R&Bシンガーとして新たな道を歩み始めた今市隆二の作品には、ブライアン・マックナイトを始め、STY、T.Kura、LL BROTHERSのTAKANORI、イランジェロ、そしてNe-Yoと、そうそうたる国内外のR&Bアーティスト/トラックメイカーが参加した。仕上がった『FUTURE』のソロディスクは、最新のR&Bのモードをまとったバラエティ豊かな楽曲が収録されながらも、今市隆二のパーソナリティーがにじみ出た温かみのある作品となった。
今市隆二のアーティスト性は、ブライアンが指摘するように、その人柄と分かち難く結びついており、だからこそ多くのトップクリエイターが、彼のソロ活動に喜んで力を貸すのだろう。今市隆二が、彼らとの共同制作の中で気付いたこと、目指すアーティスト像、そして8月から始まった初のソロツアーへの意気込みまで、たっぷりと語ってもらった。
※この記事は6月25日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.03』に掲載されたものです。
・R&Bは僕にとっての音楽のルーツ
ー『FUTURE』収録の長編ドキュメンタリー『SEVEN/7』では、三代目J Soul Brothersとしての活動を一度やりきったからこそ、メンバーそれぞれが壁にぶつかり、それを乗り越えようと葛藤している様子が見て取れました。今市さんが当時、音楽的な意味で抱えていた課題はどのようなものだったのか、あらためて教えてください。
今市:『SEVEN/7』の撮影期間は、それぞれがソロ活動に注力していた時期で、既に方向性がある程度は定まっていたメンバーもいましたし、これからやるべきことを探していたメンバーもいたと思いますが、おっしゃるように、確信を抱いて活動している段階ではなく、その意味で壁にぶつかっていました。僕の場合、将来的に70~80歳になってもヴォーカリストとして歌い続けたいとのヴィジョンは既にあったものの、そのために今、何をするべきかはまだはっきりとしていませんでした。
ーソロとして活動すること自体は、以前から決めていたのでしょうか?
今市:『PLANET SEVEN』(14年)で初めてソロとしてバラード曲「All LOVE」に挑戦して、『THE JSB LEGACY』(16年)でも「Over & Over」という曲を歌わせていただき、次はソロシンガーとしても実力を付けていきたいとは考えていました。ただ、それを成立させるためには、ソロで歌うことへの明確な意味付けが必要で、いざソロプロジェクトが始まる段階になったときは、いかにして三代目のときとは異なるヴォーカリスト像を作りあげるか、ずいぶんと悩みました。
ー悩んだ結果として、本格的なR&B路線に進むことになったのですね。
今市:自分ひとりでリスナーの視聴に耐えうる豊かな表現をしようと考えたとき、やはり僕はヴォーカリストなので、歌の力で魅了するR&B路線に進むのがベストだと判断しました。R&Bは僕にとっての音楽のルーツでもあるし、いつかは真正面から向き合ってみたいと思っていたジャンルでもあります。それに、三代目のヴォーカリストでありながら、かつ洋楽志向の強い三代目の音楽性と差別化をはかるには、現行の海外のR&Bのモードに挑戦するのがもっとも理にかなっている。では、どのように海外R&Bのエッセンスを落とし込んでいこうかと、スタッフの方々含めて相談したところ、ブライアン・マックナイトのもとでホームステイをさせていただけるという話になって。さらに、ニューヨーク拠点に活動しているダニエル・アーシャムというアートディレクターとコラボレーションできることになったり、Ne-Yoとも楽曲制作ができることになったりと、夢のような話が広がっていきました。
ーシンガー冥利に尽きますね。
今市 こういう話をいただけるようになったのも、三代目としての活動があったからで、そこは本当に感謝しかありません。ただ、海外の巨匠たちにただアートワークや楽曲を作ってもらうだけでは、目指すアーティスト像にはたどり着けませんし、ファンの方々もそれは望んでいないと思いました。だから、彼らとの共作の中で、いかに自分から発信をしていくか、今市隆二としての色を出していくかは、すごく考慮しました。
ーブライアン・マックナイトはR&Bの歴史においても屈指の美メロの達人で、90年代には代表的なR&Bシンガーのひとりと言っても良いほどの大きな存在になりました。今市さん自身も、大きな影響を受けたとのことで、フェイバリット・アーティストの一人に挙げています。
今市:ブライアン・マックナイトは、僕にとって洋楽への入り口となったアーティストで、YouTubeで韓国ライブの映像を観たのをきっかけにハマりました。「One Last Cry」を歌っている映像で、向こうのアーティストのゲストで出ていたのだと思います。楽曲自体にももちろん惹かれましたが、何よりもその歌唱の圧倒的な技術の高さに衝撃を受けました。18~19歳の頃ですね。
ーまずはシンガーとして、そのスキルに興味を抱いたと。
今市:そこから掘り下げて、過去の音源や、ラスベガスのショウで歌っているDVDなども鑑賞しました。世界で一番、歌が巧いのではないかと思うほどの歌唱力で、アドリブ、フェイク、ロングトーン、どれを取ってもとても真似できないと感じました。本当に「なんだこれは!」と声に出すほど驚いたものです(笑)。初めてビルボードライブ東京でブライアンのライブを観たときの感動も忘れられません。3階席から、アカペラで歌いながら降りてくるんですよ。すっかり虜になってしまい、それから毎年のライブに欠かさず行くようになって、合計で10回以上、観てきました。
ー本当に大ファンなんですね。
今市:そうですね。それに、彼はマルチプレイヤーでもあって、9つの楽器を演奏できますし、音楽プロデューサーとしてもジャスティン・ティンバーレイクの作品に携わったりと、非常に多才です。本当に、ミュージシャンとして憧れの存在でした。
・音楽は”楽しみながら作る”のが大切
ー『SEVEN/7』には、今市さんがLAのブライアンの自宅で、ともに過ごす日々も収められています。憧れのミュージシャンと一緒に過ごしてみて、いかがでしたか?
今市:やっぱり行く前はかなりの覚悟が必要でした。でも、ブライアンの一家は本当に温かく迎えてくださって、かけがえのない時間を過ごさせていただきました。日々のサイクルとしては、朝9時に2人でジムに行って、ブライアンはバスケを、僕は筋トレなどを行い、昼には二人でローカルの食堂でランチを食べて、そこから家に戻って音楽に取り組む感じでした。発声レッスンだけではなく、ピアノを触ったり、ギターを教えてもらったり。今回のホームステイで2曲仕上げることは、最初からゴールとして決めていたので、制作作業も同時にしていたのですが、「音楽って、こんなに自由に作っていいんだ」と思える瞬間が何度もあったのが印象的でした。
ー具体的に、どんなところで自由さを感じましたか?
今市:日本でもアーティストによっていろんな音楽の作り方があると思いますが、僕らの場合は、コンペディションでトラックを選んで、それには仮歌が入っていて、そこからトップラインをどうするかとか、どんな歌のアプローチにするかとか、調整していくやり方が一般的でした。でも、ブライアンの場合は、その場でパッとトップラインを作っても良いし、2人で歌いながら歌詞を考えてもよいし、なんなら少しお酒を飲みながら作っても良い。
ー楽しみながら作ることで、今市さんも自身の殻を破っていくように見えました。
今市:ブライアンの音楽は、そこに楽器が一つあって、歌を歌えれば成立するんですよね。僕はこれまで、ピアノは大好きだったんですけれど、それほどギターには興味がなかったんです。でも、ブライアンがさらりと楽しそうに弾き語りをしたりするのが本当にかっこよくて、感銘を受けました。僕にも一本、ギターをプレゼントしてくれて、弾き方も教えてくれて、おかげで音楽との距離がこれまで以上に近くなったと思います。今もギターの練習は続けていますね。

Photo by Tsutomu Ono
ー三代目の表現とは異なる方向性だった?
今市:三代目は、ダンス&ヴォーカルグループとして、パフォーマンスの見せ方や楽曲の聴かせ方にものすごくこだわっていて、そのクリエイションによって支持されてきた部分が大きいと考えています。でも、シンプルに歌と楽器だけでも、相手の心に響く表現はできるのだと気付かされましたし、それによって僕自身も今まで以上に自由に表現できるようになったと思います。音楽というアートの奥深さを、さらに知ることができたというか。
ーレコーディングするときも、ブライアンはラフな感じなんですか?
今市:そうですね。ちょうどブライアンも自身のアルバム『Genesis』(17年)の制作中だったんですけれど、彼は寝起きで「今から歌を入れるね」といって、そのまま歌い始めて、それで一発OKくらいのクオリティのものができてしまう。それはブライアンの高いスキルの賜物なんですけれど、時間も短縮できるし、本当にうらやましいと感じました。そう、ジムへの行き帰りのクルマの中で、「今はこんな曲を作っているんだ」って、よく制作中の『Genesis』を聴かせてもらっていて、それも貴重な体験でした。『Genesis』でブライアンは打ち込みを多用していて、今なお時代に寄り添って新しい音楽に挑戦しているのがよく理解できたし、それも刺激になりましたね。
ーブライアンも今市さんとの交流を、心から楽しんでいる様子でしたね。
今市:ブライアンにとっても、あの2カ月間は人生における貴重な期間だったのだと思います。深い絆を作ることができた実感は、僕の中にもありますね。あの時期、ブライアンは、実のお母様が亡くなったり、付き合っていた彼女と結婚したり、いろんなことがあったんです。ドキュメンタリーにも出てくる2人の子どもは、今の奥さんの子どもで、ブライアンは彼らとも分け隔てなく、優しく接してました。普通、そんな大変な時期に、見ず知らずの日本人を2カ月もホームステイさせようなんて思わないし、僕だったら真似できないことです。
ーブライアンの人柄の良さは、映像からも伝わってきました。
今市:ブライアンは決して口数が多いタイプではないけれど、本当に優しくて、愛情が深くて、ちょっと笑顔を見ただけでそれが分かるんです。ブライアンの作る楽曲は、トップライン、トラック、歌声に至るまで、そこかしこに優しさが詰まっています。人柄が音楽にも表れている稀有なミュージシャンで、彼のような表現をするためにも、僕自身も愛情深く、広い心を持ちたいと思いました。
ー出来上がった3rdシングル曲「Thank you」は、まさにそんなブライアンの音楽性が詰まった楽曲で、今市さんの人生観や精神性が深く織り込まれた、スピリチュアルな楽曲に仕上がっていますね。
今市:ブライアンと楽曲を作るのは、僕の人生においても大きな出来事で、人生に一度きりの貴重な経験だと感じていたので、ヴォーカリスト人生の中で意味のある一曲にしたいとの想いが強くありました。そのため、自分のこれまでの人生を振り返って、一番伝えたいメッセージを込めたいと考えたんです。現在の僕は、先輩方や仲間たち、そしてファンの方々に支えられたからこそあります。だから、ブライアンには「言葉だけでは伝えられない、みんなへの感謝の気持ちを歌に込めたい」とお願いして。
ーそのやりとりは、ドキュメンタリーにも収められていましたね。
今市:実は最初、ブライアンはラブソングを作るつもりだったみたいなんですけれど、要望を伝えると「OK、わかった」と言って、すぐにピアノを弾き始めました。その瞬間に生まれてきた旋律が本当に美しくて、聴いた瞬間に「これは僕の人生を代表する一曲になる」と感じて鳥肌が立ちました。あの体験は今も忘れられません。僕にとっては本当に運命的な楽曲だと思うので、これから大切に歌っていきたいです。
・自分ならではの表現をさらに磨いていきたい
ーほかの楽曲についても教えてください。「R.Y.U.S.E.I.」を手がけたトラックメイカーのSTY氏による1stシングル曲「ONE DAY」は、アーバンかつコンテンポラリーな仕上がりの王道的なR&Bで、今市さんのソロ活動の指針となる楽曲だと感じました。
今市:実は、ソロプロジェクトを始動する段階でいくつか楽曲のストックはあって、第一弾をどの楽曲にするかは相当悩んだんです。The Weekendの楽曲のプロデュースを手がけているイランジェロに制作していただいた4thシングル曲「Alter Ego」も、ソロのスタートを切る楽曲としてはかなりインパクトがあると思ったし、この楽曲ならきっと耳の肥えたR&Bリスナーにも受けるだろうなと。
ーでも、「ONE DAY」を選んだ。
今市:はい。幅広いリスナーを想定したときにもっとも耳馴染みが良く、かつ王道のR&B路線を打ち出すには、「ONE DAY」がベストだと考えました。STYさんのトラックは、ビートや質感は現行のR&Bそのもので非常に洗練されているのですが、トップラインにはちゃんとJ-Popらしいキャッチーさがあるので、三代目の楽曲に馴染んだリスナーの方にも受け入れてもらいやすいと考えたんです。結果として、その選択は間違っていなかったと思います。
ー「Alter Ego」のほうは、まさに”和製The Weekend”という感じのアンビエントR&Bでした。ヴォーカルの処理も含めて、J-Popでは珍しい、尖った楽曲に仕上がっています。
今市:Illangeloに楽曲提供していただけると決まった時点で、最新のアンビエントR&Bに挑戦するしかないと考えていました。ロスのスタジオを訪れて、LDHのコンセプトやソロとしての方向性を話し合いながら制作した楽曲です。「ONE DAY」がキャッチーさを重視した楽曲だとすると、「Alter Ego」はエッジィさを打ち出した楽曲で、そのギャップが奥行きになれば、と考えていました。
ー歌詞もほかの楽曲とは一味違っていて、内省的な表現が目立ちます。
今市:”Alter Ego=別人格”とのタイトル通り、これまで歌ってこなかった自分の内面的な葛藤を表現しました。誰しも心の中には、弱いところを持った別の自分がいると思うのですが、それを認めたほうがより強くなれるというメッセージを込めています。声のエフェクト処理も全てイランジェロに依頼していて、奥行きのあるサウンドになっています。トラックがめちゃくちゃかっこよくて、自分でもすごく気に入っている楽曲です。
ー日本のR&B界の名匠であるT.Kura氏、LL BROTHERSのTAKANORI氏と共作した2ndシングル曲「Angel」は、ほかのソロ曲と異なり、ディスコ調のファンキーな仕上がりでした。こちらはどんなふうに制作を?
今市:「Angel」は、実は4年くらい前から着手していた楽曲です。当時はJ-WAVEで『SPARK』というラジオ番組を始めたタイミングで、幅広いジャンルの音楽に触れるようになったので、僕もこれまでとは異なるジャンルに挑戦したいと考えて、ファンクをやってみようと。ブルーノ・マーズやRケリーもファンキーな楽曲をリリースしていたし、せっかくT.KuraさんやTAKANORIさんと共同で制作ができるのだから、新しいことをしてみたかったんですよね。僕にとって、初めて作詞作曲に挑戦したのもこの楽曲でした。
ーかなりじっくり作り上げたんですね。
今市:単にみんなで音楽を作ってみようというところからスタートしていて、シングルにする予定もなかったし、納期が決まっている楽曲ではなかったから、3人で時々スタジオに入って、YouTubeを観て「この時代の音楽はこうだよね」とか音楽話をしながら、合宿的な雰囲気で作らせていただきました。仕上がりまで時間はかかっていますが、決して難産だったわけではなく、ファンクの歌い回しやグルーヴについていろいろと学びながら作っていった思い出の曲ですね。”To the right,to the right To the left.to the left to the left”の箇所など、ファンクっぽい歌い回しにチャレンジしているので、そういうところを楽しんでいただければ。

Photo by Tsutomu Ono
ーソロ楽曲にバリエーションを付けるのに一役買っている楽曲だと思います。一方、Ne-Yoと共同制作した新曲「SHINING」は、”Ne-Yo節”に溢れた、軽やかながら洗練された楽曲です。
今市:Ne-Yoの楽曲では、やはり「Because Of You」や「so sick」などの代表曲がすごく好きで、メロディも極上だと感じていました。ほかのソロ楽曲が割とメロウでゆったりとしたものだったので、「SHINING」はNe-Yoらしいアップテンポの楽曲にしてほしいと伝えました。テーマとしては、太陽のようにキラキラ輝く女性の魅力を讃えるものになっています。デモをいろいろと聴かせてもらって、そこから選んだ楽曲にNe-Yoがトップラインを付けてくれました。
ー制作の中で、何か気付いたことはありましたか?
今市:意外だったのは、Ne-Yoのメロディの作り方です。Ne-Yoは一つのフレーズを、何度も推敲を重ねた上で作っていました。なんとなく、スラスラと書いているイメージがあったんですけれど、そうではなく、たっぷりと時間をかけて、考えに考え抜かれたメロディだったんです。「違う、これじゃない」って、ストイックに作り込んでいました。ブライアンがその場で直感的に作っていくのと対称的で、同じR&Bでもアーティストによってまったく方法論が異なることにあらためて感銘を受けましたNe-Yoとの曲作りも、ひとつ夢が叶った瞬間でしたね。
ー今回、一流のミュージシャンやプロデューサーと共同制作して学んだことを、あらためて教えてください。
今市:本当に素晴らしい体験で、今回のソロプロジェクトで、一流のミュージシャンたちとともに幅広い楽曲に挑戦した日々は、僕にとって大きな財産になりました。自由に楽しんで歌うこと、自分らしいスタイルを築くこと、どれも言葉にすると当たり前のように感じるかもしれませんが、貴重な日々を通じて、その本当の意味が分かったような気がします。彼らのように、自分ならではの表現をさらに磨いていきたいと、強く思いました。
・日本語でR&Bを歌う意義は確実にあります
ー近年、R&Bは様々なジャンルの音楽と融合することで、世界中で勢いを増している印象です。今市さんは、昨今のR&Bシーンをどう見ていますか?
今市:個人的には、少し前のEDMムーブメントのときは、シンガーとして少し悔しい気持ちも抱いていました。R&Bの勢いが落ちていた時期もあって、時代の流れだから良いとか悪いとかではないのですが、歌い手としては寂しくもあった。でも、最近はブルーノ・マーズのような新しいポップスターも出てきて、それがすごく楽しいですね。ただ、トレンドという視点からいうと、ヒップホップにせよ、R&Bにせよ、ファンクにせよ、世界中の人がいっせいに聴くようなヒット曲は生まれにくくなっていて、アーティストたちは誰もが方向性を模索している状況なのかなと感じています。
ーストリーミングサービスが一般化してきたのも、その一因かもしれません。
今市:ストリーミングサービスが浸透して、個人が好きな楽曲を好きなように聴くようになってからは、さらにその傾向は加速していると思います。そのなかで、R&Bアーティストとしてどうあるべきかを考えるのは、とても難しいと感じつつも、大きなやりがいも感じています。
ー最近、気になったアーティストを教えてください。
今市:女性R&Bシンガーなんですけれど、ジャネール・モネイの新作『Dirty Computer』はすごく良かったですね。彼女は昨年話題となった映画『ドリーム』に、主要キャラクターの一人として登場した女優でもあって、すごく才能のある方だなと感じていました。音楽性の幅も広いし、アルバムごとに凝ったコンセプトを提示していて、すごく面白いんですよね。
ー具体的に、今後、挑戦してみたい表現はありますか?
今市:今は、90年代のサンプリングをメインとしたヒップホップのサウンドに惹かれていて、その手法を現代的に表現できないかと考えています。今年の2月にNe-Yoが「Good Man」という楽曲をリリースしたんですけれど、それはDAngeloの「Untitled(How Does It Feel)」をサンプリングしているんです。過去の名曲を、現代のセンスを踏まえてリバイバルさせるのは、新しい音楽を生み出す上での普遍的な手法だと思いますし、その意味でもサンプリングは今、再評価すべきだと思います。僕も30歳を過ぎて、ようやく”音楽の流行は繰り返される”という現象をリアルに体感できているので、今こそ挑戦したいです。
ーやはり、世界展開も視野に入れているのでしょうか?
今市:日本人に生まれたので、日本の音楽をもっと世界に伝えたいという気持ちはあります。日本の音楽がなかなか世界に届きにくいのは、言語的な壁があるのはもちろん、国内マーケットに向けた作りになっているというのも大きいと思います。ただ、最近はどんどん日本と世界の間にある壁は低くなっていると感じていて。情報のスピードも速くなりましたし、海外の方の日本のカルチャーに対する理解度もかつてより随分と上がっているように思います。最近は、和のテイストをバランスよく取り入れる海外のアーティストも少なくないですし、そうした楽曲には独特のエキゾチズムというか、ジャポニズムがあってかっこいいんですよね。そうなると、日本語ならではの柔らかい響きも、音楽的な魅力として打ち出していくことは決して不可能ではないのかなと。
ー日本語でR&Bをやることへの意義を感じていると。
今市:日本語はリズムが立ちにくい言語なので、特にR&Bやヒップホップのようなリズム表現に特徴がある音楽を成立させるのは、本当に難しいことです。STYさんが作る楽曲などは、日本語の配置の仕方でうまく英語っぽく聴かせるのが本当に上手で、そうした手法には刺激を受けますね。しかも、そのうえでちゃんとメッセージ性がある楽曲に仕上がっているからすごいです。そうしたクリエイティブな部分に、日本語でR&Bを歌う意義は確実にありますし、それを海外の方が聴いたときに、日本語特有の発声に魅力を感じる可能性はあると思います。

Photo by Tsutomu Ono
シャツ ¥125,000、パンツ ¥93,000、シューズ ¥130,000(すべてDior Homme/クリスチャン ディオール TEL:0120-02-1947)、そのほか本人私物 ※すべて税抜価格表記となります。
ー確かに、日本語のちょっとしたフレーズをサンプリングしたりするトラックメイカーも少なくないですからね。
今市:もしかしたら、三代目J Soul Brothersが次に目指すのは、日本語の音楽ならではの魅力を世界に発信していくことなのかもしれないと、最近では考えていますね。実際、海外の一流のアーティストとのフィーチャリングはどんどん実現していますし、どこかのタイミングで今、僕らがやっていることがバシッとハマれば、すごいことが起きるんじゃないかと予感しています。本当に途方もなく大きな夢になってしまいますけれど、いつかはグラミー賞も受賞してみたいですし、スーパーボウルのハーフタイムショーにも出てみたいと、本気で思っています。
・シンガーがもっとも輝ける音楽
ーあらためて、今市さんにとってR&Bとはどんな音楽なのか、その解釈を教えてください。
今市:難しい質問ですね……。ブライアンやR.ケリーに影響を受けた僕にとっては、R&Bは男性から女性に向けて愛を歌う音楽というイメージがあって、それがマナーの一つではあると考えています。でも、それ以上に、単に自分にフィットした音楽ということなのかもしれません。90年代のR&Bがすごく好きで、今もずっと聴いているのですが、やっぱりしっくりくるんですよね。
ー90年代のR&Bは今も古びないですよね。
今市:あえて言うなら、シンガーがもっとも輝ける音楽が、R&Bなのかなと思います。時代ごとに新しいリズムの音楽が出てきて、それによってR&Bの表現は変わっていきますけれど、根本的な部分は変わっていなくて、人間が持つ本質的な感情を、リズムに乗せて歌い上げる音楽。それってすごく温もりのある表現で、だからこそ好きなのかもしれません。一番好きな音楽です。
ー8月からは初のソロツアーも始まりますね。意気込みを教えてください。
今市:ソロツアーを成功させるのは、今の僕にとってもっとも大きな、今年一番の目標でもあります。それに合わせて、実はフルアルバムの制作も進めているところです。ツアーのキックオフ的な意味合いのアルバムで、『FUTURE』の収録アルバムよりさらに濃厚にR&Bを感じられる仕上がりになっています。この作品を聴いていただければ、今市隆二として目指しているものが、より明確に示せると思いますし、今回のツアータイトルにもなっている『LIGHT>DARKNESS』というテーマも、しっかりと感じられると思います。皆さんの想像をいい意味で裏切るような楽曲も収録しているので、そこは楽しみにしていてほしいですね。もちろん、ファンの方々に喜んでいただけるのが第一なので、そのための演出や曲選びもしっかりとしています。ソロシンガーとして、ソロミュージシャンとしての今市隆二を、ぜひ味わってください。
RYUJI IMAICHI(今市隆二)
2010年、LDHが開催した『VOCAL BATTLE AUDITION 2』の最終ライブ審査で合格し、三代目 J Soul Brothersのヴォーカリストに。同グループが国内音楽シーンの頂点を極めた2015年のアルバム『PLANET SEVEN』より、ソロ作を発表。2018年1月に満を持して、R&Bシンガー・今市隆二としてソロデビュー。洋楽のエッセンスを存分に取り込んだ玄人好みの音楽性で、従来のファンのみならず、R&Bリスナーからも大きな注目を集める。
RYUJI IMAICHI LIVE TOUR 2018 ”LIGHT>DARKNESS”
2018年10月20日(土)長野県 ビッグハット
2018年10月21日(日)長野県 ビッグハット
2018年10月24日(水)大阪府 大阪城ホール
2018年10月25日(木)大阪府 大阪城ホール
2018年11月24日(土)北海道 真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
2018年11月25日(日)北海道 真駒内セキスイハイムアイスアリーナ
2018年12月1日(土)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
2018年12月2日(日)埼玉県 さいたまスーパーアリーナ
2018年12月15日(土)熊本県 グランメッセ熊本
2018年12月16日(日)熊本県 グランメッセ熊本
2018年12月23日(日・祝)新潟県 朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンター
2018年12月24日(月・振休)新潟県 朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンター
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