
[第103回全国高校サッカー選手権、準決勝、東海大学付属相模高(神奈川県代表)0-1流通経済大学付属柏高(千葉県代表)、11日、東京・国立競技場]
準決勝が行われ、初出場の東海大相模高は0-1で流経大柏高に敗北。決勝進出を逃した。
善戦したタイガーイレブンだったが、前半42分にペナルティキックを決められた。ボランチで先発出場した主将のMF長井隆之介(3年-横浜FCジュニアユース)は局面を打開しようと攻守に奮闘。敗れはしたものの、選手権優勝歴のある名門相手に巧みなパスサッカーを披露し、走力でも負けなかった。春からキャプテンに抜てきされた背番号6が、後輩たちへの想いを明かした。
主将らしくない男を変えた敗戦
長井主将は「毎日会っていた仲間とサッカーができなくなると思うと、とても悲しくなりました。試合に出ていないメンバーに申し訳ない気持ちです」と涙を流した。
初出場ながらベスト4へ進出したタイガーイレブンにとって、2024年は順風満帆な年ではなかった。高円宮杯JFAU-18リーグ神奈川県1部ではリーグ開幕6連敗を喫し苦戦を強いられた。
ボランチの位置から攻撃に参加した長井主将(右)有馬信二監督は春にキャプテンの変更を決断。DF佐藤碧(3年-横須賀シーガルズFC)から長井に腕章を託した。
はじめは「キャプテンっぽくない」と周囲にからかわれた背番号6。チーム内で突出したサッカーIQと判断力を見込まれての就任だったが、「キャプテンといえば、走って戦わなければいけないイメージがあった。自分は真面目なわけでもないし、守備ができて走れるファイターでもないので、キャプテンには向いていないと思っていました」と乗り気ではかった。
それでも仲間たちに支えられながら、なんとかチームを先導してきた。そして夏のインターハイを皮切りに、キャプテンとしての意識が本格的に芽生え始めた。

インターハイ3回戦で新潟県の帝京長岡高と対戦し0-4と、打ちのめされた。
「夏のインターハイで『やらなきゃいけない』、『自分が引っ張らなきゃいけない』と思いました。『帝京長岡さんとこんなに差があるのか』と感じましたし、とても悔しかった。冬の選手権に本気で出たかったので、そこから自分の意識は完全に変わりました」とチームをけん引する決意を固めた。
高校総体後の9月に実施された修学旅行で沖縄県へ向かう前には「あっちでも走ろう」とチームに呼びかけると、仲間たちもそれに賛同。主将が自ら有馬監督へ直訴し、南国の地にランニングシューズを持っていくと、3年生は現地で走り込みを行った。
そして10月に選手権神奈川県予選初戦(法政大第二高戦)を迎えた。「本当に嫌なくらい走った」と主将が苦笑いを浮かべて話すように、タイガーイレブンの快進撃が始まった。
タイガーイレブンの黄金期は続く
神奈川県予選では昨年度の選手権出場校である日本大藤沢高らを下し、初出場をつかみ取った。
指揮官は「涼しくなっていくたびに守備強度が上がってきて、(攻守の)切り替えも速くなった」と選手たちの成長を実感。

黄色と黒のイレブンは3万7933人の観客を前に物怖じしないプレーを披露。流経大柏高から激しいプレスを受けても細かくパスをつないで、相手ゴール前へ侵入した。
ボランチで先発した長井主将は鍛えた運動量でいたるところに顔を出し、ビルドアップに参加した。また最後の笛が鳴るまで大声援にかき消されないほどの声を挙げて、仲間を咤激励し続けた。
ペナルティキックによる1失点を取り返せず、準決勝敗退となった東海大相模高。
長井主将は「あれだけボールを持っていても、一個のPKでやられてしまった。やっぱり流経さんは勝負強い。でもここまで自分たちのサッカーをやってこられて、本当に悔いはないです」と出せるものは出し尽くした。

試合後の記者会見で有馬監督は「いきなり飛び抜けてここまで来たので、次のハードルが高くなりました(笑)。でも1年生にはかなり面白い選手もいますし、新入生はいままでで一番いい選手たちが入ってくると思います。
また新しいチームで、3年生を超える記録にチャレンジしていきたい。
タイガーイレブンをまとめ、躍進を支えた主将は日本体育大に進学し、サッカーを続ける。
長井主将は「正直、ベスト4にまた来られるかと言われると、すごく難しいと思います。だけどこれからもきつい走りや練習を乗り越えていくことで、自分たちの結果を塗り替えてほしいです。優勝は後輩たちに託します」と次世代への期待を口にした。
(取材・文 浅野凜太郎、写真 Ryo)