「S&P500」などのインデックスファンドの積み立ては何歳までなら始めていいのか。「Financial Free College」代表の山口貴大(ライオン兄さん)さんは「インデックスファンドは積み立て期間が短いほどリターンがマイナスになるリスクが高くなる。
定年までの残り年数を考慮して始めるべきだ」という――。
※本稿は、山口貴大(ライオン兄さん)『【S&P500・オルカン完全攻略】月10万円を永久にもらえる「配当マシン」の作り方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■金融商品の「連動性」
金融商品にはさまざまな種類があります。株の値動きとの連動性もそれぞれ異なります。
この連動性のことを「相関係数」といいます。相関係数は、ある金融商品(この場合は株)の値動きをプラス1とした時に、どれくらい影響を受けるかをマイナス1からプラス1の間で数値化したものです。
株がプラス1の時に、別の商品もプラス1になる場合、この商品は完全に株と連動しています。これを正の相関といいます。
株がプラス1で、ある商品の相関性がゼロなら、その商品は株の値動きの影響を受けないと判断できます。これを無相関といいます。
株がプラス1の時、ある商品の値動きがマイナス1なら、この商品は株と真逆の動きをするものと判断できます。これを負の相関といいます。

■相関を受けない「守りの投資」も必要
相関の強さは、0~0.3未満ならほぼ無相関、0.3~0.5未満なら弱い相関、0.5~0.7未満なら相関関係がある、0.7~0.9未満は強い相関、0.9以上は非常に強い相関と判断します。
S&P500を基準とすると、例えば、同じ株の値動きに連動する世界株式との相関は0.9以上で、非常に強い相関関係があります。
一方、先進国や日本の債券は株の値動きとほとんど相関性がありません。そのため、S&P500が下がっても影響は受けにくいといえます。
マックスで値上がり益を狙うより、値上がり益を狙いつつも価格変動の影響は抑えたい……そんな「守りの投資」では、このような関係性を踏まえ、株の影響を受けない商品や、株が下がった時に逆に値上がりが期待できる金融商品の比率を増やしていくことが大事なのです。
■「守りの投資」を意識すべき年齢
では、「守り」を意識すべきはいつぐらいの年齢からでしょうか。
S&P500や全世界株式に限らず、あらゆる金融商品は値動きします。保有期間が短期になるほどリターンのバラツキが大きくなり、保有期間が長くなるほどリターンが安定していきます。
S&P500の過去の実績では、1年保有した時のリターンは、上がった場合は最大約60.7%の利益が得られ、下がった場合は最大で約48.7%の損失が発生するというデータがあります。
1000万円をS&P500に1年間投資した場合、最もリターンが高かった時は1600万円まで増え、最も減った時は520万円になるということです。
しかし、保有期間が5年になると、利益は最大で年29.2%に落ち着き、損失も最大で年マイナス8.6%に減ります。
10年保有した場合はさらに利益と損失の大きさが収束し、15年以上保有した場合はマイナスになるケースがありませんでした。

つまり投資を始めた1年目に暴落によって資産が4割減るようなダメージを受けたとしても、そのまま保有し続ければ15年後には元本が回復するということです。
これを踏まえると、引退する年齢から逆算して15年前となる年齢が、攻めから守りに変えていくタイミングといえます。
65歳で引退するなら、50歳まではS&P500や全世界株式をコアとする攻めの投資、51歳からは株と相関性が低い金融商品や、負の相関の金融商品を増やし、ポートフォリオを分散投資していくということが大事です。
■50代からの資産運用でも遅すぎることはない
ただし、本記事をお読みの方には50代から資産運用をスタートする方もいらっしゃると思います。
その場合でもつみたて期間が15年確保されているのであれば、インデックスファンド中心でもいいかと思います。リスク許容度(「どれだけ資産が上下しても、心が折れずに投資を続けられるか」という耐性度)に応じて、株式80%・債券+金で20%などのリスク先行型の運用や、株式50%・債券+金50%の安定運用もいいでしょう。
とはいえ、50歳を境にして、暴落リスクの耐性とは低下していくのが普通でしょう。リタイア間近やすでにリタイアした方は、期待リターンを落としてでも株式だけでなく広く分散しておく必要が賢明といえましょう。
■S&P500は「15年以上投資できる人」
S&P500などをコアとするインデックスファンドの投資は、15年以上投資できる人に向いています。
60歳から始めて65歳で定年を迎える方は、その間に暴落が起き、しかも、そのダメージが回復できなくなるリスクがあるという点で、インデックスファンドへの投資は不向きなのです。
逆に、15年以上の投資期間がある人は、いつ始めてもよく、過去のデータを参考にするなら、15年以上の運用で損するリスクは極めて低いということです。
40代や50代の人の中には、「今さらつみたてを始めてもたいした資産にならない」「もっと早く始めればよかった」などと思う方がいるかもしれません。

しかし、40歳なら定年(65歳)まで25年もあります。
50歳でも15年あります。
安定したリターンを狙うインデックスファンド投資に関しては、スタートするタイムリミットは50歳が1つの目安です。
■5年だけのつみたてだと資産が半分以下になる可能性も…
60歳からスタートすることもできますが、その場合は定年を65歳に設定しているなら、つみたてできる期間が5年しかありません。
5年間の運用では、毎年29.2%の利益を得られる可能性がありますが、同時に毎年8.6%の損失が生まれたり、暴落が起きたりした時のマイナスを回復できずに終わる可能性があると念頭に置いておく必要があります。
ちなみに運よく5年間の年率リターンが最大の29.2%だった場合、資産は約3.6倍まで増えます。反対に年率8.6%のマイナスリターンだった場合、資産は約63.8%まで減ります。
為替リスクも考慮するとさらに目減りする可能性もあります。
一見、リスクリワード(損失と利益の比率)を見ると「おいしい賭け」な気がしますが、実際に引退時に資産が6割強目減りしていると、精神的に不安やストレスを相当感じると思います。
よって5年間のつみたて期間しかないのであれば、インデックス投資は諦めて、手堅くインカムゲインが得られる債券投資が選択肢として賢明であると一般的には考えられます。
50代から資産運用を始める人にとっても、15年間投資できるなら、株式中心の運用は有効です。ただし、前述のとおり、人生の残りの時間が短くなるほどリスク耐性が下がるため、配分は慎重に考える必要があります。

株80%・債券+金20%といった「やや攻め」から、株50%・債券+金50%という「守り重視」まで、リスク許容度に応じて調整しましょう。
「暴落はいつか必ず起きる」
それを前提に、50代以降はリスクとどう向き合うかが、資産運用における将来の安心を左右するのです。

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山口 貴大(やまぐち・たかひろ)

Financial Free College代表

ネット関連会社などに勤務後、独立してサービス業関連会社を興す。2018年に売却、その売却益を米国株を中心に運用する。2019年、YouTubeチャンネルを開設し、「ライオン兄さんの米国株FIREが最強」を運営中。2020年、金融・起業のマネースクール「Financial Free College」を設立。SNSでは「ライオン兄さん」名義で活動。著書に『年収300万円FIRE 貯金ゼロから7年でセミリタイアする「お金の増やし方」』、『【新NISA完全攻略】月5万円から始める「リアルすぎる」1億円の作り方』(ともにKADOKAWA)がある。

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(Financial Free College代表 山口 貴大)
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