※本稿は、秋山博康『元刑事が国民全員に伝えたい シン・防犯対策図鑑』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■煽り運転に遭遇しても、やってはいけない行動
昔から「車のハンドルを握ると性格が変わる」という言葉がある。
普段は温厚な人が、前方車が少し遅いだけで悪態をついたり、舌打ちをしたり。文句言うだけならいいが、後ろに張り付く、クラクションを鳴らす、何度もパッシングをする……それはもう完全に「煽り運転」といえるんや。
2017年にあった東名高速道路の事故を覚えとるだろうか? 煽り運転の末に家族4人が死傷した悲しい事故や。これをきっかけに2020年に道路交通法が改正され、「妨害運転罪」という新しい罰則ができた。
つまり、煽り運転を直接取り締まれるようになったんや。
妨害運転罪では、違反が確認されたら、一発で免許取り消し(欠格期間2年)や。さらに「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科せられ、違反点数25点も加点される。
高速道路上で無理に相手の車を停めさせるといった「著しい危険」を生じさせた場合、「5年以下の懲役または100万円以下の罰金」と違反点数35点の加点、3年以上の運転免許の取り消しとなる。
■煽り運転をされたら…
さらに人を死傷させた場合には、危険運転致死傷罪(妨害目的運転)等に当たる可能性もある。そうなると、さらに厳しい罰に処せられるわけや。
万が一、運悪く煽り運転をされたときは、以下のポイントを心がけてほしい。
①自分の命を守ることが最優先
煽られたからといってブレーキを踏み返したり、クラクションを鳴らしたり、無理な運転をしない。
②安全な場所へ避難する
コンビニやサービスエリア、パーキングエリアなど人目がある場所に移動する。道路上で停まるのは危険や。
③すべてのドアをロックする
相手が怒鳴ってきてもドアを開けたらアカン。相手は虚勢張ってるだけや。煽り運転をするヤツの中には、逮捕されたら留置所でシュン……となるヤツも多い。そんなヤツには、まずはこちらが冷静にならなあかん。
④すぐに110番通報を
通信指令課でおおよその位置は把握している。落ち着いて車のナンバーや特徴、状況を伝えてほしい。
⑤ドライブレコーダーなどで相手の行為を撮影する
ドライブレコーダーがなければ、同乗者にスマホで動画を撮ってもらう。ドアを蹴られたりミラーを壊されたら、器物損壊罪で現行犯逮捕も可能や。
■煽られないためのポイント
ときに知らないうちに相手の怒りを買ってしまう場合もある。「煽られない」ためにはこんなことを心がけておくのも大事やな。
●十分な車間距離を取る
●「お先にどうぞ」の気持ちで道を譲る
●無理な車線変更をしない
●急発進、急停車をしない
煽られたら腹が立つが、そこでやり返しては相手と同じレベルになってしまう。冷静で思いやりのある運転こそが、ほんまの意味で粋なドライバーやとワシは思う。
◆煽り運転にあたる主な行為
・車間距離を極端につめる
・急に進路を変更する
・急ブレーキをかける
・危険な追い越し
■スケボー目的で広場に行ったら書類送検
道路にチョークで絵を描いたり、ボール投げをしたり。昭和の時代には子どもが道で遊ぶのは「日常の風景」だった。
だが、交通量が増えた今では「道路で遊ばない」が基本ルールや。ここでは、そんな「子どもの遊びと交通ルール」についてあらためて確認していきたい。
たとえば、若者に人気のスケートボード。先のパリ五輪でも日本人選手がメダルを獲得して大いに盛り上がった。最近では公設のスケートパークも整備されているというが、滑れる場所がまだまだ足りんのが現実や。それでつい、住宅街や車の通る道路、駅前広場で滑ってしまうんやな。
けれど、道路交通法では「交通のひんぱんな道路」でスケボーやローラースケート、キックボードで遊ぶのは禁止されている。違反したら5万円以下の罰金が科されることもある。さらに、スケートボードで壁やベンチを傷つけたら器物損壊罪にあたる可能性も。
また、一部の自治体は、条例でスケボー禁止エリアを設けている。過去には駅前広場にスケートボード目的で立ち入った若者が、軽犯罪法違反で書類送検された事例もあるんや。
■線路内への立ち入りは犯罪
次は線路の話や。昔から子どもが面白半分で線路に立ち入ったり、石を置いたりすることが後を絶たない。
最近は鉄道ファンや観光客、大人までも「映え」写真を撮ろうと線路内に立ち入ることがあるが、これはほんまに危険な行為や。
線路に入るだけで鉄道営業法違反(罰則は1万円未満の科料)や。もしダイヤを乱したり電車を止めたりしたら、威力業務妨害罪(懲役3年以下または50万円以下の罰金)が適用される可能性もある。
タレントたちが線路内に立ち入り写真撮影をしたことで、鉄道営業法違反の疑いで書類送検された事例もある。
悪意はないとはいえ、「映え」の代償は重くなるわけや。
■ドローンには多くの法律が関わる
3つめは「令和ならでは」の空の話や。
最近、「子どもからクリスマスプレゼントにドローンをおねだりされて……」という親御さんの話をよく耳にする。最近では、小学生向けの「ドローン教室」も活況らしいな。
しかし、ドローンには航空法、電波法、小型無人機等飛行禁止法などたくさんの法律が関わってくる。特に2015年の首相官邸へのドローン落下事件以降、法整備が一気に進んだ。たとえば、100g以上の機体は「無人航空機」といって国土交通省に登録が必要だし、「技適マーク」のないドローンを使ったら、電波法違反になる。
また、飛ばせる場所も厳しく決まっていて、公園や観光地は条例で禁止されていることが多い。うっかり他人の家を撮ったらプライバシー侵害にもなるし、落ちて人にケガさせたら親に損害賠償が発生する。まずは「どこで飛ばしたら大丈夫か」、事前に確認することや。子どもへのプレゼントなら、100g未満の「トイドローン」や「室内専用ドローン」が安心だろう。
今は、親世代が子どもの頃にはなかった遊具がたくさんある。そのため親がルールを把握しきれん場合もあるだろう。しかし、ただ「ダメ!」と禁止するだけでなく、「どうすれば安全に楽しく遊べるか」を一緒に考えるのが、これからの時代の親子のコミュニケーションかもしれんな。
■家族で考えたい高齢ドライバーの免許返納
「警察官になりたい」という一心で、10歳で空手道場の門を叩いてから、はや半世紀。
学生時代は少林寺拳法や柔道で汗を流し、警察官になってからも日々鍛錬を積んできた。今も体を動かしているワシも、60歳を過ぎて「年取ったなあ」とため息をつくことがある。
誰しも「老い」には逆らえない。そして、加齢は運転にも関わってくる。
視野が狭くなったり、「いざ」というときの反応が鈍くなったり、体のキレが悪くなったりするんやな。
警視庁のデータでは、交通事故全体の死傷者数は減少しているものの、75歳以上の高齢ドライバーによる死亡事故が増加傾向にある。その内訳を見ると、ガードレールへの衝突などの「単独事故」が半数近くを占めている。高齢ドライバーによるアクセルとブレーキの踏み間違いや高速道路での逆走も少なくない。
2019年、東京都・池袋で当時87歳の男性が運転する車が暴走し、親子2人が亡くなった事故は、全国に衝撃を与えた。運転していた男性は自動車運転処罰法違反で起訴され、禁錮5年の実刑判決。その男性はその後、服役中に亡くなってしまったが、人生の最期を刑務所で迎えるのは、本人も無念だったと思う。
■高齢ドライバー自身の「納得感」が大切
高齢ドライバーによる交通事故のニュースを見聞きするたび、「うちの親もいつか大事故を起こさないだろうか……」と心配になる人も多いだろう。しかし、都心と違い、地方では車がなければ病院にもスーパーにも行けん、それも現実や。生活のために車を手放すことができない人も大勢おるんやな。
そんな高齢の親御さんに対して、「もう危ないから、運転やめて!」と一方的に免許返納を迫るのは酷なもんや。言われた当人はプライドも傷つくし、「なんやと⁉」と意固地になって、家族関係にもヒビが入りかねない。そもそも免許は資格。警察でさえ強制的に返納させることはできんのや。
免許返納を考える上で大切なのは、高齢ドライバー自身の納得感や。そのためには家族で冷静に話し合うことが大事や。「そういえば70歳前後から免許返納する人が増えているらしいよ」「今後の移動手段、一緒に考えたいんだけど」と寄り添う姿勢を示すことも重要や。
■「運転経歴証明書」には意外な特典が
ちなみに「運転経歴証明書」をご存じだろうか。これは免許返納後5年以内に申請できるもので、公的な身分証明書として使える。しかも、バスやタクシーの運賃割引、スーパーの配送料無料、シルバーカー購入補助など、自治体によってはさまざまな特典が受けられる。ひょっとしたら「それなら」と前向きに考えるきっかけになるかもしれん。
国も対策を進めている。70歳以上の高齢者には、免許更新時に「高齢者講習」を義務づけられているし、高齢者の運転に不安を感じた人やその家族は、全国共通の相談ダイヤル「#8080」にかければ、地元の警察署につながって無料で相談できるんや。
交通事故は「自分だけは大丈夫」「これくらいなら平気」といった過信で起こる。高齢ドライバーに限らず、その過信が命取りになることもあるんや。さらに一瞬の判断ミスが大きな後悔を招く。
ワシは刑事を引退したが、命の重さはよく分かっとるつもりや。もし、身近に運転が心配な高齢者がおったら、どうか命を守るためにも、ご家庭で真剣に話し合ってほしい。それが、ほんまの「思いやり」やと思うんや。
◆こんなことが増えたら、今後の運転について考えるサインかも?
・左右のウインカーを間違って出したり、ウインカーを出し忘れたりする
・歩行者や障害物、他の車に注意が向かないことがある
・カーブをスムーズに曲がれないことがある
・車庫入れのとき、塀や壁をこすることが増えた
・信号や標識を無視して通行することがある
・右左折時に、歩行者や対向車などをよく見落とすようになった
など
このようなとき、同乗者は「危なかったよ」とシニアドライバーが危険を自覚できるような声かけをしてほしい。
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秋山 博康(あきやま・ひろやす)
通称「リーゼント刑事」。元・徳島県警捜査第一課警部
1979年徳島県警拝命。1984年、23歳で刑事になると、殺人など凶悪犯罪の最前線の捜査第一課と所轄刑事課を中心に31年間刑事として捜査を担当。「おい、小池!」で有名な殺人指名手配事件に長らく携わった。警察人生42年、2021年3月に定年退職し、現在は犯罪コメンテーターとしてメディア出演やYouTube配信、講演会活動を精力的に行っている。
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(通称「リーゼント刑事」。元・徳島県警捜査第一課警部 秋山 博康)