■7月3日の「高齢女性」発言で支持率がUP
7月20日に投票日を迎える参院選で、参政党の勢いが止まらない。6月下旬の都議選では候補者4人中3人が当選し、波に乗った。共同通信が7月5、6日に行った比例代表選の投票先調査では、自民党に次ぐ二番手に躍り出て驚きが広がった。
一方で公示日の7月3日、神谷宗幣(そうへい)代表が街頭演説の第一声で「高齢の女性は子供が産めない」「男女共同参画は間違えた」などと発言したことで、強い批判を受けている。
しかし一連の発言があった後、参政党の支持率はむしろ上がっている。NHKの世論調査で比較してみると明らかだ。参院選公示前の6月27、28、29日に行った調査では、参政党の支持率は3.1%で、自民党、立憲民主党、国民民主党、公明党に続き5位だった。それが神谷氏の発言があった直後の7月4、5、6日に行った調査では4.2%に上昇し、自民党、立憲民主党、国民民主党に次ぐ4位に浮上している。
参政党の支持率を押し上げたのは誰か。目につくのは、わずか1週間ていどの間に、男性の支持率が3.9%から5.8%と急伸していることだ。この間、女性の支持は微減した。
7月11、12、13日に行った最新の調査ではさらに、参政党の支持率は5.9%にジャンプし、今や自民党、立憲民主党に続く3位に上がってきた。とりわけ男性の支持率は7.6%に跳ね上がった。しかし今回は女性の支持率も上がったので、結局男性の支持率は女性の約2倍に落ち着いている。
■神谷代表の発言はある種の炎上商法
社会学者の伊藤昌亮氏は7月8日のポリタスTVでのトークで、「石丸現象や衆院選での国民民主党の飛躍など、その時の雰囲気でふわっと票が動いていく新しいポピュリズムが起きている。比較的若い男性の支持が流れていく傾向が強い。そうした動きが今回参政党に来ている」と指摘している。
前述の共同通信の調査でも、30代以下の若年層の男性で、参政党を参院選の投票先に挙げた人たちが国民民主党や自民党を抑えてトップに立つ、という結果が出ていた。それから約1週間後のNHKの最新調査では、30代以下だけでなく60代まで、参政党へのぶ厚い支持が広がる結果となった。
伊藤氏はまた、神谷氏の発言はある種の炎上商法だと話している。衆院選前、国民民主党の玉木雄一郎代表が尊厳死の法制化に言及し、この時も多くの批判を浴びた。
果たして神谷氏はその後、尊厳死ならぬ終末期延命措置の全額自己負担を口にし、またも物議をかもした。そればかりでなく、外国人の待遇などを巡って神谷氏や参政党候補が発言した内容に、新聞やテレビ各社がファクトチェックを入れるという事態が相次いでいる。その中で、高齢女性発言のインパクトは相対的に薄まった形だ。
ただ、石丸現象と国民民主党現象に引き続いて、参政党現象とも言うべきことが起きている今回、急増している男性支持者ではなく、むしろ女性支持者にフォーカスする言説が出ていることは興味深い。
■デイリー新潮の記事は男性支持の激増を無視
例えば、デイリー新潮は「世論調査で『自民に次ぐ2位』に浮上した『参政党』…『高齢女性は子供が産めない』発言でも『女性票』が離れない根本的な理由」という7月8日付記事で、男性の支持が激増していることは素通りして、「参政党を支持する有権者は女性が目立つ」と述べ、「マッチョで保守的な中高年男性が大半を占める」という見方とは、「逆の可能性がある」と主張している。反農薬やオーガニック農法、反ワクチンといった参政党の政策への関心が強い女性たちが相当数いるからだという。
確かにそうした支持者もいるだろうが、各種調査を見る限り、参政党の支持率を押し上げ、こんなに注目される存在にしたのは男性支持者の力だろう。高齢女性発言のあった直後の共同の調査では若年層男性の支持率トップが参政党だったと言ったが、既にこの時点で40~50代の中年層男性の間でも、参政党はトップの自民党より少し劣るが、同水準と言っていい支持を得ていた。つまり50代以下の男性たちが参政党支持の中核となっていた。
■女性ばかりにフォーカスする「男消し」では
しかし女性の支持が目立つという言説が出てくることで、参政党にソフトな印象がついたことは否めない。
しかもデイリー新潮の記事は、女性支持者の話に続けて、小選挙区制の下で有権者は、候補者を選ぶ自由を持て余しているという話を展開している。ここでは主語は有権者全体になっているが、自然に女性有権者を連想するような流れにもなっている。
作家で評論家の古谷経衡氏の6月26日付ヤフーニュース記事「参政党支持層の研究」も、女性支持者を特筆している。都議選後、突然関心が高まった参政党の支持者像について、いち早く深掘りした分析だ。しかし古谷氏の印象だと、支持者には「とりわけ中年の女性が多い」ということで、また「日本政治や社会の大まかな構造に対して、驚くほど無知で無関心」であり、「無党派層ではなく無関心層」という見立てだ。そうなのかもしれないが、NHKが公示約1カ月前の6月6、7、8日に行った調査では、男性の支持者は女性の約5倍で、これまで見てきたように、男性の支持は常に女性を大幅に超過している。
また東京都江東区議の高野はやと氏は、「参政党が、組織政党であるという点を見過ごしてはならない」という7月12日付note記事で、参政党は組織政党だという持論を述べる際、やはり女性を前面に出している。「個人の志がまずあり、損得を超え、使命感に駆られてやっている」というのが個人政党だとし、それと対比して、「組織政党の場合は、そこらへんにいる右も左もわからない党員の主婦に『俺たちは仕事が忙しいから代わりに代表して出てくれ』と言えてしまう」「候補者は誰でもよく、交換可能」と見なしている。これも実際そうなのかもしれないが、「党員の主婦」ではなく、単に「党員」と言ってもよかったはずだ。また、参政党の男性候補者は女性候補者より多いのだが、彼らの場合はどうなのだろうか。
最近朝日新聞が「男消し構文」についての記事を出して話題を集めたが、「男消し」にはこのように、単に女性を強調するだけでなく、さまざまな点であまりよろしくない像を提示したい時、男性ではなく女性を前面に出すということがあるように思う。「ディスり対象の女性化」(feminization)と呼んでもいいだろう。
ただ、こうした「男消し」と「女フォーカス」のセットは、日本の言説空間にあふれている。メディアの書き手も編集サイドも男性が多く、男性中心の発想が強いことが関係している。その点、特に珍しいものではなく、実際、神谷氏の「高齢女性は子どもが産めない」という発言自体も、「男消し」の典型だと言える。
■育児を女性の役割とする旧態依然の論理
高齢女性発言で批判を受けた時、神谷氏は生物学的に出産適齢期があるということだと話した。もし生物学的現実で言うなら、不妊の半分は男性側の状況によるもので、加齢はその大きな要因だ。精子が細胞分裂する際、加齢により変異が起き、子どもがある種の病気を罹患(りかん)しやすくなるという研究もある。妊娠は女性だけでできるものではなく、子どもは男女双方の遺伝子を引き継ぐ。女性の加齢を問題にするなら、男性の加齢も問題にしないといけないだろう。
また社会的に言っても、女性が若くして母親になった場合、伴侶となる男性も同様に若いことが予想される。そして女性に育児に専念することを求めるなら、まだキャリアが始まったばかりの男性側の責任と負担も、相当に重くなる。
■政治家が出産適齢期を強調する危うさ
そもそも少子化を女性だけの責任にすること自体が「男消し」なのだが、こうした「男消し」は、少子化についてのさまざまな場面で顔を出す。
共産党の田村智子委員長に対して、雑誌FACTAの男性記者が会見で「他党は2人目や3人目の出産にインセンティブをつけたりしているのに、共産党の政策にはそれがなく、危機感がないのか。党員の半数は女性なのに、そんな考え方なのか」と質問した時もそうだった。田村氏と女性党員に対する当てこすりも感じられたが、田村氏はジェンダー不平等や教育費の負担解消と並んで、長時間労働の解消を政策として掲げている、と答えた。
長時間労働がいかに育児の障壁になっているか、質問した男性記者が理解していなかったということだ。それが育児の場面での「男消し」の実情を象徴している。子育てに無責任な父親の姿を見て育った娘たちが、そんな父親不在の家庭など自分は作りたくないと思っても不思議はないが、「男消し」に慣れていると、そうしたことは頭に浮かばないのだろう。神谷氏の発言は、このような男性の責任の透明化とまさに地続きなのだ。
神谷氏は「高齢女性が子供を産めないというのは事実なので撤回しない」という考えで、今後はむしろ積極的に、女性には出産適齢期があることを周知したいという。しかし出産適齢期があることは多くの女性が十分承知していることで、それをあえて政治家が強調するのは、良い考えとは言えない。産む産まないは女性の自己決定権に基づくものであるという「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」を侵害し、不妊や健康問題を抱えていたり、産まないことを選択した女性にとって、ハラスメントになる恐れもあるからだ。
■神谷発言に有志の女性たちが声を上げた
一連の神谷氏の発言に危惧を持つ女性らが「参政党の政策や神谷代表の発言に抗議する個人有志」として、7月6日横浜で抗議集会を開き、リレー形式で次々に思いを語った。子供がほしかったのに健康上の問題で難しく、常々悲しく感じていることや、出産したらずっと頑張ってきた仕事に戻れない状況なので産まない選択をしたが、ひどいことを言われても自分に誇りを持っていることなど、各人が率直に発言していた。父親のDVや、がんサバイバーとしての経験を交えて話す人もおり、中には涙声になる場面もあった。
政治家の一言で、これだけ人々が不安になったり傷ついたりしている。言葉は大事だ。政治家に必要なのは、個々の国民や住民の考えを尊重し、謙虚にその声を聞こうとする姿勢ではないのだろうか。その後も東京や関西など各地で、女性たちを中心にした抗議行動が続いている。
■「女性が高等教育で稼ぐ力をつけることを軽視」
なお、神谷代表の第一声に対する抗議集会に集まった女性らが出した声明には、以下のような内容が含まれている。
・「高齢女性は子どもを産まない」などの発言は、女性の価値を産むか産まないかで差をつけたもの。
・女子中高生にライフプランを提案し、大学に行かないで子どもを産んだら国が経済的にバックアップすると言ったが、稼ぐのは男で、家事・育児は女という固定的な性別役割分担意識やジェンダーバイアスがある。
・女性が高等教育を受けて自ら稼ぐ力をつけることを軽視している。
・職業体験も少ないまま若年で結婚・出産すると、離婚を考える事態が生じたとき、子どもと共に困窮したり、不本意な結婚生活を強いられることになる人が少なくない。
・性的役割分業を強化することで、少子化が解消できるのか。日本はG7の中でも合計特殊出生率が低いが、合計特殊出生率が高い国では、女性の経済活動への参画・機会や、子育てしながら無理なく働くことができるワークライフバランスが進んでいる。
・日本では不十分とはいえ、男女共同参画としてジェンダー平等やワークライフバランスを追求してきたのに、これを否定しジェンダーバイアスを強化したら少子化はさらに進む。
・参政党は選択的夫婦別姓にも反対しているが、58万人が夫婦別姓を求めて結婚を待っているという統計がある。早く別姓を導入し、今結婚したい人に結婚してもらい、子どもを産みたい人に産んでもらう方が少子化解消に貢献する。
・日本の女性差別は根強く、女性の賃金は男性より低く、女性の政治家や会社役員は極端に少なく、女性は男性の5.5倍、家事・育児に時間を割いている。
■専業主婦を希望する人は急減している
2023年版の男女共同参画白書は、「固定的性別役割分担を前提とした長時間労働等の慣行を見直し、『男性は仕事』『女性は家庭』の『昭和モデル』から、全ての人が希望に応じて、家庭でも仕事でも活躍できる社会、『令和モデル』に切り替える時である」と指摘している。
白書によると、未婚女性(18~34歳)のライフコースの理想は、2015年から2021年にかけて大きく変化し、結婚・出産後も仕事を続ける「両立コース」の希望が、結婚・出産を機に退職し、育児が落ち着いた後に再就職する「再就職コース」の希望を逆転し、初めてトップになった。未婚男性(18歳~34歳)のパートナーへの期待でも、同様の結果が出ている。一方男女双方で「専業主婦コース」の希望は急減しており第三位。その下降カーブの推移を見ると、今後ますます希望が減って、上昇傾向の「非婚就業コース」や「DINKsコース」の希望に抜かれる可能性も高い。
しかし実際には、女性が子どもを産みながら働き続ける「両立コース」の実現はかなり難しいのが現状だ。未婚男女の双方が最も希望する「両立コース」が実現できるように、まずは政治や社会が力を尽くすのが妥当であり、希望者が急減している「専業主婦コース」や、同じく2015年から下降が顕著な「再就職コース」に重点を置き予算を振り向けるのは、合理的とは思えない。
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柴田 優呼(しばた・ゆうこ)
アカデミック・ジャーナリスト
コーネル大学Ph. D.。90年代前半まで全国紙記者。以後海外に住み、米国、NZ、豪州で大学教員を務め、コロナ前に帰国。日本記者クラブ会員。香港、台湾、シンガポール、フィリピン、英国などにも居住経験あり。『プロデュースされた〈被爆者〉たち』(岩波書店)、『Producing Hiroshima and Nagasaki』(University of Hawaii Press)、『“ヒロシマ・ナガサキ” 被爆神話を解体する』(作品社)など、学術及びジャーナリスティックな分野で、英語と日本語の著作物を出版。
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(アカデミック・ジャーナリスト 柴田 優呼)