■既存政党vs新興政党…年齢で支持が分かれる
自民党に代表される旧来型の政党を既存政党とすると今回の参院選を特徴づけているのは、既存政党への信頼が失墜し、既存政党以外の政党への期待が高まっている点にあろう。
こうした動きの背景としては、裏金問題や不適切発言など、自民党という長期的に政権を担ってきた既存政党の不祥事が相次いでいるからというより、後に見るように、「社会が壊れている」という社会の機能不全の認識から、旧来型の政党ではそもそも国民の期待に応えることが無理なのではないかという認識が国民の間に広まっているからだと考えられる。
この点を見て行く前に、まず、既存政党と新興政党の違いについて、政党を支持する年齢層の違いから明らかにしておこう。
既存政党の代表格である自民党は年齢があがるほど支持率が上昇する。参院選1週前の時点での年齢別の政党支持率をあらわした図表1からもこの点は明らかである。
これを見ると自民党の支持率は50代までは10%台に過ぎないが、70代以上では35~40%となっており、年齢傾斜が特徴的である。若者の保守回帰が、以前、話題となったが、そういう状況には現在はなっていない。少なくとも、保守回帰があるとしても自民党には向かっていない。
支持政党が「特になし」と回答したいわゆる無党派層は自民党とは逆に若年層ほど多い右下がりの傾斜を示している。
既存政党離れを起こしている有権者は、一方で無党派層を形成するとともに、他方で新興政党支持に向かっている状況が明らかである。
年齢があがるほど支持率が上昇するのは、自民党だけでない。古くからの政党である公明党や共産党・社民党も同様である。これらもまた既存政党と言うべきだろう。
■若者層や無党派層の票が参政、国民、れいわへ
一方、立憲民主党も同様の傾向が目立っている。立憲民主党と国民民主党は両方ともかつての民主党から生まれた政党であるが、国民民主党は年齢層が若いほど支持率が高く、立憲民主党とは正反対の性格を有している。生まれた時期は同時期でも、支持層の違いからは、立憲民主党は既成政党、国民民主党は新興政党と位置づけられよう。
年齢があがるほど支持率が上がる政党を既存政党、それ以外を新興政党と位置づけると、新興政党も実は2分される。
すなわち、一方で、若年層ほど支持率が高いのが国民民主党、参政党、れいわ新選組。ただし、れいわ新選組の18~39歳層の支持率は参院選2~3週前には各年齢層のうちで最多だったが、直前1週目には落ち込んだ。参政党に若年層からの支持が食われた格好である。
他方で、若者というより中年以上の支持が特徴であるのが日本維新の会、日本保守党の区分である。
既存政党にも左右両派の政党があるように新興政党にも左右両派の政党が属している。れいわ新選組は左派系であるが、今回注目の的となっている「日本人ファースト」をうたう参政党は日本保守党とともに、むしろ、保守的な政見をもっている。
就職氷河期に安定雇用を逃した困窮層や財務省デモ参加者などでは、消費税廃止という共通の公約に賛同し、左右に関係なく投票先は、れいわ、参政党2択になる傾向があるとの取材報道もある。こうした層では消費税廃止をトーンダウンさせた国民民主の影は薄くなっているという(東京新聞2025年7月13日)。
新興政党の中には、党首に注目が集まったり、党首の発言がセンセーショナルだったりするポピュリスト的な性格の政党が目立つ。世界的な潮流ともなっているポピュリズム政治がわが国にも波及するかについては最後にふれよう。
さらに、今回の参院選の候補者の発言などで「日本が壊れている」というフレーズが目立っている点を指摘しておこう。
参政党のメインのキャッチフレーズとして「日本人ファースト」が知られているが、ポスターには、同時に「これ以上、日本を壊すな!」という文言も記されている。
また、日本保守党から立候補を表明した弁護士の北村晴男氏(69)は、立候補の理由については「一言だけ申し上げると、このままでは日本が壊れてしまうというふうに思ったこと、これが最大の理由です」とした。
比例代表に社民党から立候補しているラサール石井氏(69)が「社民党がなくなれば、日本の社会の底が抜けてしまう」と危機感を訴えているのも同趣旨だと考えられる。
■「自国の社会は壊れているか」というすごい設問
今回の参院選が大波乱となる可能性が高いと予感させるデータとして、日本国民の社会観、政治観が、欧米に遅れて、欧米並みの大変化を来している点を示す調査結果をこれから見ていこう。
世界ではポピュリズムの台頭という政治潮流がかなり前から注目されている。国の苦境の原因を移民や外国人のせいにする右派のポピュリズムもあれば、富裕層や権力者のせいにする左派のポピュリズムもある中で、その背景を探る国際調査をフランスの世界的な世論調査会社であるイプソス社が定期的に実施している。
イプソス社のこのポピュリズム調査では、「自国の社会は壊れているか?」というすごい設問を設けている。なかなかこんな風に正面切って聞けないと思う。上記のように、今回の参院選で日本でもそういう意識が強まっていると思われるので、最初に、この点を取り上げよう。
この設問の調査は、2016年から開始され、コロナ禍とその後の世界的な大インフレの時期をはさんで2~3年おきに行われている。
図表2には主要国、および調査国平均の回答結果の推移を示した。
途上国、先進国を含む調査国平均では、以前より「自国の社会は壊れているか?」に同意する比率は高く、2016年の61%から最近はむしろ低下ないし横ばい傾向にある(2025年は56%)。
これは、調査開始時点から値が上昇した国もあれば、開始時点からすでに値が高く、その後、横ばいで推移している国、あるいは当初高かったが、その後、急速に低下し、最近再度上昇した国など、さまざまであるためである。
図ではこの3区分ごとに主要国の推移を示した。
ドイツ、フランスなど西欧主要国では、上昇傾向、すなわち近年ますます社会が壊れていると考える人が増えている。あまり多くの系列を表示するとごちゃごちゃになるので図には省略したが、英国やカナダなども同じ傾向である。
最新の2025年には何とあのドイツが77%と世界で一番「社会が壊れている」国だった。この点はもっと注目されてもいいと思う。
今年2月のドイツ総選挙では移民排斥を訴える極右政党のAfDが第2党に躍進し、欧州政治で強まる右傾化を代表する動きとして注目されたが、その背景としてこうした社会崩壊認識が国民の間に広まっていたことは確かだろう。
かつて福祉国家として目指すべき理想モデルと考えられていたスウェーデンも2023年には73%とドイツを上回り、1位の南アフリカに次ぐ第2位の社会崩壊国だった。
しっかりした国づくりを行っていると思っていたドイツやスウェーデンで、国民の多くが「社会が壊れている」と回答しているのを知って、私などは少しショックを受けた。
■「社会が壊れている」認識が急激上昇のワケ
日本もこの上昇傾向を示す国の区分に入るが、その中でも動きが特異である。
2016年の段階では、日本の社会崩壊度の認識は31%と実は世界最低であり、世界の中でも日本人は自国が健全な社会を有していることに自信をもっていた。しかし、その後、この値は上昇を続け、2025年には53%と過半数を超えるに至っている。上昇の勢いでは他国にひけをとらない。
それでも調査国平均の56%は下回っている。
一方、南アフリカや米国ではもともと値が高く、ほぼ横ばいで推移している。
また、ブラジル、スペイン、韓国、イタリアといった諸国では、IMF危機や欧州債務危機による経済低迷で社会が瓦解した時期を引きずって、当初、値が非常に高かった。
なぜ、世界の主要国で、こんなにも社会が壊れていると感じる人が多いのか、その中で、なぜ、日本人は遅れて世界と共通した認識を持つに至ったのか? これについて一言で説明するのはなかなか難しい。
世界的な以下のような情勢変化が多面的に作用して、各国で社会崩壊の認識に至っていると考えられる。
・少子高齢化・人口減・社会保障財政難というかつてなかった社会状況
・移民や外国人の増加で社会の軋轢が拡大
・貧富・世代差・性的多様性で国民の一体感が減退
・既存メディアの凋落やSNSの普及で政治が混乱、社会が分断
これまで経験したことのないようなネットやAIなどの激しい技術変化、新型コロナのような世界的な感染症、さらに地球温暖化にともなう気候変動に対して、とてもじゃないが社会は対応できないというパニックに近い感覚も社会崩壊感を促していよう。
その中で、日本が欧米に遅れてそう感じるようになったのは「なぜ」なのだろうか?
経済や政治は二流国であっても社会は健全さを保っているという思い込みに近い国民の自信のようなものがつい最近まで根強かった。しかし、世界的な思潮の影響はいずれ日本人にも波及する。それが今なのだろう。
コロナ後に世界的に深刻となったインフレが日本の場合、世界から遅れて、今、社会を直撃しているという状況の違いも日本が遅れて社会が壊れていると感じるようになった要因のひとつであろう。
■日本で起こるかつてない「政治不信の高まり」
社会が壊れてきているという意識変化に関しては、政治が従来と比較して機能しなくなっているという認識の高まり、すなわち政治不信が、ひとつの要因となっていることは間違いがなさそうである。
イプソス社の同調査では、この点の調査項目も設けている。すなわち、「既存政党や政治家は、私のような人間を気にかけていない」かどうかを問う設問で、政治との距離感が広がっているかどうかを調べている。
図表3では主要国における推移を追っているが、ここでも、日本の場合、2016年の段階では、39%と非常に低いレベルだったのが、最新の2025年の68%へと急激に政治不信が高まっているのが目立っている。
他の主要国ではどの国でも以前から政治不信が高かったのに対して、日本の場合は、最近、政治不信が高まっているのが特徴である。
■ポピュリストにヒトラーを連想するドイツ
イプソス社のこの調査の報告書が「ポピュリズムレポート」と題されていることからも分かる通り、この調査で「社会が壊れているか」、「政治不信が高まっているか」を調べているのは、実は、これらの状況が、各国でポピュリズムの台頭につながっているのではないかという点を探るためである。
最後に、こうしたポピュリズムの台頭、すなわちポピュリストへの期待がどの程度高まっているかの調査結果を見てみよう。
設問は、「金持ちや権力者からこの国を取り戻す強いリーダーを必要としている?」である。
図表4には、この設問への同意回答の比率の推移を主要国についてまとめた。
主要国については、かなり以前からポピュリスト期待が高まっていることが明らかである。
ところが、日本の場合は、社会崩壊認識や政治不信ほどではないが、やはり当初低かったレベルから最近はかなり高まってきている点では同じ動きを示している。
別の動きの中で、非常に特異なのはドイツである。
これまで見て来たようにドイツも社会崩壊認識や政治不信は高まりつつある。特に社会崩壊認識は世界一のレベルにまで達している。ところが、ポピュリスト期待の点では、主要国の中で最低レベルを維持している。
これは、戦前のナチズムの苦い歴史的経験から、いくら社会が乱れ、政治が信じられなくなろうとも、ヒトラーへの個人崇拝というような間違いは繰り返すまいというドイツ国民の強い意志からだと考えられる。
日本も戦前の軍国主義に対してはドイツに匹敵する苦い歴史的経験を有しているが、個人崇拝を反省すべきとは考えていないので、ポピュリスト期待もそれなりに高まっていると考えられる(天皇崇拝は個人崇拝というより国体崇拝という別種の国家主義のあらわれだったに過ぎないと日本人は考えていよう)。
そうだとすると、ヒトラーという歯止めの存在により、ドイツが総選挙で極右政党が第2党となってもポピュリズム政治には必ずしもむすびつかないのに対して、日本の場合、今回の参院選の結果、新興政党が大きく勢力を拡大し、次の衆院選でも同じ流れが継続した場合……。日本はドイツよりポピュリズム政治へと傾斜しやすいと見ることも可能だろう。
今回の参院選でおそらく躍進するだろう新興政党の党首らが、今後、どんな言動を取っていくのか。そしてまた、既存政党がそれにどう対抗していくのか、例えば新しいヒーロー、ヒロインを生み出そうとするのか、今後の展開に目が離せない。
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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『統計で問い直す はずれ値だらけの日本人』(星海社新書)。
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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)