19日、J3リーグ第21節のAC長野パルセイロ対松本山雅FC、いわゆる「信州ダービー」が行われ、長野が1-0で勝利した。
対戦前はリーグ17位の長野が10位の松本をホームに迎える一戦となった。
前半5分にFW進昂平のヘディング弾で先制した長野は、後半になって強まった松本の攻勢からゴールを守り抜き、リーグ戦4試合ぶりの勝利を飾った。
決してJ3でも上位同士の戦いとは言えない今節だったが、入場可能数が約1万5000人の長野Uスタジアムに1万677人もの人々が来場した。
信州ダービー、その人気の秘訣とは
信州ダービーは、長野市など北信地方をホームタウンとする長野と、松本市など中信地方をホームタウンとする松本とのダービーマッチ。
1997年に北信越フットボールリーグで、長野の前身である長野エルザサッカークラブと松本の前身・山雅サッカークラブが初めて対戦したことを端緒として、これまで24試合行われてきた。
今回の長野の勝利で、対戦成績は長野の7勝9分8敗となった。次の信州ダービーでも長野が勝利すれば五分の成績に戻ることとなる。
このダービーを観る上で注目すべきは、まずJ3とは思えない観客動員数である。
J3の2024シーズンの平均観客動員数は3,378人。毎年のように過去最高を更新しているものの、J1・J2と比べて物足りないことは言うまでもない。
しかし、そんなJ3リーグの試合としては異例なほど観客を集めることで知られるのが信州ダービーだ。
2022シーズンに松本がJ3へと降格してきたことで復活した信州ダービーでは、毎回のように観客動員数が1万人越えを記録。特に、2022シーズン第31節・松本対長野(サンプロアルウィン)では1万5,000人以上が詰めかけた。
これほど多くの人々が信州ダービーに駆け付けるのは、北信地方と中信地方との歴史的な地域間対立が背景にあるとも言われている。
かつては信濃国(しなののくに)と呼ばれ、南北に長く山々によって地域が分断されてきた長野。
県歌『信濃の国』で歌われるように松本(中信)・伊那(南信)・佐久(東信)・善光寺(北信・現在の長野市周辺)の四つの平(盆地)に人が集まり、それぞれの結びつきは弱かった。
各地方が独立性を持っていた信州だが、1871年の廃藩置県によって長野に県庁を置く長野県と松本に県庁を置く筑摩県が生まれた。ところが1876年の筑摩県庁舎火災をきっかけとして筑摩県は廃止され、長野県に統合されることとなったのだ。
このことが、現在にまで続く松本と長野の地域対立の遠因となっているのだ。それぞれの地域を代表するサッカーチームのダービーともなれば、多くの長野県民が参陣するのも頷ける。
信州の覇権を巡って白熱する緑とオレンジ
次に、信州ダービーについて特筆すべき点は、その引き分けの多さにある。
長野は2014年以来J3に所属し続けているのに対し、松本はJ2(2012-14・2016-18・2020-21)・J1(2015・2019)に所属した経験も豊富で、営業収益などのクラブ規模としては松本に軍配が上がる。
2024年度の営業収益は、長野が過去最高の8億7,400万円を計上したが、松本は14億3,000万円で倍近くとなる。
一方で、2022年から再開されたJ3での信州ダービーは計8試合のうち4試合が引き分けとなっている。
特に直近の3試合は連続で引き分けており、今回の長野の勝利で信州ダービーは4戦ぶりの決着という形になった。
前述の地域間対立が後押ししてか、両クラブとも信州ダービーをただのリーグ戦の一試合ではなく、お互いに特設サイトをつくって「長野は諦めない。」「松本に限界はない」といったスローガン(どちらも2024シーズンのダービー)を掲げるなど、特別な思いを持っていることが分かる。
チームの選手たちはもちろん、フロントやサポーターも地域の誇りの為に信州ダービーに対して全力で取り組む姿勢が、クラブの実力差を感じさせない接戦を創り出しているのかもしれない。
「ターミガンズ」(ターミガンは長野の県鳥である「ライチョウ」のこと)の愛称を持つ、緑がクラブカラーの松本。
それに対し、ケニアの雌ライオン「エルザ」を前身のチーム名として現在のエンブレムにも採用している長野は、長野の県章でも用いられるオレンジをクラブカラーとする。
互いに長野県のシンボルを分け合う両クラブは信州の覇権を巡り、年2回の特別な「信州ダービー」で白熱した試合展開を見せてくれる。Jリーグファンは要注目だ。
次回の信州ダービーは来シーズン以降となる。どちらかのチームがJ2に昇格してしまえばカップ戦以外で戦われることのないカードだが、できれば両チームが上位カテゴリで相まみえることを期待したい。