タレントの渡辺満里奈さんは現在、高3の息子と中3の娘を育てている。フェミニズムについて積極的に発信する作家のアルテイシアさんと渡辺さんが、性教育やルッキズム、エイジズムについて語り合った――。
(第1回/全2回)
※本稿は、アルテイシア『だったら、あなたもフェミニストじゃない?』(講談社)の一部を再編集したものです。
■長男は3歳から自分でパンツを洗っている
【アルテイシア(以下、アル)】性教育はどうされてますか?
【渡辺満里奈(以下、渡辺)】長男が生まれた時、加害者にも被害者にもしたくないと強く思って、小さい頃から話そうと決めてました。まずは3歳くらいから自分の下着は自分で洗うように教えました。
【アル】おお~すごい! 3歳でも自分のパンツ洗えるんだから、おじさんも洗うべきですよ。
【渡辺】成長してから「パンツを汚してもママが洗ってくれる」と思われるのがイヤだったので、自分で洗うことを当たり前にしたかったんです。あと生理の時一緒にお風呂に入るようにして「生理というものがあってね」と説明したり、LGBTQ+の話もしました。
【アル】めっちゃおうち性教育してますね! 学校にジェンダーの授業に行くと、危機感を覚えるんです。女子学生から「セックスを断ると『俺のこと好きじゃないの?』と彼氏に責められる」といった悩みを聞く一方、男子校に行くと「性的同意ってなんですか?」と聞かれる。性的同意について、お子さんも教える必要が出てくるお年頃ですよね。
■「イヤだと言われたらイヤ」早いうちから話してきた
【渡辺】私は小学校高学年くらいから話すようにしてました。親の知らないところで性的なことに興味を持ち始めるから、正しい知識を伝えなきゃいけないなって。たとえば「アダルトビデオは現実とは違うよ」「イヤだと言われたらイヤなんだよ」「いいじゃんって迫るのはナシだからね」とか話してます。

あと「あなたが嫌がることをする人はあなたのことを大切に思ってない。そういう人に好きだと言われても、自分が好きだと思っても、よく考えてね」とか。
大きくなると親からも言いにくいし子どもも嫌がるので、なるべく早いうちから言うようにしてました。
【アル】女友達が中学生の息子の部屋からコンドームを発見してしまい、尋問してしまいそうだと悩んでいたので、シオリーヌちゃんの『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』(イースト・プレス)を紹介しました。この本は性教育動画のQRコードも載っていておすすめです。今は子どもの年齢に合わせた色んなコンテンツがありますよね。
【渡辺】とはいえ親がいくら伝えても、子どもが失敗してしまうことはあると思うんです。せめて抑止力になればと思って、言い続けなければという気持ちですね。
【アル】自分も失敗だらけの人生だったので膝パーカッションです。
■みんな同意を取りながら暮らしている
【アル】性教育の授業では「みんな普段から同意を取ってるよね」という話をします。たとえば友達と遊園地に行ったら「ジェットコースター乗る?」って同意を取るし、「前回は乗ったのになんで今日は乗らないんだ」「お化け屋敷はOKならジェットコースターもOKだろう」とか言わないよねって。直前に「怖いからやっぱやめとく」と言う人を無理やり乗せたりもしないよねって。

性的なことだけが特別なわけじゃなく、みんな色々な場面で同意を取って暮らしてるんですよ。
と説明しながら「どの口が言う」って思うんですけど(笑)。私自身はイエス・ミーンズ・イエスなんて教育は一切受けておらず、流されるがままにセックスしてきたので。北欧の授業では「セックスで相手がイヤなことを求めてきたらどう伝えればいいか」とか、生徒同士でディベートするそうですよ。
【渡辺】学校で正しい性教育を受けるのは子どもの権利ですよね。日本も「寝た子を起こすな」と避けずにちゃんと取り組んでほしいです。「同意」って自分も相手も大切にして尊重することだと思うんですよ。
■親が子どものNOを無視しない
【アル】日本人はNOと言うのが苦手な人が多いじゃないですか。子どもの頃にNOと言っても聞いてもらえないと言えなくなるので、大人が子どもの意見を尊重することが大切。親が子どものNOを無視して「家族だから」「あなたのためを思って」とバウンダリー(境界線)を踏み越えるのはほんと良くない。
【渡辺】娘がペットボトルを共有するのを嫌がるんですけど、息子や夫は「いいじゃん、家族なんだから」という感じで。だから「ちょっと待って。
イヤなものはイヤなんだから尊重してあげようよ。あなたのことがイヤという意味ではなく、同じペットボトルに口をつけて飲むことが嫌なだけだから」と話したことがあります。
【アル】すばらしい……満里奈さんの家に生まれたい人生でした。
スウェーデンに住む友人いわく、あちらでは小学校から子どもの権利を教えるので、娘さんに「子どもの権利は?」と聞くと「子どもを叩いてはいけない、子どもを働かせてはいけない……」とスラスラ答えるそうです。保育園の先生も「親の言うことを聞きましょう」じゃなくて「親が間違ったことをしたら先生に言いましょう」と教えるらしくて。もし子どもが「ママにぺしって叩かれた」とか話すと、先生には通報義務があるので警察沙汰になる。だから親も大変だけど、そうやってみんなで子どもを守ってるんだって言ってました。
子どもは生まれる家を選べないから社会が育てる、社会全体で子どもを守るという意識が徹底してるんですよね。
■信じて任せることの難しさ
【アル】びっくりしたんだけど、スウェーデンには受験がないそうです。「子どもは遊ぶ権利がある」って考え方だから、塾なんか行かせると「なんちゅう教育ママや」とドン引きされるって聞きました。子どもを比べたらダメだから成績を貼り出したりもしないし、そもそも学歴社会じゃないから学校の優劣やランクがあんまりないらしくて。おまけに保育園から大学・大学院まで学費がタダなんて、天竺のように遠い世界ですよね。

【渡辺】小さい頃から受験があって勉強に追われてると、子どもが劣等感を持ってしまったり、自己肯定感が低くなってしまうんじゃないでしょうか。
【アル】実際、いろんな調査を見ても日本の子どもは自己肯定感や自己効力感が低いんですよね。私も中学受験のために毎日塾に通わされて、友達と遊ぶことも禁止されて、死にたいって思ってました。あれは教育虐待だったなと大人になって気づきました。
【渡辺】つらいですね……。思春期に入って子育ての難しさを実感してます。子どもの意思を尊重したいけど、娘が勉強しないと正直不安になります。それで強い言い方をすると、娘の自尊心が削られていくのもわかるんです。「これくらいは勉強できてほしい」という気持ちを手放さなきゃいけないなと思って、日々修行ですね。
【アル】「若い人と社会活動をするうえで気をつけてることはありますか?」と聞かれると「信じて任せること」って答えるんですよ。信じて任せて、あれこれ細かく口出ししないことって。
でも自分の子どもだったらできないよな、めっちゃ口出ししたくなるよなって思います。

【渡辺】信じて任せる、それがほんと難しいんですよね。私はお兄ちゃんと比べるような言い方はしたことないんですけど、娘に「頭が悪いから私のこと好きじゃないんでしょ」って言われたこともありました。なので息子を褒めたら、娘のことも褒めるようにしてます。でも家庭の外でも自尊心を削られるようなことはあるだろうし、ほんと難しい……。
■大人も子どももしんどい社会
【アル】難しいですよね……。日本は子どもの精神的幸福度が先進国ワースト2位で、子どもの自殺が2022年に過去最多だったそうです。格差社会の競争社会で「勝者になれ」とプレッシャーをかけられて、失敗すると「自己責任だ、努力不足だ」と叩かれる。そんな大人もしんどい社会で子どもは希望を持てませんよ。
【渡辺】大人の息苦しさを子どもたちも感じ取って「レールから外れたらダメ」「お金を稼がないと負け組」「社会は変えられないから自己責任で努力するべき」といった、新自由主義的な価値観を醸成しているのを感じます。
【アル】灘校の片田孫朝日先生から聞いた話ですが、リアル赤ちゃんに接する「赤ちゃん先生」という授業をした時、生徒から「赤ちゃんは何もしていなくても、みんなから愛されるからいいな」という感想が出たそうです。能力主義がしんどいのかなって切なくなりました。
■否定的なこと、見た目のことは言わない
【アル】満里奈さんが子育てで特に大切にしてることは何ですか?
【渡辺】否定的なことは言わない、これは赤ちゃんの頃から気をつけてます。
子どもには個人差があって成長のスピードも違うので、比べるようなことも言いません。あとはとにかく「あなたは生きてるだけで十分だから」と伝えたいなと思ってます。
【アル】私もそんなふうに育てられたい人生でした……。
【渡辺】できてないこともたくさんありますよー(笑)。
【アル】ご自身は15歳から芸能界に入られてますが、ルッキズムに削られる経験とかありましたか?
【渡辺】そりゃいっぱいありましたよ。顔がでかいとか脚が太いとか散々言われて、自己肯定感が下がる経験もしたので、子どもには見た目のことは絶対言わないようにしてます。
ただ、私は事務所の人に痩せるように言われたことが一度もないんですよ。私が「痩せた方がいいかな」と言うと「あなたはそのままでいいんじゃないの」と言ってくれて、私がやりたいことや好きな仕事をできるように応援もしてくれて。そういう経験があるから、自分も子どもの意思を尊重したいと思えるのかもしれません。
【アル】なんちゅうまともな事務所や。逆に事務所からダイエットを強制されて摂食障害になったなんて話も聞くじゃないですか。周りの大人が子どもを守らんかいって怒りを覚えます。
■女性は男性のために存在してるわけじゃない
【アル】満里奈さんは更年期のことも発信されてますよね。女性は特に「アンチエイジング」「いつまでも若く美しく」的な圧が強いけど、私は普通に老けたいって思うんですよ。最近は写真を修整せずに載せてほしいと言うタレントさんも出てきてるし、ルッキズムやエイジズムが滅ぶことを願ってます。
【渡辺】私も自然に年を重ねている方は素敵だと思います。私自身、若い頃から男性目線にさらされて「綺麗でいなきゃいけない」と気にする自分と、自分のために綺麗でいたい自分がいます。
「劣化」とか言われると普通に傷つくんですけど、お前に言われたくないって気持ちもあります。好きな服を着て好きなメイクや髪型をして、周りを気にせずもっと自由に年を重ねていきたいですね。
【アル】若い頃、好きなメイクやネイルをしてると「それってモテないよ」と言うてくる男が大量にいて「おまえのためじゃない」というロゴ入りTシャツを作りたかったです。
年をとっても言われますよね。ヨーロッパとか行くと短パンにタンクトップのおばあさんが普通に歩いていて羨ましい。日本だと「ババアのくせに露出して」って目で見られるじゃないですか、ただ暑いから薄着してるだけなのに。
【渡辺】女性は男性のために存在してるわけじゃないのに。
■アイドルだって閉経する
【アル】その言葉もTシャツにしたいわ。公園で太極拳をするおばあさんたちも「ジジイに綺麗って思われたい」じゃなく「健康で長生きしたい」と思ってやってるんじゃないですか。
前に「穴需要のないババア」というクソリプがきたんだけど、そんな需要いらねえわ、むしろ年取って無駄に男が寄ってこなくなって快適だわって話ですよ。
【渡辺】閉経することを「生理が上がる」って言いますよね。すごろくのゴールみたいに女としての人生が終わるようなニュアンスでモヤっとしました。
更年期のことも「そんなこと言っちゃっていいんですか?」と言われるんだけど、症状の差はあれみんないつかは来るものだから。元アイドルだって閉経するので、もっとオープンに楽しく話したいです。
■自分のためにがんばるのが心地いい
【アル】『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』(幻冬舎)で子宮摘出のコラムを書いたら、女性からの反響がすごかったんです。私は生理から解放されて幸福度が爆上がりしたけど、「子宮を取ったら女じゃなくなる」みたいな呪いに悩む人も多いんですよ。それもあって、手術してもセックスできるし子宮をとってもビシャビシャ! と実体験を書きました。
【渡辺】性に関する話はタブーとされてきたので、情報がなさすぎますよね。かつては隠すことが美徳とされたけど、今はみんなが求めるものが変化してる感覚があります。自分の身体をどうメンテナンスしていくか、という視点になってますよね。
【アル】私もブラジャーがきついから痩せようとか、股関節が外れないようにストレッチしようとか、全部自分のためにやってます。
【渡辺】私がトレーニングするのも痩せることが目的じゃなく、一生自分の足で歩きたいから。自分のためにがんばるのが今は心地いいですね。
【アル】私も一生自分の足で歩きたいし、一生自分の歯で食べたい。「顔が綺麗」よりも「歯周ポケットが綺麗」って言われる方がテンションが上がるお年頃です(笑)。

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アルテイシア(あるていしあ)

作家

神戸生まれ。ジェンダー、フェミニズム、性教育、性暴力、毒親などをテーマに執筆、講演や授業も多数行う。頌栄短期大学非常勤講師。全国各地でジェンダーしゃべり場に出演。著書に、『だったら、あなたもフェミニストじゃない?』『ヘルジャパンを女が自由に楽しく生き延びる方法』『生きづらくて死にそうだったから、いろいろやってみました』『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか⁉』『自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ』『モヤる言葉、ヤバイ人から心を守る言葉の護身術』『フェミニズムに出会って長生きしたくなった』『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』他多数。

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渡辺 満里奈(わたなべ・まりな)

タレント

1970年11月18日生まれ。東京都出身。1986年、テレビ番組の「夕やけニャンニャン」から誕生したアイドルグループ「おニャン子クラブ」にて芸能活動を開始。解散後は清潔感あふれる明るいキャラクターを活かしてテレビ・CM・雑誌などで活躍。2005年、お笑いトリオ「ネプチューン」の名倉潤氏と結婚。2007年・長男出産、2010年・長女を出産し現在は2児の母。

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(作家 アルテイシア、タレント 渡辺 満里奈)
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