておいてほしいポイントや。
■モペットは原付バイク
若者を中心に広まっている「モペット」についても触れておきたい。
モペットは見た目は電動アシスト自転車(電動自転車)とそっくりだが、法律上は「原付バイク」や。運転免許証、ヘルメットの着用、ナンバープレートの装着、自賠責保険の加入が必要になる。
都心では、ものすごい勢いで人混みの中をノーヘルで走る「暴走モペット」が問題になっている。そんな乗り方をしていたら、もちろん道路交通法違反。無免許のモペットが横断中の高齢者をはねて、大ケガさせた事故も起こっている。もちろん飲酒運転は完全な違法行為。「飲んだら乗るな」はモペットでも同じことや。
ちなみに、電動アシスト自転車(電動自転車)は道路交通法でアシスト力が制限されておる。時速24kmを超えるとアシストが切れる仕様になっておるんや。しかし、インターネット上では、道交法の基準に適していない違法アシスト自転車が販売されていたり、電動アシスト自転車と勘違いしてモペットを購入してしまったという例も頻発しておる。
購入する際、きちんと見分けるには、「型式認定TS マーク」が貼られているかを確認するのが一番や。このマークがあれば、道交法の規定に適合しているという証拠や。
ぜひ親御さんも一緒にチェックしてな。
◆青切符の対象となる主な違反と反則金

・携帯電話の運転中使用(ながらスマホ)1万2000円

・信号無視

・通行区分違反(逆走、歩道通行など)6000円

・指定場所一時不停止

・ブレーキのない自転車での走行5000円

・傘差し運転、イヤホン装着

・並走や二人乗り運転3000円
■「自転車でひき逃げ」は逮捕されることもある
自転車は法定速度が決まっていないが、道路交通法では「軽車両」として扱われている。つまり「車の仲間」や。そのため最高速度を示す道路標識があれば、それに従わなければいかんし、事故を起こした場合は、車と同じような義務が課される。
たとえば自転車で「ひき逃げ」をした場合。これは逮捕される可能性がある。「えっ? 自転車なのに逮捕⁉」と思うかもしれんが、過去にはこんな事件もあった。自転車に乗っていた会社員の男が、歩行中の80代の女性をはねて、そのまま逃げてしまった。女性は肋骨を折る重傷。
後日、男は「緊急措置義務違反」(道路交通法第72条1項前段)の容疑で逮捕された。一度逃げると「逃亡・証拠隠滅の恐れあり」と判断され、逮捕されるリスクが高まるんや。
さらに被害者がケガをしたら、業務上過失傷害罪(刑法第211条)。当たりどころが悪くて亡くなってしまったら業務上過失致死罪(同条)が成立する。いずれも法定刑は、「5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金」とかなり重い。事故が起こったら、とにかくまずは110番や。警察に現場に来てもらって、調書を取って届け出してもらうことが大事や。相手や自分にケガがあれば、119番に通報や。
■「子供なら過失割合が低くなる」わけではない
自転車と車の事故の場合、一般的に車の過失割合が高くなると思われがちだが必ずしもそうとは限らない。
たとえば赤信号で停止中のベンツに、自転車で勢いよく後ろから突っ込んでしまったら……。これは完全に自転車側の100%過失になるんや。ただしこの場合、器物損壊罪にはならない。器物損壊が成立するには、「わざと壊そうとした」という故意が必要なので、うっかり突っ込んだだけでは当てはまらんのや。
しかし、壊した車は当然、修理せなあかん。そのため自転車側には、高額な損害賠償を命じられる可能性がある。ベンツのバンパーなんて、一箇所凹んだだけでも数十万円。もし自転車保険に入ってなければ、その費用を全部自分で払わなあかん。考えるだけでゾッとする話やな……。
過去には、10歳の子どもが信号無視をして交差点に進入し、ほぼ停止状態の車とぶつかった事件もあった。このケースでは、信号無視をした自転車の責任が100パーセントとなり、裁判所は損害賠償を命じた。「子どもなら少しは過失割合が低くなるだろう」という考えは通用しなかったんやな。これも「自転車事故の厳罰化」という流れの表れかもしれん。14歳未満は刑事責任は問われないが、おそらくこの場合、車の修理費用は親の全額負担や。なんとも痛い出費や。
■改めて自転車のルールを確認しておきたい
自転車は免許が要らない分、マナーや交通ルールの教育が重要になってくる。最近は、イヤホンをしてスマホを見ながら自転車乗っとる子も多い。
また中高生は、部活や塾で帰りが遅くなることも多い。夜間はライトをつけんと道が見えにくいし、歩行者や車からもよう見えん。保護者としても「自転車のライト、ちゃんとつけてる?」と声がけすることが大切や。
また、万が一に備えて自転車保険に加入することも考えてみてほしい。ぜひご家庭でも「自転車安全利用の五原則」を確認して、楽しく自転車に乗ってほしい。
■飲酒運転は同乗者も罰せられる
交通事故をなくすことは警察官の大事な任務や、そしてその闘いの歴史は長い。
高度経済成長期、自動車が急激に社会に広まり、人々の日常生活に欠かせないものになった。それにつれて交通事故が急増、1970年には年間の交通事故の死者数が史上最多の1万6000人超を記録した。その数はなんと日清戦争の死者数に匹敵するほど。そのためこれはある種の戦争状態として「交通戦争」と呼ばれるようになった。こういった状況を背景に「道路交通法」ができたんや。
警察は、白バイやパトカーの増強、信号機や横断歩道の整備、交通安全運動の全国展開など、インフラ整備と取り締まりの両面から事故抑止に取り組んだ。その結果、交通事故の死者数は徐々に減少していったが、飲酒運転はいまだ根強く残り、重大事故の原因となっているんや。
■飲酒運転の定義
飲酒運転は①酒気帯び運転、②酒酔い運転の2つが定義されている。どちらもアルコールを飲んだ状態で運転していることに変わりはないが、酔いの程度と罰の重さが異なる。
現在は、呼気1リットルあたりのアルコール濃度が0.15mg以上だと酒気帯び運転の対象となる。一方「酒酔い」は、酔いがひどくて、正常な運転ができない状態。これは呼気や体内のアルコール濃度ではなく、「まっすぐ歩けるかどうか」「ろれつがまわっているかどうか」などで判断される。「この状態じゃ、まともに運転できないやろ!」と判断されたら即アウトっちゅうわけや。
■飲酒運転による交通事故を減らすために
飲酒運転による交通事故は、幾度となく大きな社会問題になってきた。1999年には、東名高速で乗用車が飲酒運転のトラックに追突されて炎上し、ふたりのちいさな命が失われてしまった事故があった。
その加害者はいわば「飲酒運転の常習犯」で、悪質極まりない飲酒ドライバーやった。それでも当時は「業務上過失致死傷罪」という法律でしか裁かれんかった。過失とは簡単にいえば「うっかり」、つまり飲酒運転も「うっかり事故」という位置づけやった。この加害者に一審で下ったのはわずか懲役4年の判決だった。そのため、遺族や世間から「これはおかしいやろ!」という声が噴出したんや。
そんな民意を受けて2001年に新しくできたのが「危険運転致死傷罪」、法定刑は1年以上20年以下の懲役(死亡のとき)または15年以下の懲役(負傷のとき)とかなり重くなった。さらに2013年には「自動車運転処罰法(正式名称:自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)」いう新しい法律ができて、危険運転致死傷罪が刑法からこの特別法に移るなど、その後も何度も時代の要請を受けて、法改正が重ねられてきた。
つまり国も警察も「飲酒運転は絶対に許さん」いう姿勢を強化して、より適切に処罰できるように励んできたということや。
■逃げるは損で、役に立たない
昔から、ひき逃げや当て逃げの原因が飲酒運転であることは少なくない。
ワシが現職の頃もこんなことがあった。交番の巡査が職務質問をしたところ、慌てて車が急発進。その巡査はなんと100メートルも車に引きずられてしまった。下手したら命を落とす危険な行為や。事件の一報を受け、ワシは現場へ直行。すでに車のナンバーはワレて(判明して)いたので、被疑者(犯人)を特定し、殺人未遂罪と公務執行妨害罪で緊急逮捕した。
たとえ飲酒運転をしていたとしても、逃げずにその場で「すんません!!」と認めれば、初犯なら在宅のまま(逮捕されずに)刑事手続きが進むことも多い。
しかし逃げるとかえって罪が重くなる。その被疑者は酔いが覚め、狭い留置所の片隅で膝を抱えて泣いておった。飲酒運転で「逃げ得」はない。“逃げるは損で、役に立たない”んやな。

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秋山 博康(あきやま・ひろやす)

通称「リーゼント刑事」。元・徳島県警捜査第一課警部

1979年徳島県警拝命。1984年、23歳で刑事になると、殺人など凶悪犯罪の最前線の捜査第一課と所轄刑事課を中心に31年間刑事として捜査を担当。「おい、小池!」で有名な殺人指名手配事件に長らく携わった。警察人生42年、2021年3月に定年退職し、現在は犯罪コメンテーターとしてメディア出演やYouTube配信、講演会活動を精力的に行っている。

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(通称「リーゼント刑事」。元・徳島県警捜査第一課警部 秋山 博康)
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