子どもが不登校になった場合、どんなことに気を付けたほうがいいか。医師で、信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授の本田秀夫さんは「子どもが『明日は学校に行こうかな』などと言われても喜ぶのは禁物だ。
子どもの動向に一喜一憂してしまうと、プレッシャーを与えてしまうリスクがある。特に、『楽しかった?』といった声がけを根掘り葉掘りするのは要注意だ」という――。(第4回)
※本稿は本田秀夫『発達障害・「グレーゾーン」の子の不登校大全』(バトン社)の一部を再編集したものです。
■親の反応が子どもへのプレッシャーになる
Q.子どもから「明日は行こうかな」と言われたら?
会話を重ねるうちに、子どもから「こういう授業は嫌だ」「こういうのは嫌じゃない」といった話が出てくることもあります。そういった形でじっくりコミュニケーションをとっていると、少し意欲が出てきたタイミングで、本人が「明日は行ってみようかな」と言い出すこともあるかもしれません。
そのときは大げさに喜んだりせず、子どもの話をよく聞いたうえで、例えば「3時間目から行ってみる?」「今度の火曜日に行く?」と提案してみてもいいでしょう。行ける授業・行ける曜日だけでもいいのだと伝えると、緊張がほぐれることもあります。本人が「学校に行くなら、ちゃんと行かなきゃ」と思っている場合もあるので、いろいろなやり方を提案してみましょう。
ただし、次の日の朝になると「やっぱり行けない」ということも珍しくありません。そういうときは、子どもの気持ちを尊重して、残念なそぶりは見せずに淡々と「わかった」と応じることです。
長く休んでいた子どもが久しぶりに登校したら、親御さんとしては救われた気持ちになるかもしれません。ただ、子どもが登校するかどうかに親が一喜一憂していると、それが子どもへのプレッシャーになることもあります。

あくまでも淡々と対応しましょう。
■「疲れた?」と軽く聞く程度でいい
子どもが久しぶりの学校生活を終えて家に帰ってきたときには、「今日は学校で何をしたの?」「楽しかった?」「頑張ったね」と声をかけたくなるかもしれません。「今日は楽しかった?」と聞かれたら、子どもは「楽しくなかった」とは答えづらいはずです。
根掘り葉掘り聞こうとするよりも、「疲れた?」と軽くたずねるくらいのほうがいいでしょう。おそらく本人は「疲れた」と答えるでしょう。そうしたら「じゃあ、ちょっとゆっくりしよう」と、のんびり過ごす。そのくらい淡々と対応することをおすすめします。
できれば学校の先生にも同じように、淡々と対応してもらいたいところです。久しぶりに登校したからと言って、大げさに歓迎する必要はありません。ただ、無視をするのもよくないので、休み時間に先生からちょっと声をかけるようなことはしてもらってもいいと思います。
先生がその子を気にかけていることが、本人に伝わるというのが理想です。例えば、先生から子どもに「最近、家では何かゲームとかやっているの?」などと聞いてもらうのもいいですね。

その子の好きな話題をちょっと振ってみる。本人が何か話したがるようであれば、軽く雑談をする。そのくらいの対応で十分です。先生が不登校の子の好きな話題を考えるのは難しい場合もあるので、できれば親と先生で日頃から連絡を取り合うようにしたいところです。
■学校から連絡がないことにも不安を感じる
私は不登校の相談を受けたら、親御さんにも学校の先生方にも、可能な限り連絡を取り合うようにしてもらっています。親と先生が子どもの日頃の様子を伝え合っていれば、お互いに対応しやすくなります。
親と先生がよく相談していれば、学校の環境も調整しやすくなります。相談を通じて子どもの好きな教科や興味を持ちやすいテーマが具体的に見えてくれば、それを取り入れて学びやすい環境をつくっていくこともできます。
相談を進めるなかで、学校の先生から「こういう授業をやるよ」と誘ってもらうのも、悪いことではありません。学校が子どもを気にかけているというメッセージになります。不登校の子は、登校を強要されることには抵抗を感じますが、そうかと言って、休んでいるときに学校からなんの連絡も来なくなると、それはそれで「先生たちに見捨てられたんじゃないか」と不安に感じたりもします。
親と先生がよく連絡を取り合いながら、ときどき子どもに学校の話題を振るというのは、子どもに安心を与える対応になるのです。

■具体的な予定を伝えるだけで、登校してくれるケースも
ただし、なんらかの環境的な要因があるのに、その点を何も見直さないで、ただ「学校においで」と誘うだけでは、子どもに不安や恐怖を感じさせてしまいます。
そういうことをする先生は、不登校の子が頑張って登校して、でも授業にうまく参加できずにいるときに、「無理をしなくていいよ」と声をかけがちです。これは「難しければ無理をしないで」と配慮しているようにも見えますが、実際には「できない人は参加しないで」と排除している形になります。
本来であれば、授業にうまく参加できない子がいたら、授業の内容を調整して、その子も参加できるようにするべきです。授業全体を調整することは難しくても、授業のなかにその子も参加できる部分をつくっていくことはできるでしょう。
親と先生で相談して、子どもの興味を参考にしながら、その子が登校しやすくなるような調整を検討してみましょう。なんらかの工夫をしたうえで、先生から「今度こういう授業があるよ」と示してもらえたら理想的です。
「来られる時間帯があったらおいで」と誘ってもらうのもいいのですが、「おいで」と言わなくてもいいかもしれません。視覚的な情報を使いながら、具体的な予定をわかりやすく提示するだけでも十分です。
なぜそういう誘い方がいいのかというと、大人がさまざまなやり方を試しながら情報提供をして、最終的にどうするのかは本人に委ねているからです。平均的なカリキュラムだけではなく、いくつかの調整が用意されていて、本人に選択の自由が保障されている。そういう対応をしてもらえれば、すべての子どもが授業に参加しやすくなります。

■登校できたときは「予定通り」が大切
親が学校の予定を調べて子どもに伝えるのもいいのですが、親が授業を計画しているわけではないので、調べた通りのことが実施されるかどうかはわかりません。
一方、親と先生で相談してどういう工夫をするのかを話し合い、そのうえで先生から授業に誘ってもらった場合には、基本的には予定通りの授業が行われるはずです。親が単独で情報収集をするよりも、親と先生でよく相談をしたほうが、より確実に対応できるわけです。具体的な予定が事前にわかっていて、その通りに実施されれば、子どもは安心します。
それはどのような子どもにも言えることですが、発達障害があって予定の変更が苦手な子どもには、授業が予定通りに実施されることがより一層重要になります。
ですから、不登校の子を学校に誘ったときには、本人に予告したことが必ずその通りに実行される必要があります。不登校の子が学校に行くと、先生から「今日は調子がよさそうだから、この勉強もしていこう」などと言われて、予定になかった活動をさせられることがありますが、そのような対応はやめてください。
■友達と喧嘩し、ひとりで登校できなった小4男子
先生と親から「こういう授業があるよ」と言われて登校したのに、結局それ以外のこともやらされたのでは、子どもは大人に対して不信感を持ちます。せっかく登校への意欲が出てきたのに、それが一気に消えてしまうかもしれません。
そのようなだまし打ちをすると、子どもがその後、学校に行かなくなるだけではなく、親や先生との会話さえも拒否するようになる場合もあります。不登校対応の参考事例として、親と先生がよく話し合い、「本人がどうしたいのか」を大事にしたエピソードを紹介しましょう。
【相談例】

親が一緒に行かないと、登校できない子

小学4年生男子の場合
このお子さんは小学4年生の男子です。
ASDとADHDの診断を受けています。特別支援学級に通っていますが、そこで友だちとケンカをしてしまい、学校に行きづらくなりました。
友だちとは話し合い、ひとまず解決したのですが、このお子さんは「また同じことが起きるのではないか」と感じて、教室に入るのに緊張感を抱くようになりました。その後、一人で学校に行こうとすると通学路の途中で不安が強くなり、家に帰ってくることが出てきました。
学校を休む日が増えてきたため、親御さんが本人の話を聞き、対応を検討しました。そして親御さんが当面、通学に同行することにしたそうです。
■「本人がどうしたいか」が一番重要だが…
親御さんが学校の先生に相談したところ、「授業開始まで教室近くで待機したほうがいいかもしれない」という提案を受けました。
登校後の待ち時間も不安そうに見えるとのことでした。子どもに聞いてみると、本人もそのほうが安心できると言うので、親御さんは仕事を調整して、授業開始の時間帯まで学校に滞在するようにしました。しばらく対応しているとお子さんの不安感がやわらぎ、一人で登校できるようになりました。
【相談例の子どもを理解する】

本人が親の同行を希望しているかどうか
不登校の相談を受けていると、相談例⑭のように「一人では登校をしぶるが、親が同行すれば学校に行ける」という話が出ることがあります。この場合も、基本的な考え方はいままでにお伝えしてきた通りです。

大事なのは環境調整と「本人がどうしたいのか」です。本人が「学校には行きたい」「一緒に来てくれたら安心できる」と言っていて、親が同行することが、いい環境調整になるのであれば、そうしてもいいでしょう。
そうではなく、親が子どもに学校に行ってほしいから、子ども本人はしぶっているけど、とにかく校門まで連れていっているという状況であれば、対応を見直したほうがいいと思います。
ただし、これはあくまでも一つの例です。学校への付き添いは、親の負担となります。本人が安心するまで学校に滞在することが難しい場合もあるでしょう。「本人がどうしたいのか」も大事ですが、親御さんが無理しないことも大事です。本人の気持ちを聞きながら、家族全員にとって無理のない選択肢を検討してほしいと思います。

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本田 秀夫(ほんだ・ひでお)

信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長

特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事。精神科医師。医学博士。1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年より、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より現職。日本自閉症協会理事、日本自閉症スペクトラム学会常任理事、日本児童青年精神医学会理事。著書に『自閉症スペクトラム』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(ともにSB新書)『発達障害・「グレーゾーン」の子の不登校大全』(バトン社)などがある。

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(信州大学医学部 子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長 本田 秀夫)
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