▼第1位 世界の研究でわかった「中高年のマスターベーション」の重要性…医師が勧める「1週間あたりの射精の回数」
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▼第3位 「筋肉をつけると基礎代謝が上がって痩せる」はウソ…痩せたい人が実践すべき「ダイエットの黄金ルール」
熟年が心身ともに健康に過ごすには何をすればいいか。医師の和田秀樹さんは「射精しすぎると頭が悪くなる、禿げやすくなるというのは全くのデマである。マスターベーションはEDの予防や前立腺がんのリスク減少につながるだけでなく、生きることの喜びや安心感にもつながる。要介護高齢者を減らすという点では、国を救うことにもなる」という――。
※本稿は、和田秀樹『熟年からの性』(アートデイズ)の一部を再編集したものです。
■マスターベーションは心身にとって「いいことだらけ」
年をとってくると性的な能力も弱くなって、うまく女性と合わせることができなくなってきますから、射精さえすれば私はマスターベーションでもいいと思っています。
マスターベーションをすることで筋肉低下も防げ、男性ホルモン(テストステロン)も増えて元気になり、社交性も高まって人付き合いもよくなり、意欲的になるなど「いいことだらけ」です。
マスターベーションというのは、要介護高齢者を減らすという点では、大袈裟にいえば、国を救うことにもなると私は思っています。
70年をすぎた患者の方から、「まだマスターベーションが止められない。自分は病気ではないか」といった質問を受けたことがあります。
「病気なんて、とんでもない。いたって健康です」と、お答えしました。
性的能力が保たれるためにはマスターベーションは非常に大事なものですから、年をとってマスターベーションがまだできるということを、もっと喜んでいいと思います。
「性的に若い=実際に若い」ということですから、むしろ高齢者にはおすすめしたい行為と思っています。
マスターベーションを恥ずかしがることはありません。
ただ、70歳とか80歳の高齢者が「俺はまだセックスができるんだ」と自慢しても、「俺はまだマスターベーションをしてるんだ」とは、なかなか言わないものです。やはりマスターベーションなるものが恥ずかしいものだという意識があるからでしょう。
日本も特にマチズモ(男性優位主義)というもののなかで、ある時期まで男が強かった時代は、女にいかにもてるかということが男たる者の値打ちのように思われていて、例えば「千人斬り」とかが自慢になっていました。そんな時代には、マスターベーションをしている奴はダメな奴、女にもてない奴という考えもあったかと思います。
■EDの予防や前立腺がんのリスク減少につながる
マスターベーションはEDの予防になります。
理由はこうです。
加齢や生活習慣の乱れなどによって血液の流れが悪くなると、陰茎に血液が流れにくくなります。そうすると、どうしてもED(勃起不全)のリスクが高まってしまいます。
しょっちゅうマスターベーションを行っていれば血行がよくなります。
血行がよくなれば、酸素や栄養素が体じゅうに行き渡り、免疫細胞が活発にはたらきやすくなります。
また、勃起するだけでなく最後まで射精することで、精液を体外に出すための骨盤底筋を鍛えることができます。
特に、前立腺は加齢により異常をきたしやすい臓器で、前立腺に異常がおきると前立腺がんのリスクも高まります。
日常的な射精で、前立腺がんのリスクが減少するという研究結果がアメリカで出ているくらいですから、いかに射精が大切であるかがわかります。
健康のために射精はひんぱんにしたほうがいい、ということを覚えておいてほしいと思います。
その意味でも、性機能だけでなく身体機能を衰えさせないためにマスターベーションは不可欠といってもいいでしょう。
■確実に男性ホルモンが増え、リラックス効果も
自律神経の観点からいえば、勃起を司るのは副交感神経です。
副交感神経は血圧を下げたり、心拍数を低下させたり、筋肉を弛緩させたり、発汗を抑えたりなど、休息やリラックスするときにはたらく神経ですから、マスターベーションにはリラックス効果があることがわかります。
マスターベーションは、他人から干渉を受けないように一人になれる場所で行うのが一般的ですが、それを見てみたい・見せたいと思う人もいて、ポルノ動画(アダルトビデオ)ではひとつのジャンルとなっているそうです。
それに、ポルノ動画を見てマスターベーションすると確実に男性ホルモンが増えます。なので、日本はもっとポルノに寛容になってほしいと思っています。ポルノであれば別に不倫でもないし、性的搾取でもないですから、誰にも迷惑をかけませんしね。
以前、マスターベーションについて、50代のドイツ人の女性にインタビューをしている映像の中で「週に何度かしています。リラックスできるのでストレス解消にしています」と答えていたのを見たことがあります。
オーガズムに達すると、さまざまなホルモンの分泌や自律神経の作用などにより、幸福感で心身が満たされ、リラックスした状態になるからでしょう。
ちなみに、一般的にセックスを活発に行っている人はマスターベーションも活発であることがわかっています。
■「性欲の解消」だけでなく、生きることの喜びや安心感にもつながる
2013年のある調査によると、「この1カ月でマスターベーションを行った」と答えた男性は、40代、50代、60代でそれぞれ80%、69%、45%。いっぽう、女性は43%、23%、14%と答えています。
そして、「マスターベーションをする理由は?」の回答では、男性は圧倒的に「性欲の解消」が多く、女性は「性欲の解消」とほぼ同じ割合で、「やすらぎ」と答えた人がたくさんいました。
男性は「性欲の解消」のために行っている人が多いようですが、女性は性的な快楽だけでなく、体と心を労わるセルフケアの手段として取り入れている人が増えているように見受けられます。
実際、マスターベーションでオーガズムを得ると、大量のオキシトシンが分泌されて不安な気持ちや緊張が緩和され、ストレス解消につながります。
心身をリラックスさせる効果のあるセロトニンや、眠気と覚醒のリズムを整えるメラトニンも分泌されます。
さらに、幸福感や気分の高揚、鎮痛効果のあるβエンドルフィンや、やる気が出るドーパミン、いわゆる脳内麻薬であるアナンダミドなども分泌されます。
このことから、マスターベーションは生きることの喜びや安心感につながる行為ともいえます。
■エンドルフィンという快感と幸福感を生み出すホルモンを放出
ところで、オーストラリアのクイーンズランド州政府の保健局がマスターベーションを推奨しているというびっくりな話があります。
その保健局では、2021年11月4日に「健康アドバイス」として、次のような内容の投稿を公式ホームページで行っているのです。
「マスターベーションをしたり、オーガズムを得たりすることはエンドルフィンという快感と幸福感を生み出すホルモンを放出する。エンドルフィンはストレスに対する我々の反応を制御し、最終的には気分を改善し、我々を落ち着かせるはたらきをする」と。
そして、「自分自身に手を貸そう」という投稿の出だしには、手とウィンクの絵文字が付いていて、マスターベーションが健康にどういいのかを列挙したカラフルなインフォグラフィックも添えられています。
なんともはや、日本の現状と比べると隔世の感がありますね。
■「射精しすぎると頭が悪くなる、禿げやすくなる」は全くのデマ
ところで話は変わりますが、江戸時代の儒学者・貝原益軒の『養生訓』(1713年)に、「接して漏らさず」という有名な言葉があります。
この言葉を本などで見たり、人から聞いたりして、ご存じの方もいるかもしれませんね。益軒さんがどういう意味でこんなことを言ったのかわかりませんが、精子はどんどん生産されているので「接して漏らさず」では体に悪いはずです。
このことについては何か変な解釈がされていて、セックスをしても、あるいはマスターベーションをしても射精はしないほうが、テストステロン(男性ホルモン)が増えるという考えです。
つまり、興奮だけして出さないのがいいんだという理論ですが、私は、それは本当だとは思っていません。なぜって、私は出せば出すほどテストステロンは増えると思っているからです。
それに精子を長くためておくと精液の濃度が高くなっていくので、射精したほうが精子の質がよくなりますから、理想的にはセックスの回数とかマスターベーションの回数とかを増やすとよいと思います。
「射精しすぎると頭が悪くなる、禿げやすくなる、ニキビができると」といった説がありますが、長年、男性の性機能障害や不妊症に携わってこられた永井敦川崎医科大学教授は「全くのデマだ」と話しています。
なお、益軒は70歳まで黒田藩に勤め、退任して死ぬまでの間にさまざまな本を著しました。彼の著作の大半は70歳以降のものです。
今や「人生100年」とされる時代ですが、益軒が生きた江戸時代の日本人の平均寿命は、その半分にも満たない40年を下回っていました。そんな時代に益軒は84歳まで生き、最期まで認知症や寝たきりになることなく生涯を全うしたのでした。
驚くことに『養生訓』は亡くなる前年の83歳のときに書いたものだそうです。そのおかげで、現代では医学的根拠のない多くの訓戒がいまでも信じられているのでしょう。
■熟年こそ「今日からガンガンやってください」
「熟年こそ週4回はオナニーをすべし」
こうおっしゃっているのは、先ほどご紹介した「人生最高のセックスは?」という調査を行った富永喜代医師です。
オナニーは性的快楽だけでなく、性機能維持のためのトレーニングであると考えている富永医師は、患者さんに「何もせずにペニスを放置しておいたら、陰茎海綿体は線維化してしまうのだから、オナニーは機能訓練、リハビリよ! 今日からガンガンやってください」と、はっぱをかけています。
ハーバード大学の公衆衛生大学院が男性医療従事者約3万人を対象に行った調査では、月に21回以上射精する人は、月に4~7回の人に比べて前立腺がんになるリスクが約2割低下することが明らかになっています。
さらに、毎日射精することでDNAの損傷量が減少し、男性の精子の質が向上することが、ヨーロッパ生殖医学会の研究でも証明されました。
オナニーは“いいことづくめ”というわけです。
■「やってはいけない」から「やらなきゃいけない」に
東京大学大学院人文社会系研究科の赤川学教授のお話によると、オナニーに対する考え方は、この30年くらいでコロッと変わり、今や性教育とか性科学の世界では「やらなきゃいけない」という意識になっているそうです。
つまり、オナニーをやらないと将来の性生活に不安があるみたいな、そんな位置づけになっているとか。
また、赤川教授は『なぜオナニーはうしろめたいのか』というご著書の中で、次のように言っています。
「現代の私たちが当然視している性情報や性の“常識”は、数十年単位で大きく変化する。現在、私たちを取り巻く性情報が絶対に正しいとは限らないし、そうした知=痴の大転換は何度も生じるかもしれないのだ。100年後の人類に、笑われないように、自戒したいものである」と。
赤川教授のおっしゃるとおりだと思います。
これからも生じる可能性のある「知=痴の大転換」についていけるように、柔軟なアタマを持ち続けたいですね。
(初公開日:2025/06/18 16:00:00)
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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
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(精神科医 和田 秀樹)