形骸化か、未来をつなぐ希望か。Jリーガーが集うJPFAトライアウトの価値と課題とは
形骸化か、未来をつなぐ希望か。Jリーガーが集うJPFAトライアウトの価値と課題とは

契約満了となったJリーガーがキャリア継続のために集う日本プロサッカー選手会主催の『JPFAトライアウト』が先月11、12日に開催された。

2023年は計93人のJリーガーがトライアウトに参加。

選手たちはアピールのために全力でボールを追いかけた。2024年は92人が参加し、20選手がJリーグクラブと契約に至った。トライアウトを経たJリーグクラブ入団の確率は21.7パーセントと低く、20選手の内2選手がJ2、18選手がJ3のクラブに加入した。だがトライアウト前に交渉に入っているケースも多く、純粋にトライアウトのプレーから獲得に至ったケースは公表されている数字より低いと関係者が話す。

昨今トライアウトの是非が問われるようになった。プロ野球ではリーグを運営する日本野球機構(NPB)と日本プロ野球選手会の事務折衝が今年8月に開催され、NPB側からトライアウトの廃止を提案されたという。トライアウトの形骸化などを理由にNPBが廃止を提案するも、選手会はトライアウト継続に動き、最終的にはNPBと選手会の共催から選手会主体での運営という形で実施される見通しになったという。

JPFAトライアウトもさまざまな課題を抱えており、多くの関係者が問題視している状況だ。当トライアウトを2年連続で取材した高橋アオ氏が、トライアウトの価値と課題に迫る。

(取材・構成・撮影 高橋アオ)

トライアウトの課題

すべてのJリーガーが受験できないトライアウト

JPFA会員はトライアウト受験資格を得られるが、すべてのJリーガーがこのトライアウトを受験できない問題がある。それはアマチュア契約を結んでいるJリーガーであり、一部の選手はJリーガーという肩書があるにも関わらずトライアウトに挑戦する機会がない。

2024年開催のトライアウトに参加したFC岐阜を契約満了のDF小川真輝(まさき)は、2023年はテゲバジャーロ宮崎とアマチュア契約を結んでいたため受験資格を持っていなかった。

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2024年のトライアウトに参加した小川真輝

「アマチュア契約はチームの事情もあると思いますから、しょうがない部分があります。

でもここでのアピールは現役続行の意思を表明する場所でもあると思います。そこに出られなかったことは他の選手よりも、スタートラインが遅れるというか。すごく焦りが去年ありました。自分はたまたまFC岐阜さんに入ることができましたが、今後Jリーグ全体としてプロ契約の選手が増えていくように、そういう思いをする選手が減っていくといいと思います」と胸中を明かした。

一方でJ3以下のアマチュアリーグでプレーしている選手がトライアウトに参加しているケースもあった。彼らはJPFA元会員という枠組みで受験資格を持っており、現役Jリーガーがトライアウトに受験できない選手もいれば、現在アマチュアリーグ所属であっても元プロであれば受験できるといった歪な状況となっている。

J3にはアマチュア契約選手が不特定多数在籍しており、契約満了となってもチャンスがない状況となっている。トライアウトを主催しているJPFAはこの課題を解決に向けて動いてほしい。

先バレ問題の解決

同トライアウトの参加者は当日発表され、各報道機関が参加者一覧を報道することが恒例になっている。中には契約満了リリースが発表される前にトライアウト参加報道でファンが契約満了の事実を知る「先バレ」がこれまで多々あった。

あるJリーグ関係者は「(2024年は)満了のリリースを出した選手がトライアウトに参加できるという条件だったと思うけど、今回も満了のリリースが出ていない選手がチラホラいるね」と話すように、リリースが出ていない選手が散見された。

2023年に横浜FCからリリースが出ていない状況でトライアウトを参加したDF西山大雅(現栃木シティFC)は、トライアウト後の取材で「チームとしてひどいですね。本当にひどいですよね」と不満を露わにした。

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2023年のトライアウトに参加した西山大雅(現栃木シティFC)

「(怒っているサポーターは)たくさんブチ切れてください(笑)。僕は横浜FCを満了になった身なので、いくらでも横浜FCのフロント叩いちゃってください(笑)。なんとでも書いてもらって大丈夫です。もしJ2のチームに行けたら横浜FCを倒すために頑張ります」と語気が強かった。

2024年次参加者でリリースが出ていない選手を浅野凜太郎記者が取材。西山のように怒りを口にした選手はいなかったが、リリースについて触れると悲し気な表情を浮かべて話す選手もいた。

ファンからも「報道で知りたくなかった」、「なぜクラブはリリースを出さないのか。選手に失礼だろ」と憤りの反応もあり、JPFA、クラブ、選手にとってメリットがない。

ある元プロサッカー選手は「満了リリースを出すことはクラブにとって恥だと思っているチームがあると思う。それでリリースを出さないというならおかしな話。JPFAも参加条件にリリースを出ている選手を対象にしているだろうから、クラブが期限までにリリースを出すことが筋でしょう。結局満了になった選手はどうでもいいと言っているようなもんだよね」と現状の課題を口にした。

Jリーグクラブは契約を満了した選手に対するケアを強化する必要があり、トライアウトまでにリリースを出すように改善しなければならない。

形骸化、『キャリアの終わり』と蔑まれる実態

JPFAトライアウトは一部の選手から参加すれば『キャリアの終わり』と蔑む声もある。

中には「あれは出来レース。たった20~40分のプレーで判断できるわけがない。興味を持ってシーズン中の試合を観るスカウトが何人いるか。関係者とのあいさつで試合すら見ていない人もいるわけで」と話す選手もいた。

2023年のトライアウトに参加した松本山雅満了のDF喜山康平(現ギラヴァンツ北九州)はトライアウト参加に「最初は(葛藤が)もちろんありました。若いときは『トライアウトに参加するときは終わりだ』と思っていた」と葛藤があったと明かした。

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2023年のトライアウトに参加した喜山康平(現ギラヴァンツ北九州)

ただトライアウト参加時にはポジティブな考え方となり、「この年齢になって、今年も試合に出ていたらアレですけど、(試合には)途中から出られなかった。だったら挑戦しようと思いました。そう決意をしてからはきょうがすごく楽しみで。天気も良かったですし、いいグラウンドでやらせてもらえて、すごく前向きに挑戦できたので本当に参加して良かったです」とやり切った笑顔を浮かべた。

トライアウト後に喜山はギラヴァンツ北九州と契約を結び、2024年はリーグ戦18試合に出場し、来季も北九州でプレーする。

トライアウトはきびしい環境下で実施されるが、喜山のようにチャンスをつかんだベテランもいる。

多くの課題を抱えているが、参加する選手も意識を改善しなければ成功をつかめないだろう。あるJリーグ関係者も「不貞腐れていたり、投げやりなら一瞬でも見れば分かるけどね。喜山くんのようなポジティブな選手はチャンスをつかむよね。やっぱりお客さんに観られる人たちだからポジティブに、前向きな選手が生き残ると思う」と話すように、トライアウトをポジティブに受け止めることが成功の秘訣のようだ。

トライアウトの価値

トライアウトは多くのチャンスを創出してきた。プレーで見せる以外にも人間性が評価されて新チームに入団したケースがある。2021年次トライアウト前に練習中に右ひざ前十字靱帯(じんたい)断裂の大ケガを負って参加した当時ブラウブリッツ秋田満了のMF山田尚幸は、チーム関係者との名刺交換という形でトライアウトに参加した。

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2024年のトライアウトに参加した山田尚幸

トライアウト会場でヴァンラーレ八戸で当時指揮を執っていた葛野昌宏監督(現、東北社会人1部コバルトーレ女川監督)の目に留まり、「縁あって『リーダーシップのある選手がほしい』と葛野さんが連絡を直接くれたときから『お前にキャプテンをやってもらう』と話されました」と八戸入団を勝ち取った。

2024年開催のトライアウトにも参加した山田は「こういう機会は選手にとって捉え方次第です。できればトライアウトに参加しなかったらいいだろうけど、このトライアウトに参加できない選手も中にはいる。その中で、僕たちはトライアウトを受けることができて、アピールする場が設けられています」と、用意されたアピールの場があることの有難みを口にしていた。

さらに山田のケースを記事で読んでトライアウトに参加した選手もいる。2023年次トライアウトで奈良クラブの契約が満了したMF片岡爽(オーストラリア、ロックデール・イリンデンFC)は、トライアウト前に足のふくらはぎを負傷したため、プレーを見せられる状況ではなかったが、名刺を片手に関係者にあいさつしてアピールした。

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2023年のトライアウトに参加した片岡爽

「その上で、『いま自分にできることってなんだろう』と考えたときに、もちろん去年の山田選手の前例もあったことがすごくありがたいことでした。自分にいまできることをやろうと思って名刺を配って、少しでも自分の名前とかを知ってもらおうと思いつきました」と会場であいさつ回りをしていた。

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片岡はJリーグクラブへの返り咲きは果たせなかったが、トライアウト会場で知り合った関係者との縁でオーストラリアでの挑戦を決意し、同国で現在もプレーしている。

このようにプレーでアピールできない選手に対してもアピールの機会を設けるJPFAの柔軟な運営により、キャリアがつながった選手もいた。このトライアウトの課題は多くある一方で、新天地を探す選手にとって多くのチャンスが得られる価値も秘めている。今後選手、選手会、クラブがwin-winとなる改善が行われ、今後も契約を満了した選手たちに多くのチャンス、未来をつなげる機会であり続けてほしい。

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