2012年にラグビー日本代表のヘッドコーチに就任し、4年間で日本代表を世界と戦えるレベルにまで押し上げた“名将”エディー・ジョーンズ。その後は、イングランド代表、オーストラリア代表の指揮官を歴任し、2024年1月、9年ぶりに日本代表への復帰が実現。
(文=向風見也、写真=AP/アフロ)
「若い選手たちを必ず発掘していかないといけない」
ラグビー日本代表が再出発した。
候補合宿にあたる「男子15人制トレーニングスコッド福岡合宿」が2月6日からの2日間行われ、9年ぶりに復帰のエディー・ジョーンズ ヘッドコーチが陣頭指揮。ハイテンポな実戦仕様のセッションを進める。
今回は国際試合に臨むリーグワン4強勢が不在。初選出組は23名におよび、そのうち9名は大学生だった。昨年まで約8年続いたジェイミー・ジョセフ体制が現役学生を正代表に入れたのは2017年が最後だったとあり、今回のラインナップは新鮮に映った。ジョーンズは説く。
「若い選手たちを、必ず発掘していかないといけないんです。皆さんもご存知のように、昨秋のワールドカップ(フランス大会)では年齢が高い選手たちが集まっていた(2023年8月の代表スコッド平均年齢は28.8歳)。彼らが次のラグビーワールドカップまでにベストな状態ではなくなることが予測されますよね。ですので、世代ごとに一番いい選手たちをピックアップしていく必要があると考えます」
「学生界もレベルアップする」現体制の若手抜擢
現体制の若手抜擢へ同調する一人に、帝京大学ラグビー部の岩出雅之前監督がいる。
「どんどんチャンスを与えてあげてもらって……。やはり、学生は経験によって成長させてもらえる。未来のためにも――これは、エディーさんの在任期間中だけではなく――その先にもつながるよう指導体制を作ったり、若手へチャンスを与えたり、ベテランの人たちとうまく混ぜ合わせたりすることで、学生たちの意識を早くインターナショナルなレベルにもっていってもらいたい。
2021年度まで計25年間、同大を率い、大学選手権では2009年度より9連覇。一時は発達途上にある学生選手をトップカテゴリーへ引き上げるのにやや慎重なそぶりを見せていたが、その心は「指導者に、よります」。年代別代表に召集された教え子がケガをしたり、思うような成長を遂げられなかったりしたのを間近で見てきたことを踏まえて答える。
「(ジョーンズは)ハードワークさせる方だから、そのなかでの学びもあるでしょう。(過去に年代別代表を辞退した在校生がいたが)僕が止めたことはないです。学生が行かないと言ったから、行かなかったんですよ」
つまり献身を貴ぶジョーンズの視野、想像力のもとであれば、若者も安心して力をつけられるだろうと見る。ポジションごとの特性も踏まえ、こう述べる。 「(身体をぶつけ合う)フォワードは鍛えたほうがいい時期に行っても(トレーニングをする時間が少ないため)でかくならないし、タフにならない。一方、(瞬時の判断や正確な技術の求められる)スクラムハーフなんかは、世界に行ったらいい経験ができる」
日本人選手は外国人選手よりも成長スピードが…
ジョーンズの「若い選手を必ず発掘していかなければ」という発言にもあるように、いまの日本ラグビー界では次世代選手の強化、ひいては選手層の拡大が求められている。それはコーチのほか、医療スタッフも認識するところだ。
2023年のフランス大会までワールドカップ2度連続で日本代表のドクターを務めた高森草平氏も、「ワールドカップは短い期間での連戦になる。(メンバー外を含めた)全員で戦うことが必要です」と指摘する。
かつて強豪国のニュージーランドで名門クルセイダーズにも帯同経験があり、当時の原石が代表選手となる過程を見てきた上で言う。
「もちろん個人差はありますが、日本人選手は外国人選手よりも身体のピークや成長スピードが少し遅いと思っています。そのため、一概に外国がやっているような育成システムが日本に当てはまるとは限りません。やみくもに若い人を試合に出せばいいかといえばそうでもないのかな、とも感じます」
若年層の有望株を代表に招くのなら、その環境を「医者やトレーナーなど、医学的な知識を持った人間の目もある状態」にするのがマストだと高森氏は語る。
これは国際ラグビーおよび人体のリアルに即した重要証言とも、競技の枠を超えた日本人アスリートの育成計画への提言とも取れる。例えば、将来性豊かな青年をキャパシティ以上の舞台に押し上げ、再起の難しいケガをさせてしまうのはあまりにもったいない。高森氏は続ける。
「いらないケガを防ぎながら健やかに成長していくためのプロセスを考えていければ、もっと日本は強くなると感じます」
オーダーメイドの育成計画が練られるのが理想?
今度の福岡合宿メンバーでは、肉体強化の環境や文化の整う帝京大学から来たフランカーの青木恵斗、ウイングの高本とむはフィジカリティで及第点を与えられた。
かたや京都産業大学1年でロックの石橋チューカは細身で、指揮官は「体重はつけなければいけない」と言及した上で、「本当に懸命に取り組みたい、学びたいという願望を持っている」と評価。同じ京産大1年の高木城治、同3年の土永旭といった両スクラムハーフは、ジョーンズに機敏さと判断力を褒められていた。
いずれにせよ、多角度的な視点のもと、選手それぞれに適したオーダーメイドの育成計画が練られるのが理想か。
<了>
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