この、「組織全体の変革」を成功させようと考えた時、何が必要なのでしょうか。
経営者と現場では見えている景色が違います。また、人事と事業部長でも、抱えている課題は異なります。さらに、部門間や企業グループ内の力学など、組織には無数の「関係性」が存在しています。
複雑な関係性が存在する組織を相手にするときには、より多くの視点を持ち寄ると、組織のリアルを捉えやすくなると、私たちは考えています。
そのため、コーチ・エィでは、「チームベースド・コーチング」というアプローチをもとに、プロジェクトに関わっています。
今回は、コーチ・エィのコーチ陣に、「チームベースド・コーチング」がどのようなものか、そして実際にどのように実践し、クライアントにどのような価値を生んでいるのか、その背景にある価値観とともに話を聞きました。
左から順に、細川綾子さん、野口久美子さん、中川一直さん
「チームベースド」とは、"複数人で担当する"ことではない
―― そもそも、「チームベースド・コーチング」とは、どういうものなのでしょうか。
野口
一般的に「チーム」というと、「営業担当」「マーケティング担当」「デリバリー担当」のように、役割ごとに複数人が一つの案件を進めるというイメージがあるかもしれません。営業が受注して、その後プロジェクト担当に引き継ぐ、という進め方も多いと思います。
ですが、コーチ・エィでは、役割ごとに完全に分業するような体制を取っていません。どの段階でも、コーチ自身がお客様と対話する体制をとっていて、「この人は営業だけ」「この人はコーチングだけ」のように、役割が固定されているわけでもありません。
コーチ・エィのコーチは、営業、プロジェクト運営、1対1のコーチングまで、必要に応じていろいろな役割を担いながら、複数のプロジェクトに関わっています。
細川
営業として経営層への提案活動を行いながら、別の場面では1対1のコーチとして現場リーダーと向き合い、さらに別のプロジェクトで集合プログラムのファシリテーションを担当する、といった関わり方も珍しくありません。
こうした関わり方を選択しているのは、私たちが、「複数の視点を持ち寄ること」に価値があると考えているからです。
組織は、人と人との関係性でできています。経営者と現場、部門同士、チームメンバー同士など、それぞれに違う関係性があります。そのため、「固定された役割の自分とクライアント」という1対1の関係性だけで組織を捉えるのは限界があると考えています。
中川
同じ会社でも、立場によって見えているものが全く異なります。経営陣は「もっと現場に主体性を持ってほしい」と言っている。一方で現場側のリーダーと話してみると、「自分たちには意思決定の余地がない」と感じていることもあります。どちらか片方だけを見ていると、「現場の問題」または「経営の問題」というように、組織の一部分に問題があるように考えてしまいがちです。たとえばこのような状況で、経営陣と現場のリーダーそれぞれに関わっている複数のコーチが視点を持ち寄り、異なる視点から組織を見てみると、最初は別々の問題に見えていたものが実は同じテーマでつながっていた、ということに気づきます。
―― 一般的な組織開発会社とは、かなり違う体制ですね。
中川
私たちは、営業の場でも“コーチとして”関わっている感覚があります。
経営としてどこへ向かおうとしているのか。
そのため、営業段階から、かなり深い対話になることも多いです。
「本当は何を実現したいのか」「組織のリーダーたちは今どんな関係性なのか?」「まだ言葉になっていないテーマは何か」といったことを、経営層との対話を通して探っていきます。そこから「部門間の連携が必要だ」と言いながら、実際には役員同士でも他部署に踏み込めていない、といった関係性の構造が明らかになることもあります。
野口
こうした“まだ整理されていない状態”に営業段階から触れているからこそ、その後のコーチングでも、組織のリアルを踏まえた対話ができるのだと思います。
私たちは、営業を単なる提案活動ではなく、組織理解の入り口でもあると考えています。営業活動の中で見えたことが、その後のコーチングや組織変革支援にもつながります。
細川
私たちが扱っているのは、人や組織の関係性です。経営として本当は気になっているけれど、後回しにされやすいテーマでもあります。
だからこそ、たとえクライアントにとって耳の痛い内容だとしても「本当はこういうことではないですか」とか、「私たちにはこう見えています」といったことも、かなり率直にフィードバックします。
とても言いづらいことではありますが、組織変革を扱うなら、そこを避けて通れないと思っています。
「オーナーに対して、誰もストレートに意見を言えない空気がありますよね」とか「事務局が『変化させる側』になっていて、対話が起きにくくなっていますよね」など、実際にプロジェクトが開始した後の場面だけでなく、営業の段階でもフィードバックを行います。
野口
こうした、コーチとの対話や率直なフィードバックに価値を感じて、プロジェクトをご依頼いただくことも多いです。
コーチングのセッション以外でも対話の場をつくり出せる、というのは私たちの強みですし、コーチ・エィのコーチという仕事の醍醐味でもあると思っています。
「1対1だけ」では、組織のリアルは見えない
―― 実際に、「複数の視点があるから見えた」というケースはありますか?
中川
ある企業グループに属するクライアントのプロジェクト例を挙げると、コーチ同士で対話する中で、「これは、グループ全体として率直な対話が起きにくい構造や関係性が共通しているのではないか」という視点にたどり着いたことがあります。そのことをクライアントにお伝えしたところ、クライアント内でも、「企業ごとの問題だと思っていたけれど、本質的にはグループ全体の構造につながっているのではないか」「グループ全体として見たときに何が起きているのか」を考える対話が生まれていきました。
細川
特に大規模な組織では、部門ごとに情報や関係性が分断されやすく、組織全体を横断的に捉えることが難しい場合があります。加えて、対話の文化が十分に根付いていない組織では、現場で起きている問題が、組織全体の構造や関係性と結びつけて理解されにくいこともあります。
中川がご紹介したケースも、「一人のコーチと一人のクライアント」の関係だけでは見えなかったことだと思います。コーチがそれぞれ違う立場の人と関わっていたからこそ、初めて浮かび上がってきたテーマでした。
野口
重要なのは、「誰か一人の正解」を探しているわけではない、ということです。
こういったアプローチは、一つのチームや個人に閉じない視点や知見が、コーチ同士の間で循環している感覚にもつながっています。
―― 実際、コーチ同士ではどのような話をしているのでしょうか。
野口
「この会社のリーダーシップの特徴って何だろう」や、「経営チームでは、どんな価値観が共有されているのだろう」など、多岐にわたります。
テーマを持ち寄って対話する場もありますし、特にテーマを設けずに相談し合うことも多いですね。
お客さまとのコミュニケーションを振り返り、「この場で、なぜこの発言が出たのだろう」「この沈黙にはどんな意味があるのだろう」といった細かいところまで話すこともあります。
中川
もちろん、その中でお互いに違う見方をすることもあります。ですが、職業柄、「正解は一つ」と思っている人が少ないので、ネガティブな感じにはなりません。むしろ、「自分にはなかった視点が出てきた」という感覚になります。
「自分はこう捉えているけど、他の人にはどう見えているのだろう」といった気持ちで対話しています。
細川
だから、「結論を急ぐ」感じでもないですね。まずは視点を広げる。
「シェア」が、コーチ・エィの文化になっている
―― ここまで自然に視点を共有し合う文化は、珍しい気もします。
中川
そうかもしれません。私たちが扱っていることは、「これをやれば必ずうまくいく」というものではありません。一人だけの視点では、いずれ限界に突き当たることが多いため、お互いの経験や感じたことを持ち寄りながら考えることが、必要不可欠です。
野口
私たちの根底には「人は関わりの中で存在している」という考え方があります。「一人で完結する」という発想をそもそもあまり持っていません。みんなで関わりながら、より良いものをつくっていこう、という感覚を共通して持っていると思います。
細川
「自分だけがうまくいけばいい」とか「自分の考えが正しい」と思っている人が少ない会社だなと思います。みんなで、「どうすればクライアントにとってより良い支援になるか」を考えている。その文化が、チームベースドな関わり方を支えているのかもしれません。
また、私たちはクライアントに「対話をしましょう」とお伝えしている立場です。だからこそ、自分たち自身でそのコミュニケーションを体現し続けたいとも思っています。
今回のインタビューで見えてきたのは、コーチ・エィでは、複数のコーチが異なる立場・異なる関係性から同時にクライアントに関わっていること、また、異なる視点を持ち寄ることで組織のリアルを立体的に捉え、組織全体の構造や関係性に働きかけているということでした。
そしてその背景には、組織を「関係性の集合」として捉える考え方や、シェアに価値を置く文化が存在していました。
組織の中には、立場によって異なる景色や関係性が存在しています。そのため、複数の視点を持ち寄ることで、組織全体で何が起きているかを捉えられます。
コーチ・エィが「チームベースド」でクライアントと関わるのは、単に複数人でプロジェクトを担当するためではありません。
一人では見えない組織のリアルを捉え、あらゆる場でクライアントと対話を行いながら、組織の変化につなげていくためなのです。