※本稿は、森谷敏夫『京大式 脂肪燃焼メソッド』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■簡単な習慣で、自律神経はガラリと変わる
自律神経が活発に働いていれば、食欲をコントロールでき、体脂肪をどんどん燃やせる体になります。逆にいえば、自律神経を鍛えてその活動レベルを上げない限りは、食欲のコントロールも体脂肪の燃焼もうまくいきません。
食事制限などで一時的には体重は減っても、筋肉量が落ちて、すぐにリバウンドすることは火を見るよりも明らかです。
そうはいっても、「自律神経の鍛え方」なんて聞いたことがない……という方が多いでしょう。自律神経はとても簡単な方法で鍛えられます。日々の行動を少し変え、それを習慣にするだけでよいのです。
ここから、自律神経を鍛える具体的な方法をお伝えしていきます。
1つ目の習慣は、睡眠時間を確保することです。
睡眠不足や不規則な生活を続けていると、自律神経の働きが低下して太りやすくなります。なぜでしょう。
睡眠と覚醒のリズムを調整しているのは、脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)にある体内時計。体内時計は自律神経と密接に関連しているため、寝不足など不規則な睡眠状態が続くと体内時計が乱れて、その影響で自律神経まで機能が低下してしまうのです。
太りたくないなら、十分な睡眠時間を確保して、早寝早起きを心がけることが不可欠です。睡眠の習慣が整うと、体内時計が正しいリズムを刻むようになり、それにつれて自律神経がパワーアップされます。そうなれば、放っておいても太らない体になることは、すでにお話しした通りです。
では、体内時計のリズムを正して、自律神経を強化するためには、具体的にどのような睡眠を目指せばよいのか。さっそく見ていきましょう。
■早寝早起きが太りにくい体をつくる
体内時計は、約24時間周期で変化する睡眠と覚醒、血圧、ホルモン分泌、体温といった生体リズムをコントロールしています。そして、体内時計は、24時間周期で自転する地球の動きともリンクしてリズムを刻んでいるのです。
そのため、体内時計を正しく作動させるには、睡眠も地球の動きに合わせるのがよいでしょう。目指すべきは日の出とともにめざめて、日没をすぎてしばらくしたら眠る生活です。
特に、早起きにはいくつものメリットがあります。
朝日を浴び、その光が目に入ると、それを合図に体内時計がリセットされ、1日の生体リズムを刻みだすことができます。こうして起床後、血圧や体温などが徐々に上がりだすのです。
このとき、注目したいのがセロトニンという脳内の神経伝達物質の存在。「幸せホルモン」とも呼ばれ、精神安定や幸福感をもたらしてストレスを軽減させる作用があり、日中、日光浴や運動をすることでつくられる量が増加します。
実は、このセロトニンは夕方をすぎた頃から徐々に、睡眠を促すメラトニンに変換されていきます。セロトニンが多くつくられれば、メラトニンの量も増え、寝つきがよくなって、ぐっすり眠れるようになるのです。
早起きのためには、夜更かしは禁物。夜は遅くても11時には寝ましょう。8時間たっぷり眠っても、朝7時には起きられます。
ところで、セロトニンとメラトニンには自律神経の働きを整える作用もあるのです。早寝早起きの習慣にすれば、この2つのホルモンがより多くつくられることからも自律神経が強化され、その結果、太りにくい体にもなれるのです。
■ダイエットの大敵「社会的時差ボケ」に陥るな
休みの日ぐらい、遅くまで寝ていたいという気持ちはわかります。
けれど、それはよい睡眠をとるためには厳禁。睡眠のリズムが狂うと、その晩、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったりします。
小さな変化でも、繊細な体内時計には狂いが生じます。体内時計につねに正しいリズムを刻ませるためには、1年365日、ほぼ同じ時刻に寝て起きるのが理想です。
私など暮れも正月も盆も関係なく、1年中、毎日11時に寝て7時に起きています。妻からは「おもしろくない人ね」といわれていますが……。
毎朝、同じ時刻に起きたら、そのあと必ず朝食をとることで、自律神経はさらに強化されます。
最新の研究によって、体内時計は脳だけでなく胃腸や肝臓、膵臓などの内臓にもそれぞれ存在していること、そして、朝食をとると、それが合図となって胃腸などの内臓の時計も脳の体内時計と同期して、リセットされリズムを刻みだすことが明らかになりました。
逆に、朝食を抜くと、体のほうに合図がこないので、内臓の体内時計のリセットが遅れてしまい、脳の体内時計と内臓の体内時計との間に時差が生じてしまいます。
体はいわば「社会的時差ボケ」の状態に陥って、自律神経が乱れだします。
すると、体がだるかったり、やる気が起こらなかったり、食欲がわかなかったり、肩こりが起きたりといったさまざまな不調や不定愁訴が現れるのです。
社会的時差ボケを解消するには毎日、早寝早起きすること、それにプラスして、朝食をとることがいちばんです。
なお、朝食では肉や魚、乳製品などタンパク質を含む食品をとりましょう。それらにはセロトニンとメラトニンの原料となるトリプトファンが含まれています。
■脳に老廃物が溜まる! 6時間睡眠の恐ろしさ
自律神経を鍛えるためには、睡眠の量、つまり、1日何時間眠るかもまた重要な要素になります。最低でも1日7時間は寝ないと、脳に老廃物が溜まって自律神経の働きを低下させてしまうのです。どういうことでしょう。
脳以外の場所ではリンパ管やリンパ腺が昼夜を問わず老廃物を処理しています。
それに対して、脳では、脳脊髄液が主に老廃物処理の役割を担っています。
盛んに活動している日中の脳は、血液などでパンパンに膨らんでいて、脳脊髄液が入り込む余地はありません。血液量の減る睡眠時にようやく脳に隙間ができるため、脳脊髄液が流れ込んで老廃物を脳から運びだせます。
つまり、睡眠中が老廃物処理の大きなチャンスであり、老廃物を完全に処理するには7~8時間の睡眠時間が必要です。睡眠時間が足りないと、処理しきれない老廃物が日々蓄積されることになり、自律神経の働きを低下させてしまいます。
それだけではありません。
睡眠不足が続くと、自律神経の働きが低下するばかりか、将来アルツハイマー病やガンを発症するリスクが高まることも危惧されています。
また、5時間睡眠の男性の睾丸は7時間睡眠の方に比べると有意に小さいことが海外の研究でわかっています。睡眠不足の男性は男性ホルモンであるテストステロンのレベルが10歳年上の方と同レベルにあるというのも、最近研究でわかった事実です。
2021年OECDの調査では日本人の平均睡眠時間は7時間22分。加盟国の平均である8時間24分よりも1時間以上も短く、加盟国中、最下位でした。なんとか時間をやりくりし、最低でも7時間は眠るようにしましょう。
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森谷 敏夫(もりたに・としお)
京都大学名誉教授
株式会社おせっかい倶楽部代表取締役。南カリフォルニア大学大学院博士課程修了。テキサス農工大学大学院助教授、京都大学教養部助教授、米国モンタナ大学生命科学部客員教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授などを経て、京都大学名誉教授、中京大学客員教授に。専門は応用生理学とスポーツ医学で生活習慣病における運動の重要性を説く。『結局、炭水化物を食べればしっかりやせる!』(日本文芸社)、『おサボリ筋トレ』(毎日新聞出版)など著書多数。
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(京都大学名誉教授 森谷 敏夫)