※本稿は、保坂隆『精神科医が教える 心と体をゆっくり休ませる方法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■「いつでも・どこでも仕事」で、ストレスが増えてしまう
現代人の「疲労」を語るうえで、「ストレス」というキーワードを無視することはできません。
職場では上司や同僚との対人関係に気を使いながら、仕事を効率よくこなすこと求められ、家庭でも夫や妻などのそれぞれの役割を果たすことが求められる――常に何かに追われている感覚を、あなたも抱えていませんか。
真面目な人が多い日本人は、それらすべての役割を「完璧にこなそう」とする傾向にあります。この「完璧主義」の姿勢が、知らず知らずのうちにストレスを生み出し、心身に負担をかけているのです。
また、テクノロジーの進化も、もともと高ストレス社会だった環境に追い打ちをかけています。スマートフォンやチャットツールなどにより、いつどこでも手軽にやり取りができる環境になったため、「プライベートに仕事が食い込んでくる」という状況をつくり出してしまったわけです。
夜遅くや休日に仕事の相談や指示が届き、ところかまわず返信を迫られる状況は、あなたからリラックスする時間を奪います。その結果、ストレスが蓄積し、心の疲労が抜けにくい状態が続いてしまうのです。
このように、現代生活で生じるストレスは、多くの場合、無意識のうちに蓄積され、精神的な疲労となるのです。ここに肉体的な疲労も加わり、私たちは身も心も疲れているといっていいでしょう。
休日にも仕事のメールに追われていませんか?
■「休むこと=怠けること」ではない
休むことは、決して怠けることではありません。むしろ自分を守るために必要な、大切な行為といってもいいでしょう。心身の健康を保つためには、疲労がたまる前に、意識的に「休む時間」を確保することが必要なのです。
心と体をリフレッシュさせるためには、意識してリラックスできる環境をつくったり、心が安らぐ習慣を持ったりすることが大切です。
たとえば次のようなことです。
●自然に触れる時間を持つ
●趣味に没頭する
●デジタル機器から離れる
●信頼できる人と話をする
●睡眠の質を上げる
「休む」ことにはもうひとつ、重要な役割があります。
それは、周囲の人々との関係性を良好に保つ役割です。疲れがたまり、心に余裕がなくなると、些細なことでイライラしたり、大切な人に冷たい態度をとってしまったりすることがありますね。誰にでも、そんな経験があるはずです。
逆に、心身が十分に休まっている状態であれば、他人に対しても寛容になり、明るい気持ちでコミュニケーションをとることができます。
もしあなたが「疲れている」と感じる機会が増えているなら、それは心身からの大切なメッセージです。その声に耳を傾け、無理をしすぎず、意識的に休む時間をとるように心がけてください。
休養をとることで、自分自身が持つエネルギーを回復し、新しい一歩を踏み出す準備が整います。そして、その効果は、あなたの人生だけでなく、周囲の人々にもポジティブな影響を与えるのです。
休んだほうが、人間関係もうまくいく
■大事なのは、自分に合った休み方
心身の疲労を癒やすためには、休養を日常生活の一部として取り入れることが重要です。具体的な方法をいくつか紹介しますので、これらを参考にして、あなた自身に合ったリフレッシュ方法を見つけてください。
①日常に「休む習慣」を組み込む
忙しい日々を送る中で、休む時間を意識的に確保するのは簡単ではありません。しかし、仕事も含めた日々の生活の中に「休養の時間」を上手に組み込んでしまえば、日常的に心身を癒やす機会をつくることができます。
たとえば、ランチの時間を「息抜きタイム」として活用する、週末に数時間でも「何もしない時間」を確保する、または「思いきって早退してみる」など、小さな工夫から始めてみましょう。
②自然と触れ合う
自然の中で過ごす時間は、心身の疲労を癒やすうえで非常に効果的です。とくに、緑豊かな公園や山、川沿いの散歩道などでリラックスすると、精神的なストレスを軽減し、ポジティブな気持ちを引き出してくれます。
週末に短時間でも外に出る習慣をつけて、日々のストレスから解放されるようにしましょう。
③睡眠の質を高める
疲れをとる基本は、質のよい睡眠を確保することです。睡眠不足や不規則な生活は、免疫力を低下させる原因にもなります。
寝る前にスマートフォンやパソコンを使う時間を減らしたり、就寝前のリラックスルーティンを取り入れることで、睡眠の質を向上させられます。
音楽など、自分がリラックスできることを活用してみるのもおすすめです。
④運動を適度に取り入れる
適度な運動は、心身の健康を維持するうえで欠かせません。とくに、ウォーキングやストレッチ、軽いヨガなどは、ストレス解消にも効果的です。
ただし、運動をしすぎると逆効果になることもあるため、無理のない範囲で楽しむように心がけましょう。
「ボーッとしている時間」に心身が回復する
■ちょっとぐらい「いい加減」でかまわない
「私は生真面目かもしれない」と思ったことはありませんか。もしそうであれば、じつは、知らない間に心を消耗させているかもしれません。
というのも、一度決めたことは「何があっても続けなければいけない」と考えますし、ちょっとした習慣でも「続けなければいけない」と思いがちだからです。
たとえば、「毎日、英会話のラジオ講座を聴く」と決めたら、疲れている日も無理して聴きます。「駅のエスカレーターを使わず、階段を上り下り」を習慣にしていたら、重い荷物を持っていてもエスカレーターを使いません。
普通なら「ラジオ講座は、あとからネットで聴けばいい」「荷物が重たいから、エスカレーターに乗ろう」と考えますが、生真面目な人はそうは考えないのです。
この状態は自分自身に対するいわば強制です。
そのうえ、生真面目な人は、自分で決めたルールに従って生活や仕事をこなすことを好むため、想定外の出来事やトラブルが起きようものなら、柔軟に対応できず、イライラを募らせます。
たとえば、散歩に行こうとしているときに、突然お客様が来たとします。普通の人なら、「散歩は明日行けばいい」と考えますが、生真面目な人は「毎日この時間は散歩をする」という予定が実行できない状況に、強いストレスを感じるわけです。
人生は自分の思いどおり、予定どおりにはいかないものですよね。想定外なことが待ちかまえていて、それに臨機応変に対処しなければなりませんが、そのたびに大きなストレスを感じていたら、心がすり減ってしまいます。
それならば、生真面目な人は「融通が利かない」という部分を削除してしまったほうがいいでしょう。そこでおすすめしたいのは「いい加減」をモットーにすることです。
■やり方や手順にこだわらない考え方
普通の人は多かれ少なかれ、いい加減な部分を持ち合わせているでしょうから、これをモットーにすると、いい加減ではすまず、大変なことになるかもしれません。
しかし、生真画目な人の場合はやりすぎる傾向があるので、いい加減くらいがちょうどよいのではないでしょうか。
ところで、ここで悩ましいのは、どのあたりを「いい加減」とするかです。おそらく、生真面目な人はその目安もわからないまま、どうしたものかと立ちすくんでしまうでしょう。
もし毎日運動しているなら、「今日も1時間しっかり運動しなければ」と思わずに、疲れている日には「30分でいいかな」とゆるく考えるだけでいいのです。そうすると気持ちも体もラクになりますよ。
もうひとつおすすめしておきたいのは「結果オーライ」という考え方です。
仕事でも、料理でも、やり方や手順はあるでしょうが、それにこだわらず、「うまくいけばOK」「おいしくできたらOK」と考えてください。
そうすると、「なーんだ、これでもいいのか」と気づき、今までの自分がどれだけひとつのことに縛られていたかがわかるはずです。
真面目すぎるとストレスを抱えやすい
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保坂 隆(ほさか・たかし)
精神科医
1952年山梨県生まれ。保坂サイコオンコロジー・クリニック院長、聖路加国際病院診療教育アドバイザー。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。1990年より2年間、米国カリフォルニア大学へ留学。東海大学医学部教授(精神医学)、聖路加国際病院リエゾンセンター長・精神腫瘍科部長、聖路加国際大学臨床教授を経て、2017年より現職。また実際に仏門に入るなど仏教に造詣が深い。著書に『精神科医が教える50歳からの人生を楽しむ老後術』『精神科医が教える50歳からのお金がなくても平気な老後術』(大和書房)、『精神科医が教えるちょこっとずぼら老後のすすめ』(海竜社)など多数。
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(精神科医 保坂 隆)