夏休みに入って、生活リズムを崩したわが子にどう対処すればいいのか。TBS系「東大王」にも出演した東大大学院生の後藤弘さんは家庭教師の会社を経営する中、「わが子のゲーム漬け」に悩む保護者に、自身がかつてはまったゲーム沼からどのように脱出したかを伝えているという。
家族のおかげで抜け出せたそのユニークな方法とは――。
■夏休みでゲーム&スマホ漬けになったわが子をどうするか
「うちの子、このままで大丈夫でしょうか?」「友達はもう受験モードなのに、うちの子だけゲームばかりで……」「親が何を言っても全然聞かなくて」「隠してもこっそり見つけ出してやってしまうんです」
僕は東京大学の大学院で学びながら、個別指導サービス型の家庭教師の会社を経営していますが、このような保護者からの訴えが数多く届きます。そのたびに苦い思い出が脳裏によみがえります。「ああ、自分と同じ、かつてのわが家と同じ状態だ」。十数年前、小6だった僕はまさにゲーム漬けでした。それに費やした時間を計算したら、ざっと累計8000時間以上。実に333日分です。1日10時間やる日もある“ゲーム廃人”も同然の堕落ぶりでした。
小3から入った塾での成績は急降下で、成績順に構成されているクラスで2つ下に転落。模試判定は「20%」(E判定)という絶望的な状況でした。ゲームの沼に引き込まれ、不登校やひきこもりになってしまう子供も少なくなく、当時の僕は人生の崖っぷちに追い込まれたことになります。
しかし、幸いなことにある「儀式」の実施と、ある「本」との出会いをきっかけに、ゲーム依存から完全脱出することができたのです。
その経験と教訓から今、過去の自分と同じような子どもたちの力になりたくて、家庭教師の会社を営んでいます。
■1日10時間ゲーム漬けの代償がヤバすぎた
そもそも僕のゲーム好きは幼稚園の頃から。これが中学受験が近づいても全然治らない。特に小5からは、当時、発売されたニンテンドー3DSのポケモンにどっぷりハマりました。まさに、Switch2が新しく発売された現在と同じような状況でした。
塾の宿題を全部終えられず、家族で出かける車の中でも、車酔いして気持ち悪くなるまでゲームを続けるというありさまでした。親から「やりすぎ」と言われても全く聞く耳を持たず、友達の家に逃げてまでゲームをしていました。夜更かしで生活リズムも崩壊し、視力もどんどん悪化して、眼鏡をかけることに。
最初はそれでも成績を維持できていたんですが、小5の後半になって問題が難しくなると、自分自身でも「これはヤバい」と思うほど崩壊しました。
家の雰囲気も最悪で、母は心配でやせていき、以前は笑い声が絶えなかったわが家から楽しい雰囲気が完全に消え去りました。この危機的状況を受けて、さすがにこれはまずいと思った両親と、小6になってすぐの頃に話し合いをしました。
■「1日30分まで」のルールが、むしろ逆効果だった理由
「ゲームは1日30分まで」
親子の話し合いで約束しました。
でも、これがかえって新たな問題を誘発しました。
30分だけやっていいという状況は、逆に強い誘惑になってしまいました。手に届くけれど我慢するって、完全に断絶するより自制心が必要で、小学生の僕には非常に難しいことでした。勉強中もゲームのことが頭にちらついて、全然集中できない。
そしてついに、約束を破ってしまいました。ゲーム機を置いている場所を知っていた僕は、こっそり取り出して教材の隙間に隠し、両親がいない間だけ遊んでいたんです。でも、いつもの場所にゲーム機がないことで、すぐに両親にバレました。約束を破ったことが発覚した時、両親が悲しそうな顔をしていたのを今でも覚えています。
■家族会議で決断した「封印の儀式」
30分ルールの失敗で、もはや中途半端な対策では解決できないことが明らかになりました。自分でも「このままではいけない、どうにかしなければ」という気持ちが強くなっていたところで、家族でより根本的な解決策について話し合うことになったんです。
父は明るい表情で次のように声をかけてくれました。
「ゲームが楽しいというのは、わかるよ。
でも、その楽しい記憶っていうのは時間がたっても残らない。でも、勉強を頑張れば、それはあとに残る。大人になった時になりたい職業に就けるし、自由に使えるお金も増える……」
小学生ながら、この大人目線の新しい視点に「それはそうかも」とストンと腑に落ちました。それに、もし合格できたら、遠慮なくゲームをできる。そう前向きに考えられた。
当時すでに塾の仲の良い友達は受験の真剣モードに切り替わり始め、内心焦り始めたタイミングで、この父の言葉。おかげで「俺はゲーム離れをする」という決心が芽生えたのです。
両親のすすめで段ボールに志望校合格の目標を書き、ゲーム機を中に入れてガムテープでぐるぐる巻きにして、屋根裏部屋に隔離しました。「封印の儀式」です。これも親の無理やりではなく、自分も納得した上でできたのは、大きなポイントでした。
■禁断症状との闘いと、代替手段の発見
ただ、ゲームを封印してからの2週間は本当につらい“禁断症状”に。ゲームが頭にちらつき、集中力を失ったり、イライラしたり。
届かない場所に封印されているゲームを、必死に取ろうとしたこともありました。
そこで、自分なりにゲームの代わりに勉強で疲れた脳を休める方法を検討したのです。
まずは、明確なルール化を行いました。50分勉強したら10分休憩、過去問1科目やったら動画1本といった具合です。タイマーを使ってキリの良いタイミングで終了して、ダラダラと続けないよう心がけました。
でも、どのように休憩すれば脳をリラックスさせられるか。
ある時、母がどこで入手したのか漫画本の『サザエさん』を手渡してくれました。え、サザエさん? 今の時代に昭和の漫画? 『SLAM DUNK』とか『ONE PIECE』とか他にも人気の漫画はたくさんあるし、ほのぼの系なら『ちびまる子ちゃん』もあるよ? 
たくさんの疑問符が頭に浮かびましたが、母の心の中にある「ゲーム離れ」の決意を貫いてほしいという思いや気遣いをむげにできず、ひとまず目を通すことに。すると……自分の中で信じられない現象が起きました。テレビでおなじみのアニメーションの原作は4コマ漫画でした。1話を数秒で読めて、クスリと笑える。休憩時間中に何話も読めて、不思議と高い満足度を感じられたんです。

禁断症状まで出た3DSのポケモンゲームは不思議な生き物たちとともに冒険を進めていく、ロールプレーングゲーム(RPG)です。悪の組織とのバトルなど子供ものめりこむ刺激強めの展開。そこにハマっていた僕が、昭和時代の牧歌的な世界に没頭できるなんて……。受験という競争社会に生きる中で逆に、そういう平和な世界観がマッチしたのでしょうか。
今も印象に残っている話があります。東京オリンピック(1964年)が盛り上がっていた時代の家族の優先順位についての話です。
波平の体調が悪くて自ら「いっぺん医者に診てもらおうか」と家族に相談したものの、家族の反応はそっけない。でも、ブラウン管テレビの調子が悪くなると、東京オリンピックの開会式を見るために家族総出で大騒ぎして修理する。この家族の優先順位の違いに波平が立腹するという、いかにもサザエさんらしい騒動でした。
サザエとカツオが素麺の中のピンクや緑の色付き麺を巡ってちょっとした争いをする回も記憶に残っています。
もちろん、漫画だけでなく、親のスマホで一緒にお笑いの短い動画を見ることもありました。よく見たのは、サンドウィッチマンさんがM1決勝で披露したピザ宅配のネタや、陣内智則さんの「もしも」シリーズ、バカリズムさんの一人コントでした。

■なぜサザエさんと、サンドウィッチマンが最高だったのか
サザエさんや漫才が、なぜ中学受験勉強の良い休憩になったのか。
それらの共通点は、時間として区切りやすい点でした。普通の漫画だったら、次のストーリーが気になり、次も……と読みたくなりますが、サザエさんは4コマ完結です。
お笑いも同様でした。他の動画に比べて、漫才の動画だとだいたい5分ほどで一区切りで、動画時間が事前に決まっていて、その動画内でしっかりと満足感を得られました。
適度な笑いとリラックスできる時間、そして何より時間の区切りがつけやすいコンテンツを選ぶことで、メリハリのある勉強生活を送ることができたのです。
ゲームとおさらばした僕は第一志望の開成中学に合格することができました。あの泥沼のゲーム漬けの土俵際をこらえることができたのは、ひとえに親の助言とアクションでした。その後も、「時間を区切って集中し、適度に休憩を取る」という習慣はなくならず、大学受験でも大いに役立ちました(東京大学理科I類に現役で合格)。
■夏休みからでも間に合う…ゲーム封印4つのステップ
夏休みに入って生活が乱れ、ゲーム漬けになるお子様も多い時期です。僕の経験から、ゲームや動画依存から脱出するための具体的なアドバイスをお伝えします。
1.手の届かない場所に「封印」する
「1日1時間まで」といった時間的制約は中途半端になりがちなので、思い切って物理的に隔離することが重要です。手の届く場所にあると、ゲームをやっていない時間も、ずっとゲームのことばかり考えてしまいます。
ただし、いきなり封印するのではなく、「夏休みが終わったら封印する」「来月から封印する」など、封印開始の期限を子どもと一緒に決めると子供自身も自分で決断したことを守ろうという気持ちになれます。
2.「受験まで」など終了時期をハッキリ決める
「受験が終わるまで」など、いつまで封印するかの明確な期限を設けることで、納得がいきやすくなります。子ども自身が納得できるよう、しっかりと話し合うことが重要です。
3.「区切りやすい」娯楽を用意
ゲームの代わりになる、適度に楽しめて時間の区切りがつけやすい娯楽を用意しましょう。僕の場合は、4コマ漫画と親のスマホでの短時間動画視聴でした。
4.受験モードの友達と過ごす時間を増やす
良い影響を与える友達関係を意識的に作ることも大切です。僕の場合、塾の友達が受験モードになったことが大きな転機となりました。
現在、ゲームをなかなかやめられずにいる子供たちと接していると、あの時の自分の姿が重なります。でも、「大丈夫、一時の我慢が、将来の大きな可能性につながるんだよ」と、あの時、父が諭してくれたように僕も少しでもお伝えするようにしています。
ゲームが好きな気持ち、僕にもよく分かります。でも、封印の向こうには、もっと楽しくてワクワクする世界が待っています。一緒に頑張りましょう!

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後藤 弘(ごとう・こう)

bestiee代表

TBS「東大王」(2021.4~2024.9)出演、ミスター東大2023グランプリ受賞。

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(bestiee代表 後藤 弘)
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