※本稿は、秋山博康『元刑事が国民全員に伝えたい シン・防犯対策図鑑』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■海外サーバーでもオンラインカジノはNG
オンラインカジノは、絶対にやったらあかん。オンラインカジノで借金を抱えた若者が闇バイトに手を出し、罪を犯す。そんな負の連鎖が、現実に起こっているからや。
しかも、この問題は一般人に限った話やない。芸人やプロ野球選手など、有名人が書類送検されるケースも相次いでいる。テレビやネットニュースでも大きく取り上げられているよな。
オンラインカジノは、刑法上明確に違法や。「単純賭博罪」(刑法第185条)には50万円以下の罰金または科料、「常習賭博罪」(刑法第186条1項)には3年以下の懲役が科される。この判断は刑法第1条で定められた「属地主義」に基づいており、たとえサーバーが海外にあったとしても、日本国内からアクセスすれば日本の刑法が適用されるわけや。
とはいえ、賭博罪の罰則は比較的軽いため、これまでは見過ごされてきたケースも少なくない。
■これまではグレーゾーンだったが…
こうした曖昧さは、暴行罪(刑法第208条)にもある。たとえば、芸人が相方を叩くツッコミは、法的には暴行にあたる可能性もあるが、社会的には“お笑い”として受け入れられている。法律の運用は、社会的な空気や通念に左右されることもあるってこと。
オンラインカジノもまた、“グレーゾーン”に置かれてきた。しかし、その構図は崩れつつある。
取り締まり強化の契機となったのは、闇バイトとの関係が明らかになったこと。オンラインカジノをきっかけに、詐欺罪(刑法第246条)や強盗罪(刑法第236条)といった重大犯罪へと発展するケースが後を絶たない。そうした実態が社会問題として浮上したことで、警察も本格的に動き出した。オンラインカジノは、黙認できる娯楽ではなくなったってわけや。
この流れは、東京高等検察庁の元検事長の賭け麻雀事件にも重なる。当時、同氏は検事総長候補であり、定年延長をめぐる法改正の渦中でもあった。
ここで共通しているのは、「賭博行為そのもの」ではなく、それが社会的な問題と結びついた瞬間に、法の適用が一気に厳格になるという点や。
実際、かつては日本のテレビCMでオンラインカジノの広告が流れたこともあり、合法と誤解した人も少なくなかったはずや。もちろん、広告を流した側にも問題はある。とはいえ、たとえ「知らなかった」「合法やと思っていた」としても、その思い込みで罪を免れることはできない。気の毒ではあるけどな。
■パチンコはなぜOKなのか
特に若者にとって、「合法」と「違法」の線引きはわかりにくい。
たとえば、パチンコが賭博罪に問われないのは、「景品」を介するという形式を取っているからや。出玉を景品と交換し、店外の交換所で現金化する。いわゆる「三店方式」ってやつやな。形式上、現金のやり取りが直接行われていないことが、合法とされる建前になっている。
また、競馬や競輪、競艇などの公営ギャンブルは、「競馬法」「自転車競技法」「モーターボート競走法」などに基づいて運営され、その収益は社会に還元されている。
一方、オンラインカジノも、ネットを通じて誰でも簡単にアクセスできる。スマホひとつで誰でも簡単に始められるうえ、初回無料や高額当選のド派手な演出など、ゲームのように見せかける巧妙な仕掛けが施されている。気づけば数十万、数百万円を失い、最終的には闇バイトに手を染めてしまう……。
オンラインカジノは、法的にも社会的にも、そして人間の心理につけ込む点においても危険や。依存症を誘発し、生活を破壊し、やがて犯罪につながっていく。どれほど甘い誘いがあったとしても、絶対にやったらあかんで!
■日本人が狙われている闇バイトと国境の危険地帯
海外で仕事? そんな誘い、絶対に乗ったらあかんで! 海外拠点化と国境の危険性について話したい。
20年ほど前、蛇頭と呼ばれる中国系マフィアが日本で暗躍していた。蛇頭は、不法入国や不法滞在を斡旋する密航組織や。その過程で空き巣、強盗、詐欺、ピッキングまで手を染め、金を稼ぎまくっとった。特に90年代後半から2000年代にかけて、日本でも社会問題になった組織や。
当時、蛇頭は主に中国から人を運び、働かせ、みかじめ料を巻き上げるビジネスモデルを築いていた。
実際、「海外で仕事」という甘い誘い文句に、多くの日本人が引っかかっている。SNSやオンラインゲームなどで声をかけられ、何も知らないうちに食い物にされる。それが現実や。
闇バイトで海外に呼び出されるリスクは極めて高い。
「外国で仕事」「高収入」「ホワイト案件」なんて甘い話には、最大限の警戒が必要や。海外に行ったら最後、逃げ道はほとんどない。
国外では、日本の捜査権が及ばへん。かつては日本国内にあった詐欺拠点も、今ではフィリピン、カンボジア、ミャンマーへと移動した。特にミャンマー国境付近は、もはや無法地帯。
■ノルマを達成できなければスタンガンを当てられる
その象徴が「KKパーク」や。ミャンマーとタイとの国境に位置する犯罪都市で、町全体がスカムシティ(詐欺都市)になっている。
最近も、日本人高校生2人がタイ当局に保護された。彼らはミャンマーの詐欺拠点に拉致され、掛け子として働かされていた。SNSで誘われ、無理やり連れて行かれたんや。1日18時間も働かされ、ノルマを達成できなければスタンガンを当てられる。まさに現代の奴隷や。逃げ場もなく、ひたすら詐欺を強要される。
現地で監禁されている外国人は、1万人以上とされている。日本人も数十人が被害に遭っとるとみられている。タイ当局も今回の事件を「日本人初の人身売買」と正式に認定した。
■甘い話に関わって命を落とす前に
さらに恐ろしいのは、詐欺グループに引き込むリクルーターが日本人ということや。同じ日本人が、ネットで若者を騙し、海外マフィアに売り飛ばしている。SNS、オンラインゲーム、掲示板、出会い系――あらゆる場所にヤツらは潜んでいる。
すでに日本からだけで、200億円以上が詐欺組織に流れとるともいわれている。日本に住んでいると、国境の危険性なんて実感しにくいかもしれへん。けどな、海外では、国境地帯=無法地帯と化している場所も珍しくない。「高額報酬をもらえる仕事やから」「みんな行ってるし」――そんな軽い気持ちで踏み込んだら、命すら危ない。
海外での仕事を持ちかける甘い話。その裏には、地獄が広がっているかもしれへん。絶対に、安易に乗ったらあかんで。
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秋山 博康(あきやま・ひろやす)
通称「リーゼント刑事」。元・徳島県警捜査第一課警部
1979年徳島県警拝命。1984年、23歳で刑事になると、殺人など凶悪犯罪の最前線の捜査第一課と所轄刑事課を中心に31年間刑事として捜査を担当。「おい、小池!」で有名な殺人指名手配事件に長らく携わった。警察人生42年、2021年3月に定年退職し、現在は犯罪コメンテーターとしてメディア出演やYouTube配信、講演会活動を精力的に行っている。
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(通称「リーゼント刑事」。元・徳島県警捜査第一課警部 秋山 博康)