伝統的な国内企業がさらなる成長を遂げるためには、何をしたらいいのか。富士通副社長・大西俊介さんの著書『CROの流儀 人・サービス・売り方を変え提供価値と収益を最大化する』(日経BP)より、富士通グループのDXコンサルティング会社Ridgelinez取締役会長・今井俊哉さんとの対談をお届けする──。

※本稿は、大西俊介『CROの流儀 人・サービス・売り方を変え提供価値と収益を最大化する』(日経BP)の一部を再編集したものです。
■体力も気力もある若いうちに重責を
【大西】富士通が立ち上げた新しいコンサルティング事業であるWayfindersでは2025年度までにコンサルティング人材を約1万人(ビジネスで3000人、テクノロジーで7000人)規模に拡充する計画を対外公表しています。
この数字を言うと皆さん驚かれるのですが、大きく富士通を、そして世界を変えるときに50人や500人では何もできないんですよ。でも、これが3000人、7000人になると可能性が出てくる。
【今井】1万人という数字が目立ちますけど、5000人でも2万人でもいいんですよ。重要なのはその質です。
(富士通社長の)時田隆仁が1万人と言ったのは、要は「富士通は本気でやりますよ」という意味です。12万人の社員を抱える富士通なんだから、コンサルタントが3万人ぐらいいてもおかしくはないんです。
一方でいきなりその数字だけ一人歩きすると外部のコンサルティング会社をM&A(合併・買収)するみたいな話になるけど、そうではない。目的は富士通の中の人たちの一挙手一投足を変える方ですから、コンサルタントとして機能できる人材を内部で育成していく。そうでないと富士通と顧客の関係性を本当の意味で変えることはできないと思います。
【大西】外資系のコンサルタントの育成で合理的だと思うのは、担う責務の重さが若い頃から段階的に上がっていくところです。
体力も気力も高い若いときから重責を担う方が私は良いと思うのです。でも富士通も含めたいわゆる「JTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)」は横ばい状態が長く続いた後に、役職がついてから責任が急激に右上がり曲線を描くホッケースティック型なんですね。
■「コンサル」に求められる資質
【大西】富士通の社員もまだ頭が柔らかいうちから、どんどんコンサルタントとしての素養を磨いてほしい。
そこで課題になるのが教養や社会性で、今のところ未熟な部分が否めません。でも実は、富士通には教養や社会性を身につける機会が豊富にあるんです。それは顧客が教養や社会性を求めるところばかりだからです。
ありがたいことに富士通は名だたるグローバル企業とお付き合いをさせていただいています。そういった企業の経営陣と対峙することは、大きな価値があると思っています。
【今井】それはいわゆる外資系コンサルティング会社の「ビッグ・フォー(PwC、EY、KPMG、デロイト)」をみるとよく分かります。
ビッグ・フォーは近年、急成長しましたが、やはり彼らはストライクゾーンが広いんですよ。なぜかというと、そこはさっき大西さんが指摘した社会性につながってくると思います。
経営者が考えなければならない課題は多岐にわたります。
1つの課題だけを解決しても根本的な解決にはならない。これを実施すると、おそらくこういうことが起きる。そうすればこんな問題が生じるといった連携もある。犠牲もあるけど企業全体のことを考えると決断しなければならない局面もあります。
コンサルタントは、そこまで考えを及ばせて、経営者と同じ心持ちで対峙できるかどうかが問われるのです。
■「できません」だけでは終わっていた
【大西】そのためにも企業のトップと正対して議論できる社会性が絶対必要なんですね。
【今井】SAPにいたとき面白い出来事がありました。米国のソリューション・ベンダーはプレゼンテーションで5年後、10年後にしかできないことを、まるで今すぐできるかのようにしゃべります。
でもドイツに本拠を置くSAPの開発者たちは日本人と似たような気質があって、できないことはできないと言うのです。
【今井】わざわざ日本に出張してきて「やっぱりできません。間に合いません」って言われて、私は「なんのために来たんだ」と思ったのですが、結論から言うと、この案件が成約に至ったんですよ。
「今井さん、あれがよかった。
実は僕も間に合わないんじゃないかと思っていた。だけど、正直に言ってくれたおかげでSAPを信頼しようと思った」と後で顧客から打ち明けられました。
話の持っていき方はとても大事です。それは普段からしかるべき人とちゃんとコミュニケーションを重ねて相手を理解できているからこそできること。このときの話も単に「できません」だけで、対応策を提示しなかったらダメだったと思います。
■社会性と「創造性」がコンサルには必要
【大西】社会性に加えてもう1つ、コンサルタントに大事な要素は創造性だと思っています。つまり右脳を働かせることがとても重要なのです。
論理的な思考や計算などを司る左脳に対して、右脳は音楽や発想など芸術的な分野と深く関連していますが、富士通が弱いのはこの右脳の部分です。
【今井】やはりコンサルティング業界の第一線にいる人は個性が強い。例えばバークレーの音楽学院出身だったり芸術に造詣が深かったり、多様なバックグラウンドがある人が多くて、着眼点や発想がとても面白い。コンサルタントは、今までにない新しい価値を提案しなければならないわけですから創造力が大切なのです。
一流のコンサルタントは一様に染まることを嫌う傾向があると思います。
富士通だけじゃなくてIT企業全般に言えることですが、決められた工程を上流から下流に遂行していく開発、いわゆるウオーターフォール的なものの考え方が長年染み付いているから、右脳を働かせるのは確かに苦手ですよね。
【大西】たとえゼロから生み出すことができなくても、あるもののつなぎ方を変えるとか、順番を変えるだけでも見えてくるものがあります。
様々な方法論を生み出す力がコンサルタントには不可欠です。そのためにも固定概念にしばられていない、発想に柔軟性のある若いうちに訓練した方がいい。
そこでこういうやり方があるんだよとお手本を見せるために、Wayfindersに外部からコンサルティング業界の第一線で活躍していた人材を迎えています。これは、Ridgelinezで最初に今井さんがやったやり方を踏襲しています。
■ただの「顧客」と「IT企業」という関係ではなく
【今井】Ridgelinezは富士通グループに属していますが、いわば本土からは少し離れている出島のような存在です。
一般的な親会社と子会社のような関係性ではなく、相互補完的な関係です。現在、社員数は約550人。最初は富士通グループの出向者からスタートして中途採用を強化し、今では外から採用した人間が350人以上います。
優秀な人材であれば、性別や国籍によらず積極的に受け入れています。顧客からお金をいただいている以上、期待以上のクオリティを創出しなければならないわけです。

それができる集団をつくることが何よりも大事。まだまだ足りないところはありますが、外から来た優秀なコンサルタントに刺激され人材育成も進み、「戦略から実行までを支援する総合プロフェッショナルファーム」としての建付けには何とかたどり着くことができたと思っています。
とはいえ、まだ550人の会社です。社会を変える影響力のあるグローバル企業を網羅できるかといえば、まだまだできません。だから富士通自身が変革して顧客との関係性のなかで価値を見いだせるような存在になる必要があります。
要は顧客とIT企業の関係ではなく、本当の意味で一緒に課題を解決していけるパートナーにならなければいけない。そこに導くためのラストピースがWayfindersになるわけです。
■「一歩先」の未来を切り拓いた
【大西】日本人って基本的に変わることを嫌がる体質があると感じます。大きな問題がなければ、できれば現状のままがいいと考える人が多い。それは会社も同じです。
でも、会社を変えよう、社会を変えようというときに、躊躇して一歩が踏み出せない顧客に対して、われわれは背中を押せる存在でなければなりません。
清水の舞台から「一緒に飛びましょう! あれ? 飛ばないんですか。
じゃあ僕が先に飛びますね」と先に飛んでちゃんと着地して「ほら大丈夫ですよ」と見せる。そう言えるのは、先にRidgelinezがやってくれたからです。絵に描いた餅ではない、富士通も同じように悩んで挑戦した、克服したと示せる。これはとても大きいと思っています。
【今井】Ridgelinezの立ち上げ当時はコロナ禍が始まった時期で不安もありましたが、今いえることはコンサルティングサービスに重要なのはスピード感だということです。変革を実現するには膨大なエネルギーと時間がかかりますからね。
それをわれわれが外部からお手伝いするわけですからスピード感が欠かせないのです。日本では“朝令暮改”という言葉は、あまり良い意味では使われませんが、変化を恐れず、まずは実行に移すことが重要だと思います。

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大西 俊介(おおにし・しゅんすけ)

富士通執行役員副社長CRO、コンサルティング担当

1984年一橋大学経済学部卒業、日本電信電話に入社、NTTデータ、外資系コンサルティング会社などを経て、2013年NTTデータグローバルソリューションズ代表取締役社長。2017年インフォシスVice President日本代表。2019年富士通に入社。2023年4月よりCRO兼グローバルカスタマーサクセスビジネスグループ長。CRO(最高収益責任者)として、フロント組織のガバナンス強化とグローバル横断で顧客のビジネス拡大をリードしている。2025年4月より現職。

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(富士通執行役員副社長CRO、コンサルティング担当 大西 俊介)
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