
日本プロサッカー選手会(JPFA)が主催する『JPFAトライアウト』が11日、12日に開催された。今季契約満了を言い渡されたJリーガーたちがピッチ上でスカウトにアピールした。
成功を収める同期と現在地
12日の部に参加した西田は正確無比なビルドアップで攻撃を組み立て、急造チームのアタックの質を高めるように後方から存在感を見せていた。
J1横浜FM下部組織出身のエリートは、2022年に同い年のMF山根陸とトップチームへ昇格した。昨季からは長野を武者修行の地として選び、愛するクラブへの帰還を夢見ていたが、現実は厳しかった。
「今年でプロ3年目ですが、思い描いてた華のあるサッカー選手生活ではありませんでした。陸とは一緒のタイミングで(トップチームへ)上がったけど、陸はヴィッセル神戸戦(J1第10節)でデビューして、すごくいいプレーをした。
でも自分は全然試合に絡めなくて。陸と比較されることもすごく多かったですし、それがしんどかった。自分が長野に行ってからも変わらずに出場している姿は刺激になるけど、間違いなく悔しい気持ちもあります」と複雑な心境で同期の活躍を見ていた。

人生初のトライアウトに臨んだが、はじめは参加に消極的だった。それでも契約を勝ち取れなかった自分自身に矢印を向けて、前向きに挑もうと気持ちを切り替えた。
「腐らずにしがみついていけば、またはい上がれる」と言い切った西田は、同じような境遇から復活した選手たちを何度も見てきた。
「同期で筑波大学に行った(DF)諏訪間幸成や、木村凌也(日本大、GK)もマリノス(加入内定)が決まっている。
ベテランから学んだ目指す道
負傷続きで、決して順風満帆ではなかった3年間だった。昨年8月に右ひざ前十字靭帯損傷と全治8カ月の大ケガを負い、今季は2度も右ひざの半月板を損傷。万全な状態で今季はプレーできなかったが、気持ちを切らさずにトレーニングを積んできた。

「リーグ戦が終わってから、長野のスタッフの方に『トライアウトに行くので、グラウンドを開けてほしい』とお願いしました。そしたら先輩が『俺も練習するよ』と参加してくれました。昨日も長野でトレーニングをしていましたし、付き合ってくれた先輩やスタッフの方にはすごく感謝しています」と仲間たちの支えも大きかった。
紅白戦に向けてウォーミングアップを始める選手たち。各々がボールを使いながら身体を温めたり、リラックスして談笑を交わす中、積極的にマーカーの準備や後片付けに取り組む西田の姿があった。

「どんな意味でここに来ているのか。
長野では34歳のDF砂森和也らベテラン選手を手本にプロとしてのイロハを学んだ。彼らから教わったプレーや立ち振る舞いは、かけがえのない財産となり、トライアウト会場でもその姿勢が垣間見えた。
およそ25分間行われた紅白戦では、右CBとして2本に出場。JFLや地域リーグも視野に入れつつ、J3以上を希望している21歳は、Jリーグでコンスタントに出場機会を増やし、マリノスへ戻るための1歩目を歩み始めた。
「俺、本当にマリノスが大好きで。(MF)水沼宏太選手は若くして外に出て、そのまま30歳近くでまた帰ってきたじゃないですか。
自分の先輩でもそういう人がいる。いつになるかは分かりませんが、また自分は日産(スタジアム)でプレーしたいですし、マリノスに戻る日が来るように、ここからまた頑張りたいです」と再びトリコロールのシャツを身にまとう覚悟を口にした。
横浜の名門で思い描いた貢献はできず、退団が決まった。それでも一度マリノスを離れて再び日産で観客を沸かせた元日本代表MF中村俊輔さんを筆頭に水沼、GK飯倉大樹と偉大な先人たちが帰還の道を築いている。
(取材・文 浅野凜太郎、写真・浅野凜太郎)