
東北大学サッカーリーグ屈指のセンターバックとして全国から注目を受けていた仙台大DF山内琳太郎(4年、京都橘高出身)は、来季からJ2いわきFCへと加入する。
仙台大OBではMF岩渕弘人(現J2ファジアーノ岡山)、DF嵯峨理久(現岡山)の2選手がJFL時代からいわきをけん引し、J3参入、J2昇格に大きく貢献した功労者だ。
大学での在籍は2選手と被っていないが、偉大な先輩に続こうと山内は試合出場の意欲を燃やしている。
8月には2024年JFA・Jリーグ特別指定選手に認定された山内にQolyはインタビューを実施。
いわきでの目標、加入内定の経緯、先輩たちの活躍から受けた刺激などを聞いた。
(取材・文 高橋アオ)
高校の同期との対決に胸を躍らす
――京都橘高校時代に選手権出場。仙台大に進学した経緯を教えてください。
「高校の飛奈(洸太、とびな・こうた)コーチが仙台大でスタッフをやることになったことですね。自分はコロナで大学をそんなに選べませんでした。仙台大に(飛奈コーチから)呼んでもらえたので決めました」
――高校時代を振り返っていかがでしたか。
「高校では自分の得意なプレーが何か分かりました。そこで初めてレベルが高い環境でサッカーができたので、成長できたと思います」
――徳島に内定していた高校時代の同期FW西野太陽選手(J2徳島ヴォルティス)の活躍に触発されましたか。
「そうですね。3年間クラスも一緒でしたからね。太陽がヴォルティスの練習参加から(高校に)戻ってきたら、いろいろなトレーニングを教えてもらいました。
――内定をもらったとき、西野選手からメッセージをいただきましたか。
「『おめでとう』と言われました。向こうもJ2なので、『来年はお互い試合に出て、対戦できたらいいな』という話をしました。(マッチアップしたら)いまはお互いのことや、プレーも分からないから(僕が)どう対応するのか楽しみですね」
先輩から学んだ仙台大時代
仙台大入学後に1年生で出場機会をつかんだ山内は、大型ルーキーとして期待を受けた。大学の先輩にはJ3カマタマーレ讃岐加入内定を勝ち取ったDF伊従啓太郎(現JFLヴィアティン三重)、昨年にJ2モンテディオ山形の加入内定を手にしたDF相馬丞と優れたセンターバックの後ろ姿を見て育った。
東北大学リーグ1部では並外れた空中戦の強さ、冷静なカバーリング、ビルドアップの上手さがあるセンターバックとして他を寄せ付けず、全国大会でも存在感を見せるディフェンダーへと成長した。

――仙台大では1年生のときから試合に出場していました。伸びた部分はどこだと思いますか。
「仙台大は上下関係があまり厳しくありません。プレーに対して『これをやるな』といった制限もありませんでした。自分がやりたいプレーをのびのびやっていましたね。
高校時代はビルドアップが得意ではありませんでしたけど、大学に入っていろいろチャレンジできる環境がありました。1年生のときに先輩のプレーを見て、教えてもらいながら成長できたと思います」
――先輩だと伊従選手が3学年上、相馬選手が1学年上にいました。
「伊従くんはビルドアップが上手かったので、(パスを出す際の)見る場所をどこから探したらいい部分を学べました。
丞くんは身体能力がすごい。すごすぎて参考にならないこともありました(笑)。去年は1年通して一緒に試合に出られたので、すごいと思うことが多かったですね」
――先日相馬選手を取材した際に、「去年は練習や、プライベートでも琳太郎とよく一緒にいました。1年目のキャンプの一発目から違いを見せてほしいです。1節目から試合に出られる力はあると思うので、頑張ってほしいです。(来季の対戦が)楽しみです」と仰っていました。
「自分も一緒ですね。来年はお互い試合に出られたらいいと思います」
――相馬選手はスピードが速いし、垂直跳びも80センチくらい跳んでいた記憶があります。セットプレーでマッチアップした際はどのように彼を抑えますか。
「シンプルに競ったら勝てないです。

――そういった相手の長所を消す発想は柔軟ですね。大学でプレーの幅が広がりましたか。
「そうですね。高校のときはヘディングと守備だけが得意でしたけど、大学に入ってビルドアップも得意分野になってきてプレーの幅がだいぶ広がりました」
――大学で敵味方問わず最も衝撃を受けた選手はいますか。
「玉城大志くん(J3ガイナーレ鳥取)からサッカーをいろいろ教わりましたね。
玉城くんはめちゃくちゃ考えながらサッカーをやっています。『ここ見たらいいよ』とか、ボールの持ち方とか主に攻撃ですね。ビルドアップの部分でサポートしてもらえました」
――山内選手のヘディングの強さは全国大会で他の選手と比較してもかなり秀でていると思いました。そこには絶対的な自信がありますか。
「ヘディングは自信がありますけど、いまはケガもあって練習試合にあまり出られていません。実際に(プロで)通用するのか楽しみですね」
――大学サッカーを振り返っていかがでしたか。
「大学サッカーは1年生のときから全国も経験できました。
――2022年の全日本大学選手権2回戦では明治大(関東大学1部リーグ)に勝利して番狂わせも起こしました。
「明治戦は後半から出て、意外とやれるという手応えがありました。そこまで差は大きくないと、そこで実感できたことが大きかったです」
いわき加入の経緯
8月6日にいわきへの来季加入内定が発表された山内は、今季の仙台大プロ内定第1号となった。いわき加入の経緯は少ないチャンスから実力でつかみ取った内定だった。
東北の雄で育った実力派センターバックがどのようにして入団内定を勝ち取ったかに迫った。
――いわき加入内定の経緯を教えてください。
「とある練習試合に呼んでもらい、そこでのプレーを評価してもらえました。後日練習参加に呼んでもらって、そこから2週間くらい参加してオファーをいただきました」
――いわきの練習生として呼ばれたときに、ここでいわきにどのような思いで練習に参加されましたか。
「いわきがちょうどディフェンスラインが少ないことは分かっていました。いいプレーをしたらチャンスがあるかもしれないと思っていました」

――練習参加のときに大学の先輩である嵯峨選手に会われたと思います。その際どのような言葉をかけられましたか。
「『入れるようにがんばれよ』と声をかけてもらえましたね」
――プロ内定が決まるまで不安との闘いだったと思います。決まるまでの時期を振り返って、心境はいかがでしたか。
「決まる前はかなり不安な心境だったと思います。『このままで大丈夫かな』という思いがちょっとありました。
総理大臣杯でどこかにアピールできたらいいと思っていましたけど、そのような状況でいいプレーできるかは分からないので。ただ大臣杯前には決まっていたので、逆にリラックスして大臣杯を迎えられたと思います」
――いわきからオファーをもらった瞬間は何を思いましたか。
「めちゃくちゃうれしかったです。喜んで親に電話して(いわきから)オファーをいただいたと伝えました。(チームメイトも)みんなめっちゃ喜んでくれました。『すごいな』と言ってくれました」

――仙台大に呼んでいただいた飛奈さんからはどのような声をかけられましたか。
「トビさんは『仙台大に来たかいがあったじゃん!俺が呼んだんだから俺に感謝しろよ』と言っていましたね(笑)。
高校のときから自分のことを評価してくれていたので、大学まで呼んでくれたことは大きかったですね」
同期の活躍に刺激を受ける日々
既にいわきに帯同しながらチームのトレーニングに励んでいる山内は、8月9日に大学チームに所属しながらJリーグに選手登録ができる制度の特別指定選手に認定された。
同期のDF五十嵐聖己(せな、桐蔭横浜大4年)が特別指定選手としてリーグ戦に今季リーグ戦20試合に出場。7月12日にプロ契約を締結して現在リーグ戦32試合に出場している。同学年の選手の活躍を見て山内は触発されるように闘志を燃やしていた。
――いわきの練習帯はハードで有名ですけど、慣れましたか。
きついですね。いまでも全然慣れていないです(苦笑)。
――仙台大でもトレーニングセンターでバーベルトレーニングをやっていますけど、比較していかがですか。
大学でもやっていたので、筋トレは大丈夫です。
――山内選手にとってハードな部分を教えてください。
ボールを使ったトレーニングがハードですね。対人トレーニング、スプリントのトレーニングなどは大学の強度と全然違います。それがきついですね。

――いわきは素早い攻守の切り替えや走力のプレー強度が他のチームと比べて優れています。チームに所属されてから数カ月経ちましたけど、いまはプレー強度やプレースピードに適応できてきましたか。
(加入が)決まって総理大臣杯からチームに戻りましたけど、大会でケガをしてしまいました。(現在はチームに合流)少し出遅れたので、早くチームに慣れていきたいです。
――既に同学年の五十嵐選手、加藤大晟選手がリーグ戦で活躍されています。彼らからも刺激を受けていますか。
同期の二人以外の(高卒世代の同期の)選手もみんな試合に出ているのですごいと思いますけど、自分も早く試合に出たいと思っています。
――特に五十嵐選手は特別指定選手だった際にリーグ戦20試合に出場していて、ポジションも近いです。ライバルに対する思いを教えてください。
いまは試合に出ていますけど、それは別に関係ないと思います。いまはポジションがちょっと違いますけど、自分もアピールして『負けていられないな』と思っています。

――大卒同期組は仲がいいですか。例えば同期で食事に行くなどはしていますか。
ご飯は用意されていることが多いので、食事にはあまり行きませんね。(加藤)大晟は一緒に練習場に来て、帰るので1番よく喋りますね。
――いわきでどのような成長を果たしたいですか。
いわきは強度などがかなり高いほうだと思うので、スピード感、強度、プロの環境に早く慣れて、試合で活躍できるように自分のコンディションを整えていきたいですね。
――いわき市で生活することは初めてだと思うんですけど、いわきの街の印象を教えてください。
街の雰囲気は船岡(仙台大の所在地)に似ているかなと思います。
小名浜が近いので、めっちゃいいなと思っていて、その辺に住みたいとちょっと思っています。
(ご飯は)あまり外食をしていないので、ちょっと分かりませんけど、海鮮が有名みたいですよね。食べに行きたいです。
――チームの印象はいかがですか。
思っていた通りで、強度が高くていいチームだと思います。

――サポーターがゴール裏から熱い声援を飛ばされています。サポーターの印象を教えてください。
めっちゃ熱いなと思っています。距離感は近いと思うので、早く覚えてもらえるように試合に出たいですね。
――サポーターの期待にどう応えたいですか。
守備の選手なので、失点を減らしたいと考えています。ヘディングが武器なので、そういったプレーでも魅せれたらいいと思います。
偉大な先輩たちに続く活躍を
いわきの歴史に名前を刻んだ仙台大OBが2選手いる。一人はJFL時代にチームへ加入してから得点源として活躍し、昨季J2残留に大きく貢献した岩渕。サイドバックとして左右の足を問わない正確なクロスと無尽蔵のスタミナでチームの攻守を支えた嵯峨だ。
当然後輩の山内は先輩たちの活躍を見聞きしており、偉大な先輩の背中を追いかけている。先輩に負けない選手へと成長し、いわきの歴史に山内の名前を刻もうと日夜励んでいる。
――いわきFCで大活躍した仙台大の先輩である岩渕選手、嵯峨選手から受けた印象を教えてください。
二人が活躍していたことは知っていました。(後輩の)自分が活躍できないということにはなりたくないと思っています。
――岩渕選手は昨季多くの得点を奪取してチームを救いましたよね。
岩渕さんは一緒にプレーしたことがないので、わからないことが多いです。ゴールを取っているイメージがあります。いわきでケガをしていたことも知っていますけど、復帰したと思ったらまたすぐ点を取り出していました。常に点を取っていてすごいと思います。
――嵯峨選手についてはいかがですか。
理久さんは、高校時代の仙台大の練習参加といわきの練習参加で何回か一緒にやったことがあります。いわきの試合を観たことがあって、ハードワークをできる部分がすごいです。プレーの質が高いと思いました。

――嵯峨選手は人格者ですから、そういった部分も見本にされていますか。
練習に参加したときに理久さんが話しかけてくれて、ちょっと緊張がほぐれました。もし自分に続いて仙台大の選手が練習参加でいわきに来たら、サポートしたいと思います。
――いわきでの目標を教えてください。
試合に出て、J1昇格を目指したいです。
――来シーズンはプロキャリアがスタートします。来季の抱負を教えてください。
まず開幕戦に出られるようにしたいです。いまは全然アピールをできていないので、とにかくアピールして少しでも試合に絡めるようにやっていきたいです。
――今季中の復帰に向けての意気込みを教えてください。
コンディションを早く上げていきたいです。試合は残り少ないですけど、大事な試合だと分かっています。そこに少しでも絡めたらいいと思います。
――今後のキャリアの目標をお聞かせください。
最終的にはJ1でプレーしたいですし、もっと海外でプレーできたらいいと思います。(日本代表も)目指したいです。
――サポーターは山内選手にすごく期待されています。サポーターにメッセージをお願いします。
岩渕さん、理久さんのあとに続けるように自分も活躍して、サポーターの声に応えられるように頑張りたいです。

今季はまだ公式戦の出場を果たしていない山内だが、第26節にメンバー入りをしてファンから注目を浴びた。秘めたポテンシャルの高さは他のいわき所属選手たちと比較しても色あせない力を持っている。いわきサポーターの期待に応える選手へと成長を遂げて、新たな浜を照らす光となる。