参政党の躍進を支えているものは何か。朝日新聞取材班は「政治資金収支報告書をみると、政党としての収入の約9割が個人からという独自性がある。
参政党の収入構造には、草の根の広がりがあるようだ」という――。
※本稿は、朝日新聞取材班『「言った者勝ち」社会 ポピュリズムとSNS民意に政治はどう向き合うか』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
■政治資金16億円のうち14億円が個人収入
参政党が2%以上の得票を得て国政政党になったのは2022年の参院選だった。この年の参政党の政治資金収支報告書をみると、興味深い事実がある。政党としての収入の約9割が個人からという独自性だ(朝日新聞2023年12月2日朝刊)。「大企業や宗教団体などの支援のない小さな政治団体」とする自画像の通りかもしれない。
この年の参政党の収入は16億円。個人をターゲットにした参加費1人500~3千円程度のタウンミーティングを開き、計2億6千万円を得た。首都圏の国際会議場などで政治資金パーティーを2度開き、延べ1万3千人から3億2千万円を集めた。
寄付も多い。延べ3千人以上から4億3千万円で、この年の自民党の個人寄付4億8千万円に迫る水準であり、この年に4億円以上の個人寄付を集めたのは両党のほかは共産党だけだった。
党員らが払う党費収入は3億4千万円で、4万6524人が払った。
1人当たりの党費は年額4千円の自民党に比べて圧倒的に高いのも特徴で、この年では党の政策立案に投票権がある運営党員は、年額ではなく、月額で4千円、党の地域別オフ会への参加資格がある一般党員でも月1千円だ。
こうした個人収入は計14億円で、全体収入の9割に迫る。収入全体が同規模の18億円だった国民民主党は、政党交付金が9割近くで、個人からの収入は1%以下だった。まさに参政党の収入構造には、草の根の広がりがあるようだ。
■単なる“ネット保守”政党ではない
こうした広がりを支えているのが、ある政党の幹部経験者が語った、参政党とオーガニックとのつながりなのかもしれない。
幹部経験者の妻はオーガニックに関心が深く、インスタで関連のページを見ていると、アルゴリズムで「参政党」をたびたび目にすることは前回で述べた。そして、この幹部経験者は、参政党は、オーガニックに関心を持つ一定のボリューム層に食い込んでいると感じている。このことは、これまで見てきた「反米保守」という参政党のイデオロギー的特徴とは無関係だ。
ネット右翼や保守勢力に詳しい作家・評論家の古谷経衡(つねひら)氏の論考が理解の助けになる。
古谷氏は参政党が政党要件を獲得した2022年参院選の直後に、ヤフーニュースに記事を寄せた。古谷氏は記事の最後で「参政党は単なる『ネット保守』政党ではない。全体としてみれば、オーガニック信仰を基調として、そこに保守的要素が『後付け』された異形の『オーガニック右翼(保守・右派)』と呼ぶべき右派政党」と位置づけた。

■「オーガニック信仰」による集票構造
古谷氏の参政党論の概要は以下のようなものだ。
「天皇を中心とした国家」をうたうなど、かつての石原慎太郎氏や平沼赳夫(たけお)氏らの「太陽の党」や「次世代の党」に近い政策を持つ。同じ「ネット保守政党」に見えるが、両党のように雑誌の「正論」や「WiLL」など保守論壇中央と呼ばれる岩盤層からは支持は得ておらず、支持構造は大きく異なっている。
参政党の最も大きな集票構造は「強烈な『オーガニック信仰』」だ。三つある参政党の重点政策の二番目は「食と健康、環境保全」であり、神谷宗幣(そうへい)代表は2022年参院選での千葉での街頭演説で「子供にいいモノを食べさせたら、子供の病が減ります。荒れなくなります。学力が上がります。絶対そうなりますから。はい。そしたらそこで医療費が下がるんですよ。子供の医療費無償化をするんだったら、学校給食にお金をかけてください」と訴えた。
これは典型的なオーガニック信仰の一種で、オーガニック信仰は戦後の大量消費社会の亢進(こうしん)に疑問を示した先進国に住む、意識の高い比較的富裕な消費者層から始まる。

熱心な参政党支持者の人々は、驚くほど政治的に無色であり、参政党を支持する以前は、政治そのものに関心がほとんどないため、政治的免疫がない人が多い。こうして、ヨガ教室に熱心に通い、自然食品を愛好し、個人経営の自然派喫茶店が行きつけである、とフェイスブックに書いていたような人が、ある日突然、参政党のユーチューブに感化されシェア・投稿し出す……。
■政治的無関心層が熱心な支持者になる構図
古谷氏はこれとは別のインタビューで参政党の支持者像について、「自分の生活が第一で、社会のことをあまり気にしないで生きてきた、選挙にもずっと行ったことがないような方々」と指摘。
参政党が街頭演説で太平洋戦争について「大東亜戦争は侵略戦争でなかった」と訴えても、そもそも政治に全く関心がなかった人には響かないと言い、「私が見たり会ったりした人たちが、参政党の保守的な部分で一番強く共感していたのは、神社の崇拝です。『神社に行って霊的なパワーをもらい、明日からもがんばれる』というような人が多い」と語る(朝日新聞2022年9月25日配信)。
「自分の生活が第一」だった政治的無関心層が、オーガニックにこだわってネットを見ていたら、そこに参政党関連の情報がアルゴリズムによって流れ、同党の保守的イデオロギーや政策とは無関係に、支持者になっていく。
政治的無関心層だったからこそ、「政治的免疫」がなく、熱心な支持者になり、他党より高い党費を払ったり、個人寄付を寄せたりするという構図があるのだろう。
■民主主義を不健全にしかねない“初恋”
政治に無関心だった層がSNSを通じて関心を持つようになり、政治参加する。本書で先述したように、東京都知事選や兵庫県知事選で見てきた構図と同じだ。
政治への「初恋」で分別を失ってしまえば、陰謀論的な言説すら受け入れてしまいかねない。
政治に関心を持つ人が増えて、投票率が高まることは民主主義の基盤を強くするために不可欠なことだが、偽情報や誤情報、陰謀論など正確性を欠く言説の上で政治的行動を起こすことが増えてしまっては、かえって民主主義は不健全になってしまいかねない。
参政党が、現代表である神谷氏を初当選させ、国政政党になったのは2022年の参院選だった。

政党交付金が交付される国政政党と認められるには、①国会議員5人以上を有する政治団体、②国会議員が1人以上いて、かつ、国政選挙の選挙区もしくは比例区の選挙で2%以上の得票率を得た政治団体……のいずれかが必要となる。参政党は2022年の参院選で、神谷氏が当選し、かつ比例区で2%以上の得票率を得て②をクリアした。
■「多党元年」となるのか
参院選の比例区は、小政党が政党要件を得やすい選挙制度だ。全国を一つの選挙区とした上、個人名でも政党名でも投票できる。比例の投票用紙には、その政党の比例名簿に並んだ候補者名を書いてもいいし、政党名を書いてもいい。
圧倒的な知名度を誇る人気者を候補者に担ぎ出し、その人気者が圧倒的な得票数をたたき出せば、その得票はそのまま政党の票になるため、比例区での得票率2%以上という政党要件にもグッと近づく。
2025年参院選でれいわ新選組や参政党、日本保守党といった小政党がどれほど議席を伸ばすのか。立花孝志氏が率いる政治団体「NHKから国民を守る党」や石丸伸二氏の政治団体、AIエンジニアの安野貴博氏の団体の行方も無視できない。
細分化された民意が、そのまま反映されやすい参院選の比例区の特性で、こうした小政党が議席を伸ばすことになれば、2025年は「多党元年」と言われる可能性がある。

(朝日新聞取材班)
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