
今季契約満了となったJリーガーたちが集う『JPFA(日本プロサッカー選手会)トライアウト』が11日、12日に実施された。12日の部に参加したJ3松本山雅FCを契約満了となったGK薄井覇斗(はると)は、今季J1サンフレッチェ広島に期限付き移籍で加入。
広島で得た大きな財産
トライアウト初参加となった薄井は会場に響き渡る声で積極的なコーチングをしながら、相手チームのシュートを素早い反応でセービングするなどアグレッシブなプレーでチーム関係者に自身の存在を誇示した。
「シュートストップは売りにしたいので、そういったところでアップのシュート、ゲームの方のシュートストップは印象に残るようなセービングができたんじゃないかなと思っていますね。特に慌てずボールのつなぎのところに関われたのはアピールできたと思います」と気持ちの入ったプレーを見せた。
2022年に流通経済大から松本に入団した薄井は、今季J1屈指の名門である広島へ期限付き移籍で加入した。移籍発表時はJ3からJ1クラブへの移籍だったため、大きな話題となった。
「強化の方に僕のパーソナリティのところをすごく評価していただいて、(昨年)12月半ばくらいに急に決まりました。お話をいただいて僕もチャレンジしたいと思いました。同年代で代表に入っている大迫選手もいますし、J1の環境はどんなものか、行かないと分からないと思いました。即答で『行きたいです』という感じでしたね」と広島加入の経緯を明かした。
ただ今季J1でヴィッセル神戸と激しい優勝争いをした広島で出場機会をつかむチャンスは訪れなかった。正守護神を任されている日本代表GK大迫敬介を筆頭にGK田中雄大、GK川浪吾郎と経験豊富な実力者がいたため、薄井は公式戦出場ゼロでシーズンを終えた。
それでもチームを象徴する選手として広島の中盤を支えてきた元日本代表MF青山敏弘や11シーズンに渡ってチームのサイドをけん引してきたMF柏好文ら名手とプレーできる環境は薄井にとって掛け替えのない経験となった。

「青山さんにも柏選手にもすごくお世話になったので、食事に連れていっていただきました。聞いた話では昔とここ最近で青山選手の雰囲気も変わったと伺っていましたけど、一歩引いてずっと見ているみたいな、優しい感じで引いて見ています。でも悪いことは悪いと言うし、チームをまとめるときにはきちっと言う。最後のところでちゃんとチームをまとめています。
レジェンドですから、そういった青さんのためにというのがまた今年の原動力にすごくなっていたとすごく感じています。柏選手は、キャラクターがすごく明るくて、他ではなかなか見つけられないような性格の人です。あの人が喋ると、周りの雰囲気がすぐ明るくなります。もちろん(青山選手、柏選手は)試合に出るという目標でやっていると思いますけど、出ていなくてもチームにすごく影響力のある人だとすごく感じましたね。
もちろん僕の経験や糧になったものは今年だけではないですけど、今年1年間で得られたものは、僕にとってすごく大きな財産です。満了のコメントでも出させてもらったんですけど、ピースウイングが出来た年、青さんの引退と、そういったいろいろな節目のタイミングで加入させてもらったと思っています。
そういった中で、年間を通してゴールキーパーコーチの菊池(新吉)さん、林卓人さんが選手からそのままGKコーチになっているので、みっちりとトレーニングしていただけました。そういったものすべてが財産になって、きょうのプレーで観せられたかなと思います。
両チームのサポーターに深く感謝
新天地は多くの試合に出場できる環境を求めている薄井。プロになってから未だに公式戦に出場していない男は、試合に飢えている。自身の価値を高めるために、新チームでは自身の力を思う存分発揮する構えだ。

「僕は来年で4年目になるので、しっかりと試合に出られるところを見つけたいと思っています。もちろんいただいたオファーによっては考えるところではありますが、試合に出て自分の選手の価値として、そういうものを高めていきたいです。いまはまだオファー次第でありますが、僕のプレーを観せられる場所を選べたらと感じています」
これまで所属してきた2チームでは熱いサポーターに支えられたという薄井。松本は街を挙げて濃緑のユニフォームを着込んだサポーターたちが力強い応援で選手たちを支え、広島は新スタジアム『エディオンピースウイング広島』という理想的なサッカー専用スタジアムの中で鮮やかな紫のシャツをまとった観衆の声援がイレブンを後押ししている。
両軍のファンは温かく薄井を迎い入れ、練習場では多くのサポーターに見守られながらトレーニングに励んできた。守護神は両チームのサポーターの愛情に深い感銘を受けていた。

「松本のサポーターさんは僕が試合に出ていないのに、普段からインスタのSNSや、練習グラウンドに来ていただいて、すごく優しい声をたくさんかけていただきました。初めて練習参加したときに、サポーターが練習を観に来るあの環境にすごくびっくりしました。
広島のサポーターさんは練習を観に来てくれる人がすごく多いんですよ。初めて僕が来たときは、多分『誰だ?』と思われたかもしれません。J3から急にレンタルで入ってきて、『強化する場所そこじゃねぇだろう』と思われたかもしれません。ただ広島は選手もそうでしたけど、すごくみなさん温かいんですよね。サポーターのみなさんに触れ合ったときからすごく感じたので、カテゴリー関係なく、ものすごく平等に接してくれましたから、僕もすごくうれしい気持ちになりましたし、頑張ろうと思えました。1年間だけでしたけど、すごく感謝しています」と言葉に力を込めながら、サポーターへの愛を赤裸々に語った。
トライアウトを終えた薄井はやり切った表情で会場を後にした。薄井と会って話した人間の多くが「気持ちのいい男」、「彼のメンタルは素晴らしい」と称えるほどの人間性を持っている。広島で大きく成長した守護神が新天地でも多くのファンを沸かせ、試合で躍動する姿を目に焼き付けたい。
(取材・文・撮影 高橋アオ)