
昨季J2で9位と健闘したいわきFCが今季J2で9試合3分6敗で20チーム中最下位と大失速している。12日に開催されたJ2第9節モンテディオ山形戦にも敗れ、5連敗と出口が見えないトンネルに迷い込んでいる。
2015年12月に一般社団法人いわきスポーツクラブからクラブの運営権利を譲り受けてから10年目を迎えたチームは、これまで地域リーグから駆け上がるようにしてJリーグに参入し、今季でJ2は3シーズン目となった。
昨季J2で存在感を見せたチームが、ここまで負け込む事態は誰も見たことがない。
長年いわきを取材し、チームを追いかけている高橋アオ記者が低迷の原因を分析した。
(文・構成 高橋アオ)
やりたいことができない戦略の甘さ
勝てない、長年取材し続けてきたが、ここまで勝てないいわきは初めて見る。
これまで最先端のトレーニングメソッドで鍛え抜かれたフィジカルを駆使して縦に素早いサッカーは、『日本のフィジカルスタンダードを変える』というコンセプトの下でサッカー界に旋風を巻き起こした。
ゴール前で奮闘するいわきイレブン負け込んでいるため、「いままでのやり方が間違っていたのでは?」といった声をファンから耳にしたこともあったが、それは違うと断言したい。
ハードトレーニングで鍛えたマッチョたちがバチバチ戦うスタイルは、いわきのアイデンティティであり、このスタイルを否定することはクラブの存続にも影響が出るかもしれない。
そして試合を取材していてもいわきのスタイルがまったく通用していないわけではない。対策されて封じ込められている印象もない。
ではなぜ結果が出ないかといえば、一部戦略に甘さがあったためだと考察した。この戦略ミスにより本来やりたい戦い方ができないと見ている。
次のページでは考察した点を言及する。
GK戦略のミス
まず第一点はゴールキーパーの補強戦略にミスがあったのではないかと考察する。
今季は昨季まで所属していた田中謙吾さんが昨季限りで引退し、GK立川小太郎が今季J2に昇格したFC今治へ完全移籍し、GK鹿野(しかの)修平がJ3栃木SCへ期限付き移籍した。
新たに加わったゴールキーパーはJ1川崎フロンターレから期限付き移籍で加入したGK早坂勇希(25)、東京国際大から加わった大卒ルーキーGK松本崚汰(22)であり、昨季韓国の大東税務高から加入したGKジュ・ヒョンジン(20)と合わせて3選手で今季を戦っている。

ただこのGKユニットは経験不足が否めない。なぜなら2024年シーズン終了時点でプロ公式戦出場数が3人合わせて1試合しかないからだ。
早坂は桐蔭横浜大時代に全日本大学サッカー選手権大会準優勝と大学ゴールキーパーNo.1の実績を引き下げて、アカデミー時代に育った川崎帰還を果たした。昨季J1第27節横浜F・マリノス戦(1●3)でプロデビューしたものの、公式戦はこのデビュー戦1試合のみだ。

昨季はベテランの田中さんや実力を発揮した立川、J2とJ3で出場経験のある鹿野とバランスが取れた選手層になっていた。
ところが今季は若手GKを引っ張る経験豊富なベテランがいなければ、早坂と競い合えるようなプロ経験がある同世代のライバルも不在であるため、チームが窮地(きゅうち)に立たされた際に若手だけで踏ん張らなければならない。
そして今季就任したGKコーチの松本浩幸氏は今季でJリーグ初挑戦であるため、プロクラブでのGKのマネジメントも未知数だ。
今季は無失点試合が1試合のみであり、すべての失点がゴールキーパーの責任ではないが、経験が足りない若手選手たちに託すにはタスクが大きすぎた可能性がある。
J2残留争いは毎シーズン骨肉の争いと思えるようなし烈な戦いを強いられる。苦境でも精神的支柱として引っ張る経験豊富なベテランやJ3などで活躍を見せる若手、中堅を新たに加えて高レベルな競争を提供できるようにフロントは動く必要があるだろう。
安定感があり、経験豊富な守護神がJ2残留のために必要不可欠と見られるが、夏の移籍市場で補強をせずに耐え切れるかは不透明だ。
負傷者離脱や主力穴埋めの見立ての甘さ
今季の低迷はフィールドプレイヤーにも大きな負荷を与えているように見える。
まずディフェンスラインに負傷者が想定以上に続出している点だ。今季J1アルビレックス新潟から完全移籍でDF遠藤凌が2シーズンぶりに復帰するも、今季4試合出場に留まっている。J2のV・ファーレン長崎から期限付き移籍で加入したDF白井陽貴は未だ出場できていない。

昨夏の途中加入から主力として活躍していたDF堂鼻起暉(かずき)も第2節以降は欠場が続いており、立て続けにディフェンスリーダーの不在となりこれまで見せてきた強固なラインの形成に苦しんでいる。
これだけ負傷者が続出しているため、コンディショニングのマネジメントを見直さなければいけない時期にきているのかもしれない。
そして昨季リーグ戦18得点で得点ランキング2位タイに入ったMF谷村海那も今季リーグ戦9試合1ゴールと苦しんでいる状況だ。
昨季は相棒だったFW有馬幸太郎(現・J2大分トリニータ)が身体を張ったポストプレーでためをつくり、抜け出した谷村が仕留めるスタイルがハマっていた。だが今季はポストプレーを担っていた有馬の不在が大きく響いており、有馬の代わりの役割ができる選手も未だ出てきていない。
さらに独特なリズムとタイミングで相手の虚をつくタイミングでチャンスメイクしていたMF西川潤(現・J2サガン鳥栖)の不在も大きく、今季はいい形で谷村がボールを受けられていない。

谷村自身の実力は間違いないため、背番号10の実力を引き出せるように補強戦略の見直しが必要になりそうだ。
選手たちは全力で奮闘している。いわきを背負い、『浜を照らす光』であるイレブンは勝利を目指してピッチを駆け抜けている。ただこの苦境は一過性のものではなく、戦略の見立ての甘さから陥った事態に思える。
フロントは夏の移籍市場に向けて補強戦略を立て直し、選手たちの奮闘が徒労に終わらないように全力を尽くしてほしい。