■参政党のコロコロと変わる過激発言
参政党の選挙期間中の変節ぶりがすさまじい。最初に掲げた公約とは相反することも言う。昨日の今日で話が変わる。それによって連日ニュースをにぎわせて、SNSでトレンドに入る。
例を挙げるときりがない。まず、選挙戦初日の7月4日に党首の神谷宗幣氏は「日本人ファースト」を掲げてこんなスピーチをした。
「外国人の資本がどんどん入ってきて、東京の土地がいっぱい買われるとか、マンションが買われるとか、インフラが買われるとか、水源が買われるとか(中略)外国人の方は(中略)集団を作って万引きとかをやって大きな犯罪が生まれています。そういった人たちがね、違法な薬物とかをね、売り出したら日本の治安が悪くなるでしょ。窃盗や強盗が始まったら安心して暮らせないでしょ。(中略)われわれは(中略)治安維持を図る」
聞きやすく、やさしい言葉だけで構成されており、複雑さがないために聞きやすい。そのため信じてしまう人もいるだろうが、ここに述べられているのは、少しの事実と、明らかなウソと、個人的な予測の3種類を混ぜこぜにした内容である。
■「日本人ファースト」についても手のひら返し
参政党はもともと公式サイトなどで明確に「反グローバリズム」を掲げてきた。「日本人ファースト」という言葉は支持者には熱狂的に支持され、一方で「排外主義を煽る」「外国人への差別感情につながる」「外国人労働者なしで日本社会はもはや成立しない」といった批判が噴き上がった。この主張には不安を感じているという在日外国人の声もメディアで紹介されるようになった。
すると7月15日のTBSの取材に対して神谷氏はこう答えたのである。
「これは選挙のキャッチコピーですから、選挙の間だけなので、終わったらそんなことで差別を助長するようなことはしません」
つまり、差別を助長するようなキャッチコピーであり、それがアテンションを引くために有効なので、選挙期間だけ使っていく、と明言したのだ。
さらに
「この言葉は私が提案したというよりも党員さんがアンケートで出してきたものを私が見てそれに応じた」
「日本人ファースト」は自分の発案ではなく、アンケート回答を取りまとめたものだ、と責任逃れまでしている。これにはさすがに驚いたが、さらに驚いたのがその翌日だ。「まさかキャッチコピーであんな切り取られ方をするとは想定していませんでした」とXに投稿。支持者に向けては、あくまでも日本人ファーストを貫くと強調したのである。
■宮城県知事がデマに抗議しても「謝らない」
また、7月13日には仙台市で神谷氏が「宮城県は水道を民営化し外資に売った」と演説で話した。これに対し、宮城県の村井知事は誤りだと指摘。「官民連携で所有権は県にあり、最大株主も国内企業」として、謝罪と訂正を求める抗議文を出した。
メディアや有権者から指摘、質問、批判を受けても「切り取り」「叩きたいだけやん」「案の定でした」(すべて神谷氏のXの投稿)とうそぶき、真剣に耳を傾けようとしない。それどころか逆に「明らかに攻撃のレベルが上がりました。みんなで立ち向かいましょう」「全方位からの攻撃が凄い」と投稿し、評判が悪いのは、まさに自分たちが正しくて「敵」が焦っている証拠だ、と支持者に呼びかけるのが参政党スタイルなのである。
■自民党にノー! と言いつつ市議会では既に連携
選挙戦初日の第一声では、神谷氏は「日本人の暮らしを守る日本人ファーストです。それをやってこなかったのが自民党。自公政権ですね」「第3の選択肢、参政党。われわれは自公政権の政策にはノーです」「(参政党は)インターネットで作った国民中心の手作り政党です」「参政党のバックには国民しかいません」と、自民党・公明党とは別個の独立した、ボランティアによって成り立っている党だと強調していた。
ところが7月16日には「会派を組んでいるのは自民党の議員とだけではないですよ」「うちは共産党以外の政党ならどことでも会派組んでいいですよ、と通達してある」と、各党ともう根回しが済んでいるとXに投稿。
事実、自民党と参政党はすでに区議会、市議会のレベルでは会派を組んでいる。その数は、東京都新宿区、江東区、埼玉県所沢市、北海道旭川市、宮城県仙台市、愛知県一宮市、大阪府箕面市、佐賀県武雄市など、全国12の議会におよぶ。
■チラシで「消費税廃止」、テレビでは「減税困難」
公約についても定まらない。例えば消費税に関して、公約では「段階的引き下げ」と書き、チラシやアンケートでは「消費税廃止」。ところが、テレビ(NHKの「ニュースウォッチ9」)では「下げてしまうと元に戻すのが難しい」「消費税なんかは特に死守したいということは理解しています」と言ってしまう。
このように参政党の主張は矛盾だらけだが、とりわけ党首の神谷代表は、次から次へとその場かぎりのアテンションを引くために街頭演説であえて強い言葉を使い、デタラメを言っているのではないか、と思わせるほどだ。
■アテンションエコノミー政治の真打ちか
2024年、政治の世界において似た手法を使う候補者が目立ち、選挙戦で混乱が見られた。東京都知事選での暇空茜(ひまそらあかね)(水原清晃)氏や元安芸高田市長の石丸伸二氏、また兵庫県知事選でのNHK党の立花孝志氏の手法は、やはり参政党に近いものだった。過激な発言で炎上させ、ネットでPVを稼ぎ、それを収益化しつつ、YouTubeやTikTokで「いいねが多い」「再生回数が多い」といった理由でさらに目を引く。
その暇空氏はその後、誹謗中傷やデマを流したことにより多くの人から訴えられ、これまでのところ、ほとんどのケースで敗訴している。また、それにより「暇空信者」と呼ばれたサポーターの心もかなり離れつつあるようだ。石丸伸二氏は新党「再生の道」を結成したものの、2025年6月の都議選で候補42人が全員落選する結果となり、一時の勢いはない。
一方、NHK党の立花氏は今回の参院選にも候補者を出しているが、彼は早くから参政党に対して警戒心を示していた。おそらく、その場その場のアテンションで注目を集め、台風の目となろうとする参政党の政治姿勢に「同族嫌悪」ないし「お株を奪われる」という危機感が働いたのではないか。
参政党は2020年結成にもかかわらず、今回の参院選ではなんと47都道府県すべてに候補者を擁立するなど、先に挙げた3名とは政治的影響力が異なっている。すべての選挙区で比例の票を集めることもできる。新聞各社の得票予想からは、この選挙期間中にも支持を拡大しているように見え、7月18日、神谷代表は議席獲得数の目標を6席から20席に引き上げた。
街頭演説では人の集まりにバラつきがあるが、党員や支持者だけのクローズドな集会では、拍手やコールアンドレスポンスが繰り返され、異様なほどの熱気が立ちこめている。なぜ、誤りや矛盾が多く、攻撃的姿勢を崩さない参政党がこれほどウケているのだろうか?
例えば、東京地区のさや候補は、一般的な知名度はそれほど高くはない。にもかかわらず、オリンピックメダリストの自民党候補・鈴木大地氏をもおさえて東京第1位と予想する新聞もある。
■東京の参政党候補さや氏の支持者たちは…
彼女の政治的な思いはどこにあるのか。以下は、調布市グリーンホール(東京都)で行われた7月15日の最終個人演説会での模様だ。
さや候補は個人演説会では“あること”について熱弁をふるっていた。それは、彼女が師と仰ぐ田母神俊雄氏への敬慕だ。
参政党員ではないものの、ゲストとして田母神氏が登場。さや氏は「田母神さんこそがわたしの『師匠』です」と断言した。
演説会に都心から駆けつけた50代女性は、銀座でカフェを営んでおり、参政党への入党は3年前だという。消費税は上がり、店をつづけるのは楽ではない。「世界中がグローバリズムをやめて、自国の産業を守ろうという動きをしているのに、日本だけがそうなっていないでしょう」と説明してくれる。日本もアメリカのトランプ大統領のような経済政策をすべきだということか? とたずねると、「まあ、そうですね。このままだと日本は本当に沈没してしまいます」。
自営業者としては、経済の先行きは気になって当然だ。だが一方で、例えばさや候補の語る太平洋戦争史や、歴史観は気にならないのだろうか。参政党がしばしば語る歴史観は、外務省の見解や、文科省の指導要領に基づく歴史教科書の内容に比べると、かなり右寄りだ。
それについて気にならないのかと先ほどの支援者に聞くと、言葉をにごし、「さや候補は『経済政策が一番』と言っていますから」。
会場では他にも、同じく店舗を経営する大田区からきたという女性や、「診療時間が延びてしまってボランティアの開始時間に間に合わなかった」とぼやく開業医と思しき男性など、自身で事業を営んでいる人が多いように見受けられた。
■生活の苦しい人が参政党の経済政策に期待
さや候補は街頭演説では経済政策を前面に打ち出し、「自民党の石破政権が続けばこれからも増税」「そんな日本を救うためにわたしに経済を立て直させてください!」と絶叫した。
戦争についての考えなどはおくびにも出さない。選挙ポスターでも、選挙公報でも、そんなことは一切話さない。
政見放送や選挙カーなどで彼女に接した人の中には、「物価高騰と重い税負担は確かに困る。経済政策を変えてくれるなら、さや候補に期待しよう」と思う人もいるだろう。
だが、ひとたび支援者向け講演会に足を運べば、そこでは田母神俊雄氏を師を仰ぎ、涙ながらに愛国について語る彼女がいる。
党員や支援者も、右寄りの歴史観や軍備への考えには違和感を抱きつつも、まずは経済状況を、暮らし向きをなんとかしてほしいと期待している層が多いのではないか。
まるで1年前のアメリカを見るようでもある。トランプ大統領は「アメリカファースト」を掲げ「経済を立て直す」といって劇的な再選を果たしたが、就任間もない頃から、「こんなはずではなかった」と彼を支持したことを後悔する人たちが現れた。トランプ自身、7月17日には自分を熱心に押し上げてくれた一部のMAGA支持者を「愚かな人々」と切り捨てる発言をしている。
参政党は「日本人ファースト」を掲げつつ、単なる選挙用のキャッチコピーだとも党首はうそぶく。神谷代表の話はコロコロと変わるので、真意はどこにあるのかわからない。いま、参政党の経済政策に期待して応援している人たちが選挙後にトランプ支持者のように裏切られるようなことがないように、と願う。
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藤井 セイラ(ふじい・せいら)
ライター・コラムニスト
東京大学文学部卒業、出版大手を経てフリーに。企業広報やブランディングを行うかたわら、執筆活動を行う。芸能記事の執筆は今回が初めて。集英社のWEB「よみタイ」でDV避難エッセイ『逃げる技術!』を連載中。保有資格に、保育士、学芸員、日本語教師、幼保英検1級、小学校英語指導資格、ファイナンシャルプランナーなど。趣味は絵本の読み聞かせ、ヨガ。
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(ライター・コラムニスト 藤井 セイラ)