参議院選挙で、コメの値段を下げられる政策を訴えている政党はどこか。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「JA農協や兼業農家に配慮した政党ばかりで、真に消費者と将来の農業を見据えた改革を訴える政党はごくわずかだ」という――。

■コメの適正価格はいくらか
参議院選挙が迫る中で、各党のコメ政策を分析しよう。
評価の視点
具体的に各党の公約を検討する前に、国民への食料の安定供給、水資源の涵養や洪水防止などの多面的機能を確保・向上させるためには、どのような点を考慮しなければならないかを述べたい。
第1に、適正な価格はどのような水準かをマスコミは各党に聞いているが、生産者は高い価格を、消費者は低い価格を望むのは当然であり、一部の党を除いて、マスコミも政党も、EU等が導入している直接支払いを選択するなら、このような議論をする必要はないことを理解していないようだ。市場価格が安くなっても、農家の所得は直接支払いで保証できる。
マスコミも政党も、価格が上がるか下がるかにだけ興味を持ち、そもそもコメについては、青果物のような市場がなく、圧倒的な市場占有力を持つJA農協が卸売業者と相対で交渉して米価を操作しているという根源的な問題を取り上げようとはしない。
独占的な集荷業者であるJA農協が利用しなくなったため、2011年現物市場として機能してきた公正な価格形成センターが閉鎖に追い込まれた。1730年の大坂堂島米市場は世界で最初の先物市場だった。しかし、1939年まで続いた先物市場はJA農協の反対で認められていない。そもそも減反により生産・供給が減少され、市場で決まる価格よりも価格は高く維持されている。減反と独占によって、市場による公正な価格形成が妨げられている。
適正な価格は市場で決まる価格である。それが上昇すれば生産者は生産を増やすので価格は下がる。
市場価格は生産者に需給状況を示すシグナルの役割を果たす。ところが、コメには市場がなくされているのだ。
■「流通がコメの値段を上げている」はウソ
第2に、今回のコメ価格高騰はコメが不足したためであり、流通に問題があるのではないという点だ。
23年産米は減反強化で対前年比10万トン減少していたうえ、猛暑で白濁米などの被害粒が約30万トン発生し、合計40万トン程度の供給不足が生じた。23年産米の供給が足りない分、24年8~9月にかけて24年産米を先食いしたので、同年10月時点で既に24年産米は40万トン不足していた。これが価格高騰の原因である。
農水省は、24年夏の大阪府知事からの備蓄米放出要請を拒否し、卸売業者が在庫を放出しないからだとして、責任を卸売業者に押し付けた。農水省は9月になれば新米(24産米)が供給されるので、米不足は解消され米価は低下すると主張した。だが、逆に価格が上昇すると、こんどは流通段階で誰かが投機目的で米をため込んでいて流通させていないからだと主張した。農家と比べ政治的な力を持たない流通業者を悪玉に仕立て上げたのである。しかし、農水省は25年これまで調査してなかった小規模事業者の在庫調査を行ったが、これら業者は在庫を増やすどころか、逆に減少させていた。“消えた米”はなかったのである。

官邸筋に促されて行った備蓄米の放出も、米の不足に対処するのではなく、あくまでこの“流通の目詰まり”を解消するためだとした。農水省が備蓄米を放出して価格が下がりそうだとわかると、投機目的でため込んだ業者が慌てて市場に米を出すだろうから米価はさらに下がると主張したのである。しかし、備蓄米を放出しても市場への供給は増えず、米価はむしろ上昇した。“投機目的でため込まれた米”は出てこなかった。無いのだから当然である。
小泉農相は、卸売業者が前年同期比で5倍の利益を稼いでいるなど流通に問題があるので、その可視化を図ると言う。しかし、昨夏以降価格が上昇したので、安く買ったコメが高く売れただけであり、改善してもコメの卸売業者の利益率は他の業種に比べて低い水準である。
卸売業者は、集荷、分荷、精米加工などさまざまな機能を果たしている。もし、この機能が要らないのであれば、市場経済の下でとっくに淘汰されていただろう。卸売業者は巨大な農協組織と強力なバイイングパワーを持つ大手スーパーの間にあって、低い収益率でコメ流通の円滑化という使命を果たしているのが実情だろう。それどころか、減反でコメの市場規模が半減されたため廃業していった多数の中小卸売業者こそ、農政の最大の被害者である。そもそも、もし流通に問題があるなら以前にも今回と同じ問題が起きていたはずである。

■農家の時給は安くない
第3に、コメ農家にとってこれまでの米価は低すぎたのかという点である。
農家が卸売業者に販売する玄米60キログラム当たりの価格は、現在2万8000円であり、3割近い減産となった1993年の平成の米騒動の際の2万3000円を大きく上回る過去最高の価格である。やっとデフレ前の水準に戻っただけだという主張はウソである。
農家の7割ほどが米を作っているのに、農業生産額に占める米の割合は16%に過ぎない。
高米価・減反政策で米農業にコストの高い多数の零細な農家が滞留している。零細な農家の経営は30年ほどずっと赤字だ。かれらは米価が高いので、町でコメを買うよりも、自分で作った方が赤字でもまだ安上がりだと判断してコメ作りをやめないだけである。また、本業はサラリーマン等で年間30日くらいしか農業に従事していない。
時給10円という主張が行われた。これは115円の誤りである。しかし、5ヘクタール未満層では▲470円の赤字だが、それ以外の階層では全てプラスであり、10~15ヘクタールでは1000円を超え、大規模な20~30、30~50ヘクタールでは1710円、50ヘクタール以上層では2216円である(参考記事)。
それなのに、平均が115円にしかならないのは、5ヘクタール未満の零細層に多数の農家がいるため、農家戸数を考慮して平均値を出すと、零細層の値に引きずられて小さな額となるからである。

コメ農家に1ヘクタール未満の多数の零細赤字農家がいる一方で、コメ供給の大半を担っているわずかの農家は、数年前の“低米価”でも大きな利益を挙げている。規模が拡大するにつれ、コストは下がり所得は増える。30ヘクタールの農家は2000万円近い所得を稼いでいる。これらの農家を十把一絡げに議論すべきではない。
■「直接払い」と「戸別所得補償」は根本的に違う
第4に旧民主党政権の戸別所得補償をどう評価すべきかという点である。立憲民主党も国民民主党も直接支払いを掲げている。そのもとになっているのは、戸別所得補償である。
実は、この元になった提案は私の案だった。2001年の参議院選挙での選挙公約では、「事実上強制となっている米の減反については選択制とし、……新たな所得政策の対象を農産物自由化の影響を最も大きく受ける専業的農家」とし、2003年のマニフェストでは、「食料の安定生産・安定供給を担う農業経営体を対象に、直接支援・直接支払制度を導入します」としていた。私の主張に注目していた有力議員がいて、減反緩和・廃止→価格引下げ→対象者を絞った直接支払いという私の提案を採用したのだ。
しかし、2004年参院選のマニフェストでは、農民票を意識して「対象者を絞る」という要素をはずしてしまった。そして2007年7月、自民党からバラマキの直接支払いと批判された「戸別所得補償」の導入と減反の廃止を主張した民主党は参議院選挙で大勝した。
「戸別」とは農家に一戸ずつ配るという意味で、選挙目当ての小沢一郎氏のネーミングだった。ところが、減反を廃止して価格が下がると、一定の保証価格と市場価格の差を補てんする戸別所得補償の財政負担が大きくなる。このように判断したため、2008年には減反廃止の選挙公約を撤回した。
戸別所得補償は、減反という価格支持政策を維持・強化したままで、財政支出を加えるものとなった。これが、価格支持政策から直接支払いに切り替えたEUと根本的に違う。価格を下げないのだから、消費者負担は変わらない。それに納税者負担が加わった。
■日本の農業政策が「高米価」に固執する理由
第5に、なぜ直接支払いではなく、減反・高米価政策なのかという点である。
農家の所得を確保するなら、価格ではなくEUのように政府から直接支払いを交付すべきである。これが世界中の経済学者が推奨する農業政策である。
しかし、これが日本では政治的にできない。減反・高米価政策はJA農協発展の基礎だからである。
コメ農家の多数を占める零細兼業農家は農業所得の4倍以上に上る兼業収入(サラリーマン収入)をJAバンクに預金した。また、農業に関心を失ったこれらの農家が農地を宅地等に転用・売却して得た膨大な利益もJAバンクに預金され、JAは預金量100兆円を超すメガバンクに発展した。減反で米価を上げて兼業農家を維持したこととJAが銀行業と他の事業を兼業できる日本で唯一の法人であることとが、絶妙に絡み合って、JAの発展をもたらした。
週末しか働かない兼業農家にとって、肥料等の生産資材をフルセットで供給してくれ、作った農産物も一括して販売してくれるJA農協はありがたい存在である。購入や販売の代金決済も全てJA農協の口座で行われる。JA農協がなければ兼業農家は農業を続けることはできない。兼業農家はJA農協に丸抱えされていると言ってよい。そのJA農協によって組織された多数の零細兼業農家は農林族議員を応援した。農林族議員は食糧管理制度によるコメの政府買い入れ価格(生産者米価)引き上げ、今は減反・高米価政策で、これに応じた。いつしか水田は票田となった。また、農林族議員は農水省が減反補助金などの予算を獲得するのに力を貸した。JA農協は農水省の貴重な天下り先になった。
私は、『農協の大罪』(宝島社新書)という著書の中で、農水省、JA農協、それを政治で支える自民党農林族議員の利益共同体を農政トライアングルと呼んだ。この共同体は零細な米の兼業農家を維持する点で共通の利益を持っている。そのコアとなる手段が減反・高米価政策である。農水省が備蓄米の放出に抵抗するなど、JA農協の発展の基礎となった高い米価を下げないように行動するのは、このためである。
■食料安全保障を脅かす減反政策
第6に、減反政策はコメ農家の維持や食料安全保障のために必要なのかという点である。
米価が下がると農家が困るのではないか、コメ生産が維持できなくなるのではないかという指摘がなされる。しかし、コメ生産を維持するために、コメ生産を減少させる(減反である)というのは矛盾していないだろうか。また、アメリカやEUは農家の所得を保護するために、かなり前から高い価格ではなく直接支払いという政府からの交付金に転換している。
今は水田の4割を減反して1000万トン可能な生産量を650万トン程度に抑えている。減反をやめて350万トン輸出していれば、輸出量を若干少なくするだけで国内の不足は生じなかった。
1960年から世界の米生産は3.7倍に増えているのに、日本は減反補助金を出して4割減らした。台湾有事などでシーレーンが破壊され食料輸入が途絶すると、戦時中の2合3勺の配給を賄うために1600万トンの米が必要となる。しかし、減反政策のため備蓄米を入れてもその半分しか手当できない。国民は余命半年しかないということである。戦前の農林省の減反案を潰したのは陸軍省だ。減反は安全保障と相容れない亡国の政策である。
また、減反は生産を抑える政策なので、米の面積当たり収量(単収)を増加させる品種改良はタブーになった。今では、減反開始時に日本と同じ水準だったカリフォルニアの米単収は、日本の1.6倍になっている。情けないことに、1960年頃は日本の半分しかなかった中国に追い抜かれてしまっている。
水田面積全てにカリフォルニア米ほどの単収の米を作付けすれば、長期的には1700万~1900万トンの米を生産することができる。単収が増やせない短期でも、1000万トン程度の米は生産できる。最も効果的な食料安全保障政策は、減反廃止による米の増産と輸出である。平時には米を輸出し、危機時には輸出に回していた米を食べるのである。平時の輸出は、財政負担の必要がない無償の備蓄の役割を果たす。
また、他の穀物と比べ米の貿易は規模が小さいうえ頻繁に輸出制限が行われる不安定な市場である。今の世界の貿易量の2割に相当する米をわが国が輸出すれば、世界の食料安全保障に貢献できる。
■減反政策は正当化できない
毎年3500億円の減反補助金を農家に出して供給を減らし米価を上げている。医療の場合は、財政負担を行うことで国民は安く医療サービスを受けられるのに、米では国民は納税者として負担して消費者としてまた負担している。
減反は水田面積の4割に及ぶ。水田を水田として利用するから、水資源の涵養、洪水防止、生物のゆりかごなどの機能を発揮できるのに、50年以上も水田として利用しないことに補助金を払っている。どこを探しても減反を正当化する経済理論はない。
■農業再生のために構造改革は必須
第7に、農業改革の是非という点である。
近年、カリフォルニア米の価格が上昇し、日本米との価格差はほぼ解消した。
減反を廃止すれば米価はさらに低下し、輸出は増える。消費者は利益を受ける。コストが高い零細農家は耕作をやめて主業農家に農地を貸しだす。米価が下がって困る主業農家への直接支払いは1500億円くらいで済む。この直接支払いは地代補助の働きをし、農地は円滑に元零細兼業農家から主業農家に集積する。規模拡大で主業農家のコストが下がると、その収益は増加し、元兼業農家である地主に払う地代も上昇する。
農業所得がマイナスの零細農家が何戸集まってもプラスにならない。しかし、規模が拡大するにつれ、コストは下がり所得は増える。1人の農業者に30ヘクタールの農地を任せると、2000万円近い所得を稼いでくれる。これを地代として配分すれば集落全体の利益になる。家賃がビルの維持管理の対価であるのと同様、地代は、地主が農業のインフラ整備にあたる農地や水路等の維持管理を行うことへの対価である。健全な店子(主業農家)がいるから、家賃によってビルの大家(地主)も補修や修繕ができる。農業を行う人とそのインフラを整備する人との役割分担をはっきりさせなければ、農村集落は衰退する。農村振興のためにも農業の構造改革が必要なのだ。
■「食料自給率」という指標のまやかし
第8に食料自給率は食料安全保障の指標として適切なのかという点である。
多くの人が、食料自給率という農業村が作った虚構を信じた。60%以上も食料を海外に依存していると聞くと国民は不安になり、農産物関税を維持したり農業予算を増やしたりすべきだと思ってくれる。
食料自給率とは、現在国内で生産されている食料を、輸入品も含め消費している食料で割ったものである。したがって、大量の食べ残しを出し、飽食の限りを尽くしている現在の食生活(食料消費)を前提とすると、分母が大きいので食料自給率は下がる。同じ生産量でも40年前、60年前の消費量だと食料自給率は上がる。政府がコントロールできない分母の消費の違いによって食料自給率は上がったり下がったりする。そもそも政策の指標として不適切である。
逆に、終戦直後の食料自給率は、海外から食料が入ってこなかったので100%である。しかし、餓死者が出た戦後の方が良かったとは、誰も言わないだろう。同じくシーレーンが破壊されて輸入が途絶する食料危機の際は、国内生産と国内消費は同じになるので、政府が努力しなくても100%に“なる”。
本来、食糧安全保障とは、海外から輸入できなくなったときに、どれだけ食料を生産・供給して国民の生存を維持できるかという問題である。輸入途絶という危機時に牛肉も豚肉もチーズもたらふく食べている今の食生活を維持できないのは当然である。輸入が途絶すれば、小麦製品のパン、ラーメン、大豆製品の豆腐、納豆、輸入穀物の加工品である、牛乳、バター、チーズ、牛肉、豚肉、鶏肉、卵など、多くの食品が食べられなくなる(日本の畜産はほぼ壊滅する)。食べられるのは米麦やイモくらいしかない、終戦直後の食生活に戻るしかない。この危機への対応として何をすべきかを検討しなければならないのに、今の食生活を前提とした食料自給率は、政策的にも意味がない。
■JAに忖度する自民、明確な増産を打ち出した公明
では、各党の公約を検討しよう。
自民党
自民党の公約は、以前のものとほとんど変わらない。生産基盤の強化、農家所得の向上、食料安全保障の強化といったもので、政策的に目新しいものはない。
「既存予算とは別枠で思い切った規模の予算を確保します」と言っているのも、農家というよりJA農協や土地改良団体への従来からのアピールのやり方だ。自民党農林族議員は、予算・施策の内容よりもどれだけ予算を確保したかをアピールしてきた。農業にとって良いかどうかというより、予算の確保によってJA農協や土地改良団体の事業量が増加することを訴えてきたのだ。
「規模の大小や個人・法人等の経営形態にかかわらず担い手の育成・確保に努めます」という。構造改革というのは対象を絞るという選別政策である。規模の小さい農家も担い手なら、規模の大きな農家に農地を集積してコストを下げ、消費者に安く安定的に食料を供給するというこれまでの農政は否定される。
「コストに見合う価格形成」を促進するという。できる限り米価を下げないようにしようというのである。適正な価格形成論であり、直接支払いの観点はない。
しかし、これらは石破首相の発言と異なる。かれはコメの増産、輸出という。また、すべての農家を政策の対象とすべきではないと言う。選挙後、来年6月をメドとしてコメ政策を見直す。それが、自民党の公約と異なる内容となることを期待したい。
公明党
適正な価格形成論を主張しているのは自民党と同じだが、コメの増産をはっきりと明示している。また、生産性向上のため農地の大規模化・集約化を打ち出している。
■構造改革を否定、バラマキを訴える「立民」「国民」
立憲民主党・国民民主党
立憲民主党は戸別所得補償をバージョンアップするという。「食料と農地を守る直接支払い」というが、戸別所得補償も面積当たりの交付金だった。おそらく対象農家を限定しないバラまき方式で、面積当たりの単価を増やすことをバージョンアップと言っているのだろう。直接支払いを導入するなら、生産者に対して適正な価格を保証する必要はないのに、食管制度時代に政府買い入れ価格(生産者米価)を大幅に引き上げろと叫んだ前身の日本社会党の思考から脱却できないでいるようだ。
表現方法は異なるが、内容的には、国民民主党と立憲民主党は違わない。立憲民主党と同じく、生産者にとっての適正な価格形成、直接支払いを主張したうえで、多様な経営体を担い手として位置付けるとしている。立憲民主党よりもバラマキを明確に打ち出し、構造改革を否定している。
■公明と近しい「維新」、減反廃止は良いが誤りも多い「参政」「共産」
日本維新の会
農業については内容に乏しいが、縮小生産から拡大生産としている。都市政党として公明党に近い。
参政党
農業について多くの主張を行っている。減反廃止を主張していることは評価できる。しかし、食料自給率を食料安全保障の指標と考えているのは誤りである。今の食生活を前提にして自給率を100%にするのであれば、森林も含めて日本の国土の半分くらいを農地に転換しなければならない。農業予算を10兆円に増やしても農地がなければ達成できない。農家の公務員化は、ソ連時代のソフォーズやコルホーズの失敗から明らかだろう。
日本共産党
今回のコメ価格高騰が供給不足によるものだという認識は正しい。また、減反を廃止することも正しいアプローチである。しかし、増産したまま輸出しないとするなら、そのコメは誰が管理するのだろうか。同党はまた構造改革を否定する。旧食管制度時代の政府介入や高保護に戻るべきだというのだろう。
■ほとんどの政党は農業票を失うことを恐れた
ほとんどの政党は農業票、特に圧倒的多数を占める零細な兼業農家やJA農協の票が逃げていくことを恐れたのだ。
先物市場の再開など市場が欠如していることを問題提起する政党はない。現在の日本の米政策はJA農協の利益を考慮して矛盾の塊となっている。来年6月まで抜本的な改革を行うことができるのだろうか? 農林族議員に配慮して、農業改革では何もできない総理がまた誕生するのだろうか?
石破氏は座生の銘としている渡辺美智雄氏の「勇気と真心を持って真実を語る」という言葉を実践できないで終わるのだろうか?

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山下 一仁(やました・かずひと)

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県生まれ。77年東京大学法学部卒業後、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、同局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員、2010年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。著書に『バターが買えない不都合な真実』(幻冬舎新書)、『農協の大罪』(宝島社新書)、『農業ビッグバンの経済学』『国民のための「食と農」の授業』(ともに日本経済新聞出版社)、『日本が飢える! 世界食料危機の真実』(幻冬舎新書)など多数。近刊に『食料安全保障の研究 襲い来る食料途絶にどう備える』(日本経済新聞出版)がある。

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(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 山下 一仁)
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