主人が「家族で中国に行きたい。」と言ってきた。子供達にとって初めての海外旅行だ。
主人は、2002年に仕事で初めて北京、上海へ行った。国交正常化30周年記念を祝う観光業界の交流イベント参加のためだ。人民大会堂で開かれたレセプションは華やかで素晴らしく、料理もとても豪華で美味しかったらしい。その後、数々の世界遺産を見学し、すっかり中国のファンになった。帰国後中国語を習い始め、その後も2度ほど赴いた。
2008年に北京オリンピックが開催され、広大な土地での多くの人の熱い戦いを目の当たりにし、主人の中国愛がムクムクと膨らんできた。子供達にも、お隣中国という国を見せたいらしい。子供達のパスポートを作り、8月初旬に3泊4日のツアーで、北京旅行に行く事となった。
中2日の北京観光では、故宮、万里の長城、天壇公園、頤和園、明の十三陵の5か所の世界遺産を回った。子供のころから、歴史の教科書などで知っていた万里の長城を特に楽しみにしていた。人類史上最大の建造物。日本列島より長い建造物など、想像もできなかったからだ。
バスでの道中、標高が上がるにつれ、心の心拍数も早くなってきた。万里の長城の八達嶺は多くの観光客で賑っていた。曇って霧がかかっていたが、木々の緑とともに長城はそこに存在していた。一歩石畳に足を踏み入れると、身震いがした。何千年もの昔に生きていた多くの人、一人一人の思いと努力が作り出した城。今、ここに自分が立っている。そしてこの城壁は山の形状にそってどこまでも続いている。
歴史の重みに思いを馳せている私に、かまうことなく3歳のやんちゃな長男がどんどん先を行く。
すると、高校生ぐらいの年の男の子が、長男と手をつなぎ歩いてくれているのが見えた。軍服のような制服を着ている。修学旅行だろうか。同じ制服を着ている男の子が沢山いた。
その後すっかり疲れた長男は観光バスの中でぐっすり寝てしまった。次の目的地、天壇公園に着いた。「見学した事あるから、行ってきていいよ。」と主人は長男とバスに残ってくれた。
子供達がとても喜んだのはスーパーマーケットだ。見たことない商品や、見覚えのある商品。中国語の勉強にもなった。可愛いイラスト入りのお菓子や、ノートなどの文房具、絵本、中国語の練習帳などのお土産も買った。四川料理や広東料理、北京ダックなどおいしい料理も堪能し、あっという間の3泊4日だった。
スマホも持っていない時代の中国旅行。とても新鮮で楽しかった。近代的な中国に驚き、ダイナミックで活気のある国だった。政治や歴史、文化、言語など全く違っても、人間としての本質、大事なことは同じなんじゃないか。万里の長城で助けてくれた男の子。優しく明るかった。そして大切な物を持っていた。長男は今、彼と同じくらいの年になる。異国の小さな子が危ない時、手を差し伸べ助けてあげる事ができるだろうか。
■原題:温かさに触れた中国旅行
■執筆者プロフィール:芹澤 暁子(せりざわ あきこ)主婦
1970年茨城県生まれ、埼玉県川越市育ち。日本女子大学家政学部卒。会社員の夫と結婚し、さいたま市在住。
※本文は、第6回忘れられない中国滞在エピソード「『香香(シャンシャン)』と中国と私」(段躍中編、日本僑報社、2023年)より転載したものです。文中の表現は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報社の許可を得て掲載しています。
