相手の本心をつかむには何をすればいいか。元JALのCAで研修コンサルタントの香山万由理さんは「『手』には本音が表れる。
大きな取引をする場合など、相手が噓をついていないか、信用に足る相手かどうか、その判断材料として、仕事ができる人は相手の『手』に注目している」という――。
※本稿は、香山万由理『仕事ができる人は、「人」のどこを見ているのか』(光文社)の一部を再編集したものです。
■「目」にも劣らず「手」は口ほどに物を言う
仕事ができる人は、「手の動き」を見ている
「目は口ほどに物を言う」といわれるように、目には感情が表れるので、何も言葉に出さなくても相手に気持ちが伝わります。
それほどまでに「目」がコミュニケーションにおいて果たす役割は非常に大きいのですが、身体の中には、目にも劣らず感情が表れてしまう部位があります。
それは、「手」です。
「手」は、たとえばPCで作業をしているときや食事をとるときなど、特に意識することなく動かしています。
しかし、手を使う必要がないときの「手」の置き場、これを意識し始めると案外困ってしまうものです。
私は学生時代、演劇部に所属していたのですが、舞台の上に立っているときに困ったのが、セリフをしゃべっていないときの自分の状態。手をどの位置に置いたらいいのか、いつも迷っていました。
腕を前で組むのがいいのか、後ろで組むのがいいのか、腰に当てるのがいいのか……そんなことしか思いつかず、不自然な格好にならないよう、ただぼーっと突っ立っているように見えないよう、日々研究していました。 このとき、セリフがないときの演技が一番難しいことを痛感しました。
同じ舞台の上に立っているときは、他の役者と「意識の共有」をしている状態です。

ですから、手をどう「演じる」かで、心理状態を表現することができます。
これを実生活に当てはめてみると、手の動きで相手の本心を見抜くことができるのです。
■両手に力を込めてアタッシェケースを抱える男性
CAは、サービス要員であるとともに、保安要員でもあります。いつか起きるかもしれない緊急事態に備え、瞬時にどう判断し行動するかを予測しながら、日々緊急脱出訓練を重ねています。
飛行機は一度離陸してしまうと、車のようにすぐに停めて降りることはできません。ですから、お客さまがご搭乗中は、「いらっしゃいませ。ご搭乗ありがとうございます」とにこやかにお迎えしながら、実はしっかりとお客さまのことを観察しています。
毎日多くのお客さまに接していると、人を見る目が養われてきて、ちょっとした違和感にも敏感になってくるものです。
あるフライトで、一人の男性のお客さまが搭乗される際、その「手」に目が行きました。両手に力を込めてアタッシェケースを大事そうに抱えていたのです。
違和感を抱いた私は、すぐに、そのお客さまの席に伺いました。まずはごあいさつ、
そして、こう話しかけてみました。

私「こんにちは。本日はご搭乗ありがとうございます。今日はお仕事でいらっしゃいますか?」

お客さま「……」(目を合わせず、質問にも答えない)

私「お客さま、大変恐れ入りますが、離陸に際しまして、お手荷物は上の棚、または前の座席の下にお入れいただけますでしょうか」

お客さま「……」

私「もし、すぐにお使いになられるようでしたら、離陸後シートベルトサインが消えましたら、私がお出しいたします。安全のため、離着陸時は上の棚にお入れしてもよろしいでしょうか」

お客さま「……いや、それはできません……」
これは確実に何かあると思い、全CAに対してコール(内線電話)をし、情報の共有をしました。このまま離陸してしまったら、不測の事態が起きたとき、大変なことになるからです。
■「手」に覚えた違和感を見逃さない
今度は、別のCAがお客さまのところに向かいました。
CA「お客さま、おかばんを抱えたままでは、離陸することができません。失礼ですが、中身はどのようなものでしょうか?」

お客さま「……」
このままでは離陸はできない、と判断した私たちは、グランドスタッフ(地上係員)に機内まで来てもらいました。
アタッシェケースの中身が何かを教えてもらわなければ離陸できないことを再びお伝えしたところ、少しだけ開けてくださいました。中には、配線コードのようなものがびっしりと張りめぐらされています。
私たちはこのアタッシェケースを不審物と判断し、そのお客さまには降機していただくことになりました。もし、その配線コードが爆発物に関係するものだったら……。

あのとき、お客さまの「手」に覚えた違和感をそのまま見過ごしていたらと思うと、今でもゾッとします。
■悪用厳禁「相手に本心を見抜かれないためのテクニック」
「手」には本音が表れます。大きな取引をする場合など、相手が噓をついていないか、信用に足る相手かどうか、その判断材料として、仕事ができる人は相手の「手」に注目しています。
やたらと髪を触ったり、落ち着きなく動かしていたりすると、言葉と内心で思っていることがズレている可能性があります。目だけではなく「手」にも目をやると、相手の本心を見抜くことができます。
手の全体の動きを見るために、少し離れたところから見るのもいいでしょう。手の動きがそわそわと落ち着かないようなら、何か隠しごとがあるのかもしれません。
反対に、相手に本心を見抜かれたくないときの方法もお伝えします。それは、手の動きを見られないよう、相手とぎゅっと距離を縮めることです。
こうして相手の目をしっかり見つめ、ゆっくりと話せば、相手があなたの本心を見抜くことは難しいでしょう。しかし、悪用厳禁ですよ。
■CAの所作は「キツネの法則」で優雅に見える
CAの所作が優雅に見える理由のひとつが、手の使い方にあります。
なかでも代表的なものが「キツネの法則」です。
これは、ペンなどの細い物を持つとき、5本の指でガバッとつかむのではなく、親指・中指・薬指の3本での持ち方で、その手つきが影絵のキツネに似ているため、その名で呼ばれています。
また、お客さまに飲み物を提供する際に、トレイにカップを置いたあと、ほんの一瞬手を添えます。そうすることで、「どうぞ」というメッセージを伝えているのです。言葉に出さなくても、礼儀正しさ、相手を思いやる心が伝わります。ぜひお試しください。
仕事ができる人のポイント

信用に足る相手かどうかの判断は、「手」の動きでわかる

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香山 万由理(かやま・まゆり)

研修コンサルタント

立教大学卒業。JAL(日本航空)に入社。国際線CA(キャビンアテンダント)として10年半乗務。在籍中にCS(顧客満足)表彰を受け、皇室・VIPフライトに乗務。退職後「品性と人間力を備えた人材を育てる学校」として、研修コンサルティング法人「一般社団法人ファーストクラスアカデミー」を設立。官公庁、医療機関、企業などで、2万人以上に研修を行い、リピート率97.2%を誇る。
「接遇力」と「業績」を同時に成長させ、会社の格を上げる組織作りをサポート。JCAA(日本キャビンアテンダント協会)理事を兼任し、航空会社出身者のセカンドキャリア構築支援に従事する。また、高野山真言宗の僧侶としての顔も持ち、研修では仏教哲学も伝えている。

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(研修コンサルタント 香山 万由理)
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