■「古古米」でも美味しく炊けるのか?
2025年は、前年から続く米の供給不足による「令和の米騒動」が発生した年になった。政府備蓄米の放出があり、スーパーの店頭にも米が並ぶようになった。
今回の騒動でも分かる通り、日本人はお米に対して非常にこだわりが強い。1955年に現在の東芝である東京芝浦電機が自動で炊ける電気炊飯器を発売してから約80年。ご飯を美味しく炊くために進化し続けてきたのだ。
そして、今年もさまざまなメーカーから多くの炊飯器が登場している。フラグシップモデルの中には10万円を超える炊飯器も多い。それらの高級炊飯器は本当にご飯を美味しく炊けるのか。1万円台の炊飯器と実際に炊き比べてその差をチェックしてみた。
今回炊き比べをするにあたって、2種類のお米と、2台の炊飯器を用意した。ブランド米は新潟産のコシヒカリで、5キロで約4500円だった。そしてもうひとつが、令和4年産政府備蓄米。いわゆる古古米で、こちらは5キロで2000円だった。
まずは比較する炊飯器を紹介しよう。
1台目は象印マホービンの「炎舞炊き NX-AA10」。メーカー公式サイトの価格は16万5000円で、多くの炊飯器の中でもトップクラスの高級モデルだ。
■16万5000円の高級炊飯器の実力は…
「炎舞炊き NX-AA10」は、最大1.3気圧の圧力に対応した圧力IH炊飯器。6つに分けた独自構造の底IHヒーターを採用しているのが特徴で、炊飯時はそれぞれ2つずつ順番に加熱することで縦横の対流を促し、お米を複雑にかき混ぜる仕組み。
また、内釜には発熱効率と蓄熱性の高い鉄をステンレスとアルミで挟んだ「豪炎かまど釜」を採用している。6つの底IHヒーターと「豪炎かまど釜」の組み合わせにより、ふっくらした炊き上がりと甘みを引き出すことができるのだ。
さらに、炊飯コースやメニューも充実。中でも、炊飯後の質問に答えるだけで、次回の炊き上がりの食感を121通りに調整できる「わが家炊き」メニューや、事前アンケートで炊き上がりを調整できる「お好みごはん診断」機能も搭載する。
■1万円台の低価格モデルでも多機能
それに対して、1万円台の炊飯器として選んだのが、アイリスオーヤマの「IHジャー炊飯器 5.5合 RC-ILA50」だ。直販サイトの価格は1万4800円で、IH(電磁誘導加熱)方式を採用しながら1万円台を実現しており、本体サイズがコンパクトなのが特徴。
米の銘柄にあわせて6種類(50銘柄)に炊き分ける機能と、ご飯のかたさを3段階から選ぶ機能も備えている。また、おかず調理機能も搭載する多機能モデルだ。

■固さや粘りは自分好みに調節できる
実際に2種類のお米を2台の炊飯器で炊いてみた。両モデルとも5.5合炊きだが、3合ずつセットして、複数回炊いてみた。まずは象印の「炎舞炊き NX-AA10」で新潟産コシヒカリだ。
細かく食感の好みが設定できるが、テストでは白米標準モードで炊飯。炊き上がりは非常にふっくらとしていて、やや柔らかめではあるが、粘りと甘みがしっかり感じられた。5段階でコシヒカリを官能評価すると以下のようになる。
「象印マホービン×コシヒカリ」の5段階評価
外観 4

香り 4

甘み 5

粘り 5

粒立ち(固さ) 3

なお、外観はごはん粒の大きさや艶、つぶれていないかをチェックした。香りは、甘い香りがするかどうか、逆にぬか臭など不快な臭いの有無がポイント。甘み、粘りは噛んだときにそれらをどれぐらい感じるかを評価。粒立ち(固さ)はごはん粒の表面のハリと柔らかすぎないか、バランスをチェックした。
なお、固さや粘りはそれぞれ11段階で好みに調整できる。「炎舞炊き NX-AA10」の魅力はこのカスタマイズ性の高さだといえる。

■1万円台とは思えない炊き上がりのツヤ感
続いてアイリスオーヤマの「RC-ILA50」でもコシヒカリを白米ふつうモードで炊飯した。フタを開けてすぐの炊き上がりの状態は1万円台の炊飯器とは思えないツヤ感。しっかりと炊けた証拠である“カニ穴”も見られた。
細かく見ると、釜に接している縁の部分のごはんがやや潰れ気味でわずかにムラはあった。しかし、食味は上々。価格差は10倍以上だが、炊き上がりの味にはそこまでの差は感じられない。官能評価は以下の通りだ。
「アイリスオーヤマ×コシヒカリ」の5段階評価
外観 3

香り 4

甘み 4

粘り 4

粒立ち(固さ) 3

ただし、これはあくまで象印と比較しての差なので、アイリスオーヤマのご飯だけを食べた場合、十分に美味しく感じられた。
大きく差を感じたのは保温したご飯だ。象印は「極め保温」機能を搭載しており、最長40時間まで保温が可能。実際、12時間ぐらいでは、保温臭や黄ばみなども見られず、大きな劣化を感じなかった。
対してアイリスオーヤマは保温による乾燥がハッキリわかる。
炊きたてを食べた後はできるだけはやく冷凍するのがおすすめだ。
■備蓄米は高級炊飯器でも劣化しやすい
続いて備蓄米も炊飯してみた。それぞれ設定はコシヒカリと同じで、3合ずつ炊いた。象印はコシヒカリと比べると明らかな差を感じられたが、それでも、香りや甘みが感じられた。元々の含水率の違いのためか、炊き上がりはコシヒカリと比べてやや硬めでしっかりした食感だった。
「象印マホービン×備蓄米」の5段階評価
外観 4

香り 3

甘み 4

粘り 3

粒立ち(固さ) 4

なお、保温すると明らかに乾燥が進み、12時間ぐらいでわずかに黄ばみもあった。保温には向かない印象だ。
■美味しく炊く秘訣は「事前に吸水」
そしてアイリスオーヤマで備蓄米を炊いた。残念ながら甘みはほとんど感じられず、わずかにご飯の味と香りがした。また、食感は明らかに乾燥による固さが際立っていた。おかずと一緒に食べる分には気にならないが、ご飯だけで食べるとやや物足りなさを感じた。
「アイリスオーヤマ×備蓄米」の5段階評価
外観 3

香り 2

甘み 2

粘り 3

粒立ち(固さ) 4

しかし、そんな備蓄米も1時間事前に吸水させるだけで炊き上がりは大きく変わる。
香りや甘みが強くなり、米の味もしっかり感じられるようになった。ひと工夫することでより美味しく炊ける。
2台の炊飯器で、2種類のお米を炊き比べてみた。そこでわかったのは、昨年産のコシヒカリを炊きたてすぐに食べるのなら、価格差ほどの味の違いはないということだ。これはそもそもの米のポテンシャルが高いためだ。コシヒカリ以外にゆめぴりかなども炊き比べて見たが、同様の感想だった。
■16万円超と1万円台の炊飯器の差
しかし、備蓄米の炊き上がりではより大きな違いを感じた。象印はそのまま炊いても、それなりに食べられる印象だったが、アイリスオーヤマの場合、「美味しく」食べるにはやや物足りなさがあり、事前にしっかり吸水させたり、お酒や昆布などを入れるなど、ひと工夫したいと感じた。
この違いは、象印が圧力機能を搭載していることと、炊飯時の最大消費電力がアイリスオーヤマが1040Wなのに対して、1440Wと高いことからより強い火力で加熱でき、甘みや粘りをしっかり引き出せることからくると考えられる。
さらに、16万円超の高級炊飯器の価値として大きいのは、好みの味と食感に調整できるカスタマイズ性と保温機能だ。例えば、家族の生活時間がバラバラの場合などは保温性能が高い象印が便利だ。また、象印は、121段階の食味に調整できる「わが家炊き」とは別に、その日のおかずに応じて食感を15段階で設定できる機能も用意しており、きめ細かく対応ができる。

このほか機能面も充実している。早炊き機能は1合を15分で炊ける「白米特急」と、30分で炊ける「白米急行」の2種類を用意していたり、冷凍保存用に水分を多めに含ませた冷凍ごはんメニューなど、23モードを用意している。
■象印マホービンの電気代が安い理由
アイリスオーヤマも早炊きや冷凍ごはん、自動調理メニューなどを用意しており、多彩な使い方はできるが、さすがに機能差は多い。
なお、1回あたりの炊飯時の消費電力量、電気代は、象印が148Whで約4.7円なのに対して、アイリスオーヤマは192.4Whで約6.2円と、最大消費電力が高いはずの象印のほうが安い。これは炊飯プログラムによる熱制御の違いだと考えられる。なお両モデルともより消費電力を抑えたエコ炊飯モードを搭載している。
16万円と1万円の炊飯器の価格差は、確かに実感できた。高級炊飯器なら、手間なく甘みと粘りがしっかり楽しめる、好みに合わせたご飯が炊ける。さらに高火力で美味しさを引き出せるので安いお米や備蓄米のポテンシャルも引き出すことができる。
しかし、1万円台の炊飯器もかなり美味しく炊けるように進化している。ブランド米なら元々の美味しさを生かして炊けるし、備蓄米や安いお米の場合は、一手間かければいい。

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コヤマ タカヒロ(こやま・たかひろ)

デジタル&家電ライター

1973年生まれのデジタル&家電ライター。家電総合研究所「カデスタ」を主宰。大学在学中にファッション誌でライターデビューしてから約30年以上、パソコンやデジタルガジェット、生活家電を専門分野として情報を発信。家電のテストと撮影のための空間「コヤマキッチン」も構える。企業の製品開発やPR戦略、人材育成に関するコンサルティング業務も務める。

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(デジタル&家電ライター コヤマ タカヒロ)
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