インド洋西部の島国のモーリシャスは、風光明媚なことで訪れる外国人観光客も多い。中国人の周さんは、このモーリシャスを旅行中に、他の観光客が崖から転落する事故に遭遇した。
周さんは8月12日、モーリシャスの山間部にいた。ドローンを飛ばして風景を撮影しようと考えたからだ。すると、若い外国人が血相を変えて駆け寄り、周さんに助けを求めた。周さんは翻訳アプリを使って相手の意図を知った。仲間の一人が崖から転落したという。相手は周さんに、ドローンを使って状況を把握したいと求めていた。
相手の外国人は、周さんを近くの展望台に連れて行き、転落事故が発生した場所を示した。周さんはドローンを飛ばしたが、山上は風が強くて、わずか十数メートル飛ばしただけで制御ができなくなったので、周さんはドローンを回収した。相手の外国人は、すでに救助用のヘリを呼んでおり、周さんにはこれ以上手助けする必要はないと、意思表示した。
しかし周さんは、助けの遅れにより転落者の救助が間に合わなくなることを懸念し、自ら崖を下って捜索する考えを固めた。
周さんは木の根をつかみながらゆっくりと下り、大声で「ハロー」と呼びかけましたが、返事はなかった。数十メートル下ったところで、横たわっている人を発見した。顔色は青白く体温も下がっており、残念ながら生命の兆候はすでになかった。身長が190センチほどもある若い男性で、周さんに遺体を一人で搬出する力はなかった。周さんは周囲の地形を撮影したうえで崖の上に戻った。
その時、高齢の男性が駆け付けた。男性は、1時間も連絡できない息子を探していると言った。周さんが倒れていた遺体の写真を見せると、男性は、自分の息子のユーゴだと言った。男性は周さんに、自分の息子のところまで案内してほしいと言った。周さんと周囲にいた人は、山中が急峻で危険なため、崖を下っていくことは断念するよう男性を説得したが、男性は、救助ヘリは樹木が密生しているために場所を特定できないと言って、自分を現場に連れて行くよう強く求めた。
そのため、周さんは高齢の男性を先導して、遺体のもとへ案内しました。男性は息子の遺体を目にした瞬間に体の力が抜け、崩れ落ちるようにして大声て泣いた。周さんはそばで男性を支え、簡単な英語で慰め続け、消防隊員が到着するまで寄り添ったという。
周さんは翌日、マダガスカルに向かう予定だったが、ユーゴさんの父親のために自分がまだできることがないかと気になり連絡をしたところ、もうその必要はないと言われた。
その十数日後、周さんはモーリシャス警察から連絡を受けた。警察は、映像により周さんの勇敢な行為が確認されたとして、周さんを称賛し、改めてモーリシャスを訪れるよう招待した。ユーゴさんの父親からもメッセージが届き、息子の葬儀を終えたことと、周さんの助けに感謝していることが伝えられ、葬儀やユーゴさんの生前の写真が添えられていた。
周さんは30代後半で、「私には10歳の息子がいます。あのお年寄りがわが子を失った苦しみは、痛いほど理解できます」と述べた。周さんはさらに、「言葉は通じなくても、感情は通じ合うものです」と述べた。周さんは帰国後に、家族の勧めもあり、当時の映像を公開した。そして、登山やハイキングの愛好者に向けて、人の手が入っていない山間部では必ず安全を確保するよう呼びかけ、さらに「誰もがその背後には家族がいるのです」と述べたという。