信頼関係を築くのが上手な人は、何が違うのか。『いつも好印象な人がしている言葉の選び方』(あさ出版)を書いた松はるなさんは「よかれと思ったひと言が、相手との距離を生んでしまうことがある。
よく使いがちなフレーズのなかには、気付かぬうちに誤解を招く言い回しも少なくない」という――。(第1回)
■お互いに前向きになれる言葉がいい
言葉には、お互いの気持ちを明るくしてくれる言葉と、気持ちを暗くしてしまう言葉があります。気持ちを暗くしてしまう言葉がすべて悪いわけではありませんが、自分自身と相手に与える影響を考えた場合、やはりできるだけ前向きになれる言葉を選んだほうが良いですし、得もするでしょう。
この人と話すと「いつも前向きになれる」「自信が持てる」「やる気が湧いてくる」と感じさせてくれる人は総じて、ポジティブな言葉を多く発しています。断る言葉ひとつにしても、「次につながる前向きな言葉」を選んでいたり、注意する場面でも「相手を責めずにお互いのやる気を高める言葉」を使っていたりと、言葉選びが上手です。
仕事・家族・友人・恋愛、すべての人間関係において「お互いが前向きになれるかどうか」はとても重要です。前向きになれる関係性でいれば、一緒にいることで心が豊かになり、たとえ大変なことがあっても乗り越えていけたり、お互いに高め合える「良い関係」を築いていけるでしょう。
■話題を変えるなら「思い出したのですが」
では、「言われたら嫌な気持ちになる言葉」が数多くある中で、どんな言葉を選ぶと、お互いが前向きな気持ちになれるのでしょうか? よく言ってしまいがちなあまり良くない例と、好印象を与える言いかえ例の2つを紹介しながら解説していきます。早速、例を見ていきましょう!
【×】 話は変わりますが

【○】 ○○さんのお話を聞いて思い出したのですが
相手が気持ち良く話をしているときにどうしても話題を変えないといけないとしたら、どのように話を変えますか? 「話は変わりますが」「ところで○○の件ですが」とストレートに話題を変えるのも悪くないですが、相手によっては、「話の腰を折られた」と不快に感じたり「うっかり話しすぎてしまったな、申し訳ない……」と萎縮したりする可能性もあるでしょう。
相手に恥をかかせないで、なおかつ、その場の空気を壊さずに話の流れを変える魔法の言葉があります。
それは、「○○さんのお話を聞いて思い出したのですが」です。
■相手に華を持たせることを意識する
このように前置きをしてから「この件ってどうなっていましたか?」と話題を変えると、スムーズに会話を展開できます。

「Aさんのお話のおかげで思い出せました!」と、相手が話してくれたことに対しての感謝も伝わりますし、話しすぎてしまったと萎縮させることもありません。他には、「お話が楽しいのでもっと聞きたいのですが」「面白くて聞き入ってしまいましたが」などのような前置きも良いでしょう。
あくまでも相手に「話を遮られた」と感じさせずに、「もっと話を聞きたい」という姿勢を伝え、「相手に華を持たせる」ことができると、相手も気持ち良く会話を続けることができ、自然とその後の会話が広がっていきます。「この人と話すと話題が絶えないな」と、相手はもっといろいろな話をしたいと感じることでしょう。きっと、「また会いたい」と好印象を与えることにもつながります。
【Point】話題を変えるとき、相手の話の腰を折らないように注意する。
■「先ほどのお話につながりますが」で嫌味をなくす
【×】 先ほどもお話ししましたが

【○】 先ほどのお話につながりますが
さっき話したことを相手が忘れてしまっている。伝えたことが伝わっていない。そんなとき、つい「先ほどもお話ししましたが」「さっきも話したけれど」と言ってしまうことはありませんか? この言葉、頻繁に使ってしまうと「聞いてなかったの? 何度も言わせないで」と責めるような印象を相手に与えてしまいます。
そんなときに好印象を与えつつ、相手にさりげなく注意を促せるのが、「先ほどのお話につながりますが」といった、クッション言葉です。プライベートの場でも「前にも言ったけど」と言ってしまうことはよくありますが、「この前の話につながるけれど」と前置きしてから話をすると、自然な流れで話を相手に印象づけることができます。
他にも、「もしかしたら、この前も話したかもしれないけれど」と前置きしたり、「この話って、もう私しましたっけ?」と質問したりするのも良いでしょう。
何も触れずに同じ話を繰り返すよりも、「先ほどのお話につながりますが」と前置きすることで、その内容を「重要な話」として相手に強く印象づけられるというメリットもあります。
リマインドや注意喚起をしたいときにも、「先ほどのお話につながりますが」といったクッション言葉を上手に使うようにしましょう。
【Point】クッション言葉で、伝えたことを嫌味なくリマインドする。
■「忙しい」はネガティブな印象を与える
【×】 忙しそうですね

【○】 大活躍ですね!
「忙しい」という言葉自体は悪いものではありませんが、あまり頻繁に使うと、ネガティブな印象を与えてしまいます。人はどうしても忙しいときには余裕をなくしてしまうものです。ですが、どう見ても多忙なのに、いつも気持ちに余裕があり、周りの人にも配慮ができる人がいます。
そのような人たちにお話を伺うと、みな口を揃えて「忙しいのは充実しているサイン」「忙しいことは仕事があるってこと。ありがたいです」とおっしゃいます。
余裕があるかどうかは「忙しさへの感謝があるかないか」にも大きく左右されると気づきました。以前、私があまりに多忙でいっぱいいっぱいになっていたとき、お仕事で関わりのあるお客様が「モテ期ですね!」と言ってくれたことがあります。
そのひとことで「そうか、必要としてもらえることはありがたいことだな」と我に返ることができました。
■「引く手数多ですね」「引っ張りだこですね」もいい
「忙しい」の解像度を高めると、その人が周りから必要とされていて、毎日が充実している証拠でもあるのです。
そうなると、忙しいことは良いことと捉えることができます。
「大活躍ですね」と活躍ぶりを称えたり、「引く手数多(あまた)ですね」「モテますね」「大人気ですね」「引っ張りだこですね」などのような言いかえができたりすると、相手の活力にもなります。
相手から「最近、お忙しそうですね?」と聞かれたときも、「はい。おかげさまで充実しています!」と答えられると、「忙しいこと=ありがたいこと」と感謝できる素晴らしい人だなという良い印象を与えられます。
逆に「忙しくて大変だよ~」と愚痴が始まってしまうと、「忙しいことへの感謝がない人」と、評価を落としかねません。「忙しいことは良いこと!」と、お互いが前向きになる言葉を選べるようにしたいですね。
【Point】忙しい=充実している証拠。ポジティブ言葉に変えよう。
■「参考になった」は相手が残念に思うことも
【×】 参考になりました

【○】 勉強になりました
誰かに助言やアドバイスをもらったとき、「ありがとうございます。参考になりました」と伝えていませんか?
「参考になります」はよく聞く言葉ですが、相手やシチュエーションによっては、相手が貴重な時間を使ってくれたにもかかわらず「参考程度」で終わらせることを、相手は少し残念に思うかもしれません。特に相手が目上の人の場合は、「もらった意見を参考にしかしない」となると、あなたの評価を下げることにもなりかねません。
そんなときは、「勉強になります」と、相手から新しい学びや発見があったことを伝えるようにしましょう。

他にも、「学ばせていただきます」「貴重なご意見ありがとうございます」「教えてくださり、ありがとうございます」「○○さんのお話はとても役に立ちます」のように、相手のアドバイスがとてもためになったと、感謝の言葉を伝えるのも良いでしょう。
■“学んで実践したこと”を伝えると好印象
さらに信頼されるのは、後日報告がある人です。「先日Aさんから教えていただいた件、早速取り入れてみました」と伝えるひと手間と、言葉だけでなく実際に行動にも落とし込める人であることを伝えれば、相手に好印象が残ります。
また、実際に行動することで「勉強になった」という言葉の信憑性も増します。「教えて良かったな」と相手に感じてもらえれば、また何かあったときに相談に乗ってもらいやすいですし、お互いに知っている情報や知識を交換できるようになるなど、プラスの関係性も築けるようになるでしょう。
これまで「参考になります」と伝えていた方は、「勉強になります」+「実際に行動したあとの報告」を意識しましょう。もちろん、伝えるときにはお礼の気持ちを乗せることも忘れずに。
【Point】相手から学ぶ姿勢と実践した報告を伝えよう。

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松 はるな(まつ・はるな)

言語化コンサルタント

東京都出身。株式会社ワールドにて外資系アパレルブランドの広報・PR・販売を担当。その後、株式会社角川SSコミュニケーションズにて雑誌編集のアシスタント業務に携わりながら、各企業より依頼を受けてコラムやメルマガの執筆・SNS運用・インタビューなどを行う。フリーになった現在は、ジャンルを問わず多くの企業でライティングや言語化・SNSコンサルティング、コミュニケーションを豊かにするための言語化サポートも行っている。


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(言語化コンサルタント 松 はるな)
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