
Qolyアンバサダーのコラムニスト、中坊コラムの中坊氏によるコラムをお届けします。
行く前に騒げ
このタイトルの時点でピンときた人は、サッカー観戦歴20年以上のオタクだ。
かつて2000年代に存在したブラジルサッカー専門サイト『WSS from S』でのコンテンツ、Jリーグに来るブラジル人を加入前に詳しく解説する「来る前に騒げ」からとっているタイトル。
今回、その逆バージョンで「ヨーロッパへ海外移籍してから注目するのではなく、その前から、Jリーグ在籍時代から有望選手に注目しようよ」という趣旨での「行く前に騒げ」である。
自分は毎年、夏と冬のJリーグからヨーロッパ移籍を全数まとめているが、その数がまぁ多いこと。二桁到達は当たり前。年を追うごとに海外移籍が増えている現状だ。全数まとめている中で知見がたまり見えてくるものもあり、全クラブをフラットに見ている立場と視点から、Jリーグからヨーロッパへ移籍する可能性大の選手を挙げていく。
なお、「日本代表に選ばれそうな選手」と「海外移籍しそうな選手」は似てるようで全く別物であることに留意いただきたい。年齢やクラブでの立場等でそこは対象者が変わってくる。
是非、ヨーロッパへ行く前にスタジアムで注目して観戦してほしい。
今回挙げるのは5名。このうち誰かしらは移籍するとみている。
MF北野颯太(20)セレッソ大阪
まずは北野颯太。今シーズン一気にブレイクしたニューヒーローであり、絶対にスタジアムで見るべき選手だ。2025年開幕戦、大阪ダービーでの2得点1アシストの大活躍という素晴らしいスタートをきってからその後も得点を量産。
彼の場合、彼個人が目立つどころか、もはや今のセレッソは「北野のチーム」になっているのが凄い。全ての攻撃が北野を経由しているし、チームメイトも北野の決定力とクオリティに信頼を置いていてボールが集まる。
そしてその吸い寄せられるボールを次々にゴールに叩き込んでいるのが今の北野だ。データもそれを示しており、1試合平均シュート数ではJリーグのトップ3にランクインしている。
セレッソ大阪U-18在籍の年齢でもある17歳でプロ契約を締結してから今年でJ1は4年目。開幕戦後に同僚の香川真司が「今年はキャンプから別人。レベルが一つ違った」と語るほどのキレを見せている。J1で2・3月の月間ヤングプレーヤー賞も受賞。
チームは中々うまく勝ち点を積み上げられないがゆえに、北野の孤軍奮闘振りが際立ち、監督も最後まで下げられないため試合終盤だと疲れが見えてやや精度を欠くところが唯一の課題か。
北野目当てで見に行った日立台で期待通りにビューティフルな先制ゴールを挙げ、次世代のスターが産まれる瞬間を目の当たりにした感動、そしてすぐにでも海外に行ってしまうと思われる中での貴重な機会を目撃できた嬉しさに打ち震えた。
まだ20歳という年齢、そして今季の活躍振りを踏まえればこの夏、遅くともシーズン終了の冬にはヨーロッパへ行く選手だ。
DF高井幸大(20)川崎フロンターレ

彼も北野と同じく17歳でプロ契約を結んだ、川崎フロンターレU-12からの下部組織出身センターバック(CB)。
パリ五輪日本代表としてスタメン出場していたこと、また、その大会において本田圭佑から「15番(高井)うますぎ」と絶賛されたことから既によく知られ、注目度は高い選手だ。
2024年シーズンにおいては、自分が現地観戦した第2節:川崎4-5磐田のド派手な試合においてジャーメイン良に翻弄されVAR含め彼に5回もネットを揺らされるなど、守備面ではまだJ1基準に達してない実力だと感じたが、その後順調に成長し、今シーズンはここまで及第点以上、DFリーダーの振る舞いを感じさせるほどの出来を見せている。
今年見に行った日立台での柏戦でも相手の壁となる姿を見せ、等々力での横浜F・マリノス戦ではセットプレーのターゲットとして抜群の存在感を見せつけた。なにより守備の構築に定評のある長谷部茂利監督のもとで指導を受けることも彼にとっては大きなプラス。
「運べる若いCB」は貴重であり、彼もヨーロッパが放っておくはずがなく間違いなくステップアップする逸材だ。
MF中島洋太朗(19)サンフレッチェ広島

彼も北野、高井と同じく17歳にしてプロ契約を締結した選手で、サンフレッチェ広島ジュニアからの下部組織出身。父親は「国王」というネット上のあだ名で有名な中島浩司。父親と同じセントラルMFのポジションをとるが、スケールが段違いに高い。
2024年シーズンでは等々力での川崎戦で現地観戦。当時18歳にして周りに劣らず、見事に調和しプレーできていて将来が楽しみだと感じたものだが、今シーズンはもはやピッチの王様というべく堂々たる主力の佇まい、圧巻のプレーを見せた。
富士フイルムスーパーカップで活躍したことで私をはじめ多くのサッカーファンの目に止まっただろうが、無難なプレーに終始するどころか的確に相手の嫌なところへ出す長短織り交ぜたパスを連発し、後半に見せたアウトサイドでのスルーパスに至っては巧すぎて唸ってしまった。
世代別の日本代表戦、そして今シーズンの広島はACL2・ACLEの参戦もある超過密日程のため出場機会は昨シーズンより確実に多い。
現在は左膝の手術のためオーストリアでトルガイ・アルスランとともにリハビリ中であるため夏の移籍は絶対にないだろうが、ここまで急激な成長を見せつけると復帰後はヨーロッパのクラブからオファーが殺到するのは間違いない。
MF田中聡(22)サンフレッチェ広島

中島洋太朗と同じく、広島から田中聡を挙げる。彼は湘南ベルマーレU-18から湘南トップチーム、そしてベルギーのコルトライクへレンタル移籍後に湘南復帰、そして広島が補強の目玉として獲得して今シーズンから広島プレーしている。
説明不要の運動量。彼の運動量は尽きること無く、優勝争いしていた2024年シーズンの広島は中盤から終盤戦にかけて怒濤の10勝1分というぶっちぎりの強さを見せていたのだが、ここで立ちはだかったのが湘南での田中聡。縦横無尽に駆け巡り広島を翻弄した末にATに決勝点を叩き込んだ。
現地レモンガススタジアムで見ていた時、あの両チーム疲労困憊の最中で一人全くスタミナが尽きず切り込んでいった瞬間に、「田中聡なら決勝点が入る」と確信した。しかし、まさかその姿が翌年相手チームで見ることになるとは。
彼はこの挙げた選手の中で唯一の海外移籍経験者。一度ヨーロッパへ挑戦しただけに、またすぐに二度目の挑戦の機会が来るだろう。類似例として、ポルトガル移籍後にJリーグへ復帰し、横浜F・マリノスで得点王&ベストイレブンの大活躍をひっさげて二度目のヨーロッパ挑戦でセルティックへ移籍した前田大然のように。
FW中村草太(22)広島

今シーズン最も鮮烈な活躍を見せている若手といったら彼しかいない。明治大学で2年連続得点王&アシスト王という実績をひっさげ、プロ初年度にして爆発的な活躍を見せている中村草太だ。
肩書きは充分だったがまさかここまでの結果を残すとは。これだけの活躍をしているのでもはや説明不要。
広島サポーターからすると知りたくない情報かもしれないが、今年3月時点で本田圭佑の兄、本田弘幸が経営するエージェント、HEROEと契約を結んでいる。(先に挙げた北野、高井もこのエージェントである)
プロ1年目であるため、年俸も安く移籍金も安い状況を踏まえれば、ここまで挙げた選手の中で一番移籍可能性が高いとまでも言える。すぐにでもスタジアムに足を運んで見に行って欲しい。
海外移籍条項はあるのか
ここまで、北野颯太、高井幸大、中島洋太朗、田中聡、中村草太と5名を挙げたが、「やけに広島が多いな?」と感じた人もいたと思う。その理由としては、広島は「海外移籍条項を結んでいるのでは」という推測を加味しているためだ。
もともと、昨シーズンに大橋が湘南からの加入後わずか半年で移籍した際にも言われた話だが、スポーツ新聞記者もその条項・契約内容の存在を匂わせる発言をしていることから、広島の場合は「ヨーロッパからオファーが来た場合、本人の意思を尊重し基本的に引き留めない契約」が存在するのではと言われている。
それを踏まえ、移籍可能性の高い5名の中に広島の選手が多く挙がることとなった。
実際にそのような移籍条項が含まれているかは当然、未来永劫明らかになることはないが、この夏、そして冬の移籍動向を見れば語らずとも理解できるものとなる。
結論としては、「海外に行ってしまう前に見よう!」に尽きる。