
今年こそジェフユナイテッド千葉はJ1に戻らなければならない。
2009年にファーストディビジョンから降格して以来、長らく苦しんできたオリジナル10の名門は、クラブ史上初の開幕6連勝を飾ると、ここまでリーグ戦11勝3分2敗の好成績を収め、リーグ首位に付けている。
しかし小林慶行(よしゆき)監督をはじめ、選手やサポーターも『油断はできない』と口をそろえる。確かにJ2首位を走ってはいるものの、苦戦する試合も多く、“大一番”と位置付けて臨んだ国立競技場での第14節RB大宮アルディージャ戦は1-2で惜敗するなど、J1復帰に向けて課題も見受けられた。
千葉が17季ぶりのJ1へ戻るためには、ラストピースが必要だ。
昨季から千葉を取材する浅野凜太郎記者が、躍進の理由とともに、チームの課題について考察する。
(取材・文 浅野凜太郎)
鉄壁の守備とJ2屈指のアタッカー陣
今季の千葉は負け試合を引き分けに、引き分けの試合を勝ちにできている。開幕戦のいわきFC戦(2○0)がそれを象徴する試合だった。
イレブンは立ち上がりから相手の猛攻を受けるも、決死のディフェンスでクリーンシートを達成。MF横山暁之(あきゆき)のペナルティキック弾とMF髙橋壱晟(いっせい)のループシュートで昨季2連敗した相手に勝利を収めた。
千葉イレブンいまだ3失点以上を喫した試合はなく(リーグ戦)、圧倒的に不利な展開でも大崩れしない。鉄壁の守備の要は第2節で復帰したDF鈴木大輔主将と、今季よりJ1セレッソ大阪から帰還したアカデミー出身DF鳥海晃司を中心とする強固なディフェンスラインだ。
さらに控えセンターバックには、DF松田陸、DF河野貴志、DF久保庭良太ら実力者が控える。
右サイドバックには精度が高いキックを誇る髙橋、左サイドには豊富な運動量でサイドを駆け上がるMF日高大(まさる)、また両サイドと守備的ミッドフィールダーでプレーできるDF前貴之がそろう。
最終ラインの全員が守備の場面で身体を投げ出し、90分間粘り強く闘えるスカッドだ。

ただでさえ強力な千葉の守備陣だが、鳥海は「前の選手たちがあれだけ上下に走ってくれるから、僕らも守備がしやすい」とアタッカー陣あってのチームディフェンスだと説明。
今季途中より加わったFWカルリーニョス・ジュニオ(リーグ戦5得点)やFW石川大地(リーグ戦6得点1アシスト)を筆頭に前線の得点の能力はもちろん、特筆すべきはリーグ戦全試合に出場にしている左サイドのMF椿直起と、リーグ戦15試合出場の右サイドFW田中和樹の献身性だ。
ここまで2得点4アシストの背番号14と、2得点2アシストの背番号7は攻撃におけるストロングであると同時に、自陣ボックス内まで戻る守備を見せており、名門の躍進を大きく支えてきた。
またイレブンは好調の要因として「声の質」を挙げており、鈴木大を中心としたピッチ内外でのコミュニケーションが、イレブンの団結力と攻守において連動したサッカーを実現させている。
警戒される両翼、潰し屋の選手層、大黒柱の二人を脅かす存在
J2第16節終了時点でリーグ最多の29得点を奪っている千葉は攻撃をけん引する両翼が強力だが、『そこが封じられると』といったジレンマがある。千葉の攻撃はサイドアタックが中心となっており、全29得点中18得点がサイドを起点にして生まれた(筆者調べ)。
しかし昨季に比べて、両ウィングに対する相手チームの警戒は増しており、椿と田中の両翼がシンプルな裏抜けからチャンスを演出するシーンは対策が進められている。実際に相手が守備時に5バックで守りを固めるロアッソ熊本やFC今治相手には攻め手を欠き、苦しめられた。
長いシーズンを戦い抜く上で、彼らを脅かす選手の登場と別の攻撃パターンの構築は必須だろう。
右サイドには、田中とはタイプの違うカットインからの左足を武器とするMF杉山直宏がここまでリーグ戦1得点を含む活躍を披露しているが、同ポジションの大卒ルーキーMF岩井琢朗、左サイドのMF吉田源太郎はいまだにゴールを奪えていない。

またボランチの潰し屋も、豊富な運動量とデュエルの強さが持ち味のMFエドゥアルド頼みとなっている側面がある。国立・大宮戦でエドゥアルドは前半20分に負傷し、ドリブル突破とパスからチャンスメイクをする横山が代わって投入された。
この試合は背番号10がうまく試合に入り、存在感を発揮したが、同選手と背番号6ではプレーヤ―としてのタイプが違う。
昨季はスタメンの常連だったMF小林祐介は開幕戦以来未出場となっており、エドゥアルド負傷時に潰し屋として機能する選手層の薄さは、リーグが佳境を迎える前に補強したいポイントだ。

そして鈴木大と鳥海のセンターバックコンビ以外の選択肢を持っておくという点についても挙げておきたい。
いまだに今季リーグ戦で先発出場の機会がない河野は「あの二人に任せっきりになっている感じもある。あの二人を追いつき、追い越さないと、自分としてもチームとしても成長はないと思っています」と危機感を口にした。
実際に、ここまでのリーグ戦16試合中14試合で背番号13と背番号24のセンターバックコンビがそろって先発している。
千葉のディフェンスを後方から支える二人の大黒柱の活躍は喜ばしいが、昨夏に鈴木大が負傷した事例などを踏まえれば、そこへ割って入る控え選手たちの台頭が必要だと思える。
昨季J2得点王の帰還は
前年に比べてスカッドもさらに充実し、各ポジションに質の高い選手がそろう今季の千葉は、前項で挙げたポイントを改善するために、今夏の移籍市場で17季ぶりのJ1復帰に向けたブースト補強を敢行したいところだ。
昨季は夏前に鈴木大、久保庭が長期離脱を余儀なくされたほか、日高もケガなどによる欠場が続いた。
結果的に、両サイドバックでプレーできるDF小川大貴(J3松本山雅FC)やセンターバックのDF山越康平(J2徳島ヴォルティス)らを期限付き移籍で獲得していた。

そこで筆者は潰し屋タイプの守備的ミッドフィルダーと、サイドの補強を推したい。
前者については、負傷などによる離脱が少なく、センターバックとしてもプレー可能であればベスト。後者については、願わくば両サイドでプレーできて、なおかつサイドバックとサイドハーフを兼務できるウィングバックを主戦場とする選手が理想に思える。
最後に注目するべきトピックスは、昨季23得点を奪ってJ2得点王に輝いたFW小森飛絢(ひいろ)の去就だ。今冬に期限付き移籍したベルギー1部のシント=トロイデンでは公式戦5試合の出場に留まり、総プレー時間17分のノーゴールでシーズンを終えた。
クラブは入れ替え戦の末に1部残留を達成したが、同選手の進退はいまだ不透明であり、シント=トロイデンとの契約は来月30日までとなっている。
千葉にとってフォワードの人員は足りているが、夏前に同選手が帰還するとなれば、これ以上ない戦力となるはずだ。

小森は豊富な得点パターンを持ちながらも、守備時には前線からチェイスもできる。椿や田中、横山といった選手たちとの連係はもちろん、指揮官の戦術を深く理解している。
また、昨季のJ2得点王は新加入FW陣とも相性が良いプレーヤーだと考察する。
千葉はトップ下を採用していた昨シーズンとは違い、今季は最前線をツートップぎみに配置している。現スタメンは今季より移籍してきたカルリーニョスと石川が務めている中、組み立てに参加できて、かつワンタッチパスなどで攻撃にリズムを生み出せる小森は、千葉のアタックにサイド攻撃以外のバリエーションをもたらしてくれるだろう。
昨季は背番号10を背負い、ジェフサポーターからの信頼と愛を勝ち取ったストライカーの帰還が、J1復帰に向けたラストピースになりえる。
J1復帰への機は熟した
J1復帰への機は熟した。小林監督は次のリーグ戦勝利をもって、クラブの象徴イビチャ・オシム元監督、ユン・ジョンファン監督が記録したジェフでのリーグ戦通算最多49勝を上回る50勝目を達成する。
就任3年目の指揮官が作り上げた魅力的なサッカーは、フクダ電子アリーナに多くのサポーターを呼び込み、訪れる人々を熱狂させている。

この熱を冷ましてはいけない。J2首位で走り始めた今年こそ、リーグが佳境を迎える夏までに懸念材料をすべて払拭し、盤石の体制でクラブ一丸となってJ1復帰をつかみ取りたい。