
【J2第14節 RB大宮アルディージャ2-1ジェフユナイテッド千葉、5月6日、国立競技場・東京】
直近のリーグ戦で2試合勝星がなかった大宮だが、国立競技場で首位の千葉相手に2-1で勝利し、勝点差を5に縮めた。
大宮FW藤井一志は、ここ数試合ではスーパーサブとして途中出場し、前線で懸命に走ってゴールへ迫る姿が印象的だった。
この日は後半21分にブラジル人FWカプリーニとの交代でピッチに投入されると、終盤には右サイドバックに入り、守備でほん走した。
藤井右サイドバック起用の真相とは
いつもは前線でアグレッシブに得点を狙う藤井だが、きょうの試合では体を張って相手のドリブルをくい止める献身性を見せた。
大宮が1点のリードを守る後半終盤、背番号42はFWから右サイドバックへポジションを下げると、本職DFさながらのデュエルを見せ、自慢のスピードを生かして粘り強くドリブル突破を阻止した。
同選手は「サイドバックになったときも意外と落ち着いていました。どこから来た自信か分かりませんが、一対一を止められる自信はありました。
一応、高校1、2年生ぐらいまではサイドバックをやっていたので、そんなに慌てることなく、 最後に(ドリブルを)止めたのは、めちゃくちゃ気持ちよかったです」とプロの公式戦では初のサイドバック起用もすんなり受け入れられた。
J2第13節カターレ富山戦でボールを追いかける藤井ミックスゾーンで、記者から『チームメイトからどのような指示を受けて右サイドバックに入ったのか』と問われた藤井は、驚きの理由を答えた。
「たぶん、轍さん(長澤徹監督)はトシ君(MF石川俊輝)がサイドバックだと誰かに伝えたんですけど、それがなぜか僕がサイドバックだと伝わって。
最初は『トシくんと(ポジション)交代かな』と思っていたんですけど、『違う』みたいな感じになって、 俺と凱心(DF関口凱心、かいしん)が前後かと思ってやっていたら、違ったみたいです。結果的にはチームを助けられたので(笑)」
伝達ミスにより右サイドバックでプレーすることになったが、持ち前の泥臭さで千葉の猛攻をしのいだ。

また同選手は「(歓声で)声が分からない中で、緊急事態もありましたけど、自分たちがやるしかなかった」と、4万9991人が詰めかけた大観衆の中でプレーする難しさを感じながらも、チーム全員でつかみ取った勝点3を喜んだ。
『ハードワークは才能に勝る』
大宮の強さの秘訣は、全選手が自己犠牲をいとわないハードワークだ。
昨季から同クラブを率いる長澤監督は「去年のいまごろはこんな状況をまったく想像できない中で戦って、彼らの勇気と勇敢さがいまこのポジションに導いている。さらにRBらしく『ハードワークは才能に勝る』という、私が原さん(原博実代表取締役社長)と一緒にザルツブルクに行ったときにロッカーに書いてあったんですけど、きょうもその言葉を果たして、彼らはそれを体現してくれたので、感謝しています」とレッドブル・ザルツブルク(オーストリア1部)が共有している言葉を借りて現在のチームの献身性を評価した。

藤井はきょう、その言葉通りのプレーで応え、勝利を手繰り寄せた。
「僕自身、(試合に)出られれば、チームのために貢献できれば『どこでもやります』というスタンスで、常に準備をしています。それがきょうしっかりプレーで出せたのかなと」と力強く語った。
夢の国立でのプレー
今季の大宮は、開幕4連勝でスタートダッシュを切るも、J2第5節サガン鳥栖戦で今季初黒星を喫してからは、調子の浮き沈みが激しい状況が続いている。
その中で迎えた首位千葉との国立決戦は、オレンジと紺の勇者たちにとって、背水の陣だった。
大宮の背番号42は「試合前から(千葉を)『止めるのは俺たちだ』と話していました。最近、不甲斐ないゲームをファン・サポーターの方々に見せてしまっていたので、もう一度自分たちを信じて応援してもらうために、今週は何が何でも勝たなくちゃいけないと思っていました。そういう面では、全員が気持ちのこもったプレーで、もう一度信じてもらえるようなゲームができたんじゃないかと思います」と並々ならぬ覚悟を持って決戦に臨んだと話した。

藤井は国立競技場でのプレーに強い憧れを持っていたという。
「僕が大学3年ぐらい(のとき)に、日本対ブラジルの親善試合をここ(国立競技場)で観て、『いつか自分もここに立ちたい』という思いでずっとやっていた。きょうはそれが叶って良かったかなと思います」とうれしげに話した。
続けて同選手は「これまではスタンドで国立(での試合)を観る身でしたし、『いつこのピッチに立てるんだろう』『いつかこのピッチに立ちたいな』という想いの中、ずっとサッカー選手としてキャリアを歩んできた。
大宮は次節、5月10日午後2時からホームのNACK5スタジアム大宮で、現在リーグ2位のベガルタ仙台と直接対決をする。
両チームの勝点差はわずか1ポイント。J2優勝に向けて絶対に負けられない。
大宮の背番号42は「仙台さんもすごく好調ですし、少し試合を見ましたけど、J2でもいま1番勢いがある強いチームだなと。
きょうの勝ちをより価値あるものにするためには、次のゲームで絶対に勝たないといけないと思います。次は自分たちの『要塞』で(試合が)できるので、ファン・サポーターの方々とともに勝利を目指して頑張りたいです」と勝利の勢いに乗り、上位対決での連勝を誓った。
藤井は“要塞”NACK5スタジアムを再び歓喜の舞台に変える。
(取材・文 縄手猟)