Head coach Hajime Moriyasu before the MIZUHO BLUE DREAM MATCH international friendly soccer match between Japan and Canada at Denka Big Swan Stadium on in Niigata, Japan October 13, 2023. (Photo by AFLO)

2026年北中米ワールドカップアジア2次予選のミャンマー戦(16日)とシリア戦(21日)に向け、日本代表の森保一監督は現状のベストメンバーを招集した。一方、14日に大阪市内で行われた日本代表の練習は、フルメニューを消化した選手がわずか9名という事態に。

ヨーロッパの国際大会で活躍する選手が増え、過密日程と長距離移動によるケガのリスクが高まる中、ベストメンバーで臨む意義とその是非について考察する。

(文=藤江直人、写真=アフロ)

2日前の練習でフルメニュー消化はわずか9人。前日合流の選手も

ミャンマー代表戦を2日後に控えた緊張感は、とてもじゃないが伝わってこない。14日夕方から大阪市内で行われた日本代表の練習で、フルメニューを消化したフィールドプレイヤーはわずか9人だった。

キャプテンの遠藤航や久保建英、守田英正、上田綺世、10月シリーズは体調不良で選外だった鎌田大地や堂安律ら9人は軽めのジョギングでコンディション調整。その後に室内へと姿を消していった。

冨安健洋は完全別メニューでの調整を強いられ、三笘薫にいたっては宿泊先のホテルで静養に努めた。2人とも故障ではなく、日本サッカー協会(JFA)は「蓄積した疲労を考慮した」と説明したが、一夜明けて足に違和感があるとして、三笘の離脱がJFAから発表された。

さらにベルギーから経由地へ向かう便が欠航になった影響で帰国が遅れた2人、町田浩樹とケガで辞退した前田大然に代わって招集された渡辺剛は練習が行われているときに関西国際空港に到着していた。

町田も渡辺もミャンマー戦前日は、時差ぼけの解消を含めたコンディション調整が必要になる。冨安も試合が行われるパナソニックスタジアム吹田のピッチにはおそらく立たないだろう。

もっとも、フルメンバーで練習ができない事態は早くから予想されていた。

ヨーロッパ組の選手の大半が、12日の日曜日に所属クラブでの国内リーグ戦に臨んでいた。ミャンマー戦が16日の木曜日に開催されるスケジュールを受けて、森保一監督は10月の段階でこんな言葉を残していたからだ。

「ということは、週末のリーグ戦を戦ったヨーロッパ組の選手たちのなかで、最後に合流する選手は火曜日もしくは水曜日になる場合もある。これでは練習する時間もほとんどない。選手たちの体調面で言えば、リカバリーする時間もほとんどない状況で公式戦を戦わなければいけない」

実際に航空便のアクシデントもあって、町田と渡辺はミャンマー戦前日の水曜日にチーム練習へ合流する日程を余儀なくされた。

2チーム編成案は幻に。ヨーロッパ組を取り巻く環境の変化は考慮されたのか?

もっとも、チームとして対策をまったく講じなかったわけではない。

ミャンマーとの初戦後にサウジアラビアのジッダへ飛び、21日にシリア代表との第2戦へ臨むスケジュールを前にして、森保監督は2チームを編成する構想を一時は思い描いていた。

「国内組だけの編成、海外組だけの編成を含めて、いろいろな選択肢を考えました。選手たちがケガをするリスクは、みなさんも心配されていると思う。もちろんわれわれも心配しているし、誰もケガをさせたくないし、選手には少しでもいいコンディションで戦ってもらいたいと考えています」

時差ぼけや長距離移動の影響を受けない国内組でミャンマー戦へ、代替開催地となったジッダへの移動距離が短い海外組を中心とした陣容でシリア戦へそれぞれ臨む。海外組の多くは大阪に、国内組はジッダにはそれぞれ向かわない。

この形ならば選手たちにかかる負担は大きく軽減される。

しかし、森保監督が「考えました」と過去形で語っているように、2チームのA代表を編成する構想は幻と化した。最終的にベストメンバーを招集した理由を、指揮官はこう説明している。

「ただ、同時にこれまでの日本代表を考えても、厳しいなかでタフに戦い続けるからこそ成長できているという部分もある。なので、ケガのリスクはもちろん最大限に考慮した上で選手を起用したい。状態を見た上で休ませる、という形は招集してからでも考えられると思っているので」

森保監督が言及した「厳しい」や「タフ」といった言葉に、違和感を覚えずにはいられなかった。

ヨーロッパ組の合流が、試合直前になるケースは決して珍しくはなかった。ポルトガル領の離島を本拠地とするサンタクララに所属していた守田らを、2021年3月の韓国代表戦(日産スタジアム)に間に合わせるために、日本サッカー協会がチャーター便を手配した異例のケースもあった。

しかし、それから約2年半がたったいま、ヨーロッパ組の選手を取り巻く状況は大きく変わった。それは今シリーズに当初招集された26人の選手のうち、22人を占めていたヨーロッパ組のなかで実に半分以上となる12人が、今シーズンのヨーロッパの国際大会でもプレーしている点となる。

昨シーズンの国内リーグで上位に食い込んだからこそ、今シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)やヨーロッパリーグ(EL)、あるいはカンファレンスリーグ(ECL)の舞台に立てる。念願のCLに初めて挑んでいる久保を含めて、経験値を引き上げる上で最高の環境をそれぞれが手繰り寄せた。

ただ、CLのグループリーグは火曜日と水曜日に、ELとECLは木曜日とミッドウィークに開催される。11月で言えば7日から9日にかけて、それぞれのグループリーグ第4節が開催された。

その上で週末の各国リーグ戦に臨む。ヨーロッパの国際大会に臨んだ、日本代表選手が所属するクラブの大半が日曜日にリーグ戦を戦った。例外的に土曜日に試合があったのは冨安と久保くらいだ。

久保建英が発したメッセージの真意。指揮官は「一戦必勝モード」でフルメンバー招集へ

つまり、ヨーロッパ組はそれぞれの所属クラブで、すでに十分すぎるほど「厳しく」て、なおかつ「タフ」な経験を積み上げている。さらにミャンマー戦へ臨む代表メンバーに招集されればどうなるのか。生身の体がさすがに悲鳴をあげるなかで、ケガを負うリスクだけが一気に高まってくる。

10月シリーズのカナダ代表戦を前にして、久保が「きついですよ、正直」と本音を漏らした件が物議を醸した。ただ、この発言だけがクローズアップされると、ラ・リーガとCLを並行して戦う過密日程下にいる久保が、代表招集を見送ってほしいと思っている、と受け止められかねない。

メディアを介して、久保がファン・サポーターへ伝えたかったのはむしろ逆の思いだった。

実際にこの発言の後に「きついのは僕だけじゃないと思う」と断りを入れながら、こんな言葉を紡いでいる。

「日本ではいろいろな人たちが日本代表の試合を待ってくれているし、チケットも完売したという話も聞いています。そういった人たちのために試合ができるのは、選手としてすごく幸せなこと。もちろんきついのは事実ですけど、ファンのみなさまにはそういったところも頭の片隅に入れておいていただければ、より楽しみながら代表戦も見てもらえるのかなと思っています」

久保の言葉からもわかるように、代表に選出されれば選手たちは意気に感じ、たとえ疲労困憊の状態であってもモチベーションを高めてチームに合流する。ならば、選手たちを預かる監督やコーチングスタッフが彼らのコンディションを注視しながら、プレー時間をコントロールしなければいけない。

10月シリーズでの久保の起用法を例にあげれば、左太ももの裏に張りを覚えて帰国した関係もあり、カナダ戦は大事を取って出場を回避。チュニジア代表戦では先発するも、事前に名波浩コーチと「何かおかしいと思ったら言う」と申し合わせ、実際に違和感を覚えた後半に自ら交代を申し出ている。

一方で今回のアジア2次予選から、コロナ禍で「26」に拡大されてきたベンチ入りメンバーの数が、交代枠は「5」のままでコロナ禍前の「23」に戻る。それでも森保監督は26人を招集し、ケガや体調不良などのアクシデントに備えて、選手を入れ替えられる態勢を整えていた。

しかし、活動開始を前にして前田大然、川辺駿、古橋亨梧、そしてJ1リーグとAFCチャンピオンズリーグ(ACL)でフル稼働していた国内組の伊藤敦樹がケガで辞退。前述したようにヨーロッパ組の渡辺と、22歳の佐野海舟、U-22代表に招集されていた細谷真大が抜擢された。三笘に代わる選手は、ミャンマー戦前日の15日の段階で発表されていない。

「ワールドカップ出場への第一歩」で問われる指揮官のマネジメント

当初の構想より2人少ない状況で迎える、3年後の次回ワールドカップ出場への第一歩となるアジア2次予選へ。ケガ人以外は顔ぶれをほぼ固定して戦っていく意義を、森保監督はこう語っている。

「一つ大きな理由としてはチームとして戦っていくことで経験を共有すること。どんな試合にも成果と課題は必ずあるので、そこを共有しながらチームの積み上げをしていきたい」

年間の稼働日数が限られる代表活動において、森保監督が言わんとする意義はもちろん理解できる。しかし、肝心の選手がリスクにさらされ、ケガを負ってしまっては本末転倒になる。リスクを回避する上で理にかなう2チーム構想を、具現化させる絶好のチャンスを逃した点が残念でならない。

所属クラブがヨーロッパの国際大会には出場していない伊東純也、浅野拓磨、南野拓実、伊藤洋輝、田中碧、中山雄太、鈴木彩艶らに、第二次森保ジャパンが船出した今年3月以降に招集してきた国内組の選手たちを融合させれば、ミャンマー戦へ向けたチームは十分に編成できた。

ワールドカップ予選そのものを経験していない選手たちの底上げにつながるし、代表チーム全体の層の厚さも増す。ミャンマー戦の期間を休養に充てた選手たちも、リフレッシュできた状態でヨーロッパからの移動距離が、日本からのそれよりも短いサウジアラビアへ向かう形ももちろん理にかなう。

最新のFIFAランキングで、アジア最上位となる18位の日本に対してミャンマーは158位。前回カタール大会出場をかけたアジア2次予選でもミャンマーとは同グループになり、森保ジャパンはアウェイこそ2-0と辛勝したものの、ホームでは10-0のスコアで大勝している。

「当たり前に勝つ、ということほど難しいことはない。

しっかりと気を引き締めて、対戦相手がどこであっても最善の準備をし、いま持っているベストの力をぶつけていかないといけない」

ベストメンバーの意義を「いま目の前にいる選手たち」と定めた森保監督は、あらためて一戦必勝を強調した。最終予選を含めれば25年6月まで続く、アジアの長い戦いがいよいよ幕を開ける。

<了>

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