ベスト16に進出し、優勝候補の一つだったベルギー代表を追い詰め、日本サッカー界の進化を感じさせた2018年のFIFAワールドカップ・ロシア大会終了後、日本サッカー協会は森保一監督にA代表と東京五輪代表の兼任を託し、さらなる高みを目指した。だが11月の3連戦を見ても、この体制には限界が見え始めている。
(文=岩本義弘(『REAL SPORTS』編集長)、写真=Getty Images)
兼任では森保監督の最大の強みが生かされない
結論から先に書く。日本サッカー協会は、ただちに、森保一日本代表監督の東京五輪代表監督との兼任をやめるべきだ。
11月、森保監督は3試合で指揮を執取った。11月14日にアウェーで行われた2022 FIFAワールドカップ(W杯)・カタールW杯アジア2次予選のキルギス代表戦、11月17日のU-22日本代表vsU-22コロンビア代表との親善試合(広島)、そして11月19日に行われた日本代表vsベネズエラ代表の親善試合(大阪)の3試合である。結果は、キルギス戦こそ順当に勝利を収めたものの、残り2試合は内容、スコアともに“惨敗”と言われても仕方のないものになってしまった。
この結果を受けて、メディアやファンからも、一気に森保一監督への批判が噴出している。
しかし、今回の11月シリーズの3試合、正確には惨敗した2試合を踏まえて、冒頭で述べたとおり、森保監督のA代表と五輪代表の兼任をやめることを日本サッカー協会には提案したい。なぜなら、今のままでは森保監督の最大の強みであるチームマネジメント能力が半減してしまい、どちらの代表強化も中途半端になってしまうからだ。
サンフレッチェ広島の監督時代から、森保監督のチームマネジメント能力は高く評価されてきた。
もちろん、代表監督になってからも、そのスタイルは変わらない。むしろ、代表監督になってからのほうが、各選手の所属チームの試合映像をチェックしなければならなくなった分、よりチームに使う時間は増えたはずである。ただ、それだけに、2つの代表チームを見ることによる時間的なロスが発生するのは明らかだ。
そして何より問題なのが、兼任監督であることによる、それぞれの代表選手への心理的な影響である。
一方、A代表の選手たちにとっても、今回のベネズエラ戦に向けたトレーニングに監督不在期間があったことで、試合に向けた準備、選手のモチベーションにとっても少なからず影響はあっただろう。
トルシエが兼任で結果を残した時代とは状況が全く異なる
ロシアW杯2018 FIFAワールドカップが終わり、日本サッカー協会が森保監督の兼任を発表した時には、多くのメディアや関係者がその兼任をポジティブに捉えていた。正直、個人的にも、「森保監督なら、兼任でもうまくやるんじゃないか」と感じていたことは事実である。自国開催のW杯であった2002年日韓W杯 FIFAワールドカップの際に、フィリップ・トルシエ監督がシドニー五輪代表監督を兼任して結果を出したということも、ポジティブに受け止めた一因だった。ただ、当然だが20年前と今では状況が違う。当時の海外組は中田英寿のみだったが、現在、A代表の主力選手はほとんどがヨーロッパのクラブに所属しており、五輪代表も今回の招集メンバーのうち8人がヨーロッパでプレーしている。
東京五輪まで残された時間はわずかではあるが、日本サッカー協会は、今からでも最善の手を打つべきだ。現時点での最善手は、五輪代表監督には横内コーチを昇格させ、専任監督として東京五輪に向けた強化を行い、森保監督は日本代表(A代表)に専念してカタールW杯2022 FIFAワールドカップの出場を目指す、という一手だろう。もちろん、堂安律や久保建英といった2つの代表チームでプレーする選手やオーバーエイジについては、両監督を中心にしっかりとコミュニケーションを取りながら、メンバーの選定をしていけばいい。
森保監督という、日本のサッカー界が生み出した優秀な監督に本来の能力を発揮させるためにも、自国開催の五輪という、日本のサッカー界をさらに発展させるためのビッグチャンスを成功させるためにも、日本サッカー協会の英断を望む。今ならきっとまだ間に合う。
<了>